和と妖怪と異世界転移

れーずん

文字の大きさ
上 下
31 / 70

【31】

しおりを挟む


 そこまで語って、美月は我に返った。なんだか恥ずかしい発言をしてしまったようで、顔が熱くなる。

「あ……えっと、私が勝手にそう思ってるだけなんですけど!」

 両手をばたばたと振ると、少しばかり驚いた表情で話を聞いていた紅希が、小さく笑った。

「お前は……なんつーか、まだチビッ子のくせに、案外立派だな」

「し、身長はこれから伸びる予定なんです!」

 美月は声を荒げる。ちなみに美月の身長は、平均よりもやや低いくらいだった。

 紅希の隣で葵が微笑む。

「なんか、思ってたよりも大人で、ちょっとびっくりしちゃったよ。紅希より大人かもしれない」
「うるせーな!」

 紅希が葵の肩を叩く。思いの外、大きい音がした。

 ああ、と頷いた藍葉が、美月をまっすぐに見つめる。彼女は唇に弧線を描いて、くちをひらいた。

「あのとき、鳥居のしたで出会ったのがお前で……異界に来てくれたのがお前で、本当によかったよ」

 腕を伸ばし、藍葉は美月の頬を撫でる。両親以外からこんなふうに触れられた経験はあまりなく、故に美月は少しばかり気恥ずかしいような気持ちになった。

「桜子を……よろしく頼むぞ。ワシも全力で助勢しよう」

 紅希と葵も、それぞれの意志を主張する。

「乗りかかった船だからな、俺らも手伝うぜ」
「うん。手伝えることがあったら、なんでも言ってよ」

 三人の言葉に、美月は胸が満たされた。彼女達とはまだ出会って間もない上に、そもそも種族からして異なる存在だが、それでも信頼関係が築けている事実に言い表し難い温かさを感じる。

 美月の表情が、自然と笑みを形作る。頷いて、美月は三人へ伝えた。

「――はい。よろしくお願いします」

 夜の風が髪を揺らす。穏やかな風が吹いていた。





 桜子は足早に川沿いを歩いていた。

 歩き慣れた道である。この道の先にある洞窟には、南雲鈴彦が住んでいた。

 年齢は離れていても、人間である彼の存在は、ここ異界では大きい。桜子は日頃から頻繁に彼のもとへと足を運び、話を聞いてもらっていたのだった。

 洞窟を覗き込む。夜の洞窟はぎょっとするほどに暗い。奥で蝋燭が数本灯されてはいるものの、それは闇をいっそう濃くしているばかりで、少しも安心できないのだった。

 そんな、ややもすれば方向感覚すら失いそうになる洞窟を進んで、桜子は奥にいる鈴彦のもとへと急ぐ。振り返った彼に、すがるように抱きついた。

「鈴彦さん、鈴彦さん……!」
「桜子ちゃん……どうしたんだい」

 三十代の鈴彦は、十四歳の桜子にとっては父に近い存在である。頼ってしまうのは、安心してしまうのは、それが理由なのかもしれなかった。

 自分と同じ人間というだけではなく、異界に来て十年にもなるという経歴にも信頼をおいている。彼の前でだけは、本当に素直になれた。自分の寂しさを理解してくれる、ただひとりの人物だった。

 美月に出会ったことで、桜子の胸はざわめいている。不安に似た感情が心中でいっぱいにふくらんで、胸が苦しかった。どうしようもなく苦しいのに、しかしこの感情がどこから来るのか、明確にはなんなのかがよくわからない。どうすればいいのかも、やはりわからなかった。

「鈴彦さん、私、人間界に帰りたくない……あそこには、私の居場所なんてない……!」

「桜子ちゃん、落ち着いて」

「どうして皆、私を人間界に帰そうとするの? どうして放っておいてくれないの? 私が邪魔なの?」

「桜子ちゃん」

 鈴彦の大きな手が、桜子の肩を撫でる。その優しさが、却って桜子の目頭を熱くしていった。

「私はただ……寂しかった時間を忘れたいだけなのに……。忘れるって、いけないことなの……? 寂しかったことも、ずっと覚えてなきゃいけないの……?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...