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αって奴は
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守と呼びたいと言われたが、その前の発言に突っ込みどころが多すぎたし、何秒か無だったのは仕方がないと思う。
すると、奴は首筋に埋めていた顔を上げて少し悲しそうな顔をした。それから紅茶色の瞳を不安そうに揺らして、
「私のことは正臣と。・・・呼んでほしい。」
なんだろう、実家のチャッピーを思い出してしまった。今では老犬になりつつあるが大型雑種犬で賢く穏やかで。
控えめに甘えてくるとき、こんな感じにつぶらな瞳で見上げてきた・・・。
いやいやいや、忘れちゃいけない、こいつは猛獣。
「・・・俺のことはまあ、好きに呼べばいい。とりあえず風呂だ風呂。おら、腕どかせ。」
名前で呼ぶ件は華麗にスルーし、そう言って鍛えられた奴の太い腕をどかすとすんなりそれは外れた。
そして上半身を起こすと、ベットから絨毯に足を下ろして 立ち上がった。
いや立ち上がろうとした。
すると カクーンと、それは見事な膝カックンを食らった時のように 膝から崩れ落ちる俺。
「・・・は?」
両腕を前について、土下座スタイルで間抜けな言葉がこぼれ出た。
びっくりするくらい動けなかった。下半身の内側から麻痺したように力が入らなかった。
嘘だろうと思いながら、すぐ傍に見えるベッドの端に 何とか手を掛けた。
ギシッと音がしたほうを見上げると、いつの間にか にじり寄ってきていたらしい奴が ベッドの上から俺を見下ろしていた。
「・・・良い。」
なにやらつぶやいて、やけに真剣な顔で俺を見つめることしばし。
おもむろに全裸の奴がベッドから降りてきて、これまた全裸の俺をひょいと抱き上げてベッドにつれ戻された。
・・・そんな目も当てられない事態に、めまいが起きそうになる。
そう、俺は人生28年目にして初めてお姫様抱っこというものを経験することになったのだった。
「足腰が立たないみたいですね。私が入浴のお手伝いをするので、準備が整うまで横になって待っていてください。」
ベッドに腰かけて、シーツを引き上げて俺に掛けてきた。
されるがままにしていたが、妙にイキイキしている奴が腹立たしかったので、つい言ってしまった。
「・・・。なんでお前はそんなに元気なんだよ・・・」
「まあ私は・・・というより、αという人種は他より体力があるみたいです。」
αの体力えげつなすぎだろ。おれだってけっこう体力あるほうだと思っていたのに。
少なからずショックで聞いてしまう。
「お前の筋肉どうなってんだよ。男の俺を軽々と・・・お前なんか鍛えてるのか?」
「うーん・・・特に鍛えてはいませんが、αは筋肉も付きやすいみたいですね。」
「そうかよ・・・」
とっくに自分の中で織り込み済みだったはずの 世の不条理をあらためて付きつられた。
なんだかどっと疲れを覚えて、全裸の奴がバスルームと思しき扉の向こうに消える後姿をぼんやりと見送った。
奴の背筋とか もろもろの筋肉の付き方がえぐかった。あれとやりあっても勝てる気が全くしない。
奴に最初に項を噛まれたあの時、初動で後れを取ったとはいえ 柔道経験者の俺が完璧に抑えこまれたっけ。
くっ・・・オスとして完全に負けてる・・・。
すると、奴は首筋に埋めていた顔を上げて少し悲しそうな顔をした。それから紅茶色の瞳を不安そうに揺らして、
「私のことは正臣と。・・・呼んでほしい。」
なんだろう、実家のチャッピーを思い出してしまった。今では老犬になりつつあるが大型雑種犬で賢く穏やかで。
控えめに甘えてくるとき、こんな感じにつぶらな瞳で見上げてきた・・・。
いやいやいや、忘れちゃいけない、こいつは猛獣。
「・・・俺のことはまあ、好きに呼べばいい。とりあえず風呂だ風呂。おら、腕どかせ。」
名前で呼ぶ件は華麗にスルーし、そう言って鍛えられた奴の太い腕をどかすとすんなりそれは外れた。
そして上半身を起こすと、ベットから絨毯に足を下ろして 立ち上がった。
いや立ち上がろうとした。
すると カクーンと、それは見事な膝カックンを食らった時のように 膝から崩れ落ちる俺。
「・・・は?」
両腕を前について、土下座スタイルで間抜けな言葉がこぼれ出た。
びっくりするくらい動けなかった。下半身の内側から麻痺したように力が入らなかった。
嘘だろうと思いながら、すぐ傍に見えるベッドの端に 何とか手を掛けた。
ギシッと音がしたほうを見上げると、いつの間にか にじり寄ってきていたらしい奴が ベッドの上から俺を見下ろしていた。
「・・・良い。」
なにやらつぶやいて、やけに真剣な顔で俺を見つめることしばし。
おもむろに全裸の奴がベッドから降りてきて、これまた全裸の俺をひょいと抱き上げてベッドにつれ戻された。
・・・そんな目も当てられない事態に、めまいが起きそうになる。
そう、俺は人生28年目にして初めてお姫様抱っこというものを経験することになったのだった。
「足腰が立たないみたいですね。私が入浴のお手伝いをするので、準備が整うまで横になって待っていてください。」
ベッドに腰かけて、シーツを引き上げて俺に掛けてきた。
されるがままにしていたが、妙にイキイキしている奴が腹立たしかったので、つい言ってしまった。
「・・・。なんでお前はそんなに元気なんだよ・・・」
「まあ私は・・・というより、αという人種は他より体力があるみたいです。」
αの体力えげつなすぎだろ。おれだってけっこう体力あるほうだと思っていたのに。
少なからずショックで聞いてしまう。
「お前の筋肉どうなってんだよ。男の俺を軽々と・・・お前なんか鍛えてるのか?」
「うーん・・・特に鍛えてはいませんが、αは筋肉も付きやすいみたいですね。」
「そうかよ・・・」
とっくに自分の中で織り込み済みだったはずの 世の不条理をあらためて付きつられた。
なんだかどっと疲れを覚えて、全裸の奴がバスルームと思しき扉の向こうに消える後姿をぼんやりと見送った。
奴の背筋とか もろもろの筋肉の付き方がえぐかった。あれとやりあっても勝てる気が全くしない。
奴に最初に項を噛まれたあの時、初動で後れを取ったとはいえ 柔道経験者の俺が完璧に抑えこまれたっけ。
くっ・・・オスとして完全に負けてる・・・。
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