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見つけ出したセーラー服
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「はーい」
使用人棟の事務所で鼻歌交じりに乾いたセーラー服にアイロンをかけていると、コンコンとノックの音が聞こえてきたので元気よく返事をした。すると、ドアが開いて隆文が入ってくる。
(え!? もう帰ってきたの?)
「……ただいま」
「隆文、おかえりなさい。今日は早いですね。びっくりしました」
「びっくりしたのは俺だよ。今日金曜日だって分かってる? 横浜のマンションのほうに帰ったら侑奈がいないから焦ったんだけど」
「あ、忘れてました!」
ふとスマートフォンを確認すると、隆文から不在着信やメッセージが何件も入っていた。彼を女装させることに頭がいっぱいで、お泊まりの約束が吹き飛んでいたのだ。
侑奈がエヘヘと笑って誤魔化すと、隆文が疲れきった顔で溜息をついた。
「まあいいよ。今から行こう」
「はい、じゃあその前にこれに着替えてきてください」
「は? 着替え?」
アイロンをかけたばかりのセーラー服を綺麗にたたみ隆文に渡すと、彼は怪訝な顔でそれを受け取りピシッと硬直した。その表情はやや青ざめている。
「こ、これ……」
「高二の文化祭のときに女装カフェをしたってお兄様に聞きました。そんなに面白いことをしているなら、私も混ぜてください」
「……は? 悠斗のやつ……いや、それよりどこで見つけたんだ、これ」
「く、蔵で……」
頬を摘まれて、侑奈は踠いた。だが、隆文は侑奈の頬をぐにぐにと摘んで逃がしてくれない。
「ごめん、なひゃい……」
侑奈が白旗をあげると隆文が解放してくれる。侑奈は赤くなった頬をさすって、隆文を上目遣いで見つめた。
「文化祭行けなかったから、私だけ隆文の女装を見られていなくて寂しいんです。これ着て、私に可愛いタカコちゃんを見せてくれませんか?」
「タカコって呼ぶな。第一、お前が俺を避けてたんだろ」
「じゃあ、フミコちゃんって呼びますね」
「そういうことじゃねぇんだよ!」
真っ赤な顔で声を荒らげる隆文に、侑奈はプハッと噴き出した。お腹をかかえて笑い出すと、彼の顔がさらに赤く染まる。
「侑奈! ふざけるのも大概にしろ」
「だって……幼馴染みの私たちがするはずだった色々なことをして、過去をやり直したいって言ったのは隆文ですよ。ねぇねぇ、やり直しましょうよ。文化祭の女装カフェ」
甘えるようにすり寄り隆文の頬をツンツンとつつくと、彼の眉間に深く皺が刻まれた。だが、へらへら笑っている侑奈を見ながら何かを考えはじめた彼は、しばらくの長考ののち「分かった」と折れた。
(えっ……!?)
もう少しごねると思ったのに、承諾されて拍子抜けする。侑奈が目を瞬かせると、隆文が侑奈の腰に手を回してきた。
「その代わり、侑奈も高校のときの制服を着てくれよ。すごく可愛かったから間近で見てみたかったんだよな」
「え? 私も? でも私が着ても何も面白くありませんよ……」
「面白くなくていいんだよ。俺に嫌なことさせるならご褒美を寄越せよ」
(ご褒美……)
なんて図々しい男だ。侑奈は自分のことは高い棚に上げて、隆文をじっとりと見た。
「侑奈」
だが、まるでセックスをねだってくるときのように優しくて甘い声で名前を呼ばれて戸惑う。
頷けば、高校の制服を着たあとのことが簡単に予想できた。
(まさかその恰好のままエッチする気? 二人ともスカート穿いてるとか、シュールすぎない?)
ほぼ毎晩求められているので、今さら拒むつもりはないが、それはちょっとと……侑奈は苦々しく笑った。そのとき、玲子と荒井が事務所に入ってきて嬉しそうに手を叩く。
「二人とも仮装するの? せっかくだからカメラマンを呼びましょうか」
「仮装じゃなくて女装だ。じゃなくて、馬鹿なこと言うなよ。頼むから話をややこしくしないでくれ」
しっしっと手を振る隆文の頭を玲子がスパーンと雑誌で叩いた。思った以上に大きく鳴った音に侑奈が飛び上がると、玲子が何事もなかったようにたおやかに微笑む。
「その衣装だとスカート丈が長すぎるから切りましょうか。ミニスカートのほうが今どきよ」
「今どきとかそんなのじゃなくて脚を出したくないんだよ」
「荒井さん、このスカートの丈を直してくれる?」
「聞けよ!」
玲子と隆文のやりとりについ笑ってしまう。
いつのまにか事務所には屋敷の使用人が集まってきて、皆クスクスと笑っていた。侑奈も一緒になって笑っていると、隆文が侑奈の肩を掴む。
「頼むからばあさんを止めてくれ。女装で記念写真なんて洒落にならないぞ」
「えー、でも私もミニスカートを穿いた隆文が見たいです」
「……じゃあ、こうしよう。止めてくれたら、二人きりのときに侑奈のお願いを聞いてやる」
「お願い? なんでもいいんですか?」
「ああ、でも一つだけな」
「はーい」
その後、侑奈は玲子に「カメラマンに撮ってもらうならかっこいい隆文のほうがいい」と進言した。すると、玲子もそれもそうかと考えたようで、パーティー前に正装で写真を撮ることを条件に解放してくれる。
(何を叶えてもらおうかしら……。あ、でもいざというときのために取っておくのもいいかも)
侑奈はワクワクと考えを巡らせた。
隆文に何をしてもらおうか考えるだけでめちゃくちゃ楽しい。
使用人棟の事務所で鼻歌交じりに乾いたセーラー服にアイロンをかけていると、コンコンとノックの音が聞こえてきたので元気よく返事をした。すると、ドアが開いて隆文が入ってくる。
(え!? もう帰ってきたの?)
「……ただいま」
「隆文、おかえりなさい。今日は早いですね。びっくりしました」
「びっくりしたのは俺だよ。今日金曜日だって分かってる? 横浜のマンションのほうに帰ったら侑奈がいないから焦ったんだけど」
「あ、忘れてました!」
ふとスマートフォンを確認すると、隆文から不在着信やメッセージが何件も入っていた。彼を女装させることに頭がいっぱいで、お泊まりの約束が吹き飛んでいたのだ。
侑奈がエヘヘと笑って誤魔化すと、隆文が疲れきった顔で溜息をついた。
「まあいいよ。今から行こう」
「はい、じゃあその前にこれに着替えてきてください」
「は? 着替え?」
アイロンをかけたばかりのセーラー服を綺麗にたたみ隆文に渡すと、彼は怪訝な顔でそれを受け取りピシッと硬直した。その表情はやや青ざめている。
「こ、これ……」
「高二の文化祭のときに女装カフェをしたってお兄様に聞きました。そんなに面白いことをしているなら、私も混ぜてください」
「……は? 悠斗のやつ……いや、それよりどこで見つけたんだ、これ」
「く、蔵で……」
頬を摘まれて、侑奈は踠いた。だが、隆文は侑奈の頬をぐにぐにと摘んで逃がしてくれない。
「ごめん、なひゃい……」
侑奈が白旗をあげると隆文が解放してくれる。侑奈は赤くなった頬をさすって、隆文を上目遣いで見つめた。
「文化祭行けなかったから、私だけ隆文の女装を見られていなくて寂しいんです。これ着て、私に可愛いタカコちゃんを見せてくれませんか?」
「タカコって呼ぶな。第一、お前が俺を避けてたんだろ」
「じゃあ、フミコちゃんって呼びますね」
「そういうことじゃねぇんだよ!」
真っ赤な顔で声を荒らげる隆文に、侑奈はプハッと噴き出した。お腹をかかえて笑い出すと、彼の顔がさらに赤く染まる。
「侑奈! ふざけるのも大概にしろ」
「だって……幼馴染みの私たちがするはずだった色々なことをして、過去をやり直したいって言ったのは隆文ですよ。ねぇねぇ、やり直しましょうよ。文化祭の女装カフェ」
甘えるようにすり寄り隆文の頬をツンツンとつつくと、彼の眉間に深く皺が刻まれた。だが、へらへら笑っている侑奈を見ながら何かを考えはじめた彼は、しばらくの長考ののち「分かった」と折れた。
(えっ……!?)
もう少しごねると思ったのに、承諾されて拍子抜けする。侑奈が目を瞬かせると、隆文が侑奈の腰に手を回してきた。
「その代わり、侑奈も高校のときの制服を着てくれよ。すごく可愛かったから間近で見てみたかったんだよな」
「え? 私も? でも私が着ても何も面白くありませんよ……」
「面白くなくていいんだよ。俺に嫌なことさせるならご褒美を寄越せよ」
(ご褒美……)
なんて図々しい男だ。侑奈は自分のことは高い棚に上げて、隆文をじっとりと見た。
「侑奈」
だが、まるでセックスをねだってくるときのように優しくて甘い声で名前を呼ばれて戸惑う。
頷けば、高校の制服を着たあとのことが簡単に予想できた。
(まさかその恰好のままエッチする気? 二人ともスカート穿いてるとか、シュールすぎない?)
ほぼ毎晩求められているので、今さら拒むつもりはないが、それはちょっとと……侑奈は苦々しく笑った。そのとき、玲子と荒井が事務所に入ってきて嬉しそうに手を叩く。
「二人とも仮装するの? せっかくだからカメラマンを呼びましょうか」
「仮装じゃなくて女装だ。じゃなくて、馬鹿なこと言うなよ。頼むから話をややこしくしないでくれ」
しっしっと手を振る隆文の頭を玲子がスパーンと雑誌で叩いた。思った以上に大きく鳴った音に侑奈が飛び上がると、玲子が何事もなかったようにたおやかに微笑む。
「その衣装だとスカート丈が長すぎるから切りましょうか。ミニスカートのほうが今どきよ」
「今どきとかそんなのじゃなくて脚を出したくないんだよ」
「荒井さん、このスカートの丈を直してくれる?」
「聞けよ!」
玲子と隆文のやりとりについ笑ってしまう。
いつのまにか事務所には屋敷の使用人が集まってきて、皆クスクスと笑っていた。侑奈も一緒になって笑っていると、隆文が侑奈の肩を掴む。
「頼むからばあさんを止めてくれ。女装で記念写真なんて洒落にならないぞ」
「えー、でも私もミニスカートを穿いた隆文が見たいです」
「……じゃあ、こうしよう。止めてくれたら、二人きりのときに侑奈のお願いを聞いてやる」
「お願い? なんでもいいんですか?」
「ああ、でも一つだけな」
「はーい」
その後、侑奈は玲子に「カメラマンに撮ってもらうならかっこいい隆文のほうがいい」と進言した。すると、玲子もそれもそうかと考えたようで、パーティー前に正装で写真を撮ることを条件に解放してくれる。
(何を叶えてもらおうかしら……。あ、でもいざというときのために取っておくのもいいかも)
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