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1 企業勤めを目指そう!(アットホームな職場)

羽交い締め

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    上司達が土下座する俺を踏みつけている。現場職なら先芯入りブーツ、安全靴は大切だ。鉄製の囲いが足の指を守ってくれる。
    今それが俺の脇腹に刺さったり、背中を踏みつけたりしている。

「お前のせいで!お前のせいなんだよ!!」

    仕事の都合上、危険が伴っている。独断特別な仕事では無いが、仕事の末端に行けば行くほど危険度は上がるものだ。
    だが今回は完全なる凡ミスだ。フォークリフトで上げた荷物が落ちてきて、頭にあたり、死人が出た。

「なんで俺がッ!咎められないといけない!!」

    無論、俺がやった訳では無い。原因はこの男で俺は八つ当たりされているに過ぎない。だがここで言い返しても、どうせ返事が暴力になって返ってくるだけなので黙っているのだ。
    何度も何度も足蹴にされる。痛みが痺れに変わっても、どうにかなりそうなくらい痛くても。

    理不尽を黙って受けていると心の奥底で落ちてくるのを待ってる感情が、下から俺を見ていた。そいつは煙のような姿に口を付けたような何か。
そいつは口を動かし、俺の心打ちを代弁する。



「[みんな消えろ]」














    マサヨシは力無く地面に落ちていく。分身のスキルで1人増えたマルセルは、2人で並び、高笑いをする。

「名前ばっかりが先行するだけのルーキーか。ハッハッハ!歯ごたえがまるでない。そうだろう俺よ!」
「全くだ!もう1人の_____」

  マルセルは分身体との話半ば、その姿を消した。

「____はあ?」

    辺りを見回すと赤い霧は消えて、ボロ小屋が並び立っている。だがそこには分身体の姿はなかった。

(急に消えた...何故だ。分身体は血肉が備わったクローン。殺さない限りあり続ける筈。まさか征服者が____)

    マルセルが見下ろすと、そこにマサヨシの姿はあった。不安材料がひとつ減って、ほっと胸を撫で下ろす。

「ふーなんだいるじゃないか紛らわ____八ッ!!!」

    突然現れた空虚な感覚。今まで感じたことの無い違和感によってマルセルは気づいた。左腕が消えていた事に。

「き、斬られてる!!きら、うがぁああああ!!!」

    アドレナリンが効いていたこと、切断面が綺麗すぎて血が出なかったこと。複合的な相乗効果は切れて、血が吹き出し、鮮烈な痛みが脳を襲う。

「ふ、ふん!!たかが左腕がなんだ、熱魔法[焼却掌底]!!」

    マルセルは熱魔法により掌を極限まで熱を放出させ、傷口を握る。肉が焼けて傷口が塞がる痛みを歯で食いしばりながら、耐えて後方に下がった。

「くそ!やっぱり悪魔見てぇな能力だが、オメーの弱点は知ってる。スキル多重発動!人海複製!! 」

    言葉が魔力を通す。すると地面に蹲るマサヨシを取り囲むように、マルセルの複製体が大量に現れた。

「さぁ倒してみろ。テメェの力は貫通できねぇことは調べがついてる。これだけの数を消すなんて出来ねぇだろ!!いけ!俺たち!!」 

  号令に伴って、複製体が束になってマサヨシに飛びかかる。暑苦しい津波となった彼らには、冷たい言葉が一つだけ送られた。

「[消えろ。]」

  その瞬間に、大量の複製体が一挙に消えた。まるで最初からいなかったみたいに。
するとマサヨシはタイミングを見計らったように立ち上がる。これにより、 マルセルはこの超常的な現象に勘が働いた。

「わかったぞマサヨシ。おめぇ、瞬間転移の魔法を結界みたいに張り巡らせやがったんだな...そうじゃねぇと説明が____」

  憤るマルセルの頭が消え、残された体は地面に倒れる。マサヨシは掌を向けた訳では無い。ただマルセルに一瞥をくれただけ、怒りと憎悪に満ちた目を向けただけだ。

「そうか。」

  マサヨシは理解した。怒りというマイナスで強力な感情がスキルを強制し発動した事に。
プリズンシックスティーンで貰ったこの力は恐らく、マイナスな感情を孕む魔力だったのだろう。それがマサヨシの心に答えた。答えた結果、嫌いな人間を消すスキルとなって定着したのだと。
今回は目だ。見ただけで消えろと願った奴が消える。

「うぉーーーい!マサヨシ生きてるかー!!」

  道の果てからでかい体を揺らして走るテレサが見える。どうやら音を聞き付けて飛んできたのだ。
















  テレサは適当な服を噛み、耳につく音を立てながら手で引きちぎる。線状になったそれを、マサヨシの額に回して結び始めた。

「まさかあの脳筋マルセルが襲撃してくるなんてね。」
「ここは安心していい場所、なんだよな。」
「ありえないことさ。ありえない事が起きたのは、頂けないねぇ。」

  テレサはマサヨシの話を聞きながら、傷の手当を終えると背中に張り手を叩きつけた。

「強力なスキル魔法とは聞いていたけど、一瞥しただけで消せるとは驚いたよ____ はい!おしまいーー!!」
「イッタッ!!!そんなゴツい手で背中叩くな!!!」

  自家製のアルコールに適当に乾かした布で、頭の傷口を塞がれた。マサヨシは昔気質な手当に少しだけ嫌気がさしていた。

「なんだい?手当までしてもらって文句でも?」
「違うんだ。テレサがしてくれた事には感謝してる。でもさ。自分の能力をどう理解して、どう使えばいいのかわからなくて。」

  魔法と言えば聞こえはいい。マジカルパワーでどうにでも言い訳をついて、理解したっていう箱へ何も見ずに放り込める。だがそれは今をやり過ごしているだけ。これから先のことをマサヨシは考えていた。
  齷齪悩むマサヨシを見て、テレサはまた背中に張り手をした。

「イッタぁあ!!何すんだ!!」
「考えても仕方のないことでクヨクヨするのはよしな!あんたは、助けたい人がいるんだろ?」
「....うん。」
「なら考えるのはやめて、身体で覚えることだね。暴れ馬を理解しちゃいけない。賢く使うのさ。」

  テレサの言うことに納得するしかない。マサヨシは一先ず瞬間転移の事は頭の隅に置いた。

「ありがとう。そうだな。テレサの言う通りだ。」
「わかったのならよし。それじゃ本題に入ろうね。」

  無理に納得する必要は無い。時間はかかっても能力を理解する事が大事なんだとテレサは伝えたかったのだろう。マサヨシもそれを受け取った。

「それで尋ね人ってのは誰だい?____まぁ子供以外はバルタ関係くらいしか分からないんだけど、目星は着いているのかい?」
「俺も見たことは無いんだ。」
「なんだいそりゃ。写真もないのかい。」
「ないな。ホワイトベアー種の少年でロイドって名前の。」
「あーそりゃ、あんた会ってるよ。」

  マサヨシの背筋が凍った。今まで出会った人間は酷くろくでもなかった上、殆ど殺してしまったからだ。それらしい特徴を探せども、どの場面でも血の池か、頭部が欠損している。

「ほら、あの包帯侍。あれがロイドだよ。」

  言葉が出なかった。まさか探し人が、あんな殺意の化身のようになっていたとは考えてもなかったからだ。
  愕然とするマサヨシに何かを察したテレサは昔話を始めた。 

「...一時的に動力炉が活性化した時があってね。その時の時差はブルジュワの方が早かった。多分そのタイミングなのね。あれは。」

  テレサはでかくて丸い顔を外に向けて、涙を流し始めた。
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