君の瞳に囚われて

ビスケット

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侯爵家での日々

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侯爵本邸での暮らしが始まって1か月、俺は今 困惑している。
なぜかというと、やることがないからだ。

朝起きる、食堂で皆が集まって朝食、そのあと侯爵と侯爵夫人とは夕食まで基本的に会うことはない。
侯爵は王宮での仕事と、領地運営に忙しいんだろう。
ひとつ俺たちを養うために頑張ってくれ、とうちゃん。よっ、大黒柱!

侯爵夫人は、奥向きのこと一切を取り仕切っているそうだ。
何かあったら夫人か夫人の侍女に言うようにと侯爵には言われている。
着飾ってよく外出もするので、社交など、侯爵夫人としての仕事にも忙しいのかもしれない。いや知らんけど。
この状況、共働き家庭と言えなくもないのかもしれないな。

朝食のあとは、この屋敷に住み込みで雇われている教育係の女性と、レオとアレクと過ごすのを基本にしている。
朝食の後、歴史、算術、読み書き、マナー、ダンスを日替わりでのんびりと履修している。
貴族の嗜みってやつだな。
前世の小学生時代に比べると、ガツガツせずゆったり進めている感じだ。

午後はまるまる魔法学の授業があって、これに俺は参加させてもらえない。
午前の一般教養よりも、こちらのほうが重要度が高いらしい。さすがは魔法至上主義の世界だ。
最大の問題は、午後まるまる空いた時間に、教育係が何かほかに教えるということもなく、基本放置であるということだ。

茶菓子や玩具を用意してはくれるんだが、メイドはお茶を給仕した後、部屋の隅に椅子を置いて見てるだけだし、話しかけてもほんのり笑うばかりで相手にしてくれない。
そもそも、成人男性の精神を持つ俺には玩具で遊ぶのはきつい。ゲームだったらいくらでも出来たんだがな~。むしろ最高の環境だったんじゃないだろうか。教育的にはまずいんだろうが。
覚醒前ならいざ知らず、体は子供、頭は大人な現在、これではとてもではないが間が持たない。
いや、覚醒前だってどうすれば良いか分からなかっただろう。
あと、日がな一日のんべんだらりと過ごしていては、あとで罰が当たって豚がひしめく豚舎へ一直線になりそうで怖い。


「本日の授業はここまでにいたしましょう。レオ坊ちゃまとアレク坊ちゃまは午後から魔法学がございますのでカイン様はご自分の部屋でご自由にお過ごしください。」
なんて放置されても、遊ぶ相手もいないのにどないせーっちゅーんだ。
てか、あいつらまったく遊んでない。思春期ごろになったらグレるパターンだぞ。

よって、うららかな昼下がりの現在、ヒマそうにしていた俺を見かねてか、お庭を散歩されてはいかがですかとメイドに言われて、ぶらぶらしているわけだった。
そしたら、邸内の訓練場みたいな広場でレオとアレクが魔法の授業を受けているのにでくわした。
ほうほう魔法実技ってやつか。

傍らに休憩用の東屋があり、軽食やフルーツやのみものが準備されていて、給仕用のメイドが数名控えていた。
優雅だなぁ~さすが高位貴族。
あいつらだけでなく、他に何人か子供達がいて、みんなで仲良く休憩中のようだった。
友達同士で合同訓練かな?頑張れちびっ子達。
ほのぼのしながら通り過ぎようとしたら、メイドが近づいてきて俺に声をかけてきた。

「坊ちゃま方が、カイン様もご一緒にお茶をとおっしゃっています。ご同席の坊ちゃまのご友人の皆様も是非にと言って下さいましたが、いかがなさいますか?」
なんだろう、メイドの目が笑ってない。めんどくさいので結構ですと言おうかと思ったその時。
おれの感情とはちょっと違うものがざわめいた。
同年代の子供たちに交じって遊びたいという欲求だ。
それと、知らない人に会うことに対する 少しの恐れ。

その時、おれは猛烈に嫌なことを思い出した。
デモンとの地獄の鬼ごっこだ。
しんどかったとか、デモンが無表情で追いかけてくるのが怖かったとかそういうんじゃない。
おれは。おれは。猛烈に楽しく感じてしまったのだ。
6歳の俺から問答無用で湧き出してきた圧倒的な感情だった。
いやいや俺は断じて前世で火器をぶっ放すおっさんとの鬼ごっこを楽しむような趣味はなかったはずだ。
でも楽しくて、つい はしゃいで、きゃあきゃあ言いながら逃げ回っていた記憶がある。誰か助けて。

・・・ということは、これはもともとのこの世界で生まれたカインの感情なんだろう。
そうか、友達と遊びたいか。
「あ、じゃあお邪魔します。」
そう言ってメイドについて行ったのだった。
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