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52.全てロブのせい(シルヴィア視点)

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「見てください! 着物というものを着せて頂いたのです! とても美しいでしょう?」


 晩餐会の後、着物が気に入ったと言ったら、快く着付けをして頂いたのです。わたくしは、嬉しくて、とても嬉しくて、クルクルと回りながらロブに見せました。


「へぇ、良いね。いつもと違って、嫋やかで美しく……乱したくなるよ」
「っ!」

 ロブが突然グイッと、着物の襟を抜くように引っ張ったので、わたくしは慌てて振り払いました。

 きゅ、急に何をするのですか?


「さ、触らないで下さい」

 折角、着せて頂いたのに……
 もう少し着ていたいのです。

 何故、何でも思考がそっちの方にいくのですか? 他国の民族衣装を目で見て楽しむ、という気持ちにはならないのですか?


「ふーん。そのような事を言うんだね」
「え?」

 わたくしが「え?」と思った瞬間、ロブが酷薄な笑みを浮かべました。

 その顔は、今までろくな事がないのです。
 ちゃんと駄目って言わなければ、と思った瞬間……わたくしが着ている着物がブワッと炎に包まれ、消えてなくなりました。


「きゃ、きゃあっ!」

 えっ? 何? 何ですか?
 何が起こったのですか?

 わたくしが慌てて体を隠すように座り込むと、ロブはわたくしに一歩近づきました。


 ロブ? どうして?


「触れずに脱がして欲しいようだったから、期待に応えてあげたのだよ。心配せずとも、君には何の影響もない。熱くはなかっただろう?」

 そういう問題ではないのです。
 わたくしは……わたくしは……。

「酷い……。わたくし、着られて嬉しかったのに……」
「僕に触れるなと言うからだよ。ヴィアのくせに……」


 酷い……酷いのです。


「ロブの馬鹿!」

 わたくしは、わたくしの手を掴もうとしたロブの頬を叩き、体にシーツを巻きつけ、部屋を飛び出しました。

 絶対に、絶対に、許さないのです。
 ロブなんて、嫌い。此処に来てから、欲求を押し付けるばかりで……わたくしの気持ちなんて……無視なのです……。


「ヴィア、待ちたまえ! シルヴィア!」


 名を呼ぶロブには振り返らず、わたくしはジュリアちゃんのお部屋に向かいました。

 今日はジュリアちゃんと眠るのです。
 チェチーリア様のところは、ちょっと行きにくいので……。陛下の前だと、やはり緊張してしまうのですよね……。優しくて、良い方だとは分かっているのですけれど……。

 やはり、国王陛下……の前では緊張するのです。






「…………」
「ま……、……ルカ」

 あ……何か声が聞こえるのです……。

 ジュリアちゃんのお部屋の前に来たのですけれど……扉を開けようとすると、何やら声が聞こえました。
 わたくしはあれ? と思って耳を澄まして、ドアに耳をつけてみました。


 いけない事をしているのは、分かっているのです。
 でも、万が一意気揚々と扉を開けて、最中だったら困るので……。


 わたくしは、己の行いに言い訳をしながら聞き耳を立てました。


「ルカ、やめて……。今、月のもの来てるから……ルカの手も、ここの家具も汚してしまう……」
「大丈夫ですよ。そこには触れません。ただ、少し……少しだけ貴方に触れるだけです」
「で、でも……ぜ、絶対少しですまない、だろ……」
「貴方が悪いのですよ、物欲しそうな顔をしているから……」


 こ、これは……。
 入ってはいけない状況なのです……。

 恐らく、このようにドアに耳をつけると声がするという事は、入ってすぐの洋室のところで致しているのだと思うのです。


 わたくしは駄目だと思いながらも、ドアにつけている耳を離せませんでした。

 ドキドキ致します……。


「ルカ……あっ……胸、やだっ」
「……ですか? ここはこんなにも…………なのに……」


 …………。
 ちょっと、ルカ様の声が聞こえづらいのです。

 わたくしはドアの一部になったかのように、ドアにピッタリと張り付きました。

「やっ、ひあっ……乳首、クリクリするなっ……ひゃぁ、ぁっ……それ、だめ、すぐイッちゃうからっ……やめてっ、ああっ!」


 あらあら、ジュリアちゃんったら、お胸が弱いって本当だったのですね。それにしても、元男性とは思えない程に、可愛らしいお声なのです。



「ヴィア!」

 え? あ……ロブなのです。
 折角良いところなのに……。


「君は何を考えているんだい? そのような格好で、部屋の外に飛び出すなんて……。此処は、他国なのだよ。いや、自国だとしても許されないよ」
「ちょ、ちょっと……静かにして下さいませ……」


 このようにドアの前で騒ぐと、ルカ様に聞こえてしまうのです。ジュリアちゃんは、きっとそれどころじゃないと思いますけれど……。


「何が静かにしろ、なんだい? 早く部屋に戻るよ」
「いや、離して! わたくし、此処にいたいのっ!」


「何をしているのですか?」

 えっ?

 その瞬間、カチャっと扉が開き……凍てつくような目をしたルカ様に見下ろされました。いえ、見下されました。

「…………えっと、これはその……」

 ほら、ロブが騒ぐからです。
 ロブが騒ぐから、バレてしまったではないですか……。


「うるさいよ、ルカ。僕は今それどころではないんだよ」
「ほう」


 ロブの馬鹿。
 ルカ様の目が更に冷たいものになったではありませんか……。


 その後、わたくし達は逃げようとしましたが、ルカ様に部屋に引きずりこまれ、1時間半に渡ってお説教を受けてしまいました。


 ジュリアちゃんは、恥ずかしそうに「俺、寝るから。腹、痛くなってきたし……」とか何とか言って、早々に逃げました。
 当たり前ですが……助けてくれませんでした……。

 うう、わたくし……シーツ一枚なのに……。
 ロブのせいで。


 それに大人しく謝っていれば良いのに、ロブが一々反論するから、その度にお説教が長引くのです。

 この部屋の気温だけ、真冬のようなのです。
 シーツ一枚では寒いのです。

 凍えそうです。


 その後、わたくし達は二度と邪魔をしないと誓わされて、部屋を放り出されました。


「ルカ様、怖いのです……」
「ふん。腹の立つ奴だよ」


 ………………。
 ロブったら、全然反省していないのです。

 わたくしはジトっとした目でロブを睨みました。


「ヴィア、体が冷えただろう? 部屋に帰って暖めてあげるよ」
「……触らないで」


 わたくしはロブの手を振り払って歩き出しました。


「ヴィア? 君まで、何を怒っているんだい?」


 何故?
 折角、着せて頂いた着物を魔法で燃やしたくせに。


「ルカのせいで、機嫌が悪くなったのかい?」
「最低。ルカ様は関係ありません。わたくしが怒っている理由が分かるまで、わたくしに触らないで」
「ヴィア?」


 わたくしが、ふんっと歩き出すと、ロブが慌てて「ヴィア? 何が気に入らないんだい?」とついて来ました。


 寧ろ、ほんの2時間前の事を忘れているロブに驚きです。まあ、ロブからしたらわたくしの着ているものを脱がす事が、悪い事だとは思っていないのでしょうね。

 燃やしておいて……。


 ロブは、わたくしが普段強く出ないせいか、たまにこうやって怒ると、途端に大人しくなるのです。
 なので、この調子で暫く、反省させる必要があるのです……。
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