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脱却の為の手順。

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  家の外に出ると一匹の猿が立っていた。何故だろうか、既視感がよぎる。

「何分ここの暮らしに苦労すると思ってな。こいつが大輔のお付きをする。」
「おいお前。もしかして俺のチョコスティック取った猿じゃないのか?」

猿は笑いながらウキウキ言ってとぼけているが、俺にはわかる。ふてぶてしい態度は間違いなく奴だ。

「憎たらしい笑い方だなおい!顔覚えてるからなこのクソザルがぁ!!」
「うきゃ!うきゃーーー!」

すると猿は地面の砂に指をたてて、英語を書き出した。
It was tasty
おいしかった。

「よし。今夜は猿鍋だ。覚悟しろよ。」
「うきゃ!うきゃきゃ!」
「すまんすまん。まだ子供なんだ許してやってくれ。…ああそれとコイツに名前はない。好きにつけてやってくれ。」
「そうかそうか。ならスティックだ。よろしくなクソザル。」
「うきゃ!!」

あからさまに嫌そうな態度が腹立たしい。そんな雰囲気を嗅ぎ取って、モノが話を進める。

「とりあえず鍛えようか。」
「え?いきなり?」
「時間を無駄にはできない。それに大輔はすぐサボりそうだしな。」

ゴリラの観察眼というのは恐ろしい。ニートの本性をすぐに見破った。

「まずはかけっこだ。」












 森の中を駆ける。今度は何かを追いかけるのではなく、その逆で追いかけ回されている。

「おいおい!コイツら完全にたかがはずれてんだろおおぉが!!」

先ほどまで喧嘩していた憎たらしいスティックとその仲間猿たち、可愛げのあった眼は完全に獲物を捉えようとする完全な野獣になっている。沸き立つ補食性が、彼らを駆り立てているように見える。
 並走し木々を飛び回るモノは俺に言う。

「死にはしない。ほんの少し齧られる程度さ。」
「その感覚やめてくれ!ゴリラと人間は違うから!人間の方が脆弱ですからぁああ!」

横目で後ろを見ると、数多の猿を抜いて、スティックが先頭を走っている。あの憎たらしい笑顔が煌めいた。

「スティッキー悪かった!俺が悪かったから!チョコスティックは忘れるから、おぉ!!」

土から少し隆起した所に足を取られ、転げ回った。その瞬間を逃すわけがなく、猿たちは嬉々として飛び上がった。

「悪かったかよ!頼むから優しくしてくれぇえええ!!」

  木漏れ日が射し込んで、猿たちの飛び上がるその姿が陰り、音が止まる。死の間際とはこんな緩やかにくるのだろうか。全てがゆっくりと動く中で、俺は死を確信した。

「死ねウキャ!!」
「お前いま喋ったろうってやめ!!」











散々齧られなぶられた後、集落に戻った。

「次は武装した相手に対する戦闘訓練だ。」

今度はモノと一緒に着いてきたという元ペンタ守衛隊の一頭を連れてきた。銀の兜と鎧を纏い、木製のハンマーで武装したゴリラが対面にいる。

「今度は絶対嘘はなしだぞ。あの猿ども齧るだけじゃなくてお尻の…」
「わかったもういい。あいつらには後で言っとくから。」

モノは俺が受けた辱しめの内容を遮ると、有無を言わさず説明を続けた。

「ペンタのコミュニティは文字だけではなく、武器も扱える。槍、ハンマー、吹き矢、そして弓。今後はその対策として模擬戦を始める。大輔はなにか使えそうな物はあるか?」

  目の前にはモノが用意した武器が地面にならんでいる。
木製だが鋭く尖り、切っ先が血で黒く汚れた槍。
巨木を丸く加工したハンマー。
真新しくほころびのない、さっき作ったかのような吹き矢。
  そして使い古しの弓が置いてあった。弓を見ると、高校時代の部活動を思い出す。

「…弓かな。」
「ほぅ。」

  弓を手に取り、色んな部分を触診する。使うには十分の強度だが、弦の張りが足りないようだ。これではあまり威力がない。

「弓はよく使っていたよ。子供の時だけどね。」
「では実力を見せてくれ。初め!」
「え?!まてよ!準備ってもんが!」

  号令を聞いた武装ゴリラは鎧を鳴らしながら地を駆ける。土が舞い、地鳴りを上げて進む。

  狙い目は矢を取るときから決めていた。3つの矢しかない状況で相手の戦意を削ぐには、彼らが頼る物を破壊する必要がある。それは鎧を支える紐とハンマーの根元。

 矢を取り、放つまでの時間は2秒もかかっていない。
  まず一つ目の矢は武装ゴリラの数歩先に激突。跳ね返り、何らかの皮でできた紐が矢に触れて切れる。突然防御の要たる鎧が重力に引かれて落ちるのに動揺して動きが僅かに止まる。
 その隙を逃さない。ゴリラが動揺して止まるまでに2つ目の矢を放つ。ハンマーの細くなった持ち手の部分を突き抜けた。
木で出来ていたことが幸いし、見事に持ち手と木殺しの部分が完全に分離、防具と武器の両方がほぼ同時に地に落ちる。

「うがぁあ!!」

いきなり装備をなくしたゴリラが吠える。そのゴリラの顔を、三つ目の矢がかすめて飛んでいく。すると動きが完全に止まった。

「王手かな。」
「では弓以外の稽古をする。」
「え?まだやるの?」


今後2ヶ月間、戦闘訓練、持久力訓練などなど。モノの指導の元に修練を積むことになった。
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