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第一章 王太子妃
7.婚礼の儀式
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わたくしが、この王宮に来てから数日が経ち、今日はいよいよ王太子殿下との婚礼の日です。そのせいか夜明け頃から、とても慌ただしく、わたくしはとても困惑していました。
段取りは聞いていましたけれど……まるで戦場のようです。
「今日はお部屋のお風呂ではなく、地下のテルマエで、湯浴みやマッサージをしますね」
「テルマエ……?」
「大浴場の事ですわ。地下には蒸し風呂もあるんですよ。今日は、まず蒸し風呂で汗を流し、老廃物を排出しましょうね」
そんなものがあるのですね……。わたくし、蒸し風呂というものは初めてです……。
女官たちは、困惑しているわたくしを地下へと促しました。女官たちに連れられて、地下へ行くと、そこにはとても大きなお風呂があり、その隣に先程教えて頂いた蒸し風呂というものがありました。
「わぁ、とても広いのですね」
「ふふっ、広いお風呂に入るのは気持ち良いですよ。後で、お風呂に浸かりましょうね」
わたくしが感嘆の声をあげていると、ベルタがクスクス笑いながら、隣の蒸し風呂の扉を開けて下さいました。
中に入ってみると仄かに暖かく、とても心地よく感じました。
「さあ、この台の上に裸でうつ伏せに寝転んで下さいませ」
「裸で……」
床も台も暖かく、その台の上に敷物を敷いて一矢纏わずに寝転ぶそうなのです。少し恥ずかしいのですが、わたくしは言われた通りにうつ伏せで寝ました。
「1時間程、くつろいで下さい。水分補給はこまめにして下さいね」
「わたくし達は隣で湯浴みの準備などをしておりますので、何かありましたら、こちらのベルでお呼び下さい」
そう言って女官達が退室して行きました。わたくしは暖かく心地が良かったので、朝が早かった事もあり、うとうとしてしまいました。
ですが、それは最初のうちだけで、20分を過ぎたあたりから、暑く感じ、目が覚めてしまいました……それに喉も乾きました。水を飲みながら、寝転んでいると、汗がいっぱい出てきて、とてもじゃありませんが1時間など、無理だと思いました。
結局、わたくしは30分くらいで耐えきれず、台から降り、置いてあった布を体に巻きつけ、床に座り込んで水を飲んでいたのですが、やはりまだ暑く……辛かったので、時間が経ってはいないのですが、女官達を呼ぶ事に致しました。
「ベアトリーチェ様、どうかしましたか?」
「ベアトリーチェ様!」
「大丈夫ですか?」
のぼせて床に寝そべっているわたくしを見て、女官達が驚いています。慌てて、わたくしを運び出して下さり、火照った体を冷やして下さいました。
「ベアトリーチェ様、冷たいお水を飲んで下さいませ」
「こちらの水風呂に入って下さい。水と言っても、そこまで冷たくはしていないので、心地良いと思われますよ」
わたくしは言われた通りに水風呂に入りました。本当に心地良い冷たさで、のぼせた体がスッキリとしていく様です。
「落ち着かれましたら、湯浴みを致しましょうか?」
「ずっと入っていると、次は体が冷え過ぎてしまいますので」
わたくしは頷き、温かいお風呂に浸かりました。温かいと言っても、先程のぼせてしまった事が配慮されている心地良い温度でした。
女官達の心遣いが、とても嬉しいのです。そして、お湯に浸かったまま、わたくしの髪を洗い、頭皮と顔のマッサージをして下さいました。
そして、その後は泡風呂へと移動し、わたくしの体を洗って下さいましたけれど、女官たちはとても忙しなく、動いていて、大変そうなのです。
「さ、もう一度お湯に浸かって下さい。体を温めましょうね」
湯浴みの後は顔と全身をオイルでマッサージし、髪と体に香油をつけて下さいました。
そして、顔に何かを塗ったかと思うと女官たちは馴染むまでお休み下さいと言ったので、わたくしはまたもや、うとうとしてしまいました。
「ベアトリーチェ様、起きて下さいませ」
「え……あ、申し訳ありません……わたくし……」
「いえ、今日は朝が早かったので仕方がありませんよ」
女官たちが、わたくしを起こして下さると、先程の顔に塗ったものが、馴染んで消えてる事に気づき、わたくしは不思議で不思議で仕方がなくて、鏡をジッと見つめてしまいました。
「先程のものは、むくみとりに良いのですよ。ベアトリーチェ様、最近寝不足でしょう? お肌の調子を整えて、むくみも取らないと……」
鏡を眺めているわたくしに、女官がそう教えて下さいました。わたくしは寝不足がバレてしまっている事を、少し恥ずかしく思い、俯きがちに「ごめんなさい」と、小さく謝りました。
カルロ様やお父様たちの事を考えると、眠れないのです。王太子殿下は、そんなわたくしに気付いているのか、毎晩ハーブティーを用意して下さいます。
そして、それを届けに来る度、わたくしのどうしようもない思いの吐露や罵倒を聞かされるのです。それなのに、毎晩性懲りもなく、ティサーナを持ってやって来るのです。
「大丈夫ですよ! むくみはもう取れているので、それに今日は任せて下さい! 私達の腕の見せどころですよ」
女官たちの笑顔に、わたくしはホッと致しました。そして、衣装が着付けられていきます。いつもよりキツめにコルセットを締める行為は、とても辛かったのですが、女官たちの励ましもあり、何とか乗り切る事が出来ました。
この婚礼の衣装は、ウエストで切替しがあり、腰のあたりからボリュームを持たせていて、柔らかいチュールがたっぷりと広がった、ころんとしたスカートが特徴的なベルラインのものでした。
スカートの部分にはよく見ると繊細なビーズ刺繍があしらわれていて、上半身の部分には肌なじみのよいゴールドレースをふんだんにあしらった、とても優雅な衣装でした。
婚礼が憂鬱で嫌で仕方がないわたくしでも思わず、溜息が出てしまう程、美しいドレスでした。
そして、着付けて頂いた後は、鏡の前に座り、髪のセットをして頂ける事になりました。
「ベアトリーチェ様は完全にアップにするより、幼さも残せる編み込みハーフアップの方が似合うわよ」
「それも良いけど、編み下ろして左サイドに流して花で飾る方がお似合いになるわよ」
女官たちは、わたくしの髪型について議論しながら、手早くかつ華やかに結い上げて行きます。結論としましては、編み下ろして左サイドに流す案が選ばれました。
わたくしは、段取りを見た時にも思いましたけれど、こんなにも大変だとは……。
実はもう疲れてしまいました。まだ始まってもいないのに……。
「如何ですか? ベアトリーチェ様」
「わぁ! 本当にお美しいですよ! これなら王太子殿下もメロメロですよ」
わたくしは、その女官たちの問いかけに「ありがとうございます」とだけ、答えました。
ひと仕事終えた女官たちも疲れきっているけれど、やりきったような誇らしい顔で、わたくしを見送って下さいました。
今のわたくしにとっての救いは、王太子殿下がわたくしに付けてくれた女官が、とても優しいという事でしょうか……。
そして、わたくしが女官長の案内で、王太子殿下の待つお部屋へ行くと、王太子殿下は、わたくしを見て「とても美しいですよ」「とても可愛らしい」などと何度も同じ事を仰っておられました。
「とても綺麗で可愛らしいドレスですね……」
「いえいえ。姫が着るから、そのドレスも美しく可愛らしく映えるのですよ。嗚呼、ドキドキします。とても可愛らしいですよ……生涯大切にします」
「………………」
王太子殿下の浮き足だった態度に、わたくしはこの方も緊張しているのだと思い、少し緊張が解れたように思います。
やや鬱陶しく感じるのは、この方への恋心が消え去り敵意があるからでしょうか……。
その後は、王太子殿下のエスコートで大神殿へと向かい、神の前で誓いの儀式を行いました。
婚礼の儀式を執り行って下さるのは、エリオノールお兄様でした。プロヴェンツァ家が、代々神殿の祭祀を担っているのですから、当然といえば当然なのですけれど、わたくしは心穏やかではいられませんでした。
…………。
わたくしは本日、王太子妃となります。わたくしはプロヴェンツァの正統な後継者でありながら、王太子妃となるのです。
もう、お兄様の好き勝手にはさせません。
わたくしはこの揺るぎなき、地位と権力を利用し、貴方から全てを奪い取ります。
お兄様、そのうち……そのプロヴェンツァ公爵の座も返して頂きます。
祝詞や誓いの儀式が行われている間、わたくしがお兄様を冷ややかに見ているせいか、お兄様がとても気まずそうです。
そして婚礼の儀式が恙無く終わった後、エリオノールお兄様がわたくしに話しかけて来ました。
「ベアトリーチェ、すまない……。でも、其方も初恋の王子殿下に嫁げて、結果としては良かったんじゃないか? その点では、私に感謝しても良いと思わないかい?」
「………わたくしが嫁ぐ日に、お父様と仲良くして下さいとお願いしたのを忘れてしまわれたのですか?」
「忘れた訳ではない……訳ではないのだけど……、どうしても父上に一矢報いたかったんだ……」
はぁ、この方は本当に駄目です。
何が……初恋の王子様に嫁げて結果的に良かった……ですか? 感謝しろ? ふざけないで欲しいのです。
わたくしから、お父様やお母様、弟たち……幼い頃より共に過ごした乳母や城の皆……そしてカルロ様……全てを奪っておいて、よくそのようなことが言えますね……。
「お兄様、わたくしが今の地位を手に入れたのは、お兄様のおかげではありません」
「ベアトリーチェ……」
「わたくしはもう貴方の妹ではありません。たった今から王太子妃です。気安く名で呼ぶ事は許しません」
「…………申し訳ございません。妃殿下」
わたくしのその言葉に、お兄様は目を見張り、愕然と崩れ落ちるように跪き、わたくしに礼を取りました。
わたくしが、どんな思いで此処に立っているのか……貴方には分からないのでしょうね。
「ベアトリーチェ、この後は各国の参列者の方々への挨拶や披露目の儀式、パーティーと忙しいのです。愚か者の相手をしている場合ではありません」
「……そうですね。では、王太子殿下。行きましょう」
王太子殿下に、名で呼ばれて一瞬驚いてしまいましたけれど、対外的にはそうするべきです。
わたくしは跪いているお兄様を冷ややかに見下ろし、王太子殿下にエスコートされて大神殿を後にしました。
段取りは聞いていましたけれど……まるで戦場のようです。
「今日はお部屋のお風呂ではなく、地下のテルマエで、湯浴みやマッサージをしますね」
「テルマエ……?」
「大浴場の事ですわ。地下には蒸し風呂もあるんですよ。今日は、まず蒸し風呂で汗を流し、老廃物を排出しましょうね」
そんなものがあるのですね……。わたくし、蒸し風呂というものは初めてです……。
女官たちは、困惑しているわたくしを地下へと促しました。女官たちに連れられて、地下へ行くと、そこにはとても大きなお風呂があり、その隣に先程教えて頂いた蒸し風呂というものがありました。
「わぁ、とても広いのですね」
「ふふっ、広いお風呂に入るのは気持ち良いですよ。後で、お風呂に浸かりましょうね」
わたくしが感嘆の声をあげていると、ベルタがクスクス笑いながら、隣の蒸し風呂の扉を開けて下さいました。
中に入ってみると仄かに暖かく、とても心地よく感じました。
「さあ、この台の上に裸でうつ伏せに寝転んで下さいませ」
「裸で……」
床も台も暖かく、その台の上に敷物を敷いて一矢纏わずに寝転ぶそうなのです。少し恥ずかしいのですが、わたくしは言われた通りにうつ伏せで寝ました。
「1時間程、くつろいで下さい。水分補給はこまめにして下さいね」
「わたくし達は隣で湯浴みの準備などをしておりますので、何かありましたら、こちらのベルでお呼び下さい」
そう言って女官達が退室して行きました。わたくしは暖かく心地が良かったので、朝が早かった事もあり、うとうとしてしまいました。
ですが、それは最初のうちだけで、20分を過ぎたあたりから、暑く感じ、目が覚めてしまいました……それに喉も乾きました。水を飲みながら、寝転んでいると、汗がいっぱい出てきて、とてもじゃありませんが1時間など、無理だと思いました。
結局、わたくしは30分くらいで耐えきれず、台から降り、置いてあった布を体に巻きつけ、床に座り込んで水を飲んでいたのですが、やはりまだ暑く……辛かったので、時間が経ってはいないのですが、女官達を呼ぶ事に致しました。
「ベアトリーチェ様、どうかしましたか?」
「ベアトリーチェ様!」
「大丈夫ですか?」
のぼせて床に寝そべっているわたくしを見て、女官達が驚いています。慌てて、わたくしを運び出して下さり、火照った体を冷やして下さいました。
「ベアトリーチェ様、冷たいお水を飲んで下さいませ」
「こちらの水風呂に入って下さい。水と言っても、そこまで冷たくはしていないので、心地良いと思われますよ」
わたくしは言われた通りに水風呂に入りました。本当に心地良い冷たさで、のぼせた体がスッキリとしていく様です。
「落ち着かれましたら、湯浴みを致しましょうか?」
「ずっと入っていると、次は体が冷え過ぎてしまいますので」
わたくしは頷き、温かいお風呂に浸かりました。温かいと言っても、先程のぼせてしまった事が配慮されている心地良い温度でした。
女官達の心遣いが、とても嬉しいのです。そして、お湯に浸かったまま、わたくしの髪を洗い、頭皮と顔のマッサージをして下さいました。
そして、その後は泡風呂へと移動し、わたくしの体を洗って下さいましたけれど、女官たちはとても忙しなく、動いていて、大変そうなのです。
「さ、もう一度お湯に浸かって下さい。体を温めましょうね」
湯浴みの後は顔と全身をオイルでマッサージし、髪と体に香油をつけて下さいました。
そして、顔に何かを塗ったかと思うと女官たちは馴染むまでお休み下さいと言ったので、わたくしはまたもや、うとうとしてしまいました。
「ベアトリーチェ様、起きて下さいませ」
「え……あ、申し訳ありません……わたくし……」
「いえ、今日は朝が早かったので仕方がありませんよ」
女官たちが、わたくしを起こして下さると、先程の顔に塗ったものが、馴染んで消えてる事に気づき、わたくしは不思議で不思議で仕方がなくて、鏡をジッと見つめてしまいました。
「先程のものは、むくみとりに良いのですよ。ベアトリーチェ様、最近寝不足でしょう? お肌の調子を整えて、むくみも取らないと……」
鏡を眺めているわたくしに、女官がそう教えて下さいました。わたくしは寝不足がバレてしまっている事を、少し恥ずかしく思い、俯きがちに「ごめんなさい」と、小さく謝りました。
カルロ様やお父様たちの事を考えると、眠れないのです。王太子殿下は、そんなわたくしに気付いているのか、毎晩ハーブティーを用意して下さいます。
そして、それを届けに来る度、わたくしのどうしようもない思いの吐露や罵倒を聞かされるのです。それなのに、毎晩性懲りもなく、ティサーナを持ってやって来るのです。
「大丈夫ですよ! むくみはもう取れているので、それに今日は任せて下さい! 私達の腕の見せどころですよ」
女官たちの笑顔に、わたくしはホッと致しました。そして、衣装が着付けられていきます。いつもよりキツめにコルセットを締める行為は、とても辛かったのですが、女官たちの励ましもあり、何とか乗り切る事が出来ました。
この婚礼の衣装は、ウエストで切替しがあり、腰のあたりからボリュームを持たせていて、柔らかいチュールがたっぷりと広がった、ころんとしたスカートが特徴的なベルラインのものでした。
スカートの部分にはよく見ると繊細なビーズ刺繍があしらわれていて、上半身の部分には肌なじみのよいゴールドレースをふんだんにあしらった、とても優雅な衣装でした。
婚礼が憂鬱で嫌で仕方がないわたくしでも思わず、溜息が出てしまう程、美しいドレスでした。
そして、着付けて頂いた後は、鏡の前に座り、髪のセットをして頂ける事になりました。
「ベアトリーチェ様は完全にアップにするより、幼さも残せる編み込みハーフアップの方が似合うわよ」
「それも良いけど、編み下ろして左サイドに流して花で飾る方がお似合いになるわよ」
女官たちは、わたくしの髪型について議論しながら、手早くかつ華やかに結い上げて行きます。結論としましては、編み下ろして左サイドに流す案が選ばれました。
わたくしは、段取りを見た時にも思いましたけれど、こんなにも大変だとは……。
実はもう疲れてしまいました。まだ始まってもいないのに……。
「如何ですか? ベアトリーチェ様」
「わぁ! 本当にお美しいですよ! これなら王太子殿下もメロメロですよ」
わたくしは、その女官たちの問いかけに「ありがとうございます」とだけ、答えました。
ひと仕事終えた女官たちも疲れきっているけれど、やりきったような誇らしい顔で、わたくしを見送って下さいました。
今のわたくしにとっての救いは、王太子殿下がわたくしに付けてくれた女官が、とても優しいという事でしょうか……。
そして、わたくしが女官長の案内で、王太子殿下の待つお部屋へ行くと、王太子殿下は、わたくしを見て「とても美しいですよ」「とても可愛らしい」などと何度も同じ事を仰っておられました。
「とても綺麗で可愛らしいドレスですね……」
「いえいえ。姫が着るから、そのドレスも美しく可愛らしく映えるのですよ。嗚呼、ドキドキします。とても可愛らしいですよ……生涯大切にします」
「………………」
王太子殿下の浮き足だった態度に、わたくしはこの方も緊張しているのだと思い、少し緊張が解れたように思います。
やや鬱陶しく感じるのは、この方への恋心が消え去り敵意があるからでしょうか……。
その後は、王太子殿下のエスコートで大神殿へと向かい、神の前で誓いの儀式を行いました。
婚礼の儀式を執り行って下さるのは、エリオノールお兄様でした。プロヴェンツァ家が、代々神殿の祭祀を担っているのですから、当然といえば当然なのですけれど、わたくしは心穏やかではいられませんでした。
…………。
わたくしは本日、王太子妃となります。わたくしはプロヴェンツァの正統な後継者でありながら、王太子妃となるのです。
もう、お兄様の好き勝手にはさせません。
わたくしはこの揺るぎなき、地位と権力を利用し、貴方から全てを奪い取ります。
お兄様、そのうち……そのプロヴェンツァ公爵の座も返して頂きます。
祝詞や誓いの儀式が行われている間、わたくしがお兄様を冷ややかに見ているせいか、お兄様がとても気まずそうです。
そして婚礼の儀式が恙無く終わった後、エリオノールお兄様がわたくしに話しかけて来ました。
「ベアトリーチェ、すまない……。でも、其方も初恋の王子殿下に嫁げて、結果としては良かったんじゃないか? その点では、私に感謝しても良いと思わないかい?」
「………わたくしが嫁ぐ日に、お父様と仲良くして下さいとお願いしたのを忘れてしまわれたのですか?」
「忘れた訳ではない……訳ではないのだけど……、どうしても父上に一矢報いたかったんだ……」
はぁ、この方は本当に駄目です。
何が……初恋の王子様に嫁げて結果的に良かった……ですか? 感謝しろ? ふざけないで欲しいのです。
わたくしから、お父様やお母様、弟たち……幼い頃より共に過ごした乳母や城の皆……そしてカルロ様……全てを奪っておいて、よくそのようなことが言えますね……。
「お兄様、わたくしが今の地位を手に入れたのは、お兄様のおかげではありません」
「ベアトリーチェ……」
「わたくしはもう貴方の妹ではありません。たった今から王太子妃です。気安く名で呼ぶ事は許しません」
「…………申し訳ございません。妃殿下」
わたくしのその言葉に、お兄様は目を見張り、愕然と崩れ落ちるように跪き、わたくしに礼を取りました。
わたくしが、どんな思いで此処に立っているのか……貴方には分からないのでしょうね。
「ベアトリーチェ、この後は各国の参列者の方々への挨拶や披露目の儀式、パーティーと忙しいのです。愚か者の相手をしている場合ではありません」
「……そうですね。では、王太子殿下。行きましょう」
王太子殿下に、名で呼ばれて一瞬驚いてしまいましたけれど、対外的にはそうするべきです。
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