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お風呂②

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「詩音」

 稀一が詩音の名を呼びながら、湯からすくい上げるように胸を揉む。彼の指が胸に食い込むさまが淫靡で、詩音は耐えきれず目を逸らした。

(うう、恥ずかしい……)


「ぁ……やっ、やだ」
「詩音、目を逸らすな。今自分がどうなっているか、ちゃんと見ておけ」
「ああっ!」

 諭すように囁きながら、稀一の指が胸の先端を摘まみ、指でくりくりと弄る。先ほど途中で放り出されたままの秘所がどうしようもなく疼いて、稀一のくれる快感に彼の肩を掴んで耐える。

 ベッドでするのと同じ――彼からの愛撫に抗える気がしない。詩音はいけないと思いつつも腰を揺らしてしまった。少し動かすだけで、彼の屹立が擦れて気持ちいい。

「あ……んぁっ、ひう」

(やだ、止まらない……)

 ダメなのにもっとと望む気持ちを抑えられない。このままでは稀一にバレてしまうと思い、詩音は唇を噛んで腰の動きを止めた。

「ふぅ、っ……ふ、あっ!」

 が、必死に抑えようとしているのに、稀一はお構いなしに詩音の胸を好きなように弄んでくる。

 転がされていた胸の先端を指先で押し込んでぐりぐりされ、止めていたはずの腰が跳ねて彼の屹立に擦れる。

「ああっ!」

 意図せず強く擦れて背中が弓なりにしなった。稀一は詩音の胸の先端を指で弾いて、楽しそうに笑う。


「可愛い」

 耳の縁を唇でなぞり、耳朶を甘噛みする。詩音は胸で戯れている稀一の手をぎゅっと掴んだ。

(ダメ。ゾクゾクして、もう無理かも……)


「あっ、ああっ! 稀一さん、お願い。欲しいのっ」

 とうとう我慢できずに懇願する。彼はクッと喉の奥で軽快に笑って詩音の腰を掴んだ。そして秘裂に沿ってぬるぬると擦りつける。

(あっ……気持ちいい……!)

 欲しかった刺激が与えられて詩音は稀一にぎゅっと抱きついた。彼の動きに合わせて腰を揺らすと、びりびりとした快感が体中を駆け巡る。


「ひうっ……あっ、ああっ……き、いちさん。もうイッちゃう……」

(やだ。我慢できない……!)

 先ほど放り出されて蓄積していた熱が一気に解放されたいと体の中を暴れている。

 詩音は稀一に縋りついて、一際甲高い声をあげた。


「ああ――っ!!」

 目の前に火花が散ったと思った時には、視界が一気に真っ白に染まる。独特の浮遊感と多幸感が詩音の心と体を占有した。

(熱い……)

 達したせいだろうか。体温が急激に上がった気がして、詩音は稀一の肩に頭を乗せた。ぜーはーと荒い呼吸を繰り返す。

 これは――稀一が与えてくる熱のせいなのか、それともお風呂の熱気のせいなのか。分からないが、この熱のせいで何も考えられなくなっていく。


「稀一さん、熱い……。くらくらするの」

 稀一の肩からわずかに顔を上げてそう訴えると、彼の表情が強張った。その途端、彼が詩音を抱き上げて立ち上がる。

(え……?)

 突然の浮遊感に驚いたが、達したばかりの頭ではいまいち思うように働いてくれず、ぼんやりしたまま彼を見る。すると、彼はバスルームを出て詩音をバスタオルでくるみ、リビングまで連れて行ってくれた。


「んっ」

 ソファーにおろされるのと同時に稀一の唇が詩音の唇に触れた。深く重なって、水が口の中に流れ込んでくる。


「んんっ! ふ、っぅ」

 こくんと飲み込むと、また口移しで水を飲ませてくれる。夢中で彼のくれる水を飲むと、徐々に思考が定まってきて頭の中が明瞭になってくる。


「お水、美味しい……」
「詩音、あんなところで襲って悪かった。のぼせたよな? 体、大丈夫か?」
「のぼせた……?」

 稀一がペットボトルの水を渡してくれたので、それを自分で飲みながら、彼の言葉を繰り返す。

 確かにお風呂の中であのようなことをしていれば、のぼせても仕方がなかったなと思いながら、こくりと水を飲む。

 稀一はまるで今から断罪される罪人のような顔つきで、詩音を抱き締めたまま固まっている。自分をひどく責めている彼の頬に手を伸ばした。


「そんな顔しないでください。元々、お風呂でエッチなことを期待した私が悪いんですから」
「だが……医師としても婚約者としても、常に詩音の状態を把握していなければならないのに。詩音から体調の変化を訴えられるまで、のぼせていることに気づかないだなんて……最悪だ。浮かれている証拠だ」

(浮かれている? 稀一さんが?)

 彼はとても真面目な顔で謝っているのに、その言葉がすごく嬉しかった。いつも余裕があるように見える稀一が、そうではなかったのだということが分かって不謹慎だと思いつつも、顔が緩んでしまう。

 詩音は自分を抱き締めたまま項垂れている稀一の頬に冷たいペットボトルを押し当てた。

「っ、詩音」
「稀一さんもお水飲んでください。なんなら、さっきの稀一さんみたいに私が飲ませてあげましょうか?」

 不敵な笑みで笑いかけると、稀一が目を見張る。そんな彼にすり寄った。


「稀一さんがすぐにお風呂から出してお水を飲ませてくれたので、私はもう大丈夫です。だから、次はベッドで続きをしましょう」
「ダメだ。今日は休むべきだ」
「嫌です。最後までしたいです」

 唇を尖らせてワガママを言うと、稀一が頭を抱えて大きな溜息をつく。

 心配してくれているのは分かるが、本当にもう大丈夫なのだ。それよりも体の疼きをどうにかしてほしい。

 詩音は意を決して、先ほど稀一がしてくれたように口に水を含み、彼にキスをした。すると、戸惑いつつも彼の舌が応えてくれる。舌を絡ませ含んだ水をすり合わせると、冷たいはずの水なのにとても熱く感じた。

 それを何度か繰り返して、ゆっくりと唇が離れる。


「っはぁ、はぁ……あっ!」

 飲みきれずこぼれてしまった水さえも、彼が舐め取ってくれた。


「詩音。ベッド行こうか」
「はい!」

 自分の願いを聞き入れてもらったことが嬉しくてふにゃっと笑うと、額にキスが落ちてくる。


「但し。俺も君の体調には注視しておくが詩音も我慢しないでくれ。本当に体調が悪くなったら隠さずに言うんだぞ」
「……」
「俺の言うことが聞けないなら、よく眠れるように今すぐベッドに縛りつけようか?」
「ご、ごめんなさい。ちゃんと言います」

 じろりと睨まれて、彼の腕の中で縮こまる。すると、彼がぷはっと吹き出した。

(稀一さん?)

 肩を震わせながら笑っている彼に目を白黒させる。


「普段は恥ずかしがってドギマギしてるくせに突然強気になるんだもんな。ホントたまらない。優しくいたわるように抱かなきゃいけないと思うのに、ひどく啼かせたくなるから困る」
「っ!」

 鼓膜を震わせる彼の色を含む声と射貫くような彼の視線に一瞬息が止まる。詩音の顔にボッと火がついたのと同時に、唇が深く重なり合った。
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