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2巻

2-1

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 ウノーラ大陸の南端に位置するラーティア王国で、冒険者がもっとも集まる街アドベン。
 そこでライルは剣士ヒギルの策略にまんまと踊らされ、ダンジョン内にて魔剣グロテスクとの恋愛劇に付き合わされた。
 その後、奴隷どれいだったクルリを解放したり、ヒギルとグロテスクが仲間になったりもした。
 十日が経ち、ライルはクルリ、ヒギル、グロテスクとともにアドベンを出発――。
 そして現在、絶賛野営中である。まだ夜は気温が低いため、き火に手をかざしながら暖を取っている。
 橙色だいだいいろの光に顔を照らされながら、ライルはため息じりに言った。

「はぁ。アドベンティーが恋しい……」

 アドベンティーとは、アドベンの街で流行している「恋がかなうお茶」である。ちなみに不味まずい。
 ヒギルは当然のように首をかしげた。

「そうか? 俺はあの変な香りが苦手だぜ」
「分かってないな~。これだから戦いしか頭にない野郎は……」
「まるで俺がいくさ馬鹿みたいな言い草だな」
「現にそうだろ。今日だって旅をしてた商人と喧嘩けんかになりそうだったじゃないか。すーぐ喧嘩に走るんだから」
「ありゃどう考えても向こうがわりぃだろ。それとも何か? 買い物の便宜べんぎを図ってやるからお前の持ってる珍しいもん渡せ、なんて言ってきやがるクソ野郎に、へこへこ所持品渡すのか?」

 ありえねーだろ、とヒギルはき捨てる。
 雑に切られた黒髪に、顔の傷が目立つ。黒を基調とした衣服を身にまとい、やけに夜に溶け込んでいた。彼は地面から顔を出した岩を椅子いす代わりに座り、肉を食っている。
 ヒギルの言う通り、今日の昼頃おかしな商人に絡まれた。暴力的な解決方法だったとはいえ、正当防衛だと思いたいところだ。

「あれはわらわも頭に来ていた。よくやったぞ小僧」

 満足げに腕を組んで頷くグロテスクは、鞘としても機能する黒いドレスを焚き火に照らし、つやめく黒髪を流している。ヒギルのひざの上に腰掛ける彼女は、本来の魔剣の姿ではなく、幼女の姿となっている。

「ですが結局、あの方々に嫌われてしまう結果になったじゃないですか……。私も参戦するハメになりましたし、今後再会したら面倒な展開になりますよ……うぅ」

 クルリはライルの隣で気を落とし、軽く涙を浮かべている。
 肩の下あたりで切り揃えた白髪を揺らしながら、野営用の簡易的なスープをそそいだコップを両手で包み込むように持って、可愛らしく飲んでいる。

「そんときゃまた、ぶん殴っときゃいいんだよ。斬らねぇだけありがてぇと思えってんだ……ったく」
「街中ではよしてくれよな」

 ライルが釘を刺した。

「わーってるよ。それよか、寝なくて良いのか?」
「今日くらいはヒギルが先に寝ても良いんだよ? 毎回先に夜の番してもらってるけどさ、キツくない?」
「キツかぁねぇよ。人の心配するより自分の心配するこったな。てめぇのまぶたはそろそろ落ちたいようだぜ」
「まぁ……そこまで言うなら……」

 確かにすさまじく眠たい。
 最近あまり寝られていないせいか、疲労が抜けきっていないのかもしれない。ライルとクルリは硬い地面に布を敷き、眠りについた。


       ◆ ◆ ◆


 空には暗雲が立ち込め、周囲が赤黒い霧で覆われた森の中を、かせがついたように重たい足で歩いている。森の木々は全て赤い実をつけており、やけに不快な甘い香りが漂っている。
 先の見えない森の中を頼りもなしに突き進む。
 出口はどこか。誰かいないのか。そんなことを叫びながら。
 呼吸はできるが、まるで水の中を歩いているような感覚だ。

「ラ……イル……ライル……ライル……!!」

 突然、自分を呼ぶ声が背後から聞こえてきた。その声は、聞き覚えがあるようなないような男のもので、耳にまとわりつく血なまぐさい声だった。

「よくも……よくもぉ!!」

 段々その声は近付いてくるが、体が上手く動かせない上に足が重いせいで、逃げることも叶わない。まるでおぼれているみたいだ。
 そう思った時には既に景色は一変しており、いつのまにか真っ赤な血液の沼に胸元までかっていた。
 ダメだ。逃げなければ。
 身体と神経が乖離かいりした感覚に襲われ、歩き方そのものを思い出すこともままならない。
 そうこうしているうちに声の主はどんどん近付いて、いつの間にやらライルの背に触れるところまで来ていた。
 口をはくはくさせて、硬直するライル。
 振り向けない。うように背を登り肩に血液を吐きかけたそれは、臓物をのどからしぼり出すような声でささやいた。

「よくも俺を殺したな」

 そこに居たのは芋虫のようにライルの体を這い登る四肢ししのない男だった。どろどろと四肢の付け根から血液を垂れ流し、うつろな瞳でライルを見つめている。
 顔は膨れ上がり、青色と桃色を混ぜ込んだ、気味の悪いあざをいくつも浮かべている。
 顔を全く識別できないその男が何者なのか、ライルには分かってしまった。
 ライルが殺した冒険者、グスタだった。

「――――――っはぁ!!」

 首を断ち切られる感覚とともに意識が引き戻され、ライルは跳ね起きた。まだ寒いにもかかわらずしたたる汗をぬぐい、詰まっていた呼吸を荒々しく再開した。

「はぁっはぁっはぁっはぁっ!!」

 心臓は激しく動き、心音を体内全域に響き渡らせている。

「よぉ。起きたのか……」

 大きな岩に背を預け、膝に座るグロテスクを抱きしめながら警戒していたヒギルが、話しかけてきた。

「はぁっ……はぁっ……夢……だったか……」
「ひでぇうなされようだったぜ」
「そう……か……」

 最近似たような悪夢を何度も見る。そのせいで寝不足なのだ。
 まともに寝ることもかなわず、こうしてうなされては、首をつかまれたようにぐっと現実へ引き戻される。
 ライルは片手で頭を抱え、呼吸を整えるためその場に座った。
 横ではクルリがすやすやと眠っている。彼女も嫌な夢を見ているのか、時折暗い表情を浮かべ、悲しげな声を漏らしている。

「なぁライル」

 ヒギルが問いかけてきた。

「何だよ」
「お前――――」


 人を殺したことがあるだろ?


「なっ!?」
「やっぱりな」
「いやっ違っ」

 何故バレた。まだ言っていないはずだ。
 そんな素振りは見せてはいないはずなのに、どうしてバレた。

「隠さなくてもいい。俺をそこらの奴と一緒にすんな。でお前を責めたりしねぇし、軽蔑もしねぇよ」
「…………なんで」
「なんで分かったかって? そりゃあ、俺も見たからだよ」
「は……?」
「俺も初めて人を殺した時は、何日も悪夢にうなされた。お前はその時の俺と同じ顔をしている」

 ライルは己の顔を触った。何となく表情が固いような気もするが、よくは分からない。
 それよりもしれっと言ってるが、やはりヒギルも人を殺したことがあるらしい。

「その苦しみはよく分かるさ。殺人に苦しむのは、それ相応の理由があったからだ。人を殺さなければならない理由がな。お前が衝動的に殺人を犯したってんなら話は別だが……そういうわけでもねぇんだろ? 時期的に、クルリを守るためか……?」

 図星だ。衝動的と言われればそうなのかもしれないが、何せ記憶がない。
 突きつけられた「自分が殺人を犯した」という事実と、目の前に転がる彼らの死体だけが、鮮明に記憶されている。

「深くは詮索せんさくしねぇが……あまり思い詰めんじゃねぇぞ。おめぇは悪かねぇよ。この世界は――命が軽すぎんだ」

 ヒギルは空の星々を眺めながら言う。その目はどこか遠くを見詰めるようなうれいに満ちていた。


       ◆ ◆ ◆


 ライルは大きな欠伸あくびをしながら青みが増してきた空をぼんやりと眺めていた。傍らではクルリが寝息を立て、焚き火を挟んだ向こう側ではヒギルがこちらに背を向けて寝ている。

「そんなに眠いのならば妾に番を任せればよかろうに。妾は魔剣じゃから寝ることはないのじゃぞ。何故かたくなに貴様らが夜番をしようとするのじゃ」
「そうだねぇ……特に理由はないんだけれど、いて言うなら君一人じゃ寂しいだろうからさ……」
あきれたわい……。何じゃその理由は。妾を何と心得る。魔剣じゃぞ魔剣」
「ヒギルだって同意しただろう? 番は二人一組が常さ」
「妾よりも脆弱ぜいじゃくな人間が何を言うとるのじゃ……」

 頑なにヒギルの傍から離れようとしないグロテスクは、ヒギルに寄り添いながらライルと同じく空を見上げている。

「もうじき夜が明ける。それまで眠っておっても良いのじゃぞ?」
「いいんだ。今は起きていたい気分だし」

 それを聞いたグロテスクはふっと息を漏らすように笑った。

「何がおかしいのさ」
「ふふ、何、怖い夢を見て寝付けなくなった子供のようじゃと思うてな」

 幼女は母性をにじませる顔で微笑んだ。
 ずかしくなったライルは顔の角度を変えて、グロテスクから視線をらすようにして周囲を見渡した。
 話しているうちに太陽の光が空に白を差し始め、痺れの残る瞼を刺激した。
 ライルはそろそろ朝食の準備をせねばと食材や調理器具を取り出し、グロテスクは調理のために焚き火へ燃料を投下した。
 ヒギルとクルリが起きる頃には朝食が完成していて、朝日に照らされながら彼らは飯を食べた。
 あと少しで到着するであろう街についての話をしながら。


       ◆ ◆ ◆


 次の目的地であるレベラに到着する直前、ライルは奇妙な植物を採集した。
 本来あるべき緑色の部分がとても少なく全面的に白いその植物は、根元が四つに分かれており、まるで地面を掴んでいるかのように根を張っていた。
 ライルは採集図鑑を確認してみるが、そこには名前も概要も、何も書かれていない。

「あれ?」

 思わず声を発したライル。三人の視線が集まったので「何でもないよ」と誤魔化して話をらす。

「それにしても、随分と変わった見た目の植物だね」
「気色わりぃな。人間みたいだぜ」
「確かに根が四肢みたいだね。でも何だか、駄々をこねる子供みたいで可愛いじゃないか」
「その発想は理解できねぇよ」

 私もです。妾もじゃ。とヒギルに賛同するクルリとグロテスク。ライルの比喩ひゆ表現は、決まってどこかズレている。

「まぁもうじきレベラに到着するし、ギルドにでも売ってみるとするよ」
「あの商人にでも売りゃいい」

 などと適当なことを言っていたからだろうか。
 それからしばらく歩いていると、聞き覚えのある中年の声と、聞き覚えのない女性の声が聞こえてきた。ライルとクルリは露骨ろこつに顔をしかめる。

「ワシは顔が利くからお前が何かを買う時に便宜を図ってやれるぞ。だからワシにお前の持ってる珍しい物を渡せ。さもなくばこの辺で買い物ができないようにしてやるぞ。冒険者だろう? ギルドにも口利きしてやるぞ。何せワシは大物商人だからな」

 理不尽きわまりないことを自慢げに言う肥満体型の男。頭頂部に全く毛が生えておらず、ぽりぽりと腹を掻きながら迫っている。
 対する茶髪の女性は、困った顔をしながら悩んでいる。

「ほれ、冒険者なんだから、珍しいもんのひとつやふたつ持っておろう? 宝石なんかもっとらんのか?」
「だから、持ってないって言ってるじゃない」

 少しずつ苛立いらだちをつのらせてゆく茶髪の女性。商人の背後に控えた護衛の男達が、威圧的な視線を彼女に送っていた。
 あれでは脅迫きょうはくだ。見兼ねたライルは走り出し、無謀にも間に入っていった。
 昨日は争いを避けたいと言っていたのに、今日は自分が勝てる見込みもなしに突っ込んでいった。余程正義感に溢れているのか、それともただの馬鹿なのか。

「何だお前……ってお前は昨日の!」
「この人が困っているだろ。やめろよ」
「また現れやがったな! おいお前達今度こそやってしまえ!!」
「ちょ、話を聞――おわっ!」

 話を聞く気なんて毛頭ない商人と護衛達は、昨日のさ晴らしと言わんばかりの勢いで、突然殴りかかってきた。ライルは間一髪でけるが、その場で転んでしまう。
 クルリは即座に跳躍してライルのもとまで駆け付けると、ライルに追撃を与えようとしていた護衛の男の顔面に拳を打ち込んだ。

「おいおい昨日あれだけ渋ってたくせに、今日は即決かよ……」

 食ってかかるライルとクルリに、後方で呆れるヒギルとグロテスク、という昨日とは反対の構図となる。
 クルリに殴られて地面に伏した護衛の男を見て、劣勢を悟った商人はチッと舌打ちをして「おいお前達引き揚げるぞ!」と怒鳴り、早々に馬車で退散していった。

「うわ……あいつらが向かったのってレベラのある方向じゃないか……。こりゃ向こうでも会いそうだな……」

 またぞろいざこざが起きそうだなと、今から嫌な予感がする。変なことに巻き込まれなければ良いのだが。

「ありがとう。助かったわ……」

 女性が礼を言う。頭を軽く下げると、彼女の赤みがかった茶髪も揺れた。
 冒険者のようで、腰からげた剣が陽光に照らされ光の線を描いている。そのやけに大きな剣は彼女には似合わなかった。

「こっちから手を出そうか迷っていたのだけれど、向こうから手を出してきたから良かったわ。あなた達アイツらと何かあったの? 何だか突然殴りかかってきてたけど」
「まぁ色々と。それより大丈夫ですか?」
「えぇ。おかげさまでね。坊やのおかげで……って坊やは失礼かしら。あなたのおかげでこの通り無傷よ。ああいうのに絡まれると本当に面倒だわ」

 彼女はやれやれとため息をつき、わずらわしい気持ちを隠そうともしない。二度と関わりたくないのだろう。
 ライルは女性が無傷であることを確認すると、これも何かの縁だと自己紹介を始めた。

「俺の名前はライル。この子がクルリで、あそこにいる男がヒギル。隣はグロテスク。お姉さんは冒険者?」
「そうよ。レベラの更に先にある街を拠点に、冒険者をやっている……そうね……エリーよ。よろしくね。君達はレベラに向かっているのかしら?」
「そうですね。レベラに少し滞在した後は、更に北へと進む予定です」
「良かったら一緒に行かないかしら? 私もレベラにちょっとした用があるし、何だったら軽く案内するわよ。レベラには詳しいし」

 それはいい考えだな、と後方からやってきたヒギルが言った。

「案内役がいるってだけで、旅の効率は随分と上がる。だが……あんたが信用にる人物かどうかが分からねぇ。あんたが悪人じゃねぇとは限らねぇからな。実はあの商人とグルだった、とかだと面倒だ。面倒は避けたい、そうだろ?」

 ヒギルはライルに視線を向けて確認を取る。ライルも言われて「確かにそうだな……」と答える。もしや即決で案内を頼むつもりだったのか。
 商人とエリーがグルの可能性。商人に対するエリーの態度を見る限り、それはないだろうが。しかし演技の可能性もある。そうであれば彼女はなかなかの役者だ。

「とは言っても自分の潔白を自分で証明するなんて不可能じゃない? それにあなたの言う『悪人』ってのが、必ずしも私の思う『悪人』と同じってわけでもないでしょう? 何だったらギルドカードでも見せようかしら?」
「いや。俺はギルドカードなんてもんをこれっぽっちも信用しちゃいない。このライルと旅をするためにとりあえず持ってはいるが、信用には足らん」
「あら、じゃあどうすれば良いのかしら?」

 簡単だ。と言ってヒギルはエリーにぐいと顔を寄せた。
 キスすら容易にできてしまいそうな距離で、ヒギルはにたりと凶悪な笑みを張り付けておどすように言う。


「てめぇの行いで俺達が不利益を被るようなことがあれば、即座に殺す。だから今ここで約束しろ、俺達に悪意を向けねぇと。向けたら最後、殺されても文句は言わねぇと。それだけでいい」

 それはまぎれもない殺意。殺人者にふさわしき威圧。
 それまで妖艶な笑みを浮かべていたエリーの表情も一転し、頬に冷や汗を走らせて顔を真っ青に染め上げる。途端に体に寒気が走り、無意識のうちに剣のつかを握りしめ、それでも振り抜くことなくただ手を震わせていた。

「おい小僧。そりゃちとやりすぎじゃ」

 腕を組んだまま立っていたグロテスクがヒギルを制止する。「そうか」と返事をしたヒギルは、すっと殺意を抑えてエリーから顔を離した。
 身体を強く抱きしめられるようなまとわりつく殺意から解放されたエリーは、その場にぺたんと腰を下ろした。

「で? 約束すんのか? しなきゃ今すぐ殺すぞ」

 流石に殺すのは嘘だろうが、先程の殺意を浴びたエリーは呼吸すら忘れてただ必死に頷いた。まるで殺さないでくれと懇願こんがんするかのように。

「大丈夫ですかエリーさん。全くヒギルは何やってんだよ……」
「ケッ、てめぇがすーぐ知らねぇ奴について行こうとするからだろうがよ。ちょっとした牽制けんせいじゃねぇか」

 ちょっとした牽制で、人を恐怖のどん底に落とそうとする奴なんざいない。
 割とこころよく案内を申し出てくれた相手に対してこの仕打ちである。

「これじゃ俺達の方がよっぽど悪人だよ」

 まさしくその通りである。


       ◆ ◆ ◆


 レベラは以前行ったヘイヌよりも小さい街だ。
 ライル達は街の中心から外れた、中途半端な位置にある冒険者ギルドを訪れていた。

「うーん、見たことがない植物ですねぇ。新種でしょうか。買い取ることも可能ですが……査定に時間がかかると思いますよ?」

 ライルは道中採集した例の白い植物をギルドの受付嬢に渡したのだが、見たことがないらしい。一応図鑑でも確認してみたようだが、やはり該当する植物がないようだ。

「鉱石ならばそれ相応の値段もつくのでしょうが、植物ですからねぇ……。買い手――主に研究機関でしょうか、それが見つからないとどうにも」
「そうですか……了解しました。一応預けておきます。何か分かったら連絡ください」

 そう言って軽くお辞儀をすると、その足でクエストボード前にてクエストを選んでいるクルリ達の下へと向かった。

「で? 何だって?」
「やっぱり分かんないってさ。道理で見たことがないわけだよ」
「良い薬にでもなりゃあ大儲けだろうがな」
「どうだろ。そんな大層な物にも見えないけれど。それはそうとエリーさんはどうしたの?」
「あぁ、あの女なら真っ青な顔してふらふらとどっか行っちまったよ。まずは用事を片付けたいんだとよ」
「あーあ、逃げちゃったんじゃないの? ヒギルが脅すからじゃん」
「脅しちゃいねぇよ。釘刺しといたんだよ。あーしときゃ余程の死にたがりでもねぇ限りは何もしてこねぇだろ」

 暴論もはなはだしい。あんな脅迫を受けてしまえば、街案内すらまともにできまい。せっかくの人脈を広げるチャンスをみすみす逃してしまった。

「まぁそれはさておき、今回はどんなクエストを受けるつもりだ。俺とクルリは決まったぜ?」
「そうだなぁ」

 ライルはあごに手を当てて視線を上げる。下級冒険者用のクエスト用紙に目を通し、選択肢を絞ってゆく。優先すべきは楽しそうな採集クエストだが、ぱっとしないものばかりだ。

「まぁ今日は散策ってことで、無難にこれとこれにしようかな。ヒギル達のクエストを消化しつつ集める感じで良いかな」
「そうだな」

 納得すると四人は受付へと戻り、クエストを受けてからギルドを出た。
 そして彼らがギルドを出てしばらく経った頃、乱暴に扉を開けて入ってきた数人の男達がいた。
 彼らを見た途端にギルドにいた冒険者達は顔色を変え、何人もの冒険者が早々にギルドを退出していった。
 ギルド職員も露骨に表情を強張らせ、のそのそと歩いてくる男達にぎこちない笑顔を向ける。

「何か珍しくて、金になりそうなもんはないかね?」

 ぐふふと下品に笑うその男は、例の商人だった。


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