6 / 124
脱却の為の手順。
しおりを挟む
家の外に出ると一匹の猿が立っていた。何故だろうか、既視感がよぎる。
「何分ここの暮らしに苦労すると思ってな。こいつが大輔のお付きをする。」
「おいお前。もしかして俺のチョコスティック取った猿じゃないのか?」
猿は笑いながらウキウキ言ってとぼけているが、俺にはわかる。ふてぶてしい態度は間違いなく奴だ。
「憎たらしい笑い方だなおい!顔覚えてるからなこのクソザルがぁ!!」
「うきゃ!うきゃーーー!」
すると猿は地面の砂に指をたてて、英語を書き出した。
It was tasty
おいしかった。
「よし。今夜は猿鍋だ。覚悟しろよ。」
「うきゃ!うきゃきゃ!」
「すまんすまん。まだ子供なんだ許してやってくれ。…ああそれとコイツに名前はない。好きにつけてやってくれ。」
「そうかそうか。ならスティックだ。よろしくなクソザル。」
「うきゃ!!」
あからさまに嫌そうな態度が腹立たしい。そんな雰囲気を嗅ぎ取って、モノが話を進める。
「とりあえず鍛えようか。」
「え?いきなり?」
「時間を無駄にはできない。それに大輔はすぐサボりそうだしな。」
ゴリラの観察眼というのは恐ろしい。ニートの本性をすぐに見破った。
「まずはかけっこだ。」
森の中を駆ける。今度は何かを追いかけるのではなく、その逆で追いかけ回されている。
「おいおい!コイツら完全にたかがはずれてんだろおおぉが!!」
先ほどまで喧嘩していた憎たらしいスティックとその仲間猿たち、可愛げのあった眼は完全に獲物を捉えようとする完全な野獣になっている。沸き立つ補食性が、彼らを駆り立てているように見える。
並走し木々を飛び回るモノは俺に言う。
「死にはしない。ほんの少し齧られる程度さ。」
「その感覚やめてくれ!ゴリラと人間は違うから!人間の方が脆弱ですからぁああ!」
横目で後ろを見ると、数多の猿を抜いて、スティックが先頭を走っている。あの憎たらしい笑顔が煌めいた。
「スティッキー悪かった!俺が悪かったから!チョコスティックは忘れるから、おぉ!!」
土から少し隆起した所に足を取られ、転げ回った。その瞬間を逃すわけがなく、猿たちは嬉々として飛び上がった。
「悪かったかよ!頼むから優しくしてくれぇえええ!!」
木漏れ日が射し込んで、猿たちの飛び上がるその姿が陰り、音が止まる。死の間際とはこんな緩やかにくるのだろうか。全てがゆっくりと動く中で、俺は死を確信した。
「死ねウキャ!!」
「お前いま喋ったろうってやめ!!」
散々齧られなぶられた後、集落に戻った。
「次は武装した相手に対する戦闘訓練だ。」
今度はモノと一緒に着いてきたという元ペンタ守衛隊の一頭を連れてきた。銀の兜と鎧を纏い、木製のハンマーで武装したゴリラが対面にいる。
「今度は絶対嘘はなしだぞ。あの猿ども齧るだけじゃなくてお尻の…」
「わかったもういい。あいつらには後で言っとくから。」
モノは俺が受けた辱しめの内容を遮ると、有無を言わさず説明を続けた。
「ペンタのコミュニティは文字だけではなく、武器も扱える。槍、ハンマー、吹き矢、そして弓。今後はその対策として模擬戦を始める。大輔はなにか使えそうな物はあるか?」
目の前にはモノが用意した武器が地面にならんでいる。
木製だが鋭く尖り、切っ先が血で黒く汚れた槍。
巨木を丸く加工したハンマー。
真新しくほころびのない、さっき作ったかのような吹き矢。
そして使い古しの弓が置いてあった。弓を見ると、高校時代の部活動を思い出す。
「…弓かな。」
「ほぅ。」
弓を手に取り、色んな部分を触診する。使うには十分の強度だが、弦の張りが足りないようだ。これではあまり威力がない。
「弓はよく使っていたよ。子供の時だけどね。」
「では実力を見せてくれ。初め!」
「え?!まてよ!準備ってもんが!」
号令を聞いた武装ゴリラは鎧を鳴らしながら地を駆ける。土が舞い、地鳴りを上げて進む。
狙い目は矢を取るときから決めていた。3つの矢しかない状況で相手の戦意を削ぐには、彼らが頼る物を破壊する必要がある。それは鎧を支える紐とハンマーの根元。
矢を取り、放つまでの時間は2秒もかかっていない。
まず一つ目の矢は武装ゴリラの数歩先に激突。跳ね返り、何らかの皮でできた紐が矢に触れて切れる。突然防御の要たる鎧が重力に引かれて落ちるのに動揺して動きが僅かに止まる。
その隙を逃さない。ゴリラが動揺して止まるまでに2つ目の矢を放つ。ハンマーの細くなった持ち手の部分を突き抜けた。
木で出来ていたことが幸いし、見事に持ち手と木殺しの部分が完全に分離、防具と武器の両方がほぼ同時に地に落ちる。
「うがぁあ!!」
いきなり装備をなくしたゴリラが吠える。そのゴリラの顔を、三つ目の矢がかすめて飛んでいく。すると動きが完全に止まった。
「王手かな。」
「では弓以外の稽古をする。」
「え?まだやるの?」
今後2ヶ月間、戦闘訓練、持久力訓練などなど。モノの指導の元に修練を積むことになった。
「何分ここの暮らしに苦労すると思ってな。こいつが大輔のお付きをする。」
「おいお前。もしかして俺のチョコスティック取った猿じゃないのか?」
猿は笑いながらウキウキ言ってとぼけているが、俺にはわかる。ふてぶてしい態度は間違いなく奴だ。
「憎たらしい笑い方だなおい!顔覚えてるからなこのクソザルがぁ!!」
「うきゃ!うきゃーーー!」
すると猿は地面の砂に指をたてて、英語を書き出した。
It was tasty
おいしかった。
「よし。今夜は猿鍋だ。覚悟しろよ。」
「うきゃ!うきゃきゃ!」
「すまんすまん。まだ子供なんだ許してやってくれ。…ああそれとコイツに名前はない。好きにつけてやってくれ。」
「そうかそうか。ならスティックだ。よろしくなクソザル。」
「うきゃ!!」
あからさまに嫌そうな態度が腹立たしい。そんな雰囲気を嗅ぎ取って、モノが話を進める。
「とりあえず鍛えようか。」
「え?いきなり?」
「時間を無駄にはできない。それに大輔はすぐサボりそうだしな。」
ゴリラの観察眼というのは恐ろしい。ニートの本性をすぐに見破った。
「まずはかけっこだ。」
森の中を駆ける。今度は何かを追いかけるのではなく、その逆で追いかけ回されている。
「おいおい!コイツら完全にたかがはずれてんだろおおぉが!!」
先ほどまで喧嘩していた憎たらしいスティックとその仲間猿たち、可愛げのあった眼は完全に獲物を捉えようとする完全な野獣になっている。沸き立つ補食性が、彼らを駆り立てているように見える。
並走し木々を飛び回るモノは俺に言う。
「死にはしない。ほんの少し齧られる程度さ。」
「その感覚やめてくれ!ゴリラと人間は違うから!人間の方が脆弱ですからぁああ!」
横目で後ろを見ると、数多の猿を抜いて、スティックが先頭を走っている。あの憎たらしい笑顔が煌めいた。
「スティッキー悪かった!俺が悪かったから!チョコスティックは忘れるから、おぉ!!」
土から少し隆起した所に足を取られ、転げ回った。その瞬間を逃すわけがなく、猿たちは嬉々として飛び上がった。
「悪かったかよ!頼むから優しくしてくれぇえええ!!」
木漏れ日が射し込んで、猿たちの飛び上がるその姿が陰り、音が止まる。死の間際とはこんな緩やかにくるのだろうか。全てがゆっくりと動く中で、俺は死を確信した。
「死ねウキャ!!」
「お前いま喋ったろうってやめ!!」
散々齧られなぶられた後、集落に戻った。
「次は武装した相手に対する戦闘訓練だ。」
今度はモノと一緒に着いてきたという元ペンタ守衛隊の一頭を連れてきた。銀の兜と鎧を纏い、木製のハンマーで武装したゴリラが対面にいる。
「今度は絶対嘘はなしだぞ。あの猿ども齧るだけじゃなくてお尻の…」
「わかったもういい。あいつらには後で言っとくから。」
モノは俺が受けた辱しめの内容を遮ると、有無を言わさず説明を続けた。
「ペンタのコミュニティは文字だけではなく、武器も扱える。槍、ハンマー、吹き矢、そして弓。今後はその対策として模擬戦を始める。大輔はなにか使えそうな物はあるか?」
目の前にはモノが用意した武器が地面にならんでいる。
木製だが鋭く尖り、切っ先が血で黒く汚れた槍。
巨木を丸く加工したハンマー。
真新しくほころびのない、さっき作ったかのような吹き矢。
そして使い古しの弓が置いてあった。弓を見ると、高校時代の部活動を思い出す。
「…弓かな。」
「ほぅ。」
弓を手に取り、色んな部分を触診する。使うには十分の強度だが、弦の張りが足りないようだ。これではあまり威力がない。
「弓はよく使っていたよ。子供の時だけどね。」
「では実力を見せてくれ。初め!」
「え?!まてよ!準備ってもんが!」
号令を聞いた武装ゴリラは鎧を鳴らしながら地を駆ける。土が舞い、地鳴りを上げて進む。
狙い目は矢を取るときから決めていた。3つの矢しかない状況で相手の戦意を削ぐには、彼らが頼る物を破壊する必要がある。それは鎧を支える紐とハンマーの根元。
矢を取り、放つまでの時間は2秒もかかっていない。
まず一つ目の矢は武装ゴリラの数歩先に激突。跳ね返り、何らかの皮でできた紐が矢に触れて切れる。突然防御の要たる鎧が重力に引かれて落ちるのに動揺して動きが僅かに止まる。
その隙を逃さない。ゴリラが動揺して止まるまでに2つ目の矢を放つ。ハンマーの細くなった持ち手の部分を突き抜けた。
木で出来ていたことが幸いし、見事に持ち手と木殺しの部分が完全に分離、防具と武器の両方がほぼ同時に地に落ちる。
「うがぁあ!!」
いきなり装備をなくしたゴリラが吠える。そのゴリラの顔を、三つ目の矢がかすめて飛んでいく。すると動きが完全に止まった。
「王手かな。」
「では弓以外の稽古をする。」
「え?まだやるの?」
今後2ヶ月間、戦闘訓練、持久力訓練などなど。モノの指導の元に修練を積むことになった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
全部未遂に終わって、王太子殿下がけちょんけちょんに叱られていますわ。
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられそうだった女性が、目の前でけちょんけちょんに叱られる婚約者を見つめているだけのお話です。
国王陛下は主人公の婚約者である実の息子をけちょんけちょんに叱ります。主人公の婚約者は相応の対応をされます。
小説家になろう様でも投稿しています。
何だアレは! 宇宙編
前三之助
SF
「チーフ、あの物体は・・・」
「前髪のジョニー!あの物体を今すぐメインスクリーンに映せ!」
「チーフ!映しました!・・・こ、これは!」
「うろたえるな前髪のジョニー!うろたえるな!」
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
ネイビーブルー・カタストロフィ――誰が○○○を×したか――
古間降丸
SF
全8話
未来からやってきた少女型アンドロイド「ギィア」の時間移動に巻き込まれた小幌静刻が行き着いたのは一九九二年の中学校だった。
ギィアの任務が二十世紀末に起こった一斉絶滅現象「ネイビーブルー・カタストロフィ」を回避することと聞き、仰々しいネーミングと歴史改変というテーマに色めき立つ静刻ではあったが、その実態はといえば「ブルマ絶滅の回避」であった。
あまりの意味不明さ、あるいはくだらなさに脱力する静刻をよそにギィアはブルマ絶滅の原因とされている「男子生徒が持つブルマへのエロ妄想を消去する洗脳音源」を放送室から流す。
これでブルマの絶滅は回避されたはずだったのだが――。
※内容について異論のある方もおられましょうが、なんの根拠もなきフィクションゆえにご寛恕願う所存です、はい。
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい
工藤 流優空
SF
社畜?社会人4年目に突入する紗蘭は、合計10連勤達成中のある日、VRMMOの世界にダイブする。
ゲームの世界でくらいは、ほのぼのライフをエンジョイしたいと願った彼女。
女神様の前でステータス決定している最中に
「言霊の力が活かせるジョブがいい」
とお願いした。すると彼女には「言霊エンチャンター」という謎のジョブが!?
彼女の行く末は、夢見たほのぼのライフか、それとも……。
これは、現代とVRMMOの世界を行き来するとある社畜?の物語。
(当分、毎日21時10分更新予定。基本ほのぼの日常しかありません。ダラダラ日常が過ぎていく、そんな感じの小説がお好きな方にぜひ。戦闘その他血沸き肉躍るファンタジーお求めの方にはおそらく合わないかも)
スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす
Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二
その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。
侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。
裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。
そこで先天性スキル、糸を手に入れた。
だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。
「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」
少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる