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意識回復
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「侑奈、お願いだから目を開けてよ。侑奈……」
遠くで侑奈を呼ぶ隆文の声が聞こえる。その声があまりにも悲痛に聞こえて、侑奈は彼に大丈夫だと伝えるために手を伸ばした。その瞬間、頭に痛みが走って呻く。
「痛っ……」
「侑奈! 大丈夫か?」
痛みで目を開けると、隆文が手を握ってくれた。その顔はとても疲弊している。それに目が真っ赤だ。
(隆文……泣いてるの?)
「目が覚めたんだな。本当によかった……」
「隆文、泣かないで……」
「泣いてない」
安堵の息をついて床に座り込む隆文の頭を撫でると、すかさず反論される。だが、立ち上がって抱きついてくる彼はやっぱり泣いていた。震える体をよしよしとさすると、隆文がゆっくりと体を離す。そして「少し眩しいぞ」と言ってから侑奈の目にライトを当てて対光反射の確認をし、脈をはかった。
(そういえばお医者様の資格を持っているんだっけ……)
ぼんやり隆文のすることを見ていると、彼が侑奈の額を撫でた。
「問題はなさそうだな。吐き気は?」
「吐き気はありません。意識もはっきりしています。……ここは実家の病院ですか?」
「ああ。検査しても異常は見られないのに、三日も起きないから本当にどうしようかと思ったよ」
「そんなにも……!?」
侑奈が驚くと隆文が侑奈の手をぎゅっと握り込む。そして殴られていないほうの頬に触れた。
「悠斗や侑奈のお父さんは、おそらく精神的ショックが原因だろうって言ってた……。侑奈、ごめん。あのとき一緒にばあさんに報告に行っていればよかった。侑奈から離れちゃいけなかったのに……本当にごめん。怖かったよな。痛かったよな。守れなくて本当にごめん」
何度もそう言って謝る隆文に侑奈は胸が痛くなった。自分以上に彼のほうを怖がらせてしまったようだ。
(三日も目覚めなかったらそれもそうか……)
逆だったら、隆文がもう目覚めなかったらどうしようと物凄く怖かっただろう。
侑奈はこのままでは隆文に抱きつきにくいので、リモコンのスイッチを押してベッドの角度を調整し体を起こした。すると、隆文が「セキュリティ見直すから……」と呟く。
「教授……仲間を警備員として潜り込ませて、手引きさせたと言っていました。内部の人間が招き入れたら、そりゃ入れますよね……。でもセキュリティを見直して強化するのはいいことだと思います」
「篠原の言うとおり、警備員の採用に関して気を回していなかったのは事実だ。社員が安心して働けるように努めなければならないのに、あんな危ない男が容易く入り込めるほど杜撰なんて失態以外の何ものでもない」
あのあと大々的に調べてみると今回の玲瓏薬品だけでなく、本社である四條製薬まで篠原の魔の手が伸びていたと隆文は言った。
(どうしてそこまで……私がどこに現れるか分からないから?)
気に入った生徒には面倒見のいい先生だった。侑奈もとても良くしてもらったのを覚えている。だからと言って執着される理由が見当たらない。
(それに私が目的なら実家の病院にも手を回されていてもおかしくないわよね。四條製薬グループだけというのは……)
そういえば篠原は隆文に敵意を向けていた。もしかすると、四條製薬に何か恨みでもあったのだろうか。
「隆文は教授がそこまでする心当たりとかありますか? 過去に……四條製薬と教授の間に何かがあったとか?」
「別にないよ。奴はうちに執着しているんじゃなくて侑奈にしているんだよ。侑奈が欲しくてたまらないんだ。俺のところに来てからは侑奈はほぼ実家に帰らずに俺の側にいるから、単純にうちに狙いを定めただけじゃないかな」
「それはないです。私にはそんな価値ないもの」
「あるよ。毒の知識と毒に耐性のある体。助手としても研究材料としても最適じゃないか」
(あ……)
そういえば篠原は侑奈に手伝ってほしそうだった。
隆文の言葉で篠原の言葉を思い出し、体が震えてくる。
「大丈夫。絶対守るから」
「はい。あ、そうだわ……私、教授にあの薬をかけちゃったんだけど、どうなりました? 経口からじゃないとやっぱり効果はなかったですか?」
「さあ……」
「ということは何も症状が出ていなかったということですよね。残念だわ」
「というより、カッとなってタコ殴りにしちゃったから正直分からないんだ。そのまま警察病院に運ばれていったし……。あとで確認しておくよ」
(え? タコ殴り?)
あははと悪びれもなく陽気に笑う隆文に唖然とする。
(教授、大丈夫かしら……生きてる?)
「ちゃんと償ってもらわなきゃならないんだから、やりすぎは駄目ですよ。毒薬をかけた私が言えたことじゃありませんが……」
「そうだな、ごめん。でも侑奈に危害を加えられたと思ったら怒りを抑えられなかったんだ。でも状況が状況なだけに傷害事件とかにはならなかったよ」
そう言う隆文を見て、彼に一線を越えさせないためにも、これからはもっと気をつけようと心の中で誓った。
(きっと警察にも玲子さんたちにもめちゃくちゃ怒られただろうし、私から言い過ぎるのはやめときましょう)
「それより教授が起こした件についてはどうなりました? 罪を明らかにできましたか?」
「うん、侑奈があいつとの会話を録音しておいてくれたおかげでね」
隆文はこの一件で篠原が起こした事件だけじゃなく彼のバックにいる奴らもまとめて罪に問えそうだと言った。
「良かった……」
「本当によくやってくれたよ。侑奈が機転をきかして録音していてくれなかったら、ここまでスムーズじゃなかったと思う。ありがとう」
えらいえらいと褒めてくれる隆文にすり寄ると、隆文が「だが……」と侑奈の肩を掴んだ。
(へ?)
キョトンとすると、額をペシッと叩かれる。
「無茶しすぎだ。あんなに煽って本当に連れ去られて四肢を切られたらどうするつもりだったんだ!」
「会社の中だったので、隆文がすぐに来てくれると信じていたから……」
「それでもだ。殴られて頭打ちつけてるんだぞ。打ちどころ悪かったら大変なことになってたんだ。頼むから危ないことはやめてくれ」
「ごめんなさい」
謝ると隆文が強く抱きしめてくれる。彼は侑奈を抱きしめたまま、侑奈の意識が戻ったことを伝えるためにナースコールに手を伸ばした。すると、押すよりも先に「馬鹿者!」という祖父の怒鳴り声が聞こえて二人して飛び上がる。
「侑奈の意識が戻ったら報告しろと言ってあっただろう。何のためにここへの滞在を許してやったと思っているのだ! イチャつかせるためではないぞ!」
「も、申し訳ありません……。でも今俺、皆を呼ぼうと……」
「言い訳はいらん!」
(やばいわ……めちゃくちゃ怒ってる)
叱られるのはもちろん当たり前のことなのだが、鬼のような形相をした祖父が怖すぎて、侑奈は隆文の後ろに隠れた。
遠くで侑奈を呼ぶ隆文の声が聞こえる。その声があまりにも悲痛に聞こえて、侑奈は彼に大丈夫だと伝えるために手を伸ばした。その瞬間、頭に痛みが走って呻く。
「痛っ……」
「侑奈! 大丈夫か?」
痛みで目を開けると、隆文が手を握ってくれた。その顔はとても疲弊している。それに目が真っ赤だ。
(隆文……泣いてるの?)
「目が覚めたんだな。本当によかった……」
「隆文、泣かないで……」
「泣いてない」
安堵の息をついて床に座り込む隆文の頭を撫でると、すかさず反論される。だが、立ち上がって抱きついてくる彼はやっぱり泣いていた。震える体をよしよしとさすると、隆文がゆっくりと体を離す。そして「少し眩しいぞ」と言ってから侑奈の目にライトを当てて対光反射の確認をし、脈をはかった。
(そういえばお医者様の資格を持っているんだっけ……)
ぼんやり隆文のすることを見ていると、彼が侑奈の額を撫でた。
「問題はなさそうだな。吐き気は?」
「吐き気はありません。意識もはっきりしています。……ここは実家の病院ですか?」
「ああ。検査しても異常は見られないのに、三日も起きないから本当にどうしようかと思ったよ」
「そんなにも……!?」
侑奈が驚くと隆文が侑奈の手をぎゅっと握り込む。そして殴られていないほうの頬に触れた。
「悠斗や侑奈のお父さんは、おそらく精神的ショックが原因だろうって言ってた……。侑奈、ごめん。あのとき一緒にばあさんに報告に行っていればよかった。侑奈から離れちゃいけなかったのに……本当にごめん。怖かったよな。痛かったよな。守れなくて本当にごめん」
何度もそう言って謝る隆文に侑奈は胸が痛くなった。自分以上に彼のほうを怖がらせてしまったようだ。
(三日も目覚めなかったらそれもそうか……)
逆だったら、隆文がもう目覚めなかったらどうしようと物凄く怖かっただろう。
侑奈はこのままでは隆文に抱きつきにくいので、リモコンのスイッチを押してベッドの角度を調整し体を起こした。すると、隆文が「セキュリティ見直すから……」と呟く。
「教授……仲間を警備員として潜り込ませて、手引きさせたと言っていました。内部の人間が招き入れたら、そりゃ入れますよね……。でもセキュリティを見直して強化するのはいいことだと思います」
「篠原の言うとおり、警備員の採用に関して気を回していなかったのは事実だ。社員が安心して働けるように努めなければならないのに、あんな危ない男が容易く入り込めるほど杜撰なんて失態以外の何ものでもない」
あのあと大々的に調べてみると今回の玲瓏薬品だけでなく、本社である四條製薬まで篠原の魔の手が伸びていたと隆文は言った。
(どうしてそこまで……私がどこに現れるか分からないから?)
気に入った生徒には面倒見のいい先生だった。侑奈もとても良くしてもらったのを覚えている。だからと言って執着される理由が見当たらない。
(それに私が目的なら実家の病院にも手を回されていてもおかしくないわよね。四條製薬グループだけというのは……)
そういえば篠原は隆文に敵意を向けていた。もしかすると、四條製薬に何か恨みでもあったのだろうか。
「隆文は教授がそこまでする心当たりとかありますか? 過去に……四條製薬と教授の間に何かがあったとか?」
「別にないよ。奴はうちに執着しているんじゃなくて侑奈にしているんだよ。侑奈が欲しくてたまらないんだ。俺のところに来てからは侑奈はほぼ実家に帰らずに俺の側にいるから、単純にうちに狙いを定めただけじゃないかな」
「それはないです。私にはそんな価値ないもの」
「あるよ。毒の知識と毒に耐性のある体。助手としても研究材料としても最適じゃないか」
(あ……)
そういえば篠原は侑奈に手伝ってほしそうだった。
隆文の言葉で篠原の言葉を思い出し、体が震えてくる。
「大丈夫。絶対守るから」
「はい。あ、そうだわ……私、教授にあの薬をかけちゃったんだけど、どうなりました? 経口からじゃないとやっぱり効果はなかったですか?」
「さあ……」
「ということは何も症状が出ていなかったということですよね。残念だわ」
「というより、カッとなってタコ殴りにしちゃったから正直分からないんだ。そのまま警察病院に運ばれていったし……。あとで確認しておくよ」
(え? タコ殴り?)
あははと悪びれもなく陽気に笑う隆文に唖然とする。
(教授、大丈夫かしら……生きてる?)
「ちゃんと償ってもらわなきゃならないんだから、やりすぎは駄目ですよ。毒薬をかけた私が言えたことじゃありませんが……」
「そうだな、ごめん。でも侑奈に危害を加えられたと思ったら怒りを抑えられなかったんだ。でも状況が状況なだけに傷害事件とかにはならなかったよ」
そう言う隆文を見て、彼に一線を越えさせないためにも、これからはもっと気をつけようと心の中で誓った。
(きっと警察にも玲子さんたちにもめちゃくちゃ怒られただろうし、私から言い過ぎるのはやめときましょう)
「それより教授が起こした件についてはどうなりました? 罪を明らかにできましたか?」
「うん、侑奈があいつとの会話を録音しておいてくれたおかげでね」
隆文はこの一件で篠原が起こした事件だけじゃなく彼のバックにいる奴らもまとめて罪に問えそうだと言った。
「良かった……」
「本当によくやってくれたよ。侑奈が機転をきかして録音していてくれなかったら、ここまでスムーズじゃなかったと思う。ありがとう」
えらいえらいと褒めてくれる隆文にすり寄ると、隆文が「だが……」と侑奈の肩を掴んだ。
(へ?)
キョトンとすると、額をペシッと叩かれる。
「無茶しすぎだ。あんなに煽って本当に連れ去られて四肢を切られたらどうするつもりだったんだ!」
「会社の中だったので、隆文がすぐに来てくれると信じていたから……」
「それでもだ。殴られて頭打ちつけてるんだぞ。打ちどころ悪かったら大変なことになってたんだ。頼むから危ないことはやめてくれ」
「ごめんなさい」
謝ると隆文が強く抱きしめてくれる。彼は侑奈を抱きしめたまま、侑奈の意識が戻ったことを伝えるためにナースコールに手を伸ばした。すると、押すよりも先に「馬鹿者!」という祖父の怒鳴り声が聞こえて二人して飛び上がる。
「侑奈の意識が戻ったら報告しろと言ってあっただろう。何のためにここへの滞在を許してやったと思っているのだ! イチャつかせるためではないぞ!」
「も、申し訳ありません……。でも今俺、皆を呼ぼうと……」
「言い訳はいらん!」
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