大嫌いな幼馴染みはどうやら私のことが好きらしい

Adria

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同僚の優しさ

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「はぁ~っ」

 週明けの月曜日。屋敷の窓を拭いていると、つい溜息がこぼれる。
 隆文とのお泊まりデートが終わり、気持ちを切り替えて仕事に励んではいるが、ことあるごとにあの夜を思い出して顔を真っ赤にして叫び出しそうになるのだ。

(隆文、優しかったな……)

 意地悪な面も垣間見えたが、基本的にはとても気遣いにあふれていて優しかった。それにすごく情熱的だった。

 金曜日の夜から月曜日の朝まで、片時も離れず彼と過ごしたことを思い出して、顔にかぁっと熱が上がる。
 夜になるたびに求められて「また?」と思うのに、彼とのセックスが気持ちよくて結局拒めないのだ。

「~~~~っ!」

 侑奈は激しい鼓動を刻む胸を押さえて、かぶりを振った。

(馬鹿。私ったら仕事中に何を思い出しているのよ)

 帰ってきてからずっとこうだ。彼と過ごした週末のことばかり考えている。


「このままじゃ駄目よね。ちょっと顔を洗ってこよう」

 冷水で顔を洗ったら少しは落ちつくだろうと考え踵を返したとき、メイド仲間たちが侑奈を取り囲んだ。突然のことに驚いて目を見開く。

(え?)


「み、皆さん、どうかしたんですか?」
「――で、結婚するの?」

(けっ、こん……?)

 予想もしていない質問を投げかけられて、一瞬理解が追いつかなかった。当惑して皆を見ると、彼女たちはめちゃくちゃニヤニヤしていた。

 その好奇心に染まった表情に侑奈がたじろぐと、メイド仲間の中里なかざとが侑奈の肩に手をまわす。

「……なんの話ですか?」
「やぁねぇ、すっとぼけなくていいわよ。もう屋敷中の皆が隆文さまと花秋はなときさんの関係を知ってるわよ」
「えっ!?」

 侑奈が目を丸くすると、皆がクスクスと笑う。

 確かに我が身を振り返れば、バレて仕方がないことをしている。特に、隆文は周囲の目を一切気にせず侑奈に構うので、そりゃ屋敷の皆の知るところとなるだろう。

(まあお互い隠そうって話していないし気をつけてもいなかったし仕方がないのかしら……)

 侑奈が小さく息をつくと、中里が侑奈の肩をポンと叩いた。


「それに花秋さんって、あの花秋メディカルグループのお嬢様でしょう?」
「そもそも貴方のお兄様と隆文さま――めちゃくちゃ仲良いのに、むしろどうしてバレないと思ったの? 最近はお忙しいのかお見えにならないけど、貴方のお兄様……昔はよくこの屋敷に入り浸っていたわよ」
「う……」

 ぐうの音も出ない。
 確かに祖母と玲子だけでなく、兄と隆文もとても仲がいい。そのうえ、花秋は珍しい苗字なので、わざわざ言うまでもないだろう。
 分かっていたのに追及せずに同僚として接してくれていたのだと知り、胸がじんわりとあたたかくなる。

「今まで黙っていてごめんなさい」
「謝らないで。花秋さんにだって事情があるんでしょ?」
「そうよ。気にしなくていいわ。それより、隆文さまとどうなの? 悠斗さまと隆文さまが幼馴染みということは、花秋さんもよね? ってことは恋愛結婚? でもどうしてメイドしてるの?」

 侑奈が頭を下げようとすると、皆が侑奈を制止し、ずいっと近寄ってくる。そんな彼女たちに気圧されるように侑奈は一歩後退った。


「えっと……私たちはあまり会ったことがなかったので……恋愛はまだ……。メイドとして働くことにしたのは彼のことを知るためです。……それに正式に決めちゃう前にお互い相性とか色々知ったほうがいいかなって、今お試しでお付き合いもさせていただいています」
「ああ、なるほど。それは大切よね。結婚してから合わないって分かったら最悪だもの」

 侑奈がそう答えると、彼女たちがうんうんと同意してくれる。皆が賛同してくれたことで、侑奈は自分が間違っていなかったのだとホッと息をついた。

(良かった。やっぱり相性を確認するのって必要よね)

 そして侑奈は勢いに任せて、恋愛というのはまだよく分からないが――隆文が優しくしてくれるのでこのまま側にいてもいいんじゃないかと思えてきていると、自分の心の内を白状した。


「そうね、私はこのまま捕まえておくべきだと思うわ」
「そうよ。うちの坊ちゃんは優良物件よ」
「ここだけの話。私、昔玲子さまの秘書の柚木ゆのきさんから隆文さまの恋愛事情を聞いたことあるのよ。ずっと悠斗さまの妹に不毛な片想いをしているって言ってたわ。それって花秋さんのことよね?」
「!」

 その言葉と共に黄色い声が上がる。

「きゃあ! 素敵じゃないの。隆文さまのためにも、是非ともこの恋を成就させてあげなきゃ」
「そうよ。私たちが協力するから、花秋さんも坊ちゃんを好きになるように頑張ってちょうだい」
「は、はい……」

(隆文ったら、昔から私のこと好きって隠してなかったの……? いつから?)

 他者の口から、隆文の気持ちを知らされて真っ赤になってしまう。侑奈が照れ気味に俯くと、中里が侑奈の手を握ってきた。

「応援してるから、もし隆文さまに不満があったりしたら、怒る前に先に私たちに相談してね。私たちここ長いから、花秋さんより隆文さまのこと詳しいわよ」
「ありがとうございます」
「ううん、いいのよ。私たちも知らない人が若奥様として嫁いでくるより、花秋さんがなってくれたほうがいいもの」
「皆さん……」

 皆の言葉に胸にあたたかいものが広がっていく。
 侑奈がふにゃっと笑うと、皆がよしよしと頭を撫でてくれた。

「ありがとうございます。もしそうなっても変わらず仲良くしてくださいね」
「もちろんよ」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、侑奈は破顔した。そのとき、「その話、詳しく聞きたいわね」と玲子が間に入ってくる。突然現れた彼女に、その場にいた皆がギョッとした。

「れ、玲子さま……!」
「あら、やだ。そんな顔しないで、私も混ぜてちょうだい」

 皆がざっと壁際によって頭を下げる。
 侑奈がオロオロすると、玲子が口元に手を当てて朗らかに笑った。
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