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探求編
お父さんとお母さん
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研究室や倉庫と比べて、落ちついた雰囲気のある監督室に僕はいた。
無機質な廊下と違い、グレーの絨毯を敷き詰め、色んな本が並ぶ木製の棚と大きくて立派な机。その椅子には白衣を着た女性が足を組んで座っていた。彼女は僕を見て、目を細めた。
「私の部屋でバナナ食べるなんて、マナー違反じゃない?」
「ごめん、テレサ。朝食喰いそびれたんだよ。マディソンとカレンと喋ってたら。」
「マナー違反。」
「わかった、わかったから。」
バナナのまろやかな果肉を一気に頬張ると、テレサは綺麗で白い親指を立ててグッドサインを向けた。
「ていうか…ここ、ジョナスの部屋だろう…」
「聞こえたわよ。」
「ごめん、悪かった!それでお呼びになったご用件はなんですかテレサ監督代行。」
「随分と、話し方が達者になったな。」
背後から声がした。遠い記憶の中にあった懐かしく、心が落ち着くような声。
振り向けば真新しい白衣を着たジョナサンダグラスが、シワシワの笑顔で立っていた。僕は彼を抱き寄せる。その光景を見ながらテレサも微笑んだ。
「おかえりなさい、予定よりはお早いおかえりですね。ジョナサン。」
「お帰り父さん。」
「ただいま、息子よ。テレサも見ない間に大人になったようだね。と井戸端会議でもしたいが、早速話がある。」
僕は床に座り、テレサは監督官の席に座る。そしてジョナサンは椅子を一つ用意して僕の横に座った。
「モノには言っていなかったが、しばらく日本にいたんだ。これは失踪したダニーパーカーの件を調査するためだ。」
ダニーパーカー。ジョナサンの元助手で、僕の臨床試験に立ち会う筈だった男。彼は当日になって日本の親戚の家に帰ったのだ。
「書面上では日本の鹿児島県志布志市に戻っている筈だったが、彼はいなかった。」
「いなかった?」
「もっと言うと日本に帰国していない。」
「…と言うと?」
テレサは口元を手で押さえて、少しの涙を流していた。ダニーはテレサの恋人だったのだ。
「だが指定された場所に向かうと、有る男が立っていた。名前も知らない彼はダニーの友人だとは言っていた。どうも怪しくて友人ではなさそうだと思っていたら案の定だ。彼らはダニーの仕事仲間。"諜報機関"と言う名前の諜報機関だった。」
日本に根強く残った忍者の文化は形を変えて、スパイとなり自国をまもるために存在した。
彼ら"諜報機関"は離島で起きた毒ガス事件を受けて、バックにいたバイオコープ。その社長、阿久津光太郎を追っている。そして時を経て、このユートピアに潜入していた。というのが経緯だ。だが、彼は日本にもアメリカにも戻っていない。と言うのが全貌だった。
「テレサ…本当にすまない。見つけられなかったが、足取りは追えた。彼はユートピアにいる。」
「いいのよ。…しかたないわ…」
「父さん、動悸が激しい。まだなにかあるの?」
悲しみの呼吸、激しく脈打つ心臓。人間が鳴らす音は僕にはよく聞こえていた。
「そうだ。諜報機関の力を借りて資金回りと物質搬入を探っていた。テレサ、バイオコープからの搬入予定に妙な事はないか?」
「言われた通りに監視してたけど、特にはなかった。」
「昨日、40フィートのコンテナが2台。予定外で搬入されている筈だ。」
「確かにあったけど、世紀の手順で書類も来たし、中身も確認して何も無かったわ。」
「中身はバイオニックで強化された兵隊だ。」
「兵隊ですって!なんでそんなことを!」
バイオニック。バイオコープの最も信頼された事業で、生体を機械でサポートすることを売りにし、裏稼業では戦場向けに強化も行ってきた。その私兵が倉庫で眠っているのだ。
「実は情報機関のほかに、バイオコープを追っていた奴らがいた。名前は国連。彼らの資金運営を追って、島を割り出した。一週間もしないうちにここへ乗り込んでくるだろう。」
「証拠隠滅の為に、私兵を呼んだのね…これからどうするの?殺されるのをまつ?」
陰謀論。マディソンに借りたコミックによく出てきた悪役のような計画は、親しいもの達へと牙が向きつつあるようだ。
僕は立ち上がって父さんをみた。
「プランがある。」
ジョナサンダグラスは食堂についた。いつも綺麗で清潔感のある机には、ハンバーガーがトレイに乗っている。一口、また1口と口に運んで懐かしい味わいを楽しむ。
「打ち合わせもなくここにいると言うことは、そう言うことでいいんだね。」
「ええ、まぁなんとかよ。二徹三徹じゃ効かなかったんだから、感謝してよね。」
ジョナサンの背後のテーブルから返事が聞こえてきた。
「五次元を覗く者。肩書きは最高にクールだね。」
「ありがとうおじいちゃん。でも副作用がキツくて、できることならやめてほしいわ。」
「どんなだ?」
「偏頭痛。あと吐き気」
次元。人間の視覚で認識する世界を数学のグラフ指標で表したものだ。0次元の点から始まり、線、画面、立体までを3次元とし、全ての次元に時間の概念を足した4次元。
これらを一組の世界とし、枝分かれした複数の世界を見られる次元。これを五次元としている。
彼女はそれを可能にする機械を作ったのだ。
残りの一口を口に放り込み、呑み込んだ。
「明後日には決行する手筈だ。君も備えろ。」
「了解。また眠れなさそうね____とか言ってたらなんか来たわよ」
「とーさーーん!」
廊下に地響きが近づいてきて、息子の声が反響する。ダグラスは立ち上がるとちょうどそのタイミングでモノがスライディングしてきた。
「と…ジョナサン!テレサがいない!」
「なに!!」
彼は思い違いをしていた。バイオコープの悪行を暴き、正義を挫くために私を調査させたのだと。実際はダニーパーカーを探すためだったのだ。
無機質な廊下と違い、グレーの絨毯を敷き詰め、色んな本が並ぶ木製の棚と大きくて立派な机。その椅子には白衣を着た女性が足を組んで座っていた。彼女は僕を見て、目を細めた。
「私の部屋でバナナ食べるなんて、マナー違反じゃない?」
「ごめん、テレサ。朝食喰いそびれたんだよ。マディソンとカレンと喋ってたら。」
「マナー違反。」
「わかった、わかったから。」
バナナのまろやかな果肉を一気に頬張ると、テレサは綺麗で白い親指を立ててグッドサインを向けた。
「ていうか…ここ、ジョナスの部屋だろう…」
「聞こえたわよ。」
「ごめん、悪かった!それでお呼びになったご用件はなんですかテレサ監督代行。」
「随分と、話し方が達者になったな。」
背後から声がした。遠い記憶の中にあった懐かしく、心が落ち着くような声。
振り向けば真新しい白衣を着たジョナサンダグラスが、シワシワの笑顔で立っていた。僕は彼を抱き寄せる。その光景を見ながらテレサも微笑んだ。
「おかえりなさい、予定よりはお早いおかえりですね。ジョナサン。」
「お帰り父さん。」
「ただいま、息子よ。テレサも見ない間に大人になったようだね。と井戸端会議でもしたいが、早速話がある。」
僕は床に座り、テレサは監督官の席に座る。そしてジョナサンは椅子を一つ用意して僕の横に座った。
「モノには言っていなかったが、しばらく日本にいたんだ。これは失踪したダニーパーカーの件を調査するためだ。」
ダニーパーカー。ジョナサンの元助手で、僕の臨床試験に立ち会う筈だった男。彼は当日になって日本の親戚の家に帰ったのだ。
「書面上では日本の鹿児島県志布志市に戻っている筈だったが、彼はいなかった。」
「いなかった?」
「もっと言うと日本に帰国していない。」
「…と言うと?」
テレサは口元を手で押さえて、少しの涙を流していた。ダニーはテレサの恋人だったのだ。
「だが指定された場所に向かうと、有る男が立っていた。名前も知らない彼はダニーの友人だとは言っていた。どうも怪しくて友人ではなさそうだと思っていたら案の定だ。彼らはダニーの仕事仲間。"諜報機関"と言う名前の諜報機関だった。」
日本に根強く残った忍者の文化は形を変えて、スパイとなり自国をまもるために存在した。
彼ら"諜報機関"は離島で起きた毒ガス事件を受けて、バックにいたバイオコープ。その社長、阿久津光太郎を追っている。そして時を経て、このユートピアに潜入していた。というのが経緯だ。だが、彼は日本にもアメリカにも戻っていない。と言うのが全貌だった。
「テレサ…本当にすまない。見つけられなかったが、足取りは追えた。彼はユートピアにいる。」
「いいのよ。…しかたないわ…」
「父さん、動悸が激しい。まだなにかあるの?」
悲しみの呼吸、激しく脈打つ心臓。人間が鳴らす音は僕にはよく聞こえていた。
「そうだ。諜報機関の力を借りて資金回りと物質搬入を探っていた。テレサ、バイオコープからの搬入予定に妙な事はないか?」
「言われた通りに監視してたけど、特にはなかった。」
「昨日、40フィートのコンテナが2台。予定外で搬入されている筈だ。」
「確かにあったけど、世紀の手順で書類も来たし、中身も確認して何も無かったわ。」
「中身はバイオニックで強化された兵隊だ。」
「兵隊ですって!なんでそんなことを!」
バイオニック。バイオコープの最も信頼された事業で、生体を機械でサポートすることを売りにし、裏稼業では戦場向けに強化も行ってきた。その私兵が倉庫で眠っているのだ。
「実は情報機関のほかに、バイオコープを追っていた奴らがいた。名前は国連。彼らの資金運営を追って、島を割り出した。一週間もしないうちにここへ乗り込んでくるだろう。」
「証拠隠滅の為に、私兵を呼んだのね…これからどうするの?殺されるのをまつ?」
陰謀論。マディソンに借りたコミックによく出てきた悪役のような計画は、親しいもの達へと牙が向きつつあるようだ。
僕は立ち上がって父さんをみた。
「プランがある。」
ジョナサンダグラスは食堂についた。いつも綺麗で清潔感のある机には、ハンバーガーがトレイに乗っている。一口、また1口と口に運んで懐かしい味わいを楽しむ。
「打ち合わせもなくここにいると言うことは、そう言うことでいいんだね。」
「ええ、まぁなんとかよ。二徹三徹じゃ効かなかったんだから、感謝してよね。」
ジョナサンの背後のテーブルから返事が聞こえてきた。
「五次元を覗く者。肩書きは最高にクールだね。」
「ありがとうおじいちゃん。でも副作用がキツくて、できることならやめてほしいわ。」
「どんなだ?」
「偏頭痛。あと吐き気」
次元。人間の視覚で認識する世界を数学のグラフ指標で表したものだ。0次元の点から始まり、線、画面、立体までを3次元とし、全ての次元に時間の概念を足した4次元。
これらを一組の世界とし、枝分かれした複数の世界を見られる次元。これを五次元としている。
彼女はそれを可能にする機械を作ったのだ。
残りの一口を口に放り込み、呑み込んだ。
「明後日には決行する手筈だ。君も備えろ。」
「了解。また眠れなさそうね____とか言ってたらなんか来たわよ」
「とーさーーん!」
廊下に地響きが近づいてきて、息子の声が反響する。ダグラスは立ち上がるとちょうどそのタイミングでモノがスライディングしてきた。
「と…ジョナサン!テレサがいない!」
「なに!!」
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