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決戦編

どうやったってブギウギ

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 モノとペンタを助けた後、島を駆け回っていた。
しばらく走っていると不自然な森の中に、小屋が現れる。

「やられた...」

  薮から眺めていると、男は予想外の光景に歯噛みする。それは戦闘の痕跡が撒き散らされていたからだ。
  足元で光る薬莢の群れ。小屋に向かうに連れてらその数は増している。そして地面には幾つもの弾痕で穴が開いていて、森の中にはドーベルマンの兵士たちがたおれていた。ここで間違いないと、1歩足を出して森を抜けた。抜けようとした。

瞬間、頭上から発砲音が注ぐ。

  急いでパーカーのフードを被り、頭上の攻撃から守るように両腕で頭を隠す。そして同時並行的に手首に巻いた輪っかのボタンを押す。パーカーの光学迷彩が溶け身体が現れた。

「これで凌げるか...」

  生地に仕込まれたナノマシンが繊維を這い上がり、フードの天辺と袖に集まる。高密度な盾。ナノマシンが集まった分少しだけ重みを感じた。


  ナノマシンが仕込まれたこの光学迷彩、ボディーアーマーに盾と何でもござれの万能パーカー。緊急時の防御プロトコルで、ボタンを押せば両腕とフードにナノデバイスが集合するようになっていた。


  空気が破裂したような音の後に、腕から肩を抜けていく強い衝撃が襲う。あまりに突発ではあるが、腕が空の方向に吹き飛ばされかけた事、大きく海老反りにさせられた事。それ以外は特になく、耐えた。腕の表面が痺れているが、身体は繋がっているので動く。
  索敵速度がずば抜けていて、躊躇いのないヘッドショット。そして威力からかなりの超口径。

「スコープだな。上空支援射撃の腕はなまっていない。」

  背後の茂みから微かな音がした。ナイフを手に取り、地べたに転がっていた石つぶてを蹴る。地面共々空中を舞って、茂みから出てきた黒い巨漢にぶち当たった。石はガスマスクに直撃、黒い最新装備が砂を浴びて汚れていく。

「うぉおお!なんだぁ!?」

  石と土砂の先制攻撃に狼狽している様子だ。足元を少し崩していたので、チェストリグの襟元を引っ張り込んだ。

「よぉドクター!久しぶりだな!」
「な、なんで俺の名前を知って!!」

  手首を返すと、仰向けに倒れたドクターにナイフを向ける。
なにかを察したドクターは銃を手放して両手を上げた。

「お利口さんだな。」

  俺もナイフをポケットに仕舞う。天を仰ぎ、3·2·2と無線のチャンネル番号を指を立てて示す。するとすぐに無線は入ってきた。

[もしドクターを傷つけたら、そのスカしたフードに穴が開くよ。]
「墓でも作るつもりならやってみろよ。下にいるドクターにも穴が空くぜ。」
[そんなへまをすると思う?]

  後頭部に硬い感触がした。カチリと劇鉄を下ろす音が聞こえる。

「オートマチックシューティングにしては精度がいいな。」
「遠隔射撃よ。ドローンみたいなもん。…てかあんたただれ?」
「ひどいなぁ…」

  両手をゆっくりあげる。そのままゆっくとフードを脱いでいく。

「ノーズマン…」
「久しぶりだな。ドクターは相変わらずスカウトは向いていない。」

  驚いて脱力するドクター、そしてスコープは銃を下ろした。
手を差し出すとそれをつかんだ。それを引いて起こしてやる。

  後ろを振り向くと、スコープは腕組みをして苛立たしく此方を見ていた。

「なんだよ。先にハグしてほしかったか?」
「違うわよ!そんな汗臭い身体を向けないでよ変態!」
「素直になりなよスコープ。」
「うるっさい!しね!」

  幼く可愛らしい外見なのでいくら怒ってもらっても、此方としては無問題。

「ノーズマン。あんたブレイン使ったわね。元々人間離れしていたけど、今なんてもっと人間離れしてる。」
「…まぁな。純正を使わせてもらったぜ。」
「ジョナサンダグラスのブレインか…」
「おかげでこの島にこれたんだ。お前らにも会えたしな。」

すると無線がはいる。

[よぉホワイト!此方ポップ!ブリッジ制圧した!]
「流石だぜブラック。協力してくれたリッカーマンにも礼を言っといてくれ。」
「仲間がいるのかい?」
「そうだ。ドクターにも後で、紹介する。」

  会話が終わる頃に頭の中から針が飛び出すかのような痛み。思考が切れて、視界に写るものが映像に切り替わる。そして流れていく映像は、意思とは真反対の反応をして唐突に切れた。
急に現実に戻ると崩れそうなになった。そんな俺をドクターが支えてくれた。

「どうした?フラッシュバックか。」
「いや、これは違う。みんな森を見てみろ。」

  振り向くと、今まで倒れていた兵士の死体が立っていた。地面に伏せていた遺体が、その足を使ってたって、俺たちを怪しげな眼光をもって見つめている。

「なんだよこれ…」
「なんか起きてるみたいだぜ。とりあえず銃をもて。」












「ははッ!ノーズマンとリッカーマンも合流したか。だが問題ないり単独飛行で内地まではいける。」

  四角い物体に触れ続ける阿久津に手も脚もでない。殴っても物を投げても、その銀色の身体をすり抜けていく。

「そう落胆するな。もうすぐ終わる。」

どうすればいい。
一度落ち着こうと思い、立ったまま目を閉じる。



暗闇の中に誰かがいた。男が二人、此方を見ているがその姿を俺がみることはできない。でも何となくわかる。脳が勝手に認識しているような感覚だ。
彼らはダグラス家の祖父と孫だ。天才科学者のジョナサン、ドーベルマンから離反したユーリス。

[よぉ!お前、もう諦めてんのか?]

ユーリスの声が響いている。

…仕方ないだろう。
[情けねえ。俺の技術を渡してやったのに…だが諦める必要はねぇ!]
[その通り。君には進化した脳がある。]

また別の声が聞こえた。おそらくだがジョナサンだ。

進化した…脳?
[私の薬によって変化した脳は、自分の意思によってその姿をかえる。]
どういうことだ。
[奴の身体は入れ物だ。奴の中に入りさえすれば、勝機はある。私が君の脳の進化を促す、あとは君があの中に入りたいと念じれば君は入れる。]
…おれ……できるかな?
[できる…なんて私が軽々しく言えないが、でも可能性ならある。]
[頼むぜ兄弟!自分の足で進むやつはな、今は見えなくても、終われば見える明日がある。頑張れよ。それと……スコープとドクターを助けてくれな。]




  次に目を開いた時。視界に入るもの全てから刺激が伝わってきた。
感覚、視界が確実に変わっている。言葉にはできない。けれどその見えたものの本質を勝手に理解しているような。検索ワードから予測が出てくるような感覚だ。

「ん?…佐藤大輔。」

銀色のマネキンのような阿久津がおれを見て、少し驚いている。

「お前は、ブレインによって脳が変化したようだな。」
「そんなことはどうでもいい。」

俺は阿久津に歩み寄って彼の身体に触れた。彼のナノマシンで構成された身体は、機械とは思えないほどに人肌だ。

「何をしている。」
「お前がこのよくわからない機械にしてることと同じことをしている。」

念じた。ジョナサンにいわれた通り、この身体から奴へとおれの魂を転移せよと念じる。
徐々に意識の中で、記憶が無くなっていく。

「なんだこの感覚は…」

個人としての認識がまるで、少しずつ溶けていくような感覚。こぼれていくように頭の中身に空白が生まれていく。

「…あぁまずい。佐藤大輔今、それを…すると制御が、デキナク、ナッテ」

彼の身体はまるで溶けるように崩れていった。
個人として意識する自分の形を留めることができなくなったのだ。俺の自己認識が阿久津光太郎の自己認識に混ざることで、彼は自分が誰なのか、そもそも人間だったのかさえわからなくなったのだ。

溶けたナノマシンから脳ミソと代替脊髄が浮き出てきた。地面に転がるそれを、勢いよく踏み潰した。

「終わった…」

この争いに終止符を打った。
争いの種になっていた。阿久津光太郎はもう現存しない。
  だがおれも自己認識が曖昧になってしまった。どうやら俺は、魂を彼に混ぜたことで、自分の記憶もなくしてしまった。俺は、上で戦っていた仲間たちの名前を思い出せるだろうか?

「とりあえず、帰るか。」

  その場を立ち去ろうとした時、四角い機械が膨張しだした。

  まるで心臓のように膨れては萎んだりを繰り返している。頭を回転させてもどうすればいいかわからなくなってしまった。

齷齪している間に、全てをのみこむ光が生まれた。 
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