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タイムトラベルの悪夢 編
木の葉の下に住む蜥蜴
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ソリシアが6歳の頃に話を遡るぞ。
いつも通り、俺はパンを焼いて棚に並べていた。すると突然ドアが乱暴に開いた。振り向くと、ドアにはソリシアの父親が立っている。彼は息を切らしてこういったんだ。
「相談にのってくれッ!!」
「うるせぇよ!でけぇ声出すな!さっさと中に入ってくれよ。」
中に入れて椅子をだして、相談事に耳を傾けた。どうせ店もこの時間は暇だったし、ちょうどいい機会だったので新作パンの試食をしてもらった。
相談の内容というのは、ソリシアの予知夢についてだった。
ソリシアは昔から予知夢をよく見ていた。どんなに惨かろうとどんなに酷かろうと、殆どの夢が残酷な内容で必ず実現している。豪雨によって命を落とす者の名前を言い当て、事故が起こる場所を指摘した。ソリシアが予言した者は必ず死ぬことから、街の者の大半から恐れ嫌われていたんだ。
今朝も起き抜けのソリシアの、涙に潤んだ瞳と服から染み出た汗で、今日もまた誰かの死を夢見たのだと悟ったという。だが最近はそれを口にすることはない。ソリシア自身が予知夢を見て伝える事ができても、その者を救えない事に悩んでいた事を知っていたからだ。
どうしたらソリシアが予知夢に囚われずに生きていけるのかと、そういった内容だった。俺は知恵を絞ったがいい案は捻り出せなかった。
苦悶の表情を見て、ソリシアの父は少し落胆していた。
「やはり、いい案はでないか…」
「そうだなぁ…そんな特殊な子供、育てたことがないし…。」
「だよなぁ…どうしたもんか…。」
ため息1つ、そして肩を落とす。こんな状態では気を病んでしまうのはこいつだと思った。だから俺は肩を叩いて無理やり笑顔を使った。
「落ち込んでんじゃねぇ!お前らがそんな顔してたら、子供の立場がねぇよ!泣くのも悩むのも子供の仕事さ!今のうちに辛い目にあったら、なお強く育つもんさ!」
「そっか………そうだよな。」
こんなの場を流すための詭弁だ。そんなことはお互いわかっていても、そう思わないと前にすら向けないのだから仕方がない。
するとソリシアの父親は自分の両頬を叩いて立ち上がる。今にも泣き出しそうな顔はなくなり、毅然としながらも爽やかな笑顔が似合う男に戻っていた。
「うっし!ありがとよパン屋。気分晴れやかだ。」
「気丈に振る舞うな。たまには休めよ。」
「おうよ。了解だ。さっ、行きますかねぇ…」
「何処かにいくのか?」
「服屋にな。明日はソリシアの誕生日だから、貯金をはたきにいくのさ。」
背を向けて扉をあけると、少し立ちどまった。
「…パン屋よ。もし俺達に何かありゃ、ソリシアを頼む。」
「ば、バカ野郎!今生の別れみたいな事をいってんじゃねぇ。てめぇの娘はてめえで育てな。」
「そうだな。」
笑顔でそう言ってパンも買わずに店を出た。
仕事に精を出していたことは知っている。やっとの思いで娘への誕生日プレゼントを買える事を喜んでいたことも。きっと喜んでいる娘の顔を想像していたのだろう、浮き足立ちながら店を出ていったよ。
「なんだよ…まっ普段から変な奴だったしほっときゃいいか。さっ仕事仕事」
「お父さん!!」
「なになに?!今度はなに!!」
次の訪問者は長い髪を風に遊ばせるソリシアだった。息をきらせる姿は小さいながらも、父親にそっくりだ。
「あれ?お父さんは?!」
「さっきまでいたがよ、服屋によるってんで。」
「そんな…」
それだけ言ってソリシアは何処かへ走っていった。尋常じゃない慌てぶりで、少し考えた。
「そうか!!そう言うことか!」
後から聞いたが両親の死を予言していたそうだ。それを言っても、なんど外に出ないでと言っても信じてもらえなかったと聞いている。
俺はソリシアの後を追って外に出ると、もう始まってやがった。
大きな通りに出たソリシアは、遥か向こうで談笑していた両親に叫んでいた。母親の手には大きな紙袋をもう持っていた。おおよそ、父親より先回りして買い上げた所鉢合わせた所だ。
「避けてぇええええ!!おかーーさん!おとーーーーさーーーん!」
声が届いたのかこちらに振り向いた二人、手を此方に向けて振っていた。その後ろには馭者のいない荷馬車が荒れ狂い、迫っていた。
振り上がる蹄に潰されるその一瞬まで、笑顔を向けていた。
「ソリシアッ!!見ちゃ行けねぇ!」
「うわぁぁああ!あああ!」
あまりにも悲惨な光景を、親の死を見せまいと手で目を覆ってやったのを覚えている。これ以上酷いものを見ないでいいようにと、小さな瞼が開かないように抑えてやったのを、この手が覚えている。
いつも通り、俺はパンを焼いて棚に並べていた。すると突然ドアが乱暴に開いた。振り向くと、ドアにはソリシアの父親が立っている。彼は息を切らしてこういったんだ。
「相談にのってくれッ!!」
「うるせぇよ!でけぇ声出すな!さっさと中に入ってくれよ。」
中に入れて椅子をだして、相談事に耳を傾けた。どうせ店もこの時間は暇だったし、ちょうどいい機会だったので新作パンの試食をしてもらった。
相談の内容というのは、ソリシアの予知夢についてだった。
ソリシアは昔から予知夢をよく見ていた。どんなに惨かろうとどんなに酷かろうと、殆どの夢が残酷な内容で必ず実現している。豪雨によって命を落とす者の名前を言い当て、事故が起こる場所を指摘した。ソリシアが予言した者は必ず死ぬことから、街の者の大半から恐れ嫌われていたんだ。
今朝も起き抜けのソリシアの、涙に潤んだ瞳と服から染み出た汗で、今日もまた誰かの死を夢見たのだと悟ったという。だが最近はそれを口にすることはない。ソリシア自身が予知夢を見て伝える事ができても、その者を救えない事に悩んでいた事を知っていたからだ。
どうしたらソリシアが予知夢に囚われずに生きていけるのかと、そういった内容だった。俺は知恵を絞ったがいい案は捻り出せなかった。
苦悶の表情を見て、ソリシアの父は少し落胆していた。
「やはり、いい案はでないか…」
「そうだなぁ…そんな特殊な子供、育てたことがないし…。」
「だよなぁ…どうしたもんか…。」
ため息1つ、そして肩を落とす。こんな状態では気を病んでしまうのはこいつだと思った。だから俺は肩を叩いて無理やり笑顔を使った。
「落ち込んでんじゃねぇ!お前らがそんな顔してたら、子供の立場がねぇよ!泣くのも悩むのも子供の仕事さ!今のうちに辛い目にあったら、なお強く育つもんさ!」
「そっか………そうだよな。」
こんなの場を流すための詭弁だ。そんなことはお互いわかっていても、そう思わないと前にすら向けないのだから仕方がない。
するとソリシアの父親は自分の両頬を叩いて立ち上がる。今にも泣き出しそうな顔はなくなり、毅然としながらも爽やかな笑顔が似合う男に戻っていた。
「うっし!ありがとよパン屋。気分晴れやかだ。」
「気丈に振る舞うな。たまには休めよ。」
「おうよ。了解だ。さっ、行きますかねぇ…」
「何処かにいくのか?」
「服屋にな。明日はソリシアの誕生日だから、貯金をはたきにいくのさ。」
背を向けて扉をあけると、少し立ちどまった。
「…パン屋よ。もし俺達に何かありゃ、ソリシアを頼む。」
「ば、バカ野郎!今生の別れみたいな事をいってんじゃねぇ。てめぇの娘はてめえで育てな。」
「そうだな。」
笑顔でそう言ってパンも買わずに店を出た。
仕事に精を出していたことは知っている。やっとの思いで娘への誕生日プレゼントを買える事を喜んでいたことも。きっと喜んでいる娘の顔を想像していたのだろう、浮き足立ちながら店を出ていったよ。
「なんだよ…まっ普段から変な奴だったしほっときゃいいか。さっ仕事仕事」
「お父さん!!」
「なになに?!今度はなに!!」
次の訪問者は長い髪を風に遊ばせるソリシアだった。息をきらせる姿は小さいながらも、父親にそっくりだ。
「あれ?お父さんは?!」
「さっきまでいたがよ、服屋によるってんで。」
「そんな…」
それだけ言ってソリシアは何処かへ走っていった。尋常じゃない慌てぶりで、少し考えた。
「そうか!!そう言うことか!」
後から聞いたが両親の死を予言していたそうだ。それを言っても、なんど外に出ないでと言っても信じてもらえなかったと聞いている。
俺はソリシアの後を追って外に出ると、もう始まってやがった。
大きな通りに出たソリシアは、遥か向こうで談笑していた両親に叫んでいた。母親の手には大きな紙袋をもう持っていた。おおよそ、父親より先回りして買い上げた所鉢合わせた所だ。
「避けてぇええええ!!おかーーさん!おとーーーーさーーーん!」
声が届いたのかこちらに振り向いた二人、手を此方に向けて振っていた。その後ろには馭者のいない荷馬車が荒れ狂い、迫っていた。
振り上がる蹄に潰されるその一瞬まで、笑顔を向けていた。
「ソリシアッ!!見ちゃ行けねぇ!」
「うわぁぁああ!あああ!」
あまりにも悲惨な光景を、親の死を見せまいと手で目を覆ってやったのを覚えている。これ以上酷いものを見ないでいいようにと、小さな瞼が開かないように抑えてやったのを、この手が覚えている。
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