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2.母上の戯言(ジュリオ視点)

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「母上。以前にも説明したでしょう? ジュリアちゃんは子を生せないと……」
「あら? そうは言うけれど、その女性にする術は、禁忌と呼ばれる以上、試す人間は限りなく少ないと思うわ。寧ろ、いないわよね? だったら、何故懐妊出来ないと言い切れるの?」
「…………それは、そうかもしれませんが」


 兄上が俺をチラッと見て、ふむ……と頷いた。

 いや、「そうかもしれません」じゃねぇし。


「本来、男性である体を女性に変えること自体が神々の与えたものに反しているのだから、諦めるのは早いわよ」


 母上はオホホと笑いながら、扇子で兄上の顔をパシパシと叩いた。兄上は顔色を変えずに扇子を払いのけながら、何かを考えているようだ……。


 でも、母上は知らないだろうけど、俺は禁忌の術で女になってる訳じゃない。兄上の変化へんげの魔法のおかげだ。
 兄上の魔力が込められた簪のおかげで、女になれている。簪を外せば、男に戻ってしまうから……どの道、懐妊は無理だ。

 母上は俺を女にすると報告した時も、「あら、そうなの? 良いのではなくて?」と笑っていた。母上からすれば、俺が罪を犯して処刑されるくらいなら、性別を変えてでも生きていてくれるなら、それで良いらしい。

 愛情深いのか……物事に頓着しないタイプなのか……よく分からない。いや、「本当は女の子が欲しかったのよね」と寧ろ喜んでいる気もする。
 そのせいか、チェシリーのマナーレッスンの後に、たまに捕まって着せ替え人形にされる……。本当に勘弁してほしいものだ。


 今日は兄上たちと話をしているおかげで大丈夫だと思うけど……。


「母上。取り敢えず、ジュリアちゃんと大切な話をしているので、退室して頂けますか?」
「何よ、貴方までわたくしを除け者にして……。そういうところ、陛下にそっくりだわ」
「それは申し訳ございません。ですが、一緒にしないで下さい」

 兄上は顔色を変えないが、多分不快だと思う。
 俺だって、父上と一緒にされたら嫌だし……。


 その後、母上はブツブツ文句を言いながら部屋から出て行った。


「ジュリアちゃん……」
「は、はい!」


 俺が退室していく母上をボーッと眺めていると、兄上が突然、俺の名を呼んだ。


「認めるのは癪だけど、母上の言う事にも一理ある気がするんだよ。ジュリアちゃんとしては、どうしたい? 1%でも可能性があるとしたら懸けてみるかい?」
「え? 良いのか!?」

 俺がバッと立ち上がると、兄上は「即答するんだね」とクスクスと笑った。その笑いに俺は何だか気恥ずかしくて、頬を染めながら「だって……」と呟き、椅子にポスッと腰かけた。


「まあ禁忌の術というからには、リスクがないわけではないんだよ。だから、即答するには早いかな……」
「リスク?」
「命に関わるものではないんだけど……。うーん、そうだな……。変化へんげの魔法のように気軽なものじゃなくて、痛みが伴うらしいよ。まあ、根底から作り替えるのだから当然と言えば、当然かもしれないね。その痛みに耐えられるかい?」


 痛み?
 どんな痛みかは分からないけど、死ぬわけではないんだし、それに耐えたら本当の女になれるなら、耐えてみせる。

 大丈夫。俺、本当は男だから、痛みくらい耐えられるよ。多分。


「耐える。耐えてみせます」
「そう? 術が定着するまでの間は孤独だよ。魔法陣の中で1人で痛みと戦わなければならない。それがどれくらい掛かるかのかも分からない。勿論、魔法陣の外には私たちがいてあげられるけど、戦うのは君だよ」


 それでも……それでも俺は……。

「まあ、ルカとよく話し合えば良いよ」
「いや、やる! 俺、ルカの子供が欲しいんだ! 可能性は低くても、もしかしたら無理でも、それでも……1%でも可能性があるなら……それに懸けたい!」


 すると、兄上が「本当に良いの? その日の気分によって交わりが出来なくなるよ」と言った。


「…………」

 …………何で、知ってるんだよ。
 ルカがその日の気分で男と女の俺を楽しんでる事、何で知ってるんだよ。


「まあ、冗談はさておき……ちゃんと話し合うと良いよ。母上の戯言も考え方によっては一理あるかもしれないけど、でもそれは一つの可能性に過ぎない。もしかすると、1%すらないかもしれないんだよ。その時に戻りたいって思っても戻れないんだ。ちゃんと話し合って考えるべきだよ」


 1%すらないかもしれない?
 そうだよな……。母上の戯言にすら一喜一憂してしまうなんて……俺、馬鹿みたいだよな……。


「話し合うよ……。ちゃんと話し合って考える……」


◆後書き◇

 皆様はルカとジュリアちゃんの子欲しいですか( ・∇・)?
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