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閑話休題

Magic of the Memories  part3 魔法にかけられ損

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「あのー…。ねぇマリエさん?おーい。」
「ふん!」

 壁と壁の間隔が広い廊下は風が通り抜ける、湯上りの体には冷たさを感じるほどだ。赤い高級そうなカーペットの上を先陣を切り歩く、メイド服姿が似合うマリエさんの足取りは刻むように早い。

「知りませんよ貴方なんて!こんな軽薄軽率淫靡な人だとは思いませんでしたとも!ええ!ええ!!」

 金髪の長い髪が荒い歩みのせいで膨らんではしぼんでいる。だがパサつきはなく、いくら大げさな動きで髪が散っても元の形に戻って纏まる。
 先程のお風呂でいたずら心に髪洗い粉を使い、髪を洗ったのだ。最初は遠慮していたが無理やり座らせて洗髪を実行。やられるのは慣れていない様子でもじもじしたり赤面したり少女のような反応で、途中で我に返った俺もなんだか気恥ずかしくなった。
  それから髪をお湯で流すと、マリエさんは洗い上がりを見て嬉しそうに笑った。満足いただけた仕上がりに自画自賛していると、ハッとしてすぐ表情が一変、怒りの強面で俺を突き飛ばしたのだ。少なからずいい事をしたと思ったのだが、まさかここまで怒られるとは。

「ここまで髪が綺麗になっては、まるで二人で洗いあったかのようではありませんか…!困ります!あらぬ誤解を振り撒くようなもの!ああ・・・どうしたら!」
「いや、俺が勝手にやったと言えばいいんじゃ・・・」
「なんですか!!?なにか?!」
「・・・すみません。」
「んーーー!!いいですか!」

 マリエさんは立ち止まり踵を返した。やっと見せてくれたその肌白い顔は赤みが刺していて、湯上がりに上せたというには少し違う気がする。

「普段あんな高級なものは使えないし買わないのです!家に帰れば自作の洗い粉で汚れを落とすのみなので、こんな綺麗な仕上がりにならないんですよ!!」
「だ、だから使いたそうな顔をしていたので・・・やってあげようかと」
「そこが問題なのですよ!!だから軽薄軽率淫靡だというのです!これではまるで二人が洗い合い、あ、愛し合うこっここおこ恋人のようで、ただでさえ独り身が長い私が---------ん・・・んんーーーーーーうがーーーーーー!!」

 まるで風船が破裂したかのように叫ぶ。どうやら自分で言いながら恥ずかしくなったのか、自分の気持ちが耐えかねてて噴出したようだ。さらには顔の赤みが濃くなった。
 どうやら悪戯自体は成功したようだが、そんな恥ずかしがられるとこっちまで意識してしまいそうだ。正直に言えば内心どきどきしっぱなしではある。見目麗しい人がこんなにも俺を意識してしまっている所を見てしまうと、嬉しくも恥ずかしくなるのは当然だ。

 静寂な廊下はマリエの叫びで騒がしい。そんなうだうだと良いわけを垂れているマリエとそれを眺める俺の横を、メイド服を来た女性二人が何か話ながら通っていった。

「あら?マリエとお客様よ…あらあら、髪がすごく綺麗。」
「マリエもすみにおけないわね…」

 どうやら俺たちの事だ。あまりに印象的すぎる会話が耳に残って、気恥ずかしさが先に立って言葉ができない。会話の意図するところはわかりたくないが、どうやらやってしまったらしい。

「・・・・いけ・・。はァ・・・」

 マリエさんはその会話を聞いて、力を抜いて項垂れた。そして何かを呟いているのだが何を言っているのか聞こえない。

「マリエさん。その・・・俺が言うのもなんだけど、気にしたら駄目だよ。」

 顔を勢いよく上げて鋭い目つきで俺を刺す。しまった、怒らせてしまった。そう思っていたら彼女は涙眼ながらに一言。

「責任とって。」
「はい?」

 突飛過ぎる。思考が追いつかない。呆気に取られていたら、追撃が押し寄せた。

「責任とって!恋仲又は爛れた関係に思われた責任を取って!!!」
「な、な・・・え?その」
「悪戯だろうが遊び心だろうがなんだろうが責任を取って結婚して!!この不束者ぉおお!!!」
「おちついて!言葉が滅茶苦茶だ!」
「-----マリエ。なにをしているのですか?」

 まるで修羅場なトークに割ってはいる、少ししゃがれた女性の声。俺とマリエさんはきょとんとして会話を止めた。そして二人とも左側に顔を向けていくと、黒のスーツが似合う高身長の白髪のおばぁさんが立っていた。
 フレームの細い丸眼鏡と顔の皺、お団子ヘアーの白髪が老齢を感じさせるが、長く細いボディラインに背筋が伸びた立ち姿。そこに黒色のスーツが似合いすぎて年齢を感じさせないでいる。有体に言ってかっこいい。
 
 眼鏡越しにも伝わる鋭い目つきがぎょろぎょろ動き、深いため息をついた。


「遅いので何をやっているのかと様子を見に来て見れば、なんですかマリエ。お客様にじゃれ付くのはもうおやめ。後でお説教だからね。」
「・・・ふぁい。ジョセフメイド長。」
「それからダイスケさま。うちのマリエには若い女性として立ち振る舞いもございます。その寛大なお心でマリエの心情をお察しいただいて、あまり苛め過ぎる事のない様にお願いします。」
「...わかりました。」

 二人の間に溜まっていたわだかまりが、まるで空気が抜けるように消えていった。これができる女の違いと言う奴か。




















 道中会話はなく、俺とマリエさんはメイド長に引率されて両開きの扉の前に辿り着いた。慣れた手つきでノックを二回、軽快に刻む。

「ダイスケさまが到着されました。」
{おお!ようやっとか!!はいれはいれ!}

 ドアの向こうから威勢のいい声がした。するとメイド長が反応し、両手を使って扉を押し広げた。徐々に見える景色はまるで童話の世界だった。

 広い間取りに高い天井。煌びやかなシャンデリアの下には、大きな円卓に布かれた純白のテーブルクロス。卓上にはエメラルドのような臼緑が綺麗に栄えるワインボトルが一本と三つのワイングラスだ。そしてそれを込んでいるのが、赤いマントに金の王冠を頭に乗せ、髭を蓄え白髪の老人。

「どうも、始めましてダイスケ。私はこの魔法の国"ヘキサグラム"の王、名はエンツォという。話はこちらにいる淑女から聞いている。」

 笑顔で向かい入れる王様の横には、小さな銀髪の幼女がクッションを二枚、おしりに敷いて椅子に座っていた。彼女は横目で俺に気づき、少し蕩けた瞳をむけた。片手に空いたワイングラスを持っているところを見るに、彼女はかなり飲んでいるようだ。

「お前は・・・」

 俺はこの幼女を見た事がある。忘れるものか。二ヶ月前、崩れ行く家の中で見た顔。名も知らぬ子供。

「貴方ははじめましてですねェ。私は未来の貴方に何度もお会いしていますので、お久しぶり。タイムライン警察のT-56。ごろーちゃんとおよびくださいネェ。」

 幼女とは思えない話し方。目には見えない事情が俺の周りで淀んでいて、関わっていないのに関わってくる。
  まるで海に足を取られて溺れているみたいだ。もがいても逃げ出せないことを、ごろーちゃんを見て強く自覚した。
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