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白旗を揚げた男

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小山田と無事婚姻契約を済ませたあと、早速同居に持ち込もうとした。
通学に便利な場所に、桐生が保有する手頃なマンションがあったので俺は実家を出て小山田をそこに迎えるつもりだった。

しかし案の定、小山田も小山田の両親も同居の話に戸惑いを隠せないようだった。話し合いの結果、平日は実家で、土日はマンションで過ごすことになった。

そんな通い婚のような生活がしばらく続いている土曜の昼。
俺はくすぐったさとわずかな痛みに目を覚ました。
その発生場所に目をやると、やっぱり小山田だった。

小山田は俺の腰に腕を回してしがみつき、もぞもぞ何かやっていた。
よくよく見ると、俺の腹を必死で甘噛みしている…。

ちなみに現在、小山田も俺も全裸だ。
俺たちが全裸なのには正当な理由が存在する。
新婚である俺たちは昨夜、仲睦まじく 夫夫ふうふいとなみの時間を過ごしたのだ。

そういえば、俺のノットを小山田に見せる約束は、この部屋に泊まった初めての夜に果たされている。
さらに言うと、その日は小山田が初めて俺に性的な奉仕をしてくれた記念日にもなった。

話を戻して。とにかく小山田は今ラットの最中だった。
平坦な腹は、噛みづらいらしく顔を右に左に傾けながら何とか齧ろうと頑張っていた。
可愛い。

同時に小山田は体の中心で勃たせているものを、俺の膝の辺りに擦り付けて腰を小さく揺らしていた。
膝に感じる小山田の聞き分けのないちんこの感触が愛おしかった。

そんな小山田に俺は声をかけた。

「小山田…っと。また間違えた。慎吾おはよう」

我ながら甘ったるい声に胸が悪くなりそうだった。
小山田は声のした方に意識が向いたらしく一瞬動きを止めたが、俺に構うことなくすぐにそれを再開した。 

ラット中の小山田の意識は基本的に現実に向いていない。
無論、俺の事も眼中にない。
それはまるで別の世界の住人のようで、かつての俺はそんなとらえどころのない小山田の姿に焦りを覚えたものだった。

今は小山田のやりたいようにさせながら、癖のない髪を撫でてやる。  

「慎吾は俺に夢中だな?」
そんな言葉を呟いたりして。

小山田は ひとしきり腹を舐め齧っていたが、ふと動きを止めて俺を見上げてきた。
やはりその瞳は痛々しいほどに透明で 穢れがなかった。
こんな風に見られて心を持っていかれない男などいないだろうな、そう思ったときだった。

「きりゅう。」
小山田は俺の腹の上に頭を預けたままそう呟くと、ほわりとほころぶ様な笑顔を浮かべた。
俺はショットガンで心臓を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。

小山田がラットの最中に そんなことをしたのは初めてだったのだ。無垢な感情を不意打ちのようにまっすぐに向けられた俺は思考が停止した。

固まっていると小山田は そのままよじよじと這い上がってきた。
そして今度は俺の唇といわず、耳やら鼻やら額やらを、それこそお構いなしに襲ってきた。
その甘噛みはどこまでも柔らかく、舐めとるように動く舌はとろけるように優しかった。

呆然と脱力し 小山田にされるがままに顔中まれながら、俺は呟いていた。

「これもエクストラの支配力なのか…?
でもまぁ、…それもいいか。」

小山田に出会ってから俺は、一度もこいつに勝てたためしはないんだ、今更なことだと思った。

そうして俺は 小山田のほほに手をやると、降参のキスをしたのだった。
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