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第二章 王妃
38.イストリア国
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今日はイストリアに行く日なのです。
わたくしが朝からウキウキしていると、マッティア様から落ち着きなさいと注意を受けてしまいました。
「ベアトリーチェ、2日程滞在するのです。気を引き締めるように」
「はい、申し訳ありません……」
そうですよね……他国に行くのですから、しっかりしないと……。夢見がちなところやフワフワしているところを直さなければなりません。
わたくしがシュンとしていると、マッティア様がわたくしの頭を撫で、エスコートして下さいました。
そして、転移の魔法陣の間に行くと、マッティア様が魔力を流し、魔法陣を始動させました。
このような大きな魔法陣を始動させ、これだけの大勢の方たちを転移させるとなると、並大抵の魔力では無理そうです。
魔力が枯渇して死んでしまいそうな程の魔力を使っても、マッティア様は涼しい顔をなさっています。
「さあ、ベアトリーチェ。私たちも行きましょうか」
「ええ、でも大丈夫なのですか? 魔力を使い過ぎでは?」
皆を2回に分けて転移させた後、マッティア様がわたくしの手を取り転移しようとしたので、わたくしは心配になりました。
「始動させている見た目が派手なので多くの魔力を使っているように見えますが、実際はそうでもありませんよ」
「………………そうですか」
絶対嘘です。絶対に多くの魔力を消費している筈です。
はぁ、本当に……この方は規格外なのですから。
そして、マッティア様がまた魔法陣を始動なさろうとしたので、わたくしは慌てて止めました。
「待って下さい。そのような大きな魔法陣を始動させなくとも、いつものマッティア様の魔術を使えば宜しいでしょう?」
「ですが、王宮内には許可を得た者でないと、転移出来ません。その為に、このように大掛かりな魔法陣を敷いているのです」
マッティア様によると、このように決まった魔法陣ではなく、己の魔力のみで転移する場合、イストリア側の結界の書き換えが必要なのだそうです。
「王宮内に結界が張られているのですか?」
「ええ、首座司教という者の力だそうですよ」
わたくしがイストリアとは凄い国なのですねと感心していると、マッティア様がわたくしの手を引き、ささっと転移してしまいました。
そして、わたくし達は謁見の間に通され、イストリアの国王王妃両陛下が出迎えて下さいました。
定例の挨拶の後は、国境について話し合う事になったので、イストリアの国王陛下や大臣の方々が、マッティア様とお話している間に、わたくしはイストリアの王妃陛下との交流を任される事になりました。
わたくしはドキドキしながら、王妃陛下に微笑みかけました。
すると王妃陛下は、わたくしに優しく微笑み、名で呼んで欲しいと仰ってくださったので、わたくしもそうして頂くようにお願い致しました。
「とても豊かで美しい国なのですね。民が、とても活気に溢れ、皆が皆幸せに満ちている様に思えました」
わたくしが、そう言うとアリーチェ様が優しく微笑み、イストリアの事を色々と教えて下さいました。
アリーチェ様はとても美しい方なのです。勝ち気な翡翠の瞳に、夜空のような濃紺の髪。屈託なく笑うお顔には裏表がないように見え、とても好感を持てます。
マッティア様と同じように、身のこなしや纏っている雰囲気は一流の剣士のようです。皆、己を律し、鍛えているのですね……わたくしも剣術指導を頑張らないと……。
「イストリアは大きな学院があるのですね。国中の貴族が、13歳になると通うなんて、何と素晴らしい事でしょうか。……エトルリアは、家庭教師をつけて各々が個人で学ぶので、イストリアの在り方は、とても羨ましいです」
アリーチェ様の説明の中でも、わたくしが特に気になったのはノービレ学院の事です。
ノービレ学院は国中の貴族が13歳から18歳までの6年間通い、貴族としての在り方を学ぶそうなのです。
学べる分野は多岐に渡り、未来の領主を育成するコース、侍従コース、文官コース、騎士コース、医療従事者コースがあるそうです。
そして卒業と共に成人なので、イストリアでは18歳が成人という事になります。エトルリアとは違うのですね……。
わたくしは、17歳なのでイストリアだとまだ未成年という事になります。
「あの、エトルリア国には属性という概念はあるのですか? 聖獣に関しての伝承とかあれば聞かせて欲しいのです」
「え……っと、属性という概念はありませんが、皆得意とする魔術はある様です。聖獣のお話は建国神話でしか聞いた事がありません」
わたくしがノービレ学院の素晴らしさに感動していると、アリーチェ様が属性や聖獣の事について問いかけて来られました。
「ならば、属性を調べてみましょう」
「え? 調べられるのですか?」
「勿論です!」
そして、調べてみた結果、マッティア様は聖の属性を持つ6属性持ちで、わたくしは闇の属性を持つ6属性でした。
聖属性を持っていると治癒魔術が使えるそうです。だから、マッティア様は回復が出来るのですね……。
属性は火、水、風、木、土、闇、聖があるそうなのです。
闇と聖は対なので、必ず2つはセットで保持出来る筈らしいのです……けれど。
「普通は闇と聖は対なので、片方の属性というのはないのですが……」
何ですか、それ……。それでは、まるでわたくしとマッティア様が一心同体みたいではないですか。
「まさか……わたくしの生家が持つ特殊能力のせいなのでしょうか? ……あ、でも、それでは陛下の聖属性のみの説明がつきませんよね……。何故でしょう?」
「特殊能力?」
アリーチェ様が首を傾げたので、わたくしは生家プロヴェンツァが持つ能力について説明致しました。その能力について、アリーチェ様の隣に控えている老婆の方が目を輝かせました。名をイレーニア様というらしいです。
何だか……不思議な雰囲気の方です……。
「成る程。だから、お嬢さんには不思議なオーラが見えていたんだね。だが、まだ覚醒していないじゃないか。勿体ない」
「わたくしは他者の思考を読む力のみしかないのです。と言っても普段は使う事を致しませんが……」
その能力について、アリーチェ様とイレーニア様が教えて下さいました。闇の属性魔術にも似たようなものがあるそうなのです。闇の魔術は眠っている者の心を覗き見る事が出来、犯罪者を調べる時に使われているそうです。
けれど、プロヴェンツァの能力は起きていようと寝ていようと関係ありません。例え、死者の記憶ですらも読み取ることが出来ます。
「いいや、お嬢さんには充分素質があるよ。帰ったら聖獣を目覚めさせてごらん。その聖獣が、お嬢さんの神託の鍵を持っているだろうさ」
わたくしが、プロヴェンツァの能力について考えていると、イレーニア様がわたくしに顔を近づけ、怪しげに微笑まれました。
何やらドキドキ致します。物語に出てくる魔女のような雰囲気の方です。
「本来なら、聖獣は全属性持ちでないと目覚めさせられないのさ。でもね、エトルリア王と2人、力を合わせ、無いものを補えば目覚めさせる事は可能だよ」
だから、それでは……まるで、わたくしとマッティア様が一心同体みたいではないですか……嫌なのですけれど……。
「本来国王は全属性の者がなり、首座司教と兼任するのが正しい形なのです。ですが、長い時の中で、国王と首座司教との役割が分かれ、聖獣は深き眠りについたらしいのです。今や、首座司教の役割が生きているのは我がイストリアのみなのです」
アリーチェ様の言葉に、わたくしは驚きました。本当に……聖獣とは、建国神話の中だけの存在ではなかったのですね。
という事は我が国の紋章にもなっている聖獣は有翼の天馬です……。頑張れば、会えるという事でしょうか?
それにしても、国王陛下と首座司教様の役割は分かれてはいても、共に並び立つ程の権力を誇っているのですね。何処の国でも神殿というものは、力を持っているのだなと、わたくしは思いました……。
「そうだったのですね……。エトルリア国では、わたくしの生家が代々神殿の祭祀を担ってきたのです。故に、影響力は絶大であったと言えます」
「ならば、お嬢さんが王妃と兼任したら良いのさ。かくいうこの間抜けなアリーチェも全属性持ちだからね。いずれは兼任する事になるだろうさ」
「ま、間抜け?」
イレーニア様の言葉に、アリーチェ様が抗議の目で睨んでいますが、イレーニア様はアリーチェ様の方に一切目を向けず、無視しています。
仲がよろしいのですね。
ですが、わたくしが首座司教様の役割を兼任……出来るのでしょうか?
「それにしても、我がエトルリア国にはない考えばかりで、とても驚きました。国境線以外にも、このような有益な情報を得る事が出来るとは感謝してもしきれません」
国を守る聖獣を目覚めさせる事が出来るとは、素晴らしい事を教えて頂いたのです。目覚めさせる事が出来れば、国の防衛や発展にも大いに有益な結果が得られると思います。
マッティア様も、とても喜んでいます。両国の仲が良く保たれるのは、とても素晴らしい事です。同盟が強化されて、イストリアにとっても有意義な時間が過ごせたと思われます。
「そういえば、イストリアの聖獣は何処にいるのですか? やはり、紋章の有翼の獅子なのですか?」
「私だよ」
「え?」
イレーニア様が、また怪しげな笑みを浮かべたので、わたくしは揶揄われているのだと思ったのですけれど……アリーチェ様のお話では本当みたいです。
せ、聖獣って人の形にもなれるのですね……それは確かに不思議な雰囲気を持っていて当然かもしれません。
わたくしが朝からウキウキしていると、マッティア様から落ち着きなさいと注意を受けてしまいました。
「ベアトリーチェ、2日程滞在するのです。気を引き締めるように」
「はい、申し訳ありません……」
そうですよね……他国に行くのですから、しっかりしないと……。夢見がちなところやフワフワしているところを直さなければなりません。
わたくしがシュンとしていると、マッティア様がわたくしの頭を撫で、エスコートして下さいました。
そして、転移の魔法陣の間に行くと、マッティア様が魔力を流し、魔法陣を始動させました。
このような大きな魔法陣を始動させ、これだけの大勢の方たちを転移させるとなると、並大抵の魔力では無理そうです。
魔力が枯渇して死んでしまいそうな程の魔力を使っても、マッティア様は涼しい顔をなさっています。
「さあ、ベアトリーチェ。私たちも行きましょうか」
「ええ、でも大丈夫なのですか? 魔力を使い過ぎでは?」
皆を2回に分けて転移させた後、マッティア様がわたくしの手を取り転移しようとしたので、わたくしは心配になりました。
「始動させている見た目が派手なので多くの魔力を使っているように見えますが、実際はそうでもありませんよ」
「………………そうですか」
絶対嘘です。絶対に多くの魔力を消費している筈です。
はぁ、本当に……この方は規格外なのですから。
そして、マッティア様がまた魔法陣を始動なさろうとしたので、わたくしは慌てて止めました。
「待って下さい。そのような大きな魔法陣を始動させなくとも、いつものマッティア様の魔術を使えば宜しいでしょう?」
「ですが、王宮内には許可を得た者でないと、転移出来ません。その為に、このように大掛かりな魔法陣を敷いているのです」
マッティア様によると、このように決まった魔法陣ではなく、己の魔力のみで転移する場合、イストリア側の結界の書き換えが必要なのだそうです。
「王宮内に結界が張られているのですか?」
「ええ、首座司教という者の力だそうですよ」
わたくしがイストリアとは凄い国なのですねと感心していると、マッティア様がわたくしの手を引き、ささっと転移してしまいました。
そして、わたくし達は謁見の間に通され、イストリアの国王王妃両陛下が出迎えて下さいました。
定例の挨拶の後は、国境について話し合う事になったので、イストリアの国王陛下や大臣の方々が、マッティア様とお話している間に、わたくしはイストリアの王妃陛下との交流を任される事になりました。
わたくしはドキドキしながら、王妃陛下に微笑みかけました。
すると王妃陛下は、わたくしに優しく微笑み、名で呼んで欲しいと仰ってくださったので、わたくしもそうして頂くようにお願い致しました。
「とても豊かで美しい国なのですね。民が、とても活気に溢れ、皆が皆幸せに満ちている様に思えました」
わたくしが、そう言うとアリーチェ様が優しく微笑み、イストリアの事を色々と教えて下さいました。
アリーチェ様はとても美しい方なのです。勝ち気な翡翠の瞳に、夜空のような濃紺の髪。屈託なく笑うお顔には裏表がないように見え、とても好感を持てます。
マッティア様と同じように、身のこなしや纏っている雰囲気は一流の剣士のようです。皆、己を律し、鍛えているのですね……わたくしも剣術指導を頑張らないと……。
「イストリアは大きな学院があるのですね。国中の貴族が、13歳になると通うなんて、何と素晴らしい事でしょうか。……エトルリアは、家庭教師をつけて各々が個人で学ぶので、イストリアの在り方は、とても羨ましいです」
アリーチェ様の説明の中でも、わたくしが特に気になったのはノービレ学院の事です。
ノービレ学院は国中の貴族が13歳から18歳までの6年間通い、貴族としての在り方を学ぶそうなのです。
学べる分野は多岐に渡り、未来の領主を育成するコース、侍従コース、文官コース、騎士コース、医療従事者コースがあるそうです。
そして卒業と共に成人なので、イストリアでは18歳が成人という事になります。エトルリアとは違うのですね……。
わたくしは、17歳なのでイストリアだとまだ未成年という事になります。
「あの、エトルリア国には属性という概念はあるのですか? 聖獣に関しての伝承とかあれば聞かせて欲しいのです」
「え……っと、属性という概念はありませんが、皆得意とする魔術はある様です。聖獣のお話は建国神話でしか聞いた事がありません」
わたくしがノービレ学院の素晴らしさに感動していると、アリーチェ様が属性や聖獣の事について問いかけて来られました。
「ならば、属性を調べてみましょう」
「え? 調べられるのですか?」
「勿論です!」
そして、調べてみた結果、マッティア様は聖の属性を持つ6属性持ちで、わたくしは闇の属性を持つ6属性でした。
聖属性を持っていると治癒魔術が使えるそうです。だから、マッティア様は回復が出来るのですね……。
属性は火、水、風、木、土、闇、聖があるそうなのです。
闇と聖は対なので、必ず2つはセットで保持出来る筈らしいのです……けれど。
「普通は闇と聖は対なので、片方の属性というのはないのですが……」
何ですか、それ……。それでは、まるでわたくしとマッティア様が一心同体みたいではないですか。
「まさか……わたくしの生家が持つ特殊能力のせいなのでしょうか? ……あ、でも、それでは陛下の聖属性のみの説明がつきませんよね……。何故でしょう?」
「特殊能力?」
アリーチェ様が首を傾げたので、わたくしは生家プロヴェンツァが持つ能力について説明致しました。その能力について、アリーチェ様の隣に控えている老婆の方が目を輝かせました。名をイレーニア様というらしいです。
何だか……不思議な雰囲気の方です……。
「成る程。だから、お嬢さんには不思議なオーラが見えていたんだね。だが、まだ覚醒していないじゃないか。勿体ない」
「わたくしは他者の思考を読む力のみしかないのです。と言っても普段は使う事を致しませんが……」
その能力について、アリーチェ様とイレーニア様が教えて下さいました。闇の属性魔術にも似たようなものがあるそうなのです。闇の魔術は眠っている者の心を覗き見る事が出来、犯罪者を調べる時に使われているそうです。
けれど、プロヴェンツァの能力は起きていようと寝ていようと関係ありません。例え、死者の記憶ですらも読み取ることが出来ます。
「いいや、お嬢さんには充分素質があるよ。帰ったら聖獣を目覚めさせてごらん。その聖獣が、お嬢さんの神託の鍵を持っているだろうさ」
わたくしが、プロヴェンツァの能力について考えていると、イレーニア様がわたくしに顔を近づけ、怪しげに微笑まれました。
何やらドキドキ致します。物語に出てくる魔女のような雰囲気の方です。
「本来なら、聖獣は全属性持ちでないと目覚めさせられないのさ。でもね、エトルリア王と2人、力を合わせ、無いものを補えば目覚めさせる事は可能だよ」
だから、それでは……まるで、わたくしとマッティア様が一心同体みたいではないですか……嫌なのですけれど……。
「本来国王は全属性の者がなり、首座司教と兼任するのが正しい形なのです。ですが、長い時の中で、国王と首座司教との役割が分かれ、聖獣は深き眠りについたらしいのです。今や、首座司教の役割が生きているのは我がイストリアのみなのです」
アリーチェ様の言葉に、わたくしは驚きました。本当に……聖獣とは、建国神話の中だけの存在ではなかったのですね。
という事は我が国の紋章にもなっている聖獣は有翼の天馬です……。頑張れば、会えるという事でしょうか?
それにしても、国王陛下と首座司教様の役割は分かれてはいても、共に並び立つ程の権力を誇っているのですね。何処の国でも神殿というものは、力を持っているのだなと、わたくしは思いました……。
「そうだったのですね……。エトルリア国では、わたくしの生家が代々神殿の祭祀を担ってきたのです。故に、影響力は絶大であったと言えます」
「ならば、お嬢さんが王妃と兼任したら良いのさ。かくいうこの間抜けなアリーチェも全属性持ちだからね。いずれは兼任する事になるだろうさ」
「ま、間抜け?」
イレーニア様の言葉に、アリーチェ様が抗議の目で睨んでいますが、イレーニア様はアリーチェ様の方に一切目を向けず、無視しています。
仲がよろしいのですね。
ですが、わたくしが首座司教様の役割を兼任……出来るのでしょうか?
「それにしても、我がエトルリア国にはない考えばかりで、とても驚きました。国境線以外にも、このような有益な情報を得る事が出来るとは感謝してもしきれません」
国を守る聖獣を目覚めさせる事が出来るとは、素晴らしい事を教えて頂いたのです。目覚めさせる事が出来れば、国の防衛や発展にも大いに有益な結果が得られると思います。
マッティア様も、とても喜んでいます。両国の仲が良く保たれるのは、とても素晴らしい事です。同盟が強化されて、イストリアにとっても有意義な時間が過ごせたと思われます。
「そういえば、イストリアの聖獣は何処にいるのですか? やはり、紋章の有翼の獅子なのですか?」
「私だよ」
「え?」
イレーニア様が、また怪しげな笑みを浮かべたので、わたくしは揶揄われているのだと思ったのですけれど……アリーチェ様のお話では本当みたいです。
せ、聖獣って人の形にもなれるのですね……それは確かに不思議な雰囲気を持っていて当然かもしれません。
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