上 下
10 / 21
本編

10.初めての触れ合い1

しおりを挟む
「アウルス……あ、あの……」

 確かに、今わたくしがいいと言ったのだけれど……いざするとなると、緊張してしまう……。

 こういう時、どういう顔をしたらいいんだったかしら?

 わたくしが戸惑っていると、アウルスがわたくしを抱き上げベッドへ運ぶ。そして、ゆっくりと彼の顔が近づいてくる。覆い被さって体がピッタリとくっつくと、彼の吐息と体温を間近に感じて、わたくしはギュッと目を瞑った。
 すると、チュッと啄むようなキスが一度だけ落ちてきてスッと離れる。

 えっ? それだけ?

 てっきりいつものように甘く深い口付けをされると思っていたので、拍子抜けした顔をしてしまう。アウルスはそんなわたくしを見つめながら、重ねていた私の手を持ち上げて、その手に口付けを落とす。

 その表情がとても切なげで、胸がぎゅうっと鷲掴みされたみたいに痛くなった。


「アウルス……」
「トゥッリア……怖いか?」
「え?」

 彼の視線がわたくしをとても真剣に見つめている。
 わたくしは小さく首を横に振って、アウルスにギュッと抱きついた。


「こ、怖くはないわ……。ただ戸惑いが大きくて……それに……」
「それに?」

 体を少し離して顔を覗き込まれると、胸が痛いくらいにドキドキしてしまう。


「あ、あの……久しぶりなの。アンドレアとは最初のうちしかなかったから……。だから、その……ちょっと恥ずかしくて、どんな顔をしたらいいか分からないの……」

 頬を赤らめながら彼の肩に顔をうずめると、彼は私の頭を優しく撫でながら「どんな顔をすればよいかなど考えなくともよい。恥ずかしいなら目を瞑っていろ」と宥めるように囁いた。

 アウルス……。

 その優しい声音に、顔を上げて彼を見つめると、とても切なそうな表情をしていた。


「久しぶりならば、痛みが伴うかもしれぬ。そうならないように努めると約束しよう。必ず優しくする。それに嫌なことがあれば言ってくれれば、すぐにやめるので其方に触れることを許して欲しい……」
「い、嫌なことなんてないわ……。だから、やめなくていいの。そ、それに、こういう時の……嫌って、つい口についてしまっているところが大きいと思うのよ……。わ、分かるでしょう?」

 消え入りそうなくらい小さな声でそう言うと、ゆっくりと唇が重なった。さっきよりもしっかりと重なったのが分かって、アウルスの首裏に手を回しながら目を閉じる。

 アウルスの口付けがとても好きだ。ずっとしていたくなるくらい……彼にキスをされると溺れてしまいそうになる。

 それに今は彼を抱き締めてあげたい。強いのに……淋しがりやで少し臆病な彼を安心させてあげたい。枷をつけて閉じ込めなくても大丈夫だと分かって欲しい。

 貴方はわたくしに触れることに許しを乞う必要なんてないのよ。だって、わたくしは貴方のものなのだから……。


「んっ、んぅ……っ」

 口の中に舌が入ってきて、深く唇が重なる。そのまま彼の舌に自分の舌を絡めると、隙間なく唇が合わさって、漏れる吐息すらも飲み込まれた。


「んんっ、ふ……ふぁっ」

 ゆっくりと唇が離れて、口付けで乱れた呼吸を整えながらジッと見つめると、アウルスが困ったように笑う。


「アウルス……?」
「すまぬ。私も緊張しているようだ。今からトゥッリアを抱けるのだと思うと、口付けだけで胸が張り裂けそうだ」

 アウルスが私の手を取り、ソッと自分の胸に当てる。そのドキドキと高鳴った胸に、ドキドキしているのは己だけではないのだと、なんだか嬉しくなる。

 少し照れ気味な彼を可愛いと思った……。もっとアウルスの色々な顔を見たい。温かい感情がわたくしを包む。


「トゥッリア、よいか……?」
「ん……」

 彼は胸に当てていたわたくしの手に自分の手を重ね、ベッドに置く。そして、わたくしの耳に口をつけてそう囁いた。
 耳元で紡がれる色気を含んだ低い声音に、ゾクゾクとしてしまう。

 そのアウルスの問いかけに小さく頷くと、「痛いことは絶対にせぬから……」と言って、彼の逞しい腕がわたくしを抱き締める。
 いつのまにか着ていたものは魔法で脱がされ、お互い裸になっていた……。触れ合う素肌と体温、そして聞こえる心臓の音が……さらにわたくしたちをドキドキとさせる。


「ん……ぁっ」

 アウルスにギュッと抱きつくと、また唇が重なる。ぬめりを帯びた舌が入ってきて、口の中をグルリとなぞった。

 その舌がとても気持ちよくて熱い。

 クチュクチュと唾液をすり合わせ、絡め合う。そのまま喉の奥まで入り込んだ彼の舌がわたくしの舌のつけ根を舐める。その刺激で彼の唾液をゴクンと飲み込んでしまうと、なんだか少しほろ苦い味がした。


「んっ、ふぁ……っ、んぅ」

 アウルスとの口付け、とても好き。ずっとしていたい……。

 そう思っていることが分かったのか、さっきよりも口付けが深くなる。キュッと絡めた舌で扱かれて、体が震えた。


「は、ぁっ……ふっ、んんぅ、アウルス」

 唇が離れたことではぁはぁと息を吐いて、呼吸を整える。わたくしと違って、一呼吸の乱れすらない彼はわたくしの頬を撫でながら、優しげに笑った。


「トゥッリア、可愛い。ああ、其方に触れられる日が来ようとは……」

 わたくしを抱き締めるアウルスの体が小さく震えた気がした。泣きそうな声でわたくしの名を呼ぶ彼に、「大丈夫よ」と背中をポンポンと叩く。

 アウルスがわたくしを愛してくれるのと同じ強さで、わたくしも彼を愛し包み込むことができれば……わたくしの姿を飾ったり物を収集したりする癖は影を潜めるのかしら?


「アウルス、大好きよ……」
「私は愛している。なので、いずれは其方から『愛している』と言わせてみせる」
「ふふっ、楽しみにしているわ」

 抱き締めていた体を少し起こして、彼がわたくしの頬に手を添える。そして彼の言葉にクスクスと笑っているわたくしの額や瞼、頬や唇に優しい口付けが落とされた。

 まるで宝物に触れるみたいな口付けに胸が熱くなってドキドキする。アウルスに触れられると、そこからじんわりと多幸感が広がっていく気がする。

 これが愛されるということなのかしら。
 まだ頼りないけれど……わたくしも貴方を支えるために頑張るから……だから、もう少し信用してね? アウルス……。


「んっ……」

 アウルスの手がゆっくりとわたくしの体をすべる。キュッと胸の先端を摘まれると体が震えた。

「舐めてもよいだろうか?」
「っ!?」

 そ、そんなことをわざわざ確認しないで欲しい。

「わざわざ聞かないで頂戴……。ア、アウルスの好きにしなさいな……」

 顔を真っ赤にしながら視線を逸らす。すると、アウルスはわたくしの顎を掴んで、無理矢理視線を合わせニヤリと笑う。

「ならば、お言葉に甘えて好きにさせてもらうとしようか」
「~~~っ!」

 い、今の、今の、絶対わざとだ!

 わたくしが涙目で睨むと、アウルスが挑発的に笑う。そして胸の先端をパクッと口に含まれた。


「は、ぅ……っ」

 吸いながら舌の先で舐められると、気持ちよくて堪らない。久しぶりの感覚に背筋にゾクゾクとしたものが走って、わたくしはアウルスの頭に縋りつくように抱きついた。


「トゥッリア、そのように押さえつけられると舐められなくなるぞ」
「だ、だって……ひうっ」

 口を離したアウルスがクスクスと笑いながら、両方の先端を摘み上げる。


「其方は可愛いな。少し触れただけでこんなにもプックリと立ち、まるでもっと触って欲しいとねだっているようだ」
「あっ……んぅ、ち、違っ」
「違わないだろう? トゥッリア、どうする? もっと舐めて欲しいか? それとも、このように指で弄って欲しいか?」
「ふあっ、あっ……し、知らなっ、んんぅ」
「そうか……。トゥッリアは私の好きなように抱かれたいのだったな」

 まるで揶揄うような声音でそう言いながら先端に吸いつく。そして、さっきまでもう片方の先端を弄っていた手がゆっくりと腰をすべり、お尻を円く撫であげた。


「あっ……んぅ、っぁ」

 お尻から太ももへ滑るように移動する手と胸の先端を転がす舌が気持ちよくて堪らない。
 体をビクビクと震わせながら、胸を舐めているアウルスの髪をクシャッと掴むと、少しキツめに吸われて腰が跳ねる。


「ああっ! やぁ、待っ……」
「なぜだ? 私の好きにされたいのだろう? それにしても感じやすいな。アンドレアアレとしている時とは違うように思うが……それは私とのほうが気持ちがいいと思ってくれていると捉えてよいのか?」
「~~~っ。そ、そうよ。正直なところ、アンドレアなんかより段違いにアウルスのほうが気持ちがいいわ」
「ほう。ならば、もっと其方の色々な表情を見せてくれ」

 わたくしが顔を真っ赤にして認めると、アウルスは嬉しそうに笑いながら、わたくしの太ももの内側に手をすべらせ、際どいところをなぞる。その手の動きに体が跳ねて、無意識に脚を閉じようとしてしまうけれど、アウルスの片脚を挟んでしまうだけだった。 

 わたくし……今……心も体も最高潮にドキドキしている気がするわ。心臓が壊れそう……。
 

「はぁ、んっ……ふぁっ、あっ……そ、それ、き、気持ちいっ」

 舌先で包み込み、ギュッと扱かれると腰が浮いてしまう。

 そ、それに先程まで余裕そうに笑っていたアウルスが、今や貪るようにわたくしの胸を舐めている。それが愛おしくて堪らなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...