51 / 114
タイムトラベルの悪夢 編
蜥蜴のマニマニ
しおりを挟む
レンガ調の町並みに、嵌め込まれたようなカフェに俺は座っていた。
パラソルが刺さった白い机に椅子が外観とあっていてお洒落だと思う。ただ1つ、肌寒いという点を除いては居心地のいい場所だ。
外に目をやると、行き交う人の服装はなんというか…中世風だ。
女性の誰もがロングスカートをつけ、男性はコートとシルクハットを被っている。
この状況はなんなのだろうか。時代錯誤なファッションというよりは、俺の認識が近代的すぎる?どれもこれもが情報不足、判断するには早い。
すると、白衣をきた老人が手になにかを持ってきた。
「ほれ、コーヒー。」
「ありがとうございます。」
気さくな物言いと老人のこじんまりとした暖かみに合わせて、銀色のステンレス製のコップから漂う豆を焙煎したいい香りが香しい。豆の匂いが久々すぎて少し酔いそうだが、心は落ち着いている。
「覚醒したてにコーヒーは、少しきつかったかい?」
「いえ。久しぶりのコーヒーで、脳ミソがビックリしたようです。お気遣いありがとう。」
苦手な笑顔を向けて、コップの取手をつかみ口に運ぶ。舌に流れてくる独特な苦味と懐かしさが広がって、色んな記憶が甦ってきた。
佐藤大輔だった頃の記憶。母親が淹れたコーヒー。俺はいつになったらニートに戻れるのだろうか。
気づいた時には懐かしき日々に感涙が流れる。
「泣く程かね…まあいい。改めて自己紹介しよう。私は科学者の"ハーメルン"だ。」
「ハーメルンっていうのは…」
「そうだ。童話にあるハーメルンの笛吹からとっている。娘が好きでね。」
子どもの頃によんでもらった童話を思い出した。ハーメルンの笛吹男。主人公に対する同情と彼が内包する復讐心は、個人的にあまり好きではなかった。それはともかく、彼の通称をつけた人間には共感しか覚えない。
「なるほど。名前の通りに感じます。」
「怒っているね。無理もないと思うが…」
「お話次第ですよ。それで、あなたは何のために僕をこの世界へ?ハーメルンのようになにか復讐でも?」
「私は五次元の観測をテーマにおいた研究を、40年間続けている。そのかいあって現在は、五次元空間なる"タイムラインスペース"の観測が可能となった。」
ハーメルンは白い画用紙に点を描く。それを中心に横、縦、斜めを書き入れると、優しい声色で身振り手振りを交えながら説明を始めた。
「この絵こそ我々がいる三次元。そこに一時空を足した四次元。もし仮に1つの世界という"個"として、空間に浮かんでいる訳だ。」
立体な長方形をハーメルンは円で包んだ。白い画用紙に描かれた絵。彼の言う3次元とは俺たちが立っているこの世界「現実」と言う表現をしているのだろう。
次元とは学術的に言えば視覚角度を意味する。色んな角度から見れば、それは2次元にも3次元にもなる。
ここに時間と言う概念を足すと、3次元+1次元という言葉になるのだが、流れゆく3次元を観測する次元があってこそ時間があると証明出来る。とどのつまり、4次元という発言になる訳だ。
「つまり4次元と言う角度を上がると五次元となる訳だ。これはどう言った次元空間かと言うと、次元すら物理的事象となる世界だ。」
「...上手くイメージがつかない。」
「まぁあれだ。ビデオでも見ている感じだ。早送りしたり、見たい場面に飛ばしたり、好きなように干渉出来るのだ。」
・が1次元
―が2次元
立体ならば3次元
そこに時間を加える。つまり奥行。流れる座標点が常に変動する空間を4次元とする。
ここまで来ると5次元はそれを干渉できる世界になる。
というのがハーメルンの主張のようだけど、俺にはイマイチ理解が及んでいない。そういう世界があるんだなと、なんとなくで理解するしか無さそうだ。
「私たちはそれをタイムラインスペースと呼んでいる。そこは今いる私たちの過去、現実、未来が干渉可能な状態で存在している。私はソリシアという娘を保護しているんだが、彼女はそれを観測ができるんだ。」
「…その彼女が僕を…」
「そうだ。救助したんだ。」
説明文を詳しく聞いたところでわからない。二人分の知識と超人並みの理解力があっても、知らないことを分かることはない。
だがハーメルンは言った。救助だと。
「5年前。時間帯の観測実験を行ったのだ、私の次元観測機の試験運用と次元時空間干渉能力のテストを兼ねてね。だがテスト中に五次元空間に大きな揺らぎが発生した。微々たる振動ならいくらでもあるが、我々が強く感じる程の揺らぎははじめてだった。あのときは大慌てして、ほれ、手に怪我を。」
ハーメルンは皮と骨だけの手の甲に火傷傷のようなものを見せる。痛々しく赤く爛れ塞がる傷を見て居られなくて、俺は話題を修正した。
「揺らぎですか…」
「次元の壁でも叩いたのか…。原因は定かではない。だが、我々が一番驚いたのは、空間をさ迷った人間の型を取る思念体が漂ってきたことだ。それが君だったんだ。」
あの戦いで、次元観測機による暴走が五次元の壁を開いてしまったのだろう。それによる影響が衝撃となって、彼らの言う揺らぎに変わってしまったのだ。そして俺もその衝撃で五次元空間まで吹き飛ばされた。そういうことだろう。
「俺は…その…死んだと言う事か?」
「思念体が魂と言う定義当てはまるのなら、死んだということだろうな。」
「そうですが…」
「……ソリシアは魂のサルベージを実行。私と友人が作った人形にその思念体を………ん?」
会話が切れた。俺には何変哲もない光景が続いているだけなのに、ハーメルンは何かに気づいたようだった。
俺も耳をすましていると、確かに何か甲高い声が微かに聞こえる。殆ど耳での認識が難しい音量だ。
ハーメルンはカフェの向かいにある、暗く陰った路地を見つめて呟いた。
「悲鳴だ…」
その言葉を聞いて、俺はコーヒーを一気に飲み干して席を立った。
「すみませんが、様子をみてきます。」
「まちなさい!」
「話は後です!先に研究所に戻ってください!」
柵を越え、道に突っ込んで人を掻き分け、駆け足で路地裏に入り込んだ。
パラソルが刺さった白い机に椅子が外観とあっていてお洒落だと思う。ただ1つ、肌寒いという点を除いては居心地のいい場所だ。
外に目をやると、行き交う人の服装はなんというか…中世風だ。
女性の誰もがロングスカートをつけ、男性はコートとシルクハットを被っている。
この状況はなんなのだろうか。時代錯誤なファッションというよりは、俺の認識が近代的すぎる?どれもこれもが情報不足、判断するには早い。
すると、白衣をきた老人が手になにかを持ってきた。
「ほれ、コーヒー。」
「ありがとうございます。」
気さくな物言いと老人のこじんまりとした暖かみに合わせて、銀色のステンレス製のコップから漂う豆を焙煎したいい香りが香しい。豆の匂いが久々すぎて少し酔いそうだが、心は落ち着いている。
「覚醒したてにコーヒーは、少しきつかったかい?」
「いえ。久しぶりのコーヒーで、脳ミソがビックリしたようです。お気遣いありがとう。」
苦手な笑顔を向けて、コップの取手をつかみ口に運ぶ。舌に流れてくる独特な苦味と懐かしさが広がって、色んな記憶が甦ってきた。
佐藤大輔だった頃の記憶。母親が淹れたコーヒー。俺はいつになったらニートに戻れるのだろうか。
気づいた時には懐かしき日々に感涙が流れる。
「泣く程かね…まあいい。改めて自己紹介しよう。私は科学者の"ハーメルン"だ。」
「ハーメルンっていうのは…」
「そうだ。童話にあるハーメルンの笛吹からとっている。娘が好きでね。」
子どもの頃によんでもらった童話を思い出した。ハーメルンの笛吹男。主人公に対する同情と彼が内包する復讐心は、個人的にあまり好きではなかった。それはともかく、彼の通称をつけた人間には共感しか覚えない。
「なるほど。名前の通りに感じます。」
「怒っているね。無理もないと思うが…」
「お話次第ですよ。それで、あなたは何のために僕をこの世界へ?ハーメルンのようになにか復讐でも?」
「私は五次元の観測をテーマにおいた研究を、40年間続けている。そのかいあって現在は、五次元空間なる"タイムラインスペース"の観測が可能となった。」
ハーメルンは白い画用紙に点を描く。それを中心に横、縦、斜めを書き入れると、優しい声色で身振り手振りを交えながら説明を始めた。
「この絵こそ我々がいる三次元。そこに一時空を足した四次元。もし仮に1つの世界という"個"として、空間に浮かんでいる訳だ。」
立体な長方形をハーメルンは円で包んだ。白い画用紙に描かれた絵。彼の言う3次元とは俺たちが立っているこの世界「現実」と言う表現をしているのだろう。
次元とは学術的に言えば視覚角度を意味する。色んな角度から見れば、それは2次元にも3次元にもなる。
ここに時間と言う概念を足すと、3次元+1次元という言葉になるのだが、流れゆく3次元を観測する次元があってこそ時間があると証明出来る。とどのつまり、4次元という発言になる訳だ。
「つまり4次元と言う角度を上がると五次元となる訳だ。これはどう言った次元空間かと言うと、次元すら物理的事象となる世界だ。」
「...上手くイメージがつかない。」
「まぁあれだ。ビデオでも見ている感じだ。早送りしたり、見たい場面に飛ばしたり、好きなように干渉出来るのだ。」
・が1次元
―が2次元
立体ならば3次元
そこに時間を加える。つまり奥行。流れる座標点が常に変動する空間を4次元とする。
ここまで来ると5次元はそれを干渉できる世界になる。
というのがハーメルンの主張のようだけど、俺にはイマイチ理解が及んでいない。そういう世界があるんだなと、なんとなくで理解するしか無さそうだ。
「私たちはそれをタイムラインスペースと呼んでいる。そこは今いる私たちの過去、現実、未来が干渉可能な状態で存在している。私はソリシアという娘を保護しているんだが、彼女はそれを観測ができるんだ。」
「…その彼女が僕を…」
「そうだ。救助したんだ。」
説明文を詳しく聞いたところでわからない。二人分の知識と超人並みの理解力があっても、知らないことを分かることはない。
だがハーメルンは言った。救助だと。
「5年前。時間帯の観測実験を行ったのだ、私の次元観測機の試験運用と次元時空間干渉能力のテストを兼ねてね。だがテスト中に五次元空間に大きな揺らぎが発生した。微々たる振動ならいくらでもあるが、我々が強く感じる程の揺らぎははじめてだった。あのときは大慌てして、ほれ、手に怪我を。」
ハーメルンは皮と骨だけの手の甲に火傷傷のようなものを見せる。痛々しく赤く爛れ塞がる傷を見て居られなくて、俺は話題を修正した。
「揺らぎですか…」
「次元の壁でも叩いたのか…。原因は定かではない。だが、我々が一番驚いたのは、空間をさ迷った人間の型を取る思念体が漂ってきたことだ。それが君だったんだ。」
あの戦いで、次元観測機による暴走が五次元の壁を開いてしまったのだろう。それによる影響が衝撃となって、彼らの言う揺らぎに変わってしまったのだ。そして俺もその衝撃で五次元空間まで吹き飛ばされた。そういうことだろう。
「俺は…その…死んだと言う事か?」
「思念体が魂と言う定義当てはまるのなら、死んだということだろうな。」
「そうですが…」
「……ソリシアは魂のサルベージを実行。私と友人が作った人形にその思念体を………ん?」
会話が切れた。俺には何変哲もない光景が続いているだけなのに、ハーメルンは何かに気づいたようだった。
俺も耳をすましていると、確かに何か甲高い声が微かに聞こえる。殆ど耳での認識が難しい音量だ。
ハーメルンはカフェの向かいにある、暗く陰った路地を見つめて呟いた。
「悲鳴だ…」
その言葉を聞いて、俺はコーヒーを一気に飲み干して席を立った。
「すみませんが、様子をみてきます。」
「まちなさい!」
「話は後です!先に研究所に戻ってください!」
柵を越え、道に突っ込んで人を掻き分け、駆け足で路地裏に入り込んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる