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閑話休題
Ninja vs Cyborg Gorilla The way to hell 5 過去の過ち編
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スコープに向かってクナイの雨が降り注ぐ。月光に照らされた黒い殺意が波となって押し寄せていた。
(流石に無理ね…)
年貢の納め時、という日本語を思い出す。人が一生分にできる悪事を20代を超える前に済ませていたスコープは、こういう日が来ることを覚悟していた。人を殺すのだから、殺される覚悟を常に忍ばせる。ある種の諦め、生き恥を晒すまいとする彼女のスイッチを自分の中で押す。
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、咆哮が轟く。近代的な街が野性的な咆哮に震える。
事次いで彼女の視界に獣が現れた。
それは紛れもなく、第1王子たるペンタの勇姿だった。
「ペンタ!」
「こんな刃物、恐れる必要はない。」
焦げ臭さを引き連れてペンタがクナイに立ち向かった。そして左腕の銀色のバイオアームが形を変え、まるで腕の先にメガホンのようになっていた。そのメガホンをペンタは空に向けている。
「耳をふさげ。」
「!!」
野太い声に反応してスコープが耳に指を詰める。すると間をおかずに、頬を揺らすほどの振動が体を伝播した。
(高周波…ソニックブーム!)
直後アスファルトに大量のクナイが雨のように墜落していく。
「もう一つ!」
次は雷撃だった。メガホンの先から無数の稲光がビルの屋上まで、一瞬のうちに伸びる。
青白い光が闇を祓って、断末魔が遅れて聞こえてきた。稲光が霧散すると、屋上にいた人影はそこにはなかった。
ペンタの左腕はまた変形し、もとの大きな手の形に戻っている。流石のスコープも命を繋いでくれた相手に感謝の意を伝えねばと思い、毛並みのいい大きな背中に向かって礼を言った。
「あ、ありがとう…」
「邪魔だ。」
「んなっ!!折角のおれ___」
感謝の意を伝える間もなくペンタはスコープの細い脚をつかんで振り回し、後方に投擲した。
「獣、仲間をおもちゃみたいにぶん回すのは良くないぞ。」
大通りに立ち塞がっている忍者。ペンタはありったけの殺意を込めて睨みを送る。
「おぉ…これが古来に名を馳せたゴリラの殺意か。」
「なぜ人間を殺す。」
素朴な疑問だった。島では仲間こそ全て。生きることに全力を注ぐユートピアの獣たちは、助け合わなければ生きてはいけない事を知っていた。そこに利害があり、全てだからだ。
だが目の前に立つ人間という種は違う。
「それはお前が人を殺めたからだ。報復だよ。」
「報復。」
「そうだ。それ以外にない。お前の目、色んなしがらみがあれど人間を憎むその目にはしっかりと色濃く出ている。それと一緒だ。なのに貴様は!許されたいからと手前勝手に釈明を望んだ!!ふざけるな!!死ね!死んで詫びろ!!」
するとペンタは燃え盛る建物を指さした。
「ではなぜ、あの人間も殺そうとした。」
「邪魔だったからだ。」
キッパリと忍者は言い切った。その様子、言動を見て、ペンタは悟った。
報復という殻の中には単なる憎しみが座っていた。その憎しみはまるで墨汁で、殻から溢れそうで溢れない。もどかしい気持ちが燻っている。だからそれを開放するための
「理由がほしかったんだな。お前も俺も。」
「なに開き直って___」
忍者は音を置き去りにして消えた。ペンタの脳内で接近アラートが鳴る。ペンタが大手ふり、上に向かって拳を突き出した。そこには忍者が刀を両手に携えている。
両者の攻撃がコンタクトする。だが巨腕の勢いを殺しきれない忍者の刀は、拳の威力に負けて砕け散る。だが負けない。忍者はすかさず体を翻し、拳を避け、重力に引かれるまま下方に降りる。そしてペンタの顎に蹴りを打ち込んだ。
「甘い!」
だが蹴りが顎につくより先に、右手の甲がガードするために割り込んでいた。
「___やがるぅうううあああ!!」
防ぎきれなかった。単なる蹴り技のはずだった。威力を殺しきったはずだった。
だがどうだ。手の甲に乗った重みは増すばかり、次第に手の甲の骨は軋み、ひび割れ、砕けた。それに飽き足らず、収まらない威力が頭にぶつかり、耐える間を与えず、アスファルトに頭を叩きつけられた。
凄まじい勢いでアスファルトに頭を打ち、重苦しい音があたりに広がる。
「う…」
「くそが!!意識を刈り取れなかった!」
うつ伏せに倒れるペンタの意識は朦朧としていて、すぐにでも切れてしまいそうになっている。敵はその空きを逃さず、何度も、何度も頭を踏みつけた。踏みつけられるたびに視界がブラックアウトし、意識を繋いでまた事切れる。
まるで虫を踏み潰すように何度も忍者はペンタの後頭部を踏みつけた。
ペンタは頭を踏みつけられる度に、頭の中に顔が浮かんでいた。骨が軋む。脳が揺れる。視界が白濁していく代わりに、頭に浮かんできた顔にはっきりとした輪郭が浮かぶ。
[強くなって、戻ってこい。]
力強く、背中を押してくれる声、ぼやけた顔のパーツがハッキリと現れる。
[息子よ…]
父だった。モノ王がペンタを送り出した時の言葉だった。今まで憎んでいた親から貰った優しく暖かな言葉を、今遠く離れた土地でやっと認識した。
「こんな…ピンチで…オヤジがでてくるなんてな…」
「なに物思いに!浸ってんだよ!!」
まるで工場のプレス機みたいに一定の速度で、人間らしからぬ力を持って踏み潰されそうになっていた。
だが忍者は急にその動きを止める。
「もういい。終わりにしてやるよ。」
ペンタの体をひっくり返し、空を仰がせる。夜空の暗中に月と忍者、そして日本刀があった。
忍者は鋭く、きらびやかな日本刀を抜刀していた。月の光が刀身を輝かせている。
「この刀は愛が受け取る筈だったものだ。彼女亡き今、刃を貴様の血で濡らし、これを我らへの贖罪とする。」
刀の切っ先は真っ直ぐペンタを向いており、心臓にめがけ振り下ろされる。
(流石に無理ね…)
年貢の納め時、という日本語を思い出す。人が一生分にできる悪事を20代を超える前に済ませていたスコープは、こういう日が来ることを覚悟していた。人を殺すのだから、殺される覚悟を常に忍ばせる。ある種の諦め、生き恥を晒すまいとする彼女のスイッチを自分の中で押す。
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、咆哮が轟く。近代的な街が野性的な咆哮に震える。
事次いで彼女の視界に獣が現れた。
それは紛れもなく、第1王子たるペンタの勇姿だった。
「ペンタ!」
「こんな刃物、恐れる必要はない。」
焦げ臭さを引き連れてペンタがクナイに立ち向かった。そして左腕の銀色のバイオアームが形を変え、まるで腕の先にメガホンのようになっていた。そのメガホンをペンタは空に向けている。
「耳をふさげ。」
「!!」
野太い声に反応してスコープが耳に指を詰める。すると間をおかずに、頬を揺らすほどの振動が体を伝播した。
(高周波…ソニックブーム!)
直後アスファルトに大量のクナイが雨のように墜落していく。
「もう一つ!」
次は雷撃だった。メガホンの先から無数の稲光がビルの屋上まで、一瞬のうちに伸びる。
青白い光が闇を祓って、断末魔が遅れて聞こえてきた。稲光が霧散すると、屋上にいた人影はそこにはなかった。
ペンタの左腕はまた変形し、もとの大きな手の形に戻っている。流石のスコープも命を繋いでくれた相手に感謝の意を伝えねばと思い、毛並みのいい大きな背中に向かって礼を言った。
「あ、ありがとう…」
「邪魔だ。」
「んなっ!!折角のおれ___」
感謝の意を伝える間もなくペンタはスコープの細い脚をつかんで振り回し、後方に投擲した。
「獣、仲間をおもちゃみたいにぶん回すのは良くないぞ。」
大通りに立ち塞がっている忍者。ペンタはありったけの殺意を込めて睨みを送る。
「おぉ…これが古来に名を馳せたゴリラの殺意か。」
「なぜ人間を殺す。」
素朴な疑問だった。島では仲間こそ全て。生きることに全力を注ぐユートピアの獣たちは、助け合わなければ生きてはいけない事を知っていた。そこに利害があり、全てだからだ。
だが目の前に立つ人間という種は違う。
「それはお前が人を殺めたからだ。報復だよ。」
「報復。」
「そうだ。それ以外にない。お前の目、色んなしがらみがあれど人間を憎むその目にはしっかりと色濃く出ている。それと一緒だ。なのに貴様は!許されたいからと手前勝手に釈明を望んだ!!ふざけるな!!死ね!死んで詫びろ!!」
するとペンタは燃え盛る建物を指さした。
「ではなぜ、あの人間も殺そうとした。」
「邪魔だったからだ。」
キッパリと忍者は言い切った。その様子、言動を見て、ペンタは悟った。
報復という殻の中には単なる憎しみが座っていた。その憎しみはまるで墨汁で、殻から溢れそうで溢れない。もどかしい気持ちが燻っている。だからそれを開放するための
「理由がほしかったんだな。お前も俺も。」
「なに開き直って___」
忍者は音を置き去りにして消えた。ペンタの脳内で接近アラートが鳴る。ペンタが大手ふり、上に向かって拳を突き出した。そこには忍者が刀を両手に携えている。
両者の攻撃がコンタクトする。だが巨腕の勢いを殺しきれない忍者の刀は、拳の威力に負けて砕け散る。だが負けない。忍者はすかさず体を翻し、拳を避け、重力に引かれるまま下方に降りる。そしてペンタの顎に蹴りを打ち込んだ。
「甘い!」
だが蹴りが顎につくより先に、右手の甲がガードするために割り込んでいた。
「___やがるぅうううあああ!!」
防ぎきれなかった。単なる蹴り技のはずだった。威力を殺しきったはずだった。
だがどうだ。手の甲に乗った重みは増すばかり、次第に手の甲の骨は軋み、ひび割れ、砕けた。それに飽き足らず、収まらない威力が頭にぶつかり、耐える間を与えず、アスファルトに頭を叩きつけられた。
凄まじい勢いでアスファルトに頭を打ち、重苦しい音があたりに広がる。
「う…」
「くそが!!意識を刈り取れなかった!」
うつ伏せに倒れるペンタの意識は朦朧としていて、すぐにでも切れてしまいそうになっている。敵はその空きを逃さず、何度も、何度も頭を踏みつけた。踏みつけられるたびに視界がブラックアウトし、意識を繋いでまた事切れる。
まるで虫を踏み潰すように何度も忍者はペンタの後頭部を踏みつけた。
ペンタは頭を踏みつけられる度に、頭の中に顔が浮かんでいた。骨が軋む。脳が揺れる。視界が白濁していく代わりに、頭に浮かんできた顔にはっきりとした輪郭が浮かぶ。
[強くなって、戻ってこい。]
力強く、背中を押してくれる声、ぼやけた顔のパーツがハッキリと現れる。
[息子よ…]
父だった。モノ王がペンタを送り出した時の言葉だった。今まで憎んでいた親から貰った優しく暖かな言葉を、今遠く離れた土地でやっと認識した。
「こんな…ピンチで…オヤジがでてくるなんてな…」
「なに物思いに!浸ってんだよ!!」
まるで工場のプレス機みたいに一定の速度で、人間らしからぬ力を持って踏み潰されそうになっていた。
だが忍者は急にその動きを止める。
「もういい。終わりにしてやるよ。」
ペンタの体をひっくり返し、空を仰がせる。夜空の暗中に月と忍者、そして日本刀があった。
忍者は鋭く、きらびやかな日本刀を抜刀していた。月の光が刀身を輝かせている。
「この刀は愛が受け取る筈だったものだ。彼女亡き今、刃を貴様の血で濡らし、これを我らへの贖罪とする。」
刀の切っ先は真っ直ぐペンタを向いており、心臓にめがけ振り下ろされる。
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