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プロローグ 過去の俺

1、使えないディフェンダー

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「この無能!! いい加減その使えないスキル解きなさいよ!」

 さっきから防御結界を張っては、何度もこの女に怒鳴られているディフェンダーこと俺、バン・ダインです。
 今日はファミリーから頼まれたクエストを消化する為、4人でこのダンジョンボックスに来ている訳なんだが、気がついたら危険区域に入っていたのか、現在モンスターに囲まれて結構ピンチだったりする。

「いやいや、俺はアンナが危ないと思ったから良かれと思ってだな……!」
「はあぁ!? あんたの目、大丈夫?? どう見ても後一撃スキルを使えば倒せてたのよ!! あんたのこの防御結界のせいでスキルが消えて勝機を逃しちゃったじゃない! しかも余計にモンスターが増えてるってわかってるわけ!?」

 少しつり目の赤い瞳で睨みつけてくる女剣士のアンナは、赤髪を振り乱しながらギャンギャンとキレていた。
 確かに結界を張るにはタイミングが悪かったかかもしれないと、俺は自分の特殊スキル『プロテクト・ゾーン』を解除した。

「ほら、これでいいだろ?」
「って! あんたねぇ……今度は解除するにもタイミングって物があるでしょうが!!!」

 そう叫ぶアンナのすぐ後ろには、結界を解除された事で飛び出して来たモンスター達がいた。
 その姿は埴輪のような形をした、土で出来たソイルドール達だ。

「おお……」

 驚いた俺は、すぐに再度結界を展開する。
 この『プロテクト・ゾーン』は、対象物が止まっていないと使えないため、今は立ち止まっている俺一人にしか結界を張れない。
 どうせアンナは攻撃を避けられるだろうけど、俺は避けられないからな。
 そう思いソイルドール達を見ると、俺の結界に遮られ何体か必死に体当たりをはじめていた。
 いや本当、俺はこんな風に囮役になる事しかできないから……役立たずと言われても甘んじて受け入れよう。

「アンナさん、動きが止まっているソイドールを倒すなら今ですわよ!」

 そう後ろで叫んでいるのは、クリーム色の髪を靡かせながらソイドールの攻撃を避けている、後方支援組のサポーター兼ヒーラーのイアさんだ。
 因みに今日、俺たちのリーダーでもある。

「わかってるから、私に指図しないでよ!!」
「しかしアンナさんでも流石に一人では無理です。私も援護します!」

 イアさんの横にいる魔法使いホージュが帽子を押さえながら、魔法を展開するのが見えた。
 その魔力量に、俺はドン引きする。
 俺が結界の中にいるとはいえ、いくらなんでも火力が強くないですかね?

「ホージュ、私の獲物なんだから邪魔しないでよ!!」
「しかし数が増え過ぎです! アンナさんは一番大きいリーダーと思われる個体をお願いします。私は周りの雑魚を一掃しますから」
「た、確かに一体だけ大きいきがする……それなら仕方がないわね、わかったわよ!!」

 それって、俺の結界前にいるソイルドールの事じゃないか? どう見ても他と比べるとそのサイズは2倍ぐらいだし、ほぼ俺と同じぐらいのような……。
 なんて呑気に観察していたらアンナに怒鳴られてしまった。

「何ぼーっとしてんのよ、無能も早く退きなさいよ!! あんたごと叩き切ってもしらないんだから!」

 無能って……まあ確かに、囮以外は何の役にも立って無いけどさ。
 それに俺の結界ならアンナのスキルを受けても傷一つないだろう。

「大丈夫だ。一思いにやってくれ」
「あんたのスキルに対する自信はなんなのよ! もう本当にしらないから。こうなったら、とっておきのスキルをあんたにも浴びせてやるわよ!!」

 右足から踏み込んだアンナはソイルドールの前に飛び出ると、持っている白金の剣をスッと撫でる。
 すると緑光の筋がその剣に入っていくのが見えた。
 きっと先程言った通り、アンナは特殊スキルを放つつもりなのだろう。

「はぁぁあぁぁあぁ!!!! 切り裂きなさい!! スピリットブラストぉぉおぉぉおぉ!!!!」

 そう叫びながらアンナはソイルドールを斬り伏せる。流石にその威力はすさまじく、ソイドールが綺麗に真っ二つに割れたのが見えた。
 そしてその斬撃は消える事なく、疾風が煌めきを帯びたまま俺の眼前にも広がる。
 しかしその光は結界に阻まれて俺のところまで来ることはなかった。

「く、何でその結界は私のスキルでも全く歯が立たないのよ!!」

 ソイルドールを倒したアンナは、何故か俺の結界が壊せない事にイライラしはじめたのだ。

「いや、モンスターは倒したからよくないか?」
「良く無いわよ!! この私に切れない物があるなんて許せないんだから!」

 そうプリプリとキレるアンナは、ホージュの撃ち漏らしたソイルドールがいる事に気がつくと、そいつらを倒しに駆け出そうとした。
 しかし、何故かソイルドール達が凄い勢いで俺達から離れていった為にそれはできなかった。

「え、何?」
「ソイルドール達が一斉に逃げて……」
「皆さん、嫌な気配が近づいて来ていますわ。今のうちにトロッコに乗ってここを離脱しますわよ!」

 こういう時、イアさんの感は当たる。
 だから俺たちは急いでトロッコに向けて走り出したのだ。
 そしてどうにかトロッコに飛び乗った俺たちは、後方から自分たちを追いかけてくるモンスターの姿に絶望していた。

「いや、なんであんなのがこんなところにいるのよ!!」

 アンナの叫び声を傍で聞きながら、俺達はあり得ないスピードで追いかけてくるモンスターを見上げた。
 そこにはランク8と体に刻まれたアーマーゴーレムが、トロッコに乗っているはずの俺達以上の速さで追いかけてくる。
 ランク8ということは10段ランクの内、上から三番目に強いランクという事だ。そんな高ランクモンスターがここに居るなんて聞いた事もない。
 なにより今いる俺達パーティーの平均ランクはランク4なのだ。四つも格上のモンスターに勝てる訳がない。

「なんなのあれ? あの図体のくせに、速度がインチキじゃない!!」

 先程からキンキン叫んでいるアンナが、ゴーレムのありえない速度に嘆く。
 俺はトロッコの先頭にいるホージュに話しかけた。

「もう少しスピードをだせないのか?」
「私の魔力では、この全自動型魔術式トロッコの速度を上げられません!!」

 ホージュは紫の髪を帽子で押さえながら、必死にトロッコに魔力を送っていた。

「このままじゃ、すぐに追いつかれるわよ!!」
「山エリアを抜けて森エリアに入るまで、もう少しのはずですわ。アンナさん少し落ち着いてください」

 イアさんが混乱気味のアンナを優しく諭そうとしてくれる。
 しかしこんなタイミングでホージュが弱音をはいてしまったのだ。

「すみません、山エリアを抜けるまでに追いつかれるかもしれないです! 私の魔力がたりないばかりに……この戦利品を、いえそれだけでは足りませんね。そうだ、誰か一人を降ろせば! いや、でもそれは……」
「もう! 誰か降ろせば助かるなら、こいつを降ろせばいいじゃない!」

 そう言って俺を指差したのは、アンナだった。

「俺!?」
「アンナさん、仲間を見捨てるのは我がファミリー『暁の宴』ではご法度ですわよ! それにまだ他の方法が……」
「わかってるけど、もうどうしようもないじゃない!!」

 混乱しているアンナは、イアさんの話を途中で遮ると俺の方に詰め寄りこう言ったのだ。

「無能なディフェンダーなんだから、最後ぐらい役に立ちなさいよ!!」

 気がつけば、俺はアンナの馬鹿力でトロッコから蹴り飛ばされていたのだった。
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