上 下
2 / 61
第一章 転生編

第01話 転生だと思ったら憑依だった

しおりを挟む
 気がつくと俺は、鬱蒼うっそうとした森の中を

 ──は? 歩いている?

 いやいや、おかしいだろ! 俺、歩いてないし!

 大体、何なんだ……この原生林は! こんなものが都会の真ん中にある訳無いだろ! そもそも俺は、こんな所に来た覚えは無い!

 さっきから自分で歩いている感覚も無いのに、景色だけがどんどん森の奥へと進んで行く。その上、勝手に視界が右へ左へと動き回る。

 落ち着け……

 少し、落ち着いて考えてみればわかる筈だ。

 そうか……。

 夢だ。どうやら俺は夢を見ているらしい。

 いや、しかし……ちょっと待て。そういえば、俺は死んだ筈では……死んだのに夢を見てるのか? それとも、ここがあの世? 死後の世界って言うやつか?

 だが、それにしては何だか変だ。

 もしかして、死んだのも気のせいだったのだろうか……じゃあ、あれは夢? それにしては、めちゃくちゃ痛かった気がするんだけど……
 
 確か、運転してたら女の子が急に飛び出して来て……うん、覚えてる。あれが夢だと言うのなら、余りにもリアルな夢だ。リアル過ぎる。やっぱり、あれは夢じゃない。

 じゃあ、ここは何だ? やっぱり死後の世界か? ただの森にしか見えないんだけど。しかも、勝手に動いている……俺が。動いている? 俺が?

 ──あぁっ、もう! 

 何なんだこれは! 何処なんだよ、ここはっ! いよいよ訳が分からなくなって来た。何が何だか分からない。 

(何なんだ、一体……)

 頭の中で呟いた、何気ない一言……だったんだけど。

「え?」

 突然、声が聞こえて来た。

(え!?)

 驚いて、思わず聞き返す。

「そら……耳……?」
 
 やっぱり、聞こえる。

 頭の中に直接響いて来る様な感じだ。いや、寧ろ、俺が自分で喋っているのだと、思わず錯覚してしまいそうな感覚。

(誰だ、お前?)

 とりあえず、俺は尋ねた。口を動かしている感覚は無いのに、何故か喋れている様な感じがする。考えただけで伝わりそうな、不思議な感じだ。

「えっ……えぇっ!? だ、誰っ!?」

 どうやら相手も、かなりパニックに陥っているらしい。しかし、お陰で逆に、俺は少し冷静になる事が出来た。

 声の主は、どうやら若い女の子の様だ。しかも、不思議な事にやっぱりこの声は、。……おかしな話だが。

 さっきから勝手に動き回っているこの視界も、謎が解けた。どうやらこれは、この子の目が見ている物が、俺にも見えていると言う事の様だ。辺りをキョロキョロと伺って、この子も声の主を探している。
 そして、同時に、この子が感じているであろう恐れや驚き……そんな、が、俺の中へと伝わって来る。

 なるほど……。

 何となくだが、理解した。どうやら、今の状況は……。簡単に言うと、俺はこの子に『憑依』している様な感じらしい。全く、何なんだよ……憑依って。この子に取り憑いてんのか、俺?

 自分の状態さえ認識すれば、今の状況も何となくだが説明は付く。さっきから見えているこの視界も、考えただけで喋れている様な不思議な感覚も、多分この子に俺が憑依しているからなんだろう。そうと分かればまあ、人に取り憑くってこんな感じになるのかぁ……位には理解できる。勿論、納得は出来ないけど。

 そして、もう一つ気付いた事がある。根拠は無いが、直感的に確信した。

 そう。

 やはり、俺はあの時死んだんだ。そして、何故だかは分からないが、今はこの子に取り憑いている。俺は、幽霊にでもなったんだろうか……現世には、全く未練はなかった筈なんだが。大体、この子は一体誰なんだ。

 余りにも訳の分からない状況に呆然としていると、また何かが聞こえて来た。この子の物とは違う別の声が、耳元で囁く様に優しく語りかけて来る。


『──上手く転生出来たみたいですね』


 声の主の、姿は見えない。だが、とても心地のいい優しい声だ。

(あんた、誰だ?)

 俺は、出来るだけ動揺している事を悟られない様に、努めて冷静に問い掛けた。

『はじめまして。わたくしはファラシエルと申します。そちらの世界では女神と呼ばれておりますわ』

(女神?)

『はい。貴方様の幸せを、心より願う者です』

 ──胡散臭い。

(もしかして、この訳の分からない状況もあんたの仕業なのか?)

『はい。貴方様は、前世では既にお亡くなりになりました。ですが、どうやら前世での貴方様の人生は、あまり恵まれた物では無かった様にお見受け致しましたので。わたくしの独断でこちらの世界に転生して、もう一度人生をやり直せる機会を与えさせて頂きました』

 ──なるほど。

 どうやら、この訳の分からない状況は、こいつファラシエルの仕業で間違い無いらしい。転生なんてにわかには信じられないが、自分で女神とか名乗るくらいだ。本当に本物の女神なら、確かに転生くらいは手配出来るのかも知れない。

 とりあえず、俺は今、どういう状況なんだ?
 
 何故、見ず知らずの少女に取り憑いているんだ?

 少しでも情報が欲しい。今は、他に情報源は無さそうだし、こいつが信用出来る、出来ないはひとまず置いといて、少しでも現状把握に努めた方が良さそうだ。

(いきなり転生とか言われても、分からない事だらけだ。色々と聞きたい事があるんだが)

『勿論、お答えさせて頂きますわ』

 ファラシエルと名乗るその女神は、優しい声で淡々と答えた。

(さっき転生とか何とかって言ってたけど……その割には、何か、俺の知る転生とは少し違う感じみたいなんだが……)

『どういう事でしょうか?』

(転生って言うのは、異世界で新しく生まれ変わったりとかする事なんじゃないのか? これではまるで、この子に取り憑いている地縛霊みたいじゃないか……)

 ──最も気になる部分だ。地縛霊とか……何か、嫌だ。

『生まれ変わり……ですか。実は、前世の記憶情報をそのままに、異世界の胎児に転生を施すのは非常に難しいんですの。そもそも、まだこの世界には定着していない魂ですので……胎児と言うのは。ですから、普通は既にこの世界に定着した魂の中から、受入れに適したうつわを選定して、転生を行いますのよ』

 ──なるほど。

 どうやら、俺の中途半端なラノベの常識は、ここでは通用しない様だ。しかし、ここは引き下がる訳にはいかない。

(だからって、いきなり見ず知らずの人間に取り憑くって言うのはあんまりだろ。大体、こんなの自分の体とは言えないじゃないか。こんなもんが転生って呼べ──)

『──ご心配には及びませんわ』

 ファラシエルが、若干、食い気味に返して来た。おそらく、俺の反応は想定内の物だったのだろう。だが、その後に発せられたファラシエルの言葉は、俺にとっては、とんでもなく想定外の物だった。



『いつまでも、今の状態が続く訳ではございません。何故なら、その個体は、──』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...