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第一章 転生編
第12話 転生
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──雪は、静かに息を引き取った。
やがて、俺の視界は眩しいくらい真っ白に染まり、何もない、何も感じない真っ白な空間へと姿を変えた。あの、『白い世界』だ。眩しい程、真っ白な空間に少しずつ目が慣れてくると、ぼんやりと正面に誰かが居るのが見えた。やがて、その姿がはっきりと認識出来るまでに輪郭が顕になる。
高級感を醸し出す木製のチェアーに、脚を組んで腰掛ける美女。艶々しく輝いている、腰まで伸びた金色の髪。そして、伏し目がちの切れ長な目と、長い睫毛から覗く金色の瞳……薄い、真っ白なドレスからは細くて白い腕がスラリと伸び、組んだ脚の裾からは、細い足首が覗いている。時間が止まったかの様な錯覚を覚える程、その姿は美しかった。
『──無事に転生が始まったみたいですね』
聞き覚えのある声だった。どうやら、転生を仕掛けた張本人は、この裸足の女神らしい。
(お前が……ファラシエルとかいう女神か?)
『あら。私の名前を覚えていて下さったのですね……。はい、ファラシエルと申します。はじめまして、と言うのもおかしいかしら?』
そう言うと、裸足の女神──ファラシエルは、指先を口許に添えてクスクスと笑った。
(ここはどこだ? 俺は……雪はどうなった?)
まずは今、何が起こっているのか。自分の置かれている状況が知りたい。勿論、雪の魂がどうなってしまったのか心配だった。
『意外と冷静でいらっしゃいますのね? ここがどこか……既に、御存知なのではございませんか? ここは貴方様の──真人様の、『空想世界』ですわ。まあ、ここまで何も無い世界は初めて拝見しましたけど』
ファラシエルは、更にクスクスと悪戯っぽく笑った。
『真人様の転生が始まりましたので、こうしてご説明に上がりましたのよ。なかなか、この姿でご挨拶する事が出来ませんもので。空想世界には、干渉できるタイミングが限られておりますの』
(だから、前回は声だけだったのか。まあ、こっちは別に、聞きたい事に答えてさえくれるならそれでいい。頻繁に干渉されても鬱陶しいだけだ)
『あらあら……つれないですわねえ』
ハンカチを取り出して、わざとらしく泣き真似をするファラシエル。何だか、いちいち勘に触る。
(それで、今のこの状況は、どういう状態なんだ。雪はどうなった!)
俺は、感情のままに叫んだ。
『転生が始まりましたので、あの雪という娘の体を再生させます。今は、前世からの真人様の空想、夢想情報を、この空想世界で収集しているところですわ。もう暫くすると、真人様が前世より望まれていた力……この、空想世界で求めた力の情報を元にして、肉体の再構築が始まります。真人様の魂は既に、この体に定着しておりますので、問題なく力を発揮できる筈ですわ』
ファラシエルは俺の訴え等は何処吹く風で、淡々と状況を説明して来た。しかし、その内容は、俺の想像していた物とは随分違う。
(──なっ!? それってまさか、俺の今までのくだらない夢想や空想が、全て現実の力になるって事か?)
『簡単に申し上げますと、そう言う事です』
ファラシエルは言い切った。
──それって、とんでもないチートになるかも知れないんだが……ぼっち人生が長かったもんで、かなり中二病的な妄想を繰り返してきたし……俺。それに何か、人に見られるのも恥ずかしい気がする……。
『私は、能力の中身までは存じておりませんわ』
チラリとファラシエルの方に目をやると、相変わらず薄い笑みを浮かべながら、見透かした様にさらっと言われた。
『能力には対象者が無意識に求める物や、環境が大きく影響致します。望んだ夢を見る事が出来無い様に、無意識の中で求めている能力です。空想した力が、何でも現実になる訳ではありませんのでご安心下さい。それでも、常識では考えられない能力、が発現する事にはなると思いますわ》
なるほど。要するに、転生してみない事には誰にもその能力は分からないって事か。
『以前にも申し上げましたが、真人様には今回の転生で、前世の分も人生を謳歌して戴きたいのです。多少、反則染みた能力かも知れませんが、遠慮なく、ご自身の為にお使いになられて結構ですよ』
(俺は誰にも邪魔されず、好き勝手に生きていければそれでいいんだが……自身の幸せか。だったら一つ、お前に頼みがある)
これは、前々から考えていた事でもある。はっきり言って、ダメ元だ。
『何でございましょう?』
(雪を生き返らせてくれ)
俺が幸せになるのを手助けしてくれるって言うのなら、こいつは絶対条件だ。俺は、雪以外の人間を信用出来ない。
『申し訳ございません……それは出来ませんわ。あの者の魂は既に、真人様の中で眠りについております。それに……この世界で適合する事の出来る体は、他にございません》
(俺の幸せな人生に、雪は絶対条件だ。体が必要なら、俺は転生出来なくてもいい。手助けしてくれるんだろ? 何とかしてくれ!)
俺は、無茶を承知で懇願した。最悪、雪が生き返るなら、このまま転生なんて出来なくてもいいとさえ思った。
『そこまで仰るのであれば……生き返らせるのは無理ですが、出来る事はあります。あまりお薦めは致しませんが……』
(出来る事とは?)
藁にもすがる気分だった。
『これまでの真人様の様に、雪様の魂を真人様の新しい体に適応させます。その上で、真人様の魂の中で自我を維持できる様、真人様の魂とも適合を図ります。既に一度、適合しておりますので、相性は問題無いかと思いますが……。但し、この場合は死後、真人様の魂は輪郭の輪には帰れません。元々の体の所有者である、雪様の魂のみが輪郭の輪へと帰る事になります》
(つまり、俺が生きてる間は、今までの俺達が逆になるって事か? )
『簡単に申し上げますと、そうですね。それに肉体にも、もしかすると何らかの影響が出るかも知れません。こればっかりは、やってみないと分かりかねるのです……』
本当に、この辺りが限界なのだろう。しかし、雪の自我が残るだけでも上出来だ。それに、もしかしたら、他にも生き返らせれる可能性が出てくるかもしれない。なにしろ、ここは魔法がある世界なのだから。
(上出来だ……やってくれ! ついでに……幾つか、教えて貰いたい事があるんだが)
『何でございましょう?』
(たとえば──)
俺は、他にも幾つか気になっていた事や可能性、頼みたい事なんかを事細かく聞き出した。概ね、俺の予想通りの答えだったのだが……。
《────問題ございませんわ》
(そうか。なら、頼んだ)
やれる事は全てやった。後は、雪の自我が目覚めるのと、肉体の再生を待つだけだ。
ファラシエルはひと通り話が終わると、僅かに微笑み、光の粒子となってそのまま消えてしまった。そして……
(──っ!)
──全身に、異変を感じる。どうやら、新しい体への再生が始まったみたいだ……。
やがて、俺の視界は眩しいくらい真っ白に染まり、何もない、何も感じない真っ白な空間へと姿を変えた。あの、『白い世界』だ。眩しい程、真っ白な空間に少しずつ目が慣れてくると、ぼんやりと正面に誰かが居るのが見えた。やがて、その姿がはっきりと認識出来るまでに輪郭が顕になる。
高級感を醸し出す木製のチェアーに、脚を組んで腰掛ける美女。艶々しく輝いている、腰まで伸びた金色の髪。そして、伏し目がちの切れ長な目と、長い睫毛から覗く金色の瞳……薄い、真っ白なドレスからは細くて白い腕がスラリと伸び、組んだ脚の裾からは、細い足首が覗いている。時間が止まったかの様な錯覚を覚える程、その姿は美しかった。
『──無事に転生が始まったみたいですね』
聞き覚えのある声だった。どうやら、転生を仕掛けた張本人は、この裸足の女神らしい。
(お前が……ファラシエルとかいう女神か?)
『あら。私の名前を覚えていて下さったのですね……。はい、ファラシエルと申します。はじめまして、と言うのもおかしいかしら?』
そう言うと、裸足の女神──ファラシエルは、指先を口許に添えてクスクスと笑った。
(ここはどこだ? 俺は……雪はどうなった?)
まずは今、何が起こっているのか。自分の置かれている状況が知りたい。勿論、雪の魂がどうなってしまったのか心配だった。
『意外と冷静でいらっしゃいますのね? ここがどこか……既に、御存知なのではございませんか? ここは貴方様の──真人様の、『空想世界』ですわ。まあ、ここまで何も無い世界は初めて拝見しましたけど』
ファラシエルは、更にクスクスと悪戯っぽく笑った。
『真人様の転生が始まりましたので、こうしてご説明に上がりましたのよ。なかなか、この姿でご挨拶する事が出来ませんもので。空想世界には、干渉できるタイミングが限られておりますの』
(だから、前回は声だけだったのか。まあ、こっちは別に、聞きたい事に答えてさえくれるならそれでいい。頻繁に干渉されても鬱陶しいだけだ)
『あらあら……つれないですわねえ』
ハンカチを取り出して、わざとらしく泣き真似をするファラシエル。何だか、いちいち勘に触る。
(それで、今のこの状況は、どういう状態なんだ。雪はどうなった!)
俺は、感情のままに叫んだ。
『転生が始まりましたので、あの雪という娘の体を再生させます。今は、前世からの真人様の空想、夢想情報を、この空想世界で収集しているところですわ。もう暫くすると、真人様が前世より望まれていた力……この、空想世界で求めた力の情報を元にして、肉体の再構築が始まります。真人様の魂は既に、この体に定着しておりますので、問題なく力を発揮できる筈ですわ』
ファラシエルは俺の訴え等は何処吹く風で、淡々と状況を説明して来た。しかし、その内容は、俺の想像していた物とは随分違う。
(──なっ!? それってまさか、俺の今までのくだらない夢想や空想が、全て現実の力になるって事か?)
『簡単に申し上げますと、そう言う事です』
ファラシエルは言い切った。
──それって、とんでもないチートになるかも知れないんだが……ぼっち人生が長かったもんで、かなり中二病的な妄想を繰り返してきたし……俺。それに何か、人に見られるのも恥ずかしい気がする……。
『私は、能力の中身までは存じておりませんわ』
チラリとファラシエルの方に目をやると、相変わらず薄い笑みを浮かべながら、見透かした様にさらっと言われた。
『能力には対象者が無意識に求める物や、環境が大きく影響致します。望んだ夢を見る事が出来無い様に、無意識の中で求めている能力です。空想した力が、何でも現実になる訳ではありませんのでご安心下さい。それでも、常識では考えられない能力、が発現する事にはなると思いますわ》
なるほど。要するに、転生してみない事には誰にもその能力は分からないって事か。
『以前にも申し上げましたが、真人様には今回の転生で、前世の分も人生を謳歌して戴きたいのです。多少、反則染みた能力かも知れませんが、遠慮なく、ご自身の為にお使いになられて結構ですよ』
(俺は誰にも邪魔されず、好き勝手に生きていければそれでいいんだが……自身の幸せか。だったら一つ、お前に頼みがある)
これは、前々から考えていた事でもある。はっきり言って、ダメ元だ。
『何でございましょう?』
(雪を生き返らせてくれ)
俺が幸せになるのを手助けしてくれるって言うのなら、こいつは絶対条件だ。俺は、雪以外の人間を信用出来ない。
『申し訳ございません……それは出来ませんわ。あの者の魂は既に、真人様の中で眠りについております。それに……この世界で適合する事の出来る体は、他にございません》
(俺の幸せな人生に、雪は絶対条件だ。体が必要なら、俺は転生出来なくてもいい。手助けしてくれるんだろ? 何とかしてくれ!)
俺は、無茶を承知で懇願した。最悪、雪が生き返るなら、このまま転生なんて出来なくてもいいとさえ思った。
『そこまで仰るのであれば……生き返らせるのは無理ですが、出来る事はあります。あまりお薦めは致しませんが……』
(出来る事とは?)
藁にもすがる気分だった。
『これまでの真人様の様に、雪様の魂を真人様の新しい体に適応させます。その上で、真人様の魂の中で自我を維持できる様、真人様の魂とも適合を図ります。既に一度、適合しておりますので、相性は問題無いかと思いますが……。但し、この場合は死後、真人様の魂は輪郭の輪には帰れません。元々の体の所有者である、雪様の魂のみが輪郭の輪へと帰る事になります》
(つまり、俺が生きてる間は、今までの俺達が逆になるって事か? )
『簡単に申し上げますと、そうですね。それに肉体にも、もしかすると何らかの影響が出るかも知れません。こればっかりは、やってみないと分かりかねるのです……』
本当に、この辺りが限界なのだろう。しかし、雪の自我が残るだけでも上出来だ。それに、もしかしたら、他にも生き返らせれる可能性が出てくるかもしれない。なにしろ、ここは魔法がある世界なのだから。
(上出来だ……やってくれ! ついでに……幾つか、教えて貰いたい事があるんだが)
『何でございましょう?』
(たとえば──)
俺は、他にも幾つか気になっていた事や可能性、頼みたい事なんかを事細かく聞き出した。概ね、俺の予想通りの答えだったのだが……。
《────問題ございませんわ》
(そうか。なら、頼んだ)
やれる事は全てやった。後は、雪の自我が目覚めるのと、肉体の再生を待つだけだ。
ファラシエルはひと通り話が終わると、僅かに微笑み、光の粒子となってそのまま消えてしまった。そして……
(──っ!)
──全身に、異変を感じる。どうやら、新しい体への再生が始まったみたいだ……。
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