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第二章 樹海の森編

第39話 陰陽師

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「──安倍晴明あべのせいめいっ!」


 コンが言い放った衝撃の一言。
 流石にこれは俺も予想していなかった。

 ──安倍晴明。

 言わずと知れた、歴史上最も有名な陰陽師の一人だ。
 前世ではイケメンキャラになっていたり映画化されていたりと、とにかく人気の高かった人物だ。
 実物がどうだったのかまでは知らないけど。

 しかしまさか、ここでこの名前が出て来ようとは……
 安倍晴明って確か、平安時代の人物だろ? 
 幾ら何でも流石にこれは無いだろ……
 あっ! 何百年も生きているってそう言う事か?
 何だか設定が無茶苦茶過ぎるだろ……

「安倍晴明……陰陽師か」

「ご主人様はこいつの事、知っているのかい?」

 コンが意外そうな顔で尋ねて来た。

「いや、おそらく俺の知っている奴とは別人だろう。多少はキャラが被ってるのかも知れないけどな」

「きゃら?」

 不思議そうな顔でコンが首を捻っている。俺の言っている意味が理解出来ないんだろう。
 そりゃそうだ。俺の前世の記憶なんて、コン達には分かる訳無いからな。

「気にするな……こっちの話だ。しかしどうやら、ラルの言う大魔法を使う人間って言うのは、その安倍晴明で間違い無さそうだな」

 コン達が言うには、そうそう大魔法を使える人間なんて限られているらしいし……多分、間違い無いだろう。

 だとすれば、幾つかわからない事がある。
 何故、京にいる筈の晴明が俺の町を襲わなければならなかったのか? 
 それに、俺がいないタイミングを何故知っていたのか?
 やはり半兵衛と何かしら繋がりがあるんだろうか……やっぱりまだ、わからない事だらけだ。

「真人様、如何なされましたか?」

 考えにふけっていた俺の顔を、心配そうな表情かおでウォルフが覗き込んで来た。
 そうだな……わからない事を考え込んでいても仕方がない。

「何でもない……ちょっと考えを纏めていただけだ。それよりウォルフ。ラルとベンガルを連れて、さっさと生き残りがいないか確認して来い。コンはその間にラビリア達の事を聞かせてくれ」

「はっ! すぐに確認して参ります」

 軽く一礼するとウォルフ達は、生き残りを探す為に早々と町へ向かって走り去った。
 流石にボアルは嫁、子供と対面中だから、もう少しそっとしておいてやる事にしたんだけど。

 するとコンが少し困惑気味な表情で近付いて来た。何か想定外な出来事でもあったんだろうか。
 コンは困った様な仕草で掌を見せて、ゆっくりと俺に報告を話し始めた。

「それがねえ……ご主人様。あたしが下流に着いた時は、既に兎共ラビリア達の集落はもぬけの殻だったんだよ。犬人族猫人族の集落も同じさ……まるで、あたし達が来る事が分かっていたみたいにね」

「何だと……それは真かっ?」

 聞き耳を立てていたボアルが咄嗟に反応して聞き返した。

「嘘言ってどうするんだい。あたしがご主人様にそんな事する訳ないだろ? これでも九尾の看板背負ってるんだ。一度誓った忠誠を裏切ったりしないよっ!」

 少し苛立たしげにコンが言い返した。
 コンの俺に対する忠誠は本物だ。ちゃんと魂が繋がったからな……コンが俺に嘘をつくとは思えない。
 だとすれば、此方の動きがラビリア達に読まれていたって事になる。それに……

「ボアル、コンは嘘は言って無い。恐らく此方の動きが読まれていたんだろう……これは俺のミスだ。まさかラビリア達がそこまで腹黒かったとはな……」

「ご主人様……」

 コンは信じて貰えた事が余程、嬉しかったみたいだ……顔を赤らめながら、涙目で笑顔を浮かべている。

「腹黒かったとは一体……どう言う意味で御座いましょうか?」

「わからんのか? ボアル殿よ」

 未だ、俺の真意を掴み兼ねているボアルに対し、天鬼が割って入って来た。

「っ! 酒呑っ……!」

 コンが忌々しそうな顔で天鬼を睨みつけた。
 そう言えばこいつ等って仲が悪かったんだっけ……

「九尾の小娘も気付いておらん様ぢゃの……全く、相変わらず鈍い奴ぢゃ。真人殿も苦労するのお」

「なっ、何だってえっ!」

 癇癪を起こした様に突っ掛かろうとしたコンを必死でボアルが引き止めた。しかし当の天鬼自身は全く意に介していない様子だ。

 これは、あれだな……どうやらコンが、勝手に天鬼をライバル視しているみたいだ。天鬼はまるで、子供でも相手にしているかの様な態度にしか見えない。

 確かコンは200歳位だって言っていた筈だから……天鬼からすると自分の半分位しか生きていない訳だ。そりゃあ子供扱いされても仕方が無いな。
 どうやらコンはそれが面白く無いみたいだけど。

「コン、落ち着け。ボアルも良く分かって無いみたいだしちゃんと説明してやるから──」

 とりあえず大人しくなったコンと、ジッと俺を見つめて説明を待つ、ボアルを確認してから俺は話を続けた。

「いいか? そもそもラビリア達は、鬼人族と組んで俺達を挟み撃ちにする計画だった筈だ。それなのに計画を無視して、鬼人族を見捨てて逃げた。おかしいとは思わないか?」

「それは……我等が侵攻してくる事が分かったからでは無いのですか……?」

 ボアルが自信無さげに答えた。自分でもそれが正解だとは思っていない様だ。

「なら、何故ラビリア達は、俺達が侵攻して来ると言う事が分かったんだ? コンが俺の配下にいると言う事は、ラビリア達は知らなかった筈だ」

「そ、それは……」

 言葉に詰まったボアルと、興味深そうに話に聞き入っているコン。それを天鬼が面白そうに見つめながら、試す様な口調で俺の説明に付け加え始めた。

「つまり今回の計画は、初めから兎共ラビリア達に筒抜けだったと言う事ぢゃ。そもそも、どうして真人殿の動きを知る事が出来たのか……更にそ奴は、わしら鬼人族の計画まで知っておったと言う事になる。そう考えれば、自ずと一つの仮説が浮かび上がろうかという物ぢゃて──」

 どうやら天鬼も俺と同じ事を考えているみたいだ。

 今回の件の黒幕……朧げだが少しづつその可能性が見え始めた。


 天鬼の口から俺の考えと同じ、その可能性が語られ始めた──

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