1 / 168
プロローグ 過去の俺
1、使えないディフェンダー
しおりを挟む「この無能!! いい加減その使えないスキル解きなさいよ!」
さっきから防御結界を張っては、何度もこの女に怒鳴られているディフェンダーこと俺、バン・ダインです。
今日はファミリーから頼まれたクエストを消化する為、4人でこのダンジョンボックスに来ている訳なんだが、気がついたら危険区域に入っていたのか、現在モンスターに囲まれて結構ピンチだったりする。
「いやいや、俺はアンナが危ないと思ったから良かれと思ってだな……!」
「はあぁ!? あんたの目、大丈夫?? どう見ても後一撃スキルを使えば倒せてたのよ!! あんたのこの防御結界のせいでスキルが消えて勝機を逃しちゃったじゃない! しかも余計にモンスターが増えてるってわかってるわけ!?」
少しつり目の赤い瞳で睨みつけてくる女剣士のアンナは、赤髪を振り乱しながらギャンギャンとキレていた。
確かに結界を張るにはタイミングが悪かったかかもしれないと、俺は自分の特殊スキル『プロテクト・ゾーン』を解除した。
「ほら、これでいいだろ?」
「って! あんたねぇ……今度は解除するにもタイミングって物があるでしょうが!!!」
そう叫ぶアンナのすぐ後ろには、結界を解除された事で飛び出して来たモンスター達がいた。
その姿は埴輪のような形をした、土で出来たソイルドール達だ。
「おお……」
驚いた俺は、すぐに再度結界を展開する。
この『プロテクト・ゾーン』は、対象物が止まっていないと使えないため、今は立ち止まっている俺一人にしか結界を張れない。
どうせアンナは攻撃を避けられるだろうけど、俺は避けられないからな。
そう思いソイルドール達を見ると、俺の結界に遮られ何体か必死に体当たりをはじめていた。
いや本当、俺はこんな風に囮役になる事しかできないから……役立たずと言われても甘んじて受け入れよう。
「アンナさん、動きが止まっているソイドールを倒すなら今ですわよ!」
そう後ろで叫んでいるのは、クリーム色の髪を靡かせながらソイドールの攻撃を避けている、後方支援組のサポーター兼ヒーラーのイアさんだ。
因みに今日、俺たちのリーダーでもある。
「わかってるから、私に指図しないでよ!!」
「しかしアンナさんでも流石に一人では無理です。私も援護します!」
イアさんの横にいる魔法使いホージュが帽子を押さえながら、魔法を展開するのが見えた。
その魔力量に、俺はドン引きする。
俺が結界の中にいるとはいえ、いくらなんでも火力が強くないですかね?
「ホージュ、私の獲物なんだから邪魔しないでよ!!」
「しかし数が増え過ぎです! アンナさんは一番大きいリーダーと思われる個体をお願いします。私は周りの雑魚を一掃しますから」
「た、確かに一体だけ大きいきがする……それなら仕方がないわね、わかったわよ!!」
それって、俺の結界前にいるソイルドールの事じゃないか? どう見ても他と比べるとそのサイズは2倍ぐらいだし、ほぼ俺と同じぐらいのような……。
なんて呑気に観察していたらアンナに怒鳴られてしまった。
「何ぼーっとしてんのよ、無能も早く退きなさいよ!! あんたごと叩き切ってもしらないんだから!」
無能って……まあ確かに、囮以外は何の役にも立って無いけどさ。
それに俺の結界ならアンナのスキルを受けても傷一つないだろう。
「大丈夫だ。一思いにやってくれ」
「あんたのスキルに対する自信はなんなのよ! もう本当にしらないから。こうなったら、とっておきのスキルをあんたにも浴びせてやるわよ!!」
右足から踏み込んだアンナはソイルドールの前に飛び出ると、持っている白金の剣をスッと撫でる。
すると緑光の筋がその剣に入っていくのが見えた。
きっと先程言った通り、アンナは特殊スキルを放つつもりなのだろう。
「はぁぁあぁぁあぁ!!!! 切り裂きなさい!! スピリットブラストぉぉおぉぉおぉ!!!!」
そう叫びながらアンナはソイルドールを斬り伏せる。流石にその威力はすさまじく、ソイドールが綺麗に真っ二つに割れたのが見えた。
そしてその斬撃は消える事なく、疾風が煌めきを帯びたまま俺の眼前にも広がる。
しかしその光は結界に阻まれて俺のところまで来ることはなかった。
「く、何でその結界は私のスキルでも全く歯が立たないのよ!!」
ソイルドールを倒したアンナは、何故か俺の結界が壊せない事にイライラしはじめたのだ。
「いや、モンスターは倒したからよくないか?」
「良く無いわよ!! この私に切れない物があるなんて許せないんだから!」
そうプリプリとキレるアンナは、ホージュの撃ち漏らしたソイルドールがいる事に気がつくと、そいつらを倒しに駆け出そうとした。
しかし、何故かソイルドール達が凄い勢いで俺達から離れていった為にそれはできなかった。
「え、何?」
「ソイルドール達が一斉に逃げて……」
「皆さん、嫌な気配が近づいて来ていますわ。今のうちにトロッコに乗ってここを離脱しますわよ!」
こういう時、イアさんの感は当たる。
だから俺たちは急いでトロッコに向けて走り出したのだ。
そしてどうにかトロッコに飛び乗った俺たちは、後方から自分たちを追いかけてくるモンスターの姿に絶望していた。
「いや、なんであんなのがこんなところにいるのよ!!」
アンナの叫び声を傍で聞きながら、俺達はあり得ないスピードで追いかけてくるモンスターを見上げた。
そこにはランク8と体に刻まれたアーマーゴーレムが、トロッコに乗っているはずの俺達以上の速さで追いかけてくる。
ランク8ということは10段ランクの内、上から三番目に強いランクという事だ。そんな高ランクモンスターがここに居るなんて聞いた事もない。
なにより今いる俺達パーティーの平均ランクはランク4なのだ。四つも格上のモンスターに勝てる訳がない。
「なんなのあれ? あの図体のくせに、速度がインチキじゃない!!」
先程からキンキン叫んでいるアンナが、ゴーレムのありえない速度に嘆く。
俺はトロッコの先頭にいるホージュに話しかけた。
「もう少しスピードをだせないのか?」
「私の魔力では、この全自動型魔術式トロッコの速度を上げられません!!」
ホージュは紫の髪を帽子で押さえながら、必死にトロッコに魔力を送っていた。
「このままじゃ、すぐに追いつかれるわよ!!」
「山エリアを抜けて森エリアに入るまで、もう少しのはずですわ。アンナさん少し落ち着いてください」
イアさんが混乱気味のアンナを優しく諭そうとしてくれる。
しかしこんなタイミングでホージュが弱音をはいてしまったのだ。
「すみません、山エリアを抜けるまでに追いつかれるかもしれないです! 私の魔力がたりないばかりに……この戦利品を、いえそれだけでは足りませんね。そうだ、誰か一人を降ろせば! いや、でもそれは……」
「もう! 誰か降ろせば助かるなら、こいつを降ろせばいいじゃない!」
そう言って俺を指差したのは、アンナだった。
「俺!?」
「アンナさん、仲間を見捨てるのは我がファミリー『暁の宴』ではご法度ですわよ! それにまだ他の方法が……」
「わかってるけど、もうどうしようもないじゃない!!」
混乱しているアンナは、イアさんの話を途中で遮ると俺の方に詰め寄りこう言ったのだ。
「無能なディフェンダーなんだから、最後ぐらい役に立ちなさいよ!!」
気がつけば、俺はアンナの馬鹿力でトロッコから蹴り飛ばされていたのだった。
0
お気に入りに追加
643
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
森のアクセサリー屋さん
港龍香
ファンタジー
とある森の奥にお店がある。
『アクセサリー店 Anima』
そのアクセサリー店を中心に描いた日常風景。
全7話
実は別創作『契約の祭壇』の番外編となっております(本編書き終わってないのに番外編って…)
もちろんそちらを読んでなくても、平気なように書いてます。
元々漫画にしようかなぁと思っていたものを文章に書き起こしたものなので、
会話文多めです。
拙い文章ですが、ご覧ください。
※2023/02/17追記 完結しました。 あとがきはつけるかちょっと悩んでます。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。
さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。
魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。
神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。
その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
転生公女はバルコニー菜園に勤しむ
仲室日月奈
恋愛
作物が育たない貧乏小国の公女シャーリィは、流行病で生死をさまよった際に前世の記憶を思い出す。
もう少しでベランダで育てていたミニトマトが収穫できそうだったのに、新鮮な野菜がもう食べられない事実に愕然とするが、公女も観光ツアーで働かなければ生きていけない貧乏小国では弱音なんて吐いてられない。
海の大国から来た皇子様(長期滞在の上客)から資材提供されたり、空から獲物を狙われたり、前世の野望を叶えたりするお話。
異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)
愛飢男
ファンタジー
最強の攻撃、それ即ち超硬度超質量の物体が超高速で激突する衝撃力である。
ってことは……大型トラックだよね。
21歳大型免許取り立ての久里井戸玲央、彼が仕事を終えて寝て起きたらそこは異世界だった。
勇者として召喚されたがファンタジーな異世界でトラック運転手は伝わらなかったようでやんわりと追放されてしまう。
追放勇者を拾ったのは隣国の聖女、これから久里井戸くんはどうなってしまうのでしょうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる