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閑話休題
Magic of the Memories part9 魔法にかけられ損
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決闘から三日がたった。
城下の町にも俺の顔が回り、小さな世界でちょっとした有名人になってしまった。
知力と筋力に優れたニューヒーロー!っといったような具合でちやほやされているのだ。いい気分ではある。だけど俺はヒーローではなくニート。人付き合いよりも篭ることを重きにおいて、日の目に当たることを恐れる。ユートピアから大分改善されたが、それでも根っこに残る苦手意識を消すことはできない。自分でも嫌気が指してくる。
「ほんとにいい天気ですネェ!」
「うんうん。そうだね。」
そして今日、ゴローちゃんに呼ばれて広い草原をただ真っ直ぐ歩いていた。死ぬほど外が嫌なのに。ローブを羽織る小さな背中を二時間ほど追いかけている。
「浮かない顔ですねェ。そんなに外が苦手なんですかァ?」
「外より・・・人間が・・・。」
城外に出るまで幾人の視線に晒された。質問攻めの嵐と好奇の眼、そして野次馬たち。まるで動物園のサルか何かになったような気分だ。帰りのことを考えると、無意識に肩が下がる。
「質問っていうのは事前に話しておけば起こらないものなんですよ。処世術のレクチャーが必要ですかねェ。」
「めんどくさすぎるよ・・・。」
「気落ちはわかり___」
ゴローちゃんは不意に立ち止まり、周囲を見回した。
「どうしたの?」
彼女は答えない。俺も同じように視線を回してみるが、特に何もない。雲がなく青々とした空と、緑の草原が末広がりに続いているだけで、ここがどこなのかさえ見当が付かない。
「___ここですね。」
すると、急にローブの袖をまくり短く細い右腕を露にする。
「私たちの身体は"擬態"と言われる作り物。機械の体であることは説明しましたね。」
「ああ。魂の器であり、ジョナサンダグラスの遺品であると言うのは聞いたけど。」
「詳細は省きますが、厳密には違います。ダイスケの"擬態"は宿主の元の身体に近くなるように変化して擬似的な五感をトレースしている。極めて本物に近い偽者ですが、私のは違います。」
細い腕に綺麗な線が入る。眼を凝らすと線というより溝が現れた。暗く陰る溝はエメラルド色の光を放ち、事次いで拳が甲高い音を立てて回転を始めた。
ものすごく速い回転は拳の輪郭をなくし、シルエットだけで言えば裸色のこけしだ。まるで歯医者のドリルのような音を立てるそれを天に掲げる。
「単身次元探索を任されるこの身は、科学技術の粋を集めた"次元渡航"を可能とします。身体よりもスキル優先に構成された身体はロボットに近い。」
天に掲げたその腕は振動したすぐ後に、爆炎を吹き出し、飛んで行った。
「_______嘘だろ。」
一瞬の衝撃と爆風が広がる。吹き飛ばされかねないほどの勢いに耐えると、眼に飛び込んだのは空高く飛翔するゴローちゃんの腕だ。青い空をバックに飛行機雲を作りながら何処までも飛んでいる。
少年時代にみた鹿児島のスペースシャトルの打ち上げ映像を思い出す。雄姿を載せた鉄の箱舟が空を割る姿。それに瓜二つだ。
「これもその一つ。次元探査機能"アームサテライト"。次元の壁を越えて、五次元から位置と時代を割り出すスキルです。」
片腕がないゴローちゃんはドヤ顔でこちらを覗く。驚愕の顔を尊敬の眼差しと勘違いしているのならさせておこう。
幼女に邪推していると、彼女の瞳の奥で紅い光が瞬いていた。
「これから映像をそちらに赤外線で送ります。なに。身体構造は人間に近いわけですが、ダイスケはもう機械の体。特に驚く必要もありませんが・・・。」
瞳の奥を覗き込むような視線を外さずに歩み寄って、残っている左腕で俺の胸に触れた。慈しむように優しく、壊れないように支えるみたいに。
「今から見せるものに負けないで欲しい。きっと、きっと解決策はあるのだから。」
触れていた小さい掌が、服を掴んで丸まった。安物のシャツに皺が寄る。彼女が恐れているものは何なのかはわからないけど、俺にそうあれと願うならそうしよう。なぜなら命の恩人なんだから。
「わかった。」
俺の胸の中で縮こまる握り拳を両手で包む。するとすこしだけ力みが引いた。
「では、送信します。」
視界が暗転した。暗闇の中にいる映像と、程よく身体を包んで過ぎ去る風、そして両手に包んだ彼女の手を感じている。
どうやら彼女の言ったとおりの状況らしい。映像だけが視界を上書きしているようだ。不思議な感覚ではあるが、VRゲームのような感覚に近いためか恐怖心はない。これが懸念していたことなのだろうか?
するとゴローちゃんの声が聞こえる。
{見えていますね。今見えているものはアームサテライトからの映像です。この世界の壁を越えて見える世界の外側です。}
「世界の外側?」
{そうです。すこし角度を変えますね。}
すると視界の下側から光る何かが現れた。どうやら衛星の角度を変えて、見せたいものを映し出しているようだ。
徐々にその姿をフレームに納めていくと、最初の部分が氷山の一角である事が分かった。
「これは・・・星か?」
その見覚えのある姿にドキリとする。漆黒の背景に浮かぶ、光る球体。所謂星と呼ばれるものに近い絵が出来上がったのだ。
だが違和感がある。想像したのは宇宙と恒星で、こんなに黒色の背景ではない。これでは無だ。光る球体以外には星が存在しない世界のようだ
{違います。これは私たちが今足をつけている世界の全体図です。}
俺の想像を遥か上を行く回答だ。
{ダイスケがいない期間、この世界を調べました。自転もしなければ公転もしていない。それどころか他の惑星もない。黒い空間に浮かぶ三次元の世界になります。私の腕は次元の壁を越える機能が備わっているはずですが、何時もココどまり。そこから導き出せる解答が・・・。}
すこし間が空いた。彼女なりの心構えがあるようだ。だが何故か煩わしく思えてはやし立てそうになるが口を閉じた。なんだ、何故俺はあせっているんだ。
{ココはイベントホライゾンと呼ばれる場所、通称"事象の地平線"です。つまりブラックホールの中と言うことになります。}
今度は説明が裏返った。
{知らない時間軸に飛んだとおもっていたのですが、どうやら時間移動すらしておらず。タキオン化した私たちは、ブラックホールに吸い込まれたようです。}
黒い世界に穴が開いたみたいに存在する世界"ヘキサグラム"。想像を超えすぎて妄想みたいだ。
城下の町にも俺の顔が回り、小さな世界でちょっとした有名人になってしまった。
知力と筋力に優れたニューヒーロー!っといったような具合でちやほやされているのだ。いい気分ではある。だけど俺はヒーローではなくニート。人付き合いよりも篭ることを重きにおいて、日の目に当たることを恐れる。ユートピアから大分改善されたが、それでも根っこに残る苦手意識を消すことはできない。自分でも嫌気が指してくる。
「ほんとにいい天気ですネェ!」
「うんうん。そうだね。」
そして今日、ゴローちゃんに呼ばれて広い草原をただ真っ直ぐ歩いていた。死ぬほど外が嫌なのに。ローブを羽織る小さな背中を二時間ほど追いかけている。
「浮かない顔ですねェ。そんなに外が苦手なんですかァ?」
「外より・・・人間が・・・。」
城外に出るまで幾人の視線に晒された。質問攻めの嵐と好奇の眼、そして野次馬たち。まるで動物園のサルか何かになったような気分だ。帰りのことを考えると、無意識に肩が下がる。
「質問っていうのは事前に話しておけば起こらないものなんですよ。処世術のレクチャーが必要ですかねェ。」
「めんどくさすぎるよ・・・。」
「気落ちはわかり___」
ゴローちゃんは不意に立ち止まり、周囲を見回した。
「どうしたの?」
彼女は答えない。俺も同じように視線を回してみるが、特に何もない。雲がなく青々とした空と、緑の草原が末広がりに続いているだけで、ここがどこなのかさえ見当が付かない。
「___ここですね。」
すると、急にローブの袖をまくり短く細い右腕を露にする。
「私たちの身体は"擬態"と言われる作り物。機械の体であることは説明しましたね。」
「ああ。魂の器であり、ジョナサンダグラスの遺品であると言うのは聞いたけど。」
「詳細は省きますが、厳密には違います。ダイスケの"擬態"は宿主の元の身体に近くなるように変化して擬似的な五感をトレースしている。極めて本物に近い偽者ですが、私のは違います。」
細い腕に綺麗な線が入る。眼を凝らすと線というより溝が現れた。暗く陰る溝はエメラルド色の光を放ち、事次いで拳が甲高い音を立てて回転を始めた。
ものすごく速い回転は拳の輪郭をなくし、シルエットだけで言えば裸色のこけしだ。まるで歯医者のドリルのような音を立てるそれを天に掲げる。
「単身次元探索を任されるこの身は、科学技術の粋を集めた"次元渡航"を可能とします。身体よりもスキル優先に構成された身体はロボットに近い。」
天に掲げたその腕は振動したすぐ後に、爆炎を吹き出し、飛んで行った。
「_______嘘だろ。」
一瞬の衝撃と爆風が広がる。吹き飛ばされかねないほどの勢いに耐えると、眼に飛び込んだのは空高く飛翔するゴローちゃんの腕だ。青い空をバックに飛行機雲を作りながら何処までも飛んでいる。
少年時代にみた鹿児島のスペースシャトルの打ち上げ映像を思い出す。雄姿を載せた鉄の箱舟が空を割る姿。それに瓜二つだ。
「これもその一つ。次元探査機能"アームサテライト"。次元の壁を越えて、五次元から位置と時代を割り出すスキルです。」
片腕がないゴローちゃんはドヤ顔でこちらを覗く。驚愕の顔を尊敬の眼差しと勘違いしているのならさせておこう。
幼女に邪推していると、彼女の瞳の奥で紅い光が瞬いていた。
「これから映像をそちらに赤外線で送ります。なに。身体構造は人間に近いわけですが、ダイスケはもう機械の体。特に驚く必要もありませんが・・・。」
瞳の奥を覗き込むような視線を外さずに歩み寄って、残っている左腕で俺の胸に触れた。慈しむように優しく、壊れないように支えるみたいに。
「今から見せるものに負けないで欲しい。きっと、きっと解決策はあるのだから。」
触れていた小さい掌が、服を掴んで丸まった。安物のシャツに皺が寄る。彼女が恐れているものは何なのかはわからないけど、俺にそうあれと願うならそうしよう。なぜなら命の恩人なんだから。
「わかった。」
俺の胸の中で縮こまる握り拳を両手で包む。するとすこしだけ力みが引いた。
「では、送信します。」
視界が暗転した。暗闇の中にいる映像と、程よく身体を包んで過ぎ去る風、そして両手に包んだ彼女の手を感じている。
どうやら彼女の言ったとおりの状況らしい。映像だけが視界を上書きしているようだ。不思議な感覚ではあるが、VRゲームのような感覚に近いためか恐怖心はない。これが懸念していたことなのだろうか?
するとゴローちゃんの声が聞こえる。
{見えていますね。今見えているものはアームサテライトからの映像です。この世界の壁を越えて見える世界の外側です。}
「世界の外側?」
{そうです。すこし角度を変えますね。}
すると視界の下側から光る何かが現れた。どうやら衛星の角度を変えて、見せたいものを映し出しているようだ。
徐々にその姿をフレームに納めていくと、最初の部分が氷山の一角である事が分かった。
「これは・・・星か?」
その見覚えのある姿にドキリとする。漆黒の背景に浮かぶ、光る球体。所謂星と呼ばれるものに近い絵が出来上がったのだ。
だが違和感がある。想像したのは宇宙と恒星で、こんなに黒色の背景ではない。これでは無だ。光る球体以外には星が存在しない世界のようだ
{違います。これは私たちが今足をつけている世界の全体図です。}
俺の想像を遥か上を行く回答だ。
{ダイスケがいない期間、この世界を調べました。自転もしなければ公転もしていない。それどころか他の惑星もない。黒い空間に浮かぶ三次元の世界になります。私の腕は次元の壁を越える機能が備わっているはずですが、何時もココどまり。そこから導き出せる解答が・・・。}
すこし間が空いた。彼女なりの心構えがあるようだ。だが何故か煩わしく思えてはやし立てそうになるが口を閉じた。なんだ、何故俺はあせっているんだ。
{ココはイベントホライゾンと呼ばれる場所、通称"事象の地平線"です。つまりブラックホールの中と言うことになります。}
今度は説明が裏返った。
{知らない時間軸に飛んだとおもっていたのですが、どうやら時間移動すらしておらず。タキオン化した私たちは、ブラックホールに吸い込まれたようです。}
黒い世界に穴が開いたみたいに存在する世界"ヘキサグラム"。想像を超えすぎて妄想みたいだ。
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