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第三章 江戸騒乱編
第51話 ナルシスト
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門下生らしき男達に抱えられ、気を失ったまま道場の端で寝かされる斎藤。
「あの斎藤さんがやられるなんてね…」
「ああ……まさしく魔神……化物だ」
特に驚いた表情も見せず淡々と述べる沖田に、答える新八。どこかまだ、余裕の様な物が感じられる。今のジンの戦いを見ても、勝算があるとでも言うのだろうか。それとも、何かまだ奥の手が……すると、飄々とした態度の沖田が、軽い口調で新八に話しかけた。
「次は僕の番ですよ? 新八さん」
そう言って沖田が腰の刀に手を掛ける。
「総司、テメエ……」
獲物を取るなとでも言いたげな表情で、新八は沖田を睨みつけた。しかし、当の沖田はまるで意にも介さずに、平然とした顔で言い返した。
「だって新八さん、どうせあの真人とか言うのは譲ってくれないんでしょ? だったら僕は、半蔵の奴で我慢しますよ……前からチョロチョロ鬱陶しいなと思っていましたし」
薄い笑みを浮かべたまま、冷たい目線をこちらに向けて来る沖田。どうやら、自分の相手を半蔵だと思い込んでいるらしい。しかし、名指しされた半蔵は全く応える素振りが無い。黙って俺の傍らで、事の成り行きを見守っている。すると、その様子を見ていたコンが、我慢できないとばかりに名乗り出た。
「あんたの相手は私だよっ!」
「おい、コン。お前勝手に──」
思わず制止しようとした俺に、コンが被せる様に返して来た。
「ご主人様、約束ですよ? 暴れさせてくれるって……」
そう言うコンの表情は既に、一歩も引く気は無い様に見えた。絶対譲らないという、決意が籠った目で俺を見つめて来る。どうやらコンもこいつなりに、ここまで相当、我慢して来てたらしい。
「仕方ない……コン、油断するなよ?」
まあ、確かに約束してたしな……ここは俺が折れるしかないか。だが、いくらコンでもこいつらは油断できない。さっきの斎藤も、ジンだから楽勝出来た様に見えるが、実力は相当な物だった。実際、俺も異能の正体が分からなければ、苦戦してたかも知れないし……まあ、今は見るコツを掴んだから、もう俺に同じ様な技は通じないけど。
「分かってますよっ!」
俺の了承を得られた事に、ニッコリと笑みを浮かべて答えるコン。ようやく暴れられる事が嬉しくて仕方ない様に、軽い足取りで道場の中央へと向かっていく。すると、沖田が意外そうな顔をして口を開いた。
「もしかして、この綺麗なお姉さんが僕の相手なんですか?」
まるで緊張感の無い態度で、道場の真ん中に立つ沖田は言った。どうやら、沖田の中では敵の頭数に、コンは含まれていなかった様だ。沖田は自分に向かってくるコンを見て、更に軽口を叩き始めた。
「貴女みたいな美人に戦いなんて似合わないですよ? それより僕の側室になりませんか? 貴女程の美人なら、特別に正室扱いでも構いませんよ?」
そう言ってコンを口説き始める沖田。
なるほど……この世界の沖田は相当、女誑しみたいだな。しかも、口振りから察するに、相当モテモテらしい。まあ、確かにかなりのイケメンだけど……何だか気に入らん。そんな、馬鹿げた理由で俺が少しイラっとしていると、コンは沖田に向かってあっさりと吐き捨てた。
「ふんっ! あんたみたいな小僧に私が靡くとでも思ったのかい? 身の程知らずも程々にしなっ!」
まるで虫けらを見る様な、蔑んだ目を沖田に向けるコン。そりゃあ確かにコンからしたら、人間なんてみんな小僧だろう。何しろ、何百年も生きているんだし。そんな、心底嫌そうな表情を全く隠そうともしないコンに対し、沖田は更に食い下がった。
「貴女みたいな美人がそんな言葉を使っちゃいけませんね……折角の美しい顔が台無しです。これは少し、調教する必要がありそうですね……」
ここまで言われて、まだ食い下がるとは……こいつは鋼のメンタルか、それとも無類の女好きなのか。そんな俺の疑問の答えは、嫌らしく歪んだ沖田の口元が物語っていた。どうやら正解は後者らしい……それも、かなり質の悪い。
沖田の自分を見る嫌らしい目に気付いたコンは、嫌悪感を隠そうともせずに言い放った。
「気持ち悪い奴だね……あんた。悪いけど、私はあんたみたいな弱い奴には興味無いんだよっ。あたしを雌として扱えるのはご主人様だけだからねっ!」
そう言って、俺の方を見ながら誇らしげに胸を張るコン。すると、コンの言葉を受けた沖田の目が一瞬、ピクリと反応した。気持ち悪いとまで言われた事で、流石にプライドを傷付けられたみたいだ。
「僕が……気持ち悪い……」
沖田は、信じられない言葉を聞いたと言わんばかりに目を見開いて、わなわなと怒りに震え出した。自分の事を貶す女がいるなんて、夢にも思っていなかったらしい。全く、どんだけナルシストなんだ……こいつ。
「いいでしょう。僕が目を覚まさせてあげますよ……その洗脳から! 本当に強いのは誰なのか教えてあげます。そして、今日から僕が……貴女の新しいご主人様です!」
そう言って先程までのニヤついた笑みを消し、キッと真面目な表情に切り替わる沖田。斎藤と違い、真っすぐ正眼の位置に構えた刀。流石に本気になった沖田の構えは様になる。しかし、俺はそんな沖田を見て別の事を考えていた。
(コンは洗脳されてるから自分の魅力が伝わらない、という設定にした訳か……なんて恐ろしいご都合主義なんだ。それに、自分の事をご主人様って……)
『気持ち悪いです』
流石に雪もドン引きだ。
そんな俺達のやり取りを他所に、沖田は更にやばい剣気を放ち始めた。集中した沖田の周りに殺気の様な物が漂い始める。やはり、こいつも相当強い。すると、その様子を見ていたコンが、聞き取れない声で何かを言った。少し様子がおかしい……先程までと雰囲気が違い、表情が伺えないくらい俯きながら、何かをブツブツと呟いている。沖田が黙って集中し出したお陰で、何を言っているのか、ようやく少しだけ聞き取れる様になって来た。
「……貴様が……しの……だと……ふ……ふっ……」
両拳を握りしめながら、何やらプルプルと震えているコン。そして……
「ふざけるなあああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」
──コンの怒りが爆発した。
「あの斎藤さんがやられるなんてね…」
「ああ……まさしく魔神……化物だ」
特に驚いた表情も見せず淡々と述べる沖田に、答える新八。どこかまだ、余裕の様な物が感じられる。今のジンの戦いを見ても、勝算があるとでも言うのだろうか。それとも、何かまだ奥の手が……すると、飄々とした態度の沖田が、軽い口調で新八に話しかけた。
「次は僕の番ですよ? 新八さん」
そう言って沖田が腰の刀に手を掛ける。
「総司、テメエ……」
獲物を取るなとでも言いたげな表情で、新八は沖田を睨みつけた。しかし、当の沖田はまるで意にも介さずに、平然とした顔で言い返した。
「だって新八さん、どうせあの真人とか言うのは譲ってくれないんでしょ? だったら僕は、半蔵の奴で我慢しますよ……前からチョロチョロ鬱陶しいなと思っていましたし」
薄い笑みを浮かべたまま、冷たい目線をこちらに向けて来る沖田。どうやら、自分の相手を半蔵だと思い込んでいるらしい。しかし、名指しされた半蔵は全く応える素振りが無い。黙って俺の傍らで、事の成り行きを見守っている。すると、その様子を見ていたコンが、我慢できないとばかりに名乗り出た。
「あんたの相手は私だよっ!」
「おい、コン。お前勝手に──」
思わず制止しようとした俺に、コンが被せる様に返して来た。
「ご主人様、約束ですよ? 暴れさせてくれるって……」
そう言うコンの表情は既に、一歩も引く気は無い様に見えた。絶対譲らないという、決意が籠った目で俺を見つめて来る。どうやらコンもこいつなりに、ここまで相当、我慢して来てたらしい。
「仕方ない……コン、油断するなよ?」
まあ、確かに約束してたしな……ここは俺が折れるしかないか。だが、いくらコンでもこいつらは油断できない。さっきの斎藤も、ジンだから楽勝出来た様に見えるが、実力は相当な物だった。実際、俺も異能の正体が分からなければ、苦戦してたかも知れないし……まあ、今は見るコツを掴んだから、もう俺に同じ様な技は通じないけど。
「分かってますよっ!」
俺の了承を得られた事に、ニッコリと笑みを浮かべて答えるコン。ようやく暴れられる事が嬉しくて仕方ない様に、軽い足取りで道場の中央へと向かっていく。すると、沖田が意外そうな顔をして口を開いた。
「もしかして、この綺麗なお姉さんが僕の相手なんですか?」
まるで緊張感の無い態度で、道場の真ん中に立つ沖田は言った。どうやら、沖田の中では敵の頭数に、コンは含まれていなかった様だ。沖田は自分に向かってくるコンを見て、更に軽口を叩き始めた。
「貴女みたいな美人に戦いなんて似合わないですよ? それより僕の側室になりませんか? 貴女程の美人なら、特別に正室扱いでも構いませんよ?」
そう言ってコンを口説き始める沖田。
なるほど……この世界の沖田は相当、女誑しみたいだな。しかも、口振りから察するに、相当モテモテらしい。まあ、確かにかなりのイケメンだけど……何だか気に入らん。そんな、馬鹿げた理由で俺が少しイラっとしていると、コンは沖田に向かってあっさりと吐き捨てた。
「ふんっ! あんたみたいな小僧に私が靡くとでも思ったのかい? 身の程知らずも程々にしなっ!」
まるで虫けらを見る様な、蔑んだ目を沖田に向けるコン。そりゃあ確かにコンからしたら、人間なんてみんな小僧だろう。何しろ、何百年も生きているんだし。そんな、心底嫌そうな表情を全く隠そうともしないコンに対し、沖田は更に食い下がった。
「貴女みたいな美人がそんな言葉を使っちゃいけませんね……折角の美しい顔が台無しです。これは少し、調教する必要がありそうですね……」
ここまで言われて、まだ食い下がるとは……こいつは鋼のメンタルか、それとも無類の女好きなのか。そんな俺の疑問の答えは、嫌らしく歪んだ沖田の口元が物語っていた。どうやら正解は後者らしい……それも、かなり質の悪い。
沖田の自分を見る嫌らしい目に気付いたコンは、嫌悪感を隠そうともせずに言い放った。
「気持ち悪い奴だね……あんた。悪いけど、私はあんたみたいな弱い奴には興味無いんだよっ。あたしを雌として扱えるのはご主人様だけだからねっ!」
そう言って、俺の方を見ながら誇らしげに胸を張るコン。すると、コンの言葉を受けた沖田の目が一瞬、ピクリと反応した。気持ち悪いとまで言われた事で、流石にプライドを傷付けられたみたいだ。
「僕が……気持ち悪い……」
沖田は、信じられない言葉を聞いたと言わんばかりに目を見開いて、わなわなと怒りに震え出した。自分の事を貶す女がいるなんて、夢にも思っていなかったらしい。全く、どんだけナルシストなんだ……こいつ。
「いいでしょう。僕が目を覚まさせてあげますよ……その洗脳から! 本当に強いのは誰なのか教えてあげます。そして、今日から僕が……貴女の新しいご主人様です!」
そう言って先程までのニヤついた笑みを消し、キッと真面目な表情に切り替わる沖田。斎藤と違い、真っすぐ正眼の位置に構えた刀。流石に本気になった沖田の構えは様になる。しかし、俺はそんな沖田を見て別の事を考えていた。
(コンは洗脳されてるから自分の魅力が伝わらない、という設定にした訳か……なんて恐ろしいご都合主義なんだ。それに、自分の事をご主人様って……)
『気持ち悪いです』
流石に雪もドン引きだ。
そんな俺達のやり取りを他所に、沖田は更にやばい剣気を放ち始めた。集中した沖田の周りに殺気の様な物が漂い始める。やはり、こいつも相当強い。すると、その様子を見ていたコンが、聞き取れない声で何かを言った。少し様子がおかしい……先程までと雰囲気が違い、表情が伺えないくらい俯きながら、何かをブツブツと呟いている。沖田が黙って集中し出したお陰で、何を言っているのか、ようやく少しだけ聞き取れる様になって来た。
「……貴様が……しの……だと……ふ……ふっ……」
両拳を握りしめながら、何やらプルプルと震えているコン。そして……
「ふざけるなあああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」
──コンの怒りが爆発した。
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