和と妖怪と異世界転移

れーずん

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 争い事どころじゃねーよ、と紅希が反駁する。

「お前んとこの黒い龍の裏切り。わけわかんねーやつの美月と桜子の誘拐。その他もろもろ。もうちっと早く来れなかったのか?」

 責められ、白龍はいくらかしおらしくなった。どこまで本心かはわからないけれども。

「面目ない。しかし……そうか、黒龍が……」

 彼はどこか複雑そうな声を出す。が、今はそんな余韻に浸っている時間の余裕はなかった。

 藍葉は率直に白龍に問う。

「話はあとじゃ。白龍、桜子と美月の気配は追えるか?」

「ああ。だがこれ以上離れると追跡が難しくなるから、急いだほうがいい。乗りたまえ」

 返して、白龍は背を一同に向けた。さっそく紅希が飛び乗る。と、龍はいささか不満げに彼を振り返った。

「……君、もう少し丁寧に……」
「あん?」

「……いや、なんでもないよ」

 おそらく、紅希に悪気はないだろう。それを察したからか、それとも彼への指摘は無駄と判断したのか、白龍は首を左右に軽く振ると、自ら話題を打ち切った。

 藍葉と葵も龍の背に乗る。

「気配はどっちに向かっている?」

「西だね。あそこはあまり妖怪達が近付かないから、うってつけの場所だと判断したんだろう」

 藍葉の質問に答えた白龍へ、葵は不思議そうに尋ねた。

「そこまで遠くの気配が、わかるものなんですか?」

「龍を侮ってはいけないよ。我々は目や鼻がいい。だからこそ、巡回の仕事をしているんだ」

 今回は来るのが遅れたがな――と、藍葉がくちを挟む。龍は藍葉を見返した。

「君は本当に手厳しいな。異界は広く、巡回は楽ではないのだよ」

「いいから、さっさと行けよ」

 空を指さして述べたのは紅希である。白龍は疲れたふうにため息を吐いた。

「まったく、龍使いの荒い子達だ」

 呟いて、彼は飛翔する。

 空には月があるものの、異界全体を照らすのにその明かりはあまりに心もとなかった。

 空高く飛んだ藍葉達の眼下に広がる森は黒々として、まるでそれ自体がなにかの生き物めいている。

 白龍は方向転換をして、西に頭を向けた。そうしてそのまま滑るように空中を走り、人間の少女ふたりのもとへと急ぐのであった。

 なにかを察してのことか、今夜の異界は、不気味なほどに静寂だ。





 意識が浮上した美月は、ゆっくりと瞼をあけた。

 視界は暗い。怠い体を動かして首をひねると、すぐ近くに桜子の姿がある。

 彼女は美月の目覚めに気が付いて、声を掛けてきた。

「あっ、美月……。起きた……?」
「……桜子ちゃん……?」

 ここはどこだろうと、視線を周囲に巡らせる。

 見ると、どうやらふたりがいるのは、どこかの森のひらけた場所らしかった。周辺は木々しかなく、それ以上の情報を読み取ることは難しい。加えて、明かりは頭上にある月のみだった。

 最初はぼんやりと辺りを眺めていた美月だったが、じきに周囲の異様さに気が付く。

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