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しおりを挟むまず、行方不明扱いだったふたりがそろって鳥居の前で見つかったというのが、よくなかった。おまけに、片方は一年間も行方がわからなかった上に、着物姿で見つかったのだ。皆の注目を浴びないわけがない。
人間界に帰ってきてからの三日は、美月と桜子双方の親の心配もあって学校には行かせてもらえなかったが、心身共に健康であることをなんとか証明して、四日目からは登校が許された。
しかし、これも大変だった。美月と桜子がそろって鳥居の前で発見されたという噂は、もう学校中にすっかり広まってしまっていたのだ。
故に、クラスメイトはもちろんのこと、学年が異なる生徒達にまであれやこれやと訊かれることとなってしまった。
が、まさか本当の話をするわけにもいかない。そんな真似をすれば、頭がおかしくなったか、本当に祟りかなにかだと思われるのがオチだろう。
そういうわけで、誰になにを問われても、美月と桜子は「なにがあったのか覚えていない」の一点張りで、なんとか誤魔化し続けたのである。
幸いなことに、これは比較的しんじてもらいやすかった。
しかし、ふたりが神隠しに遭った子供だという噂は学校のみならず、町内にまで広がっており、それは今に至るまでおさまってはいない。
ふたりはすっかり、有名な存在となっていたのだった。
桜子とふたりきりの空間で、美月は息を吐く。騒々しい日々が続いているため、桜子とふたりの時間は貴重かつ重要だった。
「なんか帰ってくると、異界であったことが夢みたい」
美月の呟きに、桜子が紅茶を飲みながら頷く。
「そうねぇ。私なんか一年も向こうにいたけど、なんだか長い夢を見ていたような気もするわ」
言って、ふたりを宙を眺めて異界での出来事を思い起こした。
美月は頬杖をつく。
「……なんか、こうやってゆっくりする時間って、ちょっと久しぶりかも。最近、どっか行くたびに皆から神隠しの質問されるし」
桜子も苦笑しながら首肯した。
「うちのパパとママがすっかり過保護になっちゃって、私はそれも少し大変かも」
「それはしょうがないよ。一年だもん。桜子ちゃんがいないあいだのおじさんとおばさん、本当に落ち込んでたし」
「……うん」
俯いた桜子は、神妙な面持ちを作る。そうして、眉尻をさげて続けた。
「悪いこと……しちゃったよね……」
呟く声は、弱々しい。そんな台詞から当人の罪悪感を読み取ることは、決して難しいことではないだろう。
美月は幼馴染みの表情を見つめたあと、あえて軽い声調で答えた。
「次からは、勝手にいなくなったりしなきゃいいんだよ」
桜子が顔をあげて、美月を見返す。
美月は笑った。
「……ねっ」
幾度か瞬いた桜子が、双眸を細めて唇に弧線を描く。
たしかに、桜子のおこないは結果として彼女の両親を悲しませることに繋がったのかもしれない。それでも、悩みをかかえて異界という人間にとっては危険な場所にとどまり続けた幼馴染みを、美月は責めることが出来ない。どうして出来るだろう。
責めるのならば、それは桜子ではなく、彼女の懊悩に気付けなかった美月本人だ。周囲の人間が桜子の苦しみに気付いていれば、そんな彼女の苦しみを理解できなかったとしても受け入れることが出来れば、また結果は変わったのかもしれないのだから。
悩みや苦しみの原因が本人にあるとは限らない。むしろ、懊悩する当人が一番の被害者である場合も多いだろう。
だが、真面目で優しい人間であればあるほど、様々な責任を己の中にさがしてしまうものだ。
今回の異界での一件は、そんな桜子の変化に感付けなかった美月に反省の機会も与えてくれたことになる。
美月は内心で、過去の自分へため息を零した。
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