鬼畜皇子と建国の魔女

Adria

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第二部

38.声の主

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「では、行くぞ」
「へ? 何処にだ?」



 ルキウスが剣を持って、そう言ったので、私は訳が分からず首を傾げてしまった。


「声の場所に転移しろ」
「………………は?」



 そう言った瞬間、剣の柄で頭を殴られたので、私が痛みに、つい座り込んでしまうと、次は早くしろと蹴られてしまった。



 何なのだ、一体……このクズめ。



「無理だ。そもそも、そのようなあやふやな場所に行ける訳がなかろう」
「……だが、其方の墓も場所を正確には分かっていなかった筈だ」



 だから、行けるだろうと言う顔で見るな、クズ。
 私は痛いところをつかれたなと思いながら、どうやって説明したら分かって貰えるかを考えてみたのだが、良く分からなかったので、素直に言ってみようと思った。



「始動の呪文とあわせて、固有名詞が必要となるのだ。私の墓はアレしかないだろう? だから、それで良かったのだが、声の場所の様なあやふやなものとなると……難しそうだ」
「…………ふむ」



 分かって貰えたのだろうか? 私がルキウスの顔を覗き込むと、ルキウスがニヤリと笑ったので、私は殴られないようにスッと離れようとした。



 ……したのだが、その瞬間、腰を抱かれて捕まってしまった私は、ギュッと目を瞑った。




「間抜けな顔をしていないで、さっさと行くぞ」
「へ?」


 やはり、分からなかったのだろうか?
 そう思っていると、ルキウスが歩き出したので、私は慌ててついて行く事にした。



「今の説明で分かったのか?」
「ああ」
「そうか、良かった。では、声の場所が分かるのか?」
「声を追い掛ければ、分かる事だ」



 そういうものなのか?
 声なんて不確かなもの、何処から聞こえているのかなんて分からぬが?


 おおよその目安をつけて、後はしらみ潰しに探して行くのだろうか?



「ん? そういえば、其方。先程、私の顔を間抜けと言わなかったか?」
「間抜けに間抜けと言って何が悪いのだ」



 くそっ、いちいち腹が立つ奴だな。
 どうして、こんな思いやりに欠ける男に惚れてしまったのだろうか……はぁ、情けない。




「大方、口付けされるとでも思ったのだろう?」
「なっ!? ち、違う!」



 突然、ルキウスが私の腰を抱いて顔を近づけて来たので、私は驚いて顔を真っ赤にしてしまった。



「では、何だ?」
「いや……その……ちょっと離れろ」



 殴られると思ったなど言えぬ私は、顔をスレスレまで近づけて問うてくるルキウスに、口をパクパクさせながら、押し戻す事しか出来なかった。



「素直になれ。口付けをして欲しいのだろう?」
「っ!」


 突然、耳元で囁かれて、私の体は跳ねてしまった。



 というか、此処は廊下だ。
 そ、それに声の場所を探している途中なのに……。


 絶対に私を揶揄からかって遊んでいるのだ。その手にはのらぬ。



「ルドヴィカ」
「っ! あの、だから……えっと……っ、んぅ、んんっ」



 羞恥に耐えきれず、私が顔を逸らした瞬間、ルキウスは私の顎を掴み、深く口付けてきた。



「待っ、んっ……ふ、ぁっ……んんぅ」



 散々、口内を犯され、解放された頃には、私は足に力が入らず、床に座り込んでしまっていた。
 涙目でルキウスを睨んでも、ルキウスは涼しい顔をしている。




「では、行くぞ。それとも此処で犯されたいのか?」
「違っ……待ってくれ……だって立てな……っ」




 私がルキウスの手を掴むと、ルキウスは溜息を吐いたあと、私を抱き上げてくれた。


 ルキウスにこのように抱かれて運ばれた事があっただろうか? まるで、お姫様のような扱いに私はドキドキして、ルキウスにギュッとしがみついた。



「どうした?」
「な、何でもない!」



 うう……ルキウスのニヤニヤした顔が嫌だ。絶対に照れてる顔を見られたくない……。
 いつも、もっと恥ずかしい事をされているのだが、何だかこれはこれで、気恥ずかしいのだ。




「……?」



 そういえば、ルキウスは迷いなく歩いて行く。確かに声は変わらず聞こえるが、少しは何処から聞こえるか迷っても良いと思うのだが、確信を持って歩いているように思う。



「ルキウスは、声の場所が分かるのか?」
「いや、声を追っているだけだが?」
「そうか? それにしては迷いなく突き進んでいるように思えるが……」
「声の気配を辿れば、迷う必要などあるまい」



 そ、そういうものなのだろうか?
 凡人には到底分からぬ事だな。私はまったくもって分からぬ。



 すると、ルキウスがどんどん地下に降りて行くので、私は慌ててルキウスの服を引っ張った。



「ま、待て! この下は地下牢しかないだろう?」
「だが、声はこの下だ」



 地下に進めば進むほど、空気が冷たくなっていく。私はそれが何やら怖くて、ルキウスを止めようと思い、服をギュッと掴んだ。



幽霊ファンタズマが出たら、どうするのだ?」
「其方も似たようなものだろう?」
「…………は?」



 何だそれ? 何なんだ、それ?
 人の事を今まで、そのように思っていたのか……くそっ。



「ルキウスの馬鹿者! 最低! クズ!」
「うるさい、暴れるな」
「ルキウスなんて、その幽霊ファンタズマを愛して欲情してる変人だ! この変態! いだっ!」



 私が悪態を吐くと、突然ルキウスに落とされてしまった。階段だったので、盛大に腰を打っただけでなく、何段か転がり落ちてしまった。



「何をするのだ! 痛いではないかっ!!」
「上等だ、ルドヴィカ。後で、覚えていろ」



 ルキウスは底冷えするような声で、私にそう言い、私の髪を掴んで引きずったまま、階段を降り始めた。



「ちょっ、痛いっ! やめっ、い゛っ、ルキウスッ!」
「うるさい、下まで蹴り落とされたくなくば、黙っていろ」


 何故、そのように機嫌を損ねているのだ? 怒りたいのは幽霊ファンタズマ扱いされた私だろう?


 そりゃ、私は今世の己ルイーザを乗っ取ってしまったようなものだが……それでも、そのような言い方はひどいと思う……。



 絶対に謝ってなどやらぬからな!




「お、おい、まだ下に行くのか? というか、地下牢より下なんてあるのか? 地下にあるから地下牢なのではないのか?」
「此処から先は、有事の際に城を中から壊す程の爆薬があるとも、何処かに通ずる抜け道があるとも聞いた事があるが……どちらだろうな……」



 何だそれ? 何だそれ? こんなでっかい城をぶっ壊せる程の爆薬って何だ? 怖すぎだろ!




「そのような危険物は、噂で終わらせず、ちゃんと確認して管理しておけよ、ルキウスの馬鹿者」
「うるさい」



 私はルキウスに蹴られながら、その扉を開けさせられた。


 うう、鬼が出るか蛇が出るか……。



「ぎゃあぁぁっ!!」
「うるさい、色気のない声で叫ぶな」
「だ、だって……だって……」




 私が扉を開けると、そこにあるのは何処かに通ずる抜け道でも、爆薬でもなかった。


 玉座のような場所にミイラが座っていた……。そして、そのミイラが私の名を呼んでいる……。



 私が、その恐ろしさに耐えきれず、ルキウスに抱きついたのに、ルキウスは面倒そうにするだけだ。なんて冷たい男だ。




「身なりを見る限り、身分が高そうだな……何代か前の皇后か?」
「よくそのように、冷静に見ていられるな。恐ろしくはないのか?」
「別に」



 この鉄の心め。其方に人間らしい反応を求めた私が愚かだった。




「ルドヴィカ、此処に何かはめられそうだが、其方何かないか?」
「……何故、私にそのような事を聞くのだ?」
「このミイラは、ルドヴィカを呼んでいるのだ。では、其方に関係がある者だろう?」




 え? そ、そうなのか?
 私はルキウスの背に隠れながら、そのミイラと何かをはめられる場所を見つめた。それは対になっているようで、その隣には石らしきものがハマっていた。



 ん? 何かその大きさの石を持っていたような……。確か魔石に似ているなと思っていたから、間違いはない筈だ。



「えーっと、確か此処に。あれ? どこだ? 肌身離さず持っていた筈なのだが。あれ? あれ?」
「早くしろ」
「ぐぇっ」


 私が必死で探していたら、業を煮やしたルキウスにより蹴られてしまった。



「そのドレスにないのなら、ルドヴィカがいつも来ている魔女の服ではないのか?」
「あ! 成る程!」




 私は慌てて、ルキウスの指摘通り、衣服を戻し、腰につけてあるポシェットの中から石を取り出した。



「これだ! これ!」
「其方は、たまに殺したくなる程に愚かで、とろいな」
「………………」



 ふん、放っておけ、クズ。暴君。最低男。
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