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しおりを挟むだが、鷹崎は再び笑って、美月を見据える。その瞳は、先程までの「桜子のおまけ」を見る眼差しとは異なるように見えた。
「僥倖だわ。ただの娘と思ってたが、まさかお前にも素質があったとはよぉ」
直後、大地に巨大な黒い魔法陣が三つ浮かび上がり、そこから黒い霧に似たものが水柱のごとく立ちのぼった。
美月は警戒に身を硬くする。そう、これを見るのは初めてではない。この魔法陣が巨大な召喚獣を呼び出した光景を、美月は数時間前にも目にした。
鷹崎が歯を剥き出し、両眼を見開いて、高揚のまま声を荒げる。
「天が俺に味方したってことかぁ? ――その血ぃ、一滴残らず吸い尽くしてやらぁ!」
三つの魔法陣から立ちのぼる黒い霧がそれぞれ弾け、中から悪魔のような姿をした巨大な召喚獣が現れた。
頭部には山羊を彷彿させる、ねじれた角。四足歩行の獣が無理矢理に二足歩行で歩いているふうな、不自然な下半身。それでいて腕の筋肉は発達していて、そこは人間の腕に近い。顔は、牛の頭蓋骨と人間の頭蓋骨を融合したふうな奇妙な形をしていた。
そんな巨大な三体の召喚獣が、おのおの藍葉、紅希、葵へと向かう。
三人は迫る敵に自身の魔力で応じたが、双方の魔力が激しくぶつかり合い、それはすさまじい衝撃波を生んだ。
まるで小規模な爆発でも起こったかのような音に次いで振動があり、舞い上がった土煙が美月の視界を遮る。
とにかく桜子と離れないようにしなくてはと考え、美月は拘束されている手足のまま身をよじって幼馴染みの傍へと移動した。
刹那、砂埃に誰かの影が映る。
美月は一瞬、それを鷹崎かと思ったが、しかし足音と共に現れたのは鈴彦だった。
彼はおぼつかない足取りで歩み寄り、美月達のもとに膝をつく。
「大丈夫かい……?」
鈴彦はそう訊いたものの、美月には彼のほうが余程大丈夫ではないふうに見えた。歩くだけでもつらそうな上に、服は血と泥にまみれ、呼吸も乱れている。
同じ印象をいだいたのだろう、桜子も心配げに鈴彦を見た。
「鈴彦さんこそ、こんなに血が……」
「僕は大丈夫」
美月達を安心させようとしてか、彼は優しげに微笑む。その微笑は、どこか儚くもあった。
ふたりの手足を縛っている縄を、鈴彦は手早くほどき始める。
縄が解かれ、美月と桜子が自由を得た直後、いつの間にか、すぐ目の前に誰かの影が佇んでいる事実に美月は気が付いた。
美月の視線に感付いた鈴彦が、その方向を追って見ようと首をひねるより早く、何者かの足が彼を乱暴に蹴り飛ばす。
切れた煙から顔を覗かせたのは、案の定というべきか、鷹崎だった。
「余計な真似してんじゃねーよ」
彼は鈴彦に低く吐き捨てる。
桜子が相手に掌を向けて魔力の弾丸を放つものの、それは呆気なく鷹崎の手に払われてしまった。まるで、小さな虫でも払うような軽い動作だった。
腕を伸ばした鷹崎は桜子の着物の胸ぐらを掴んで、乱雑に持ち上げる。
美月は幼馴染みの名前を叫んだ。
「桜子ちゃん!」
彼女を解放させようと、美月は鷹崎に縋りついて彼を殴り、蹴ることを繰り返したが、鷹崎はまるで反応する様子がない。
「離して! 桜子ちゃんを離せ!」
美月を横目で一瞥した鷹崎が、軽く足を振るって美月を蹴り飛ばした。まだ子供である美月の体は、たったそれだけのことでも大きく転んでしまう。
「美月……っ」
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