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第一章
第五話 聖女の料理はお袋の味?
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リズンバークでの拠点を手に入れた翌日。
ジョージは寝ぐせで頭のボサボサのエリンとともに、アメリアを迎えて一緒に朝食をとっていた。
「どうだ、このカブ美味いだろ? 鮮度も良いし、みずみずしいからサラダにしたんだ」
と、のたまうジョージだが、実際は白い部分を不揃いに切り刻んで皿に乗せただけのカブである。ちなみに調味料は何もかかっていない。
「……おいしい」
エリンは半分目を閉じたままカブをシャクシャク食べているが、もちろん味覚はまだスヤスヤなのでなんか言われたから美味しい気がしているだけである。
「……ま、まあ新鮮なお野菜ですし、そのまま食べるのも良いものですね。美味しいのは確かです。ただ、サラダと言えるかと聞かれたら答えは『ノー』と言わざるを得ないですが」
アメリアはニコニコ笑顔だが、食卓に並ぶメンツにとっても不服であった。
それもそのはず。並んでいるのは牛乳屋さんが届けてくれたビン牛乳、カブのサラダ(自称)、そして何故かワイルドに手で千切り分けられたバゲットで全部。つまり、しょっぱくもないし甘くもないのだ。
「ん? サラダじゃないのか? ……言われてみるとどこか物足りない気がするが、ちゃんと切り刻んでるし美味いカブのサラダだろ。違うと言うならどうするんだ?」
ジョージはヤレヤレと言わんばかりに肩をすくめて見せる。
「とてもやりにくい空気ですが、まあ良いでしょう」
そう言うとアメリアは立ち上がり、おもむろにキッチンに放置してあったカブの葉っぱを水道で水洗い。
そして吊るしてあったベーコンを少しと、不揃いにカットされたカブの白い部分とともに、それぞれ慣れた手つきで食べやすい大きさにカットして再び皿に盛った。
「……おいおいおい。いや……まさか、な」
ジョージがなぜかここで焦り出す。
「……ふぁ」
ちなみにエリンは椅子に座ったまま寝ている。
「えっと、小さいボウルは……あった」
次にアメリアは手のひら台のボウルに塩、コショウ、オリーブオイル、そして少しのレモン汁を入れて混ぜ合わせた。
「……ゴクリ。アメリアは料理の鉄人なのか……!?」
アメリアの慣れた様子とよく分からない液体(簡易ドレッシング)を目の当たりにしてジョージは戦慄。ポテンシャルの高さにたじろいで冷や汗をかいてしまう。
「これをかけてサッとあえると……カブのサラダのできあがりです。にんじんとか他の葉物野菜とか、ベーコンの代わりに魚肉を入れても良いですが、今回はこの家にないので簡単なものです」
「負けた。アメリア、あんたの勝ちだ……!」
ジョージは素直に負けを認めて両手をあげて見せる。
「……? せっかく用意したんですから、その両手は下げて食べてください。エリンさんも、ご飯の時間ですよ」
今まで何を食べてきたんだ? という疑問はひとまず飲み込み、アメリアはジョージとエリンにサラダを取り分けた。
「ふぇ? 朝ごはん、できたのかの?」
エリンはアメリアに起こされてようやく眠気から逃れることができたようだ。
「エリン、アメリアシェフ直々に作って頂いたカブのサラダだ。心して味わうんだぞ。俺は胸が高鳴りすぎて胸焼けしてきた」
「アメリアさん、いつの間にシェフになったのかのぉ? まあいいや、いただきます。────むむ!!?」
アメリアが目をカッ開く。これは美味しいのか不味いのか判断に困るリアクションだ。
「だ、大丈夫かエリン! ……こうなったら! ええい、ままよ!!」
ジョージもカブのサラダ(簡単)をパクり。すると……。
「んまぁいっ!! うますぎる!!」
ニコニコ笑顔で今にも小踊りしそうなくらい気に入ってしまった。
「うまい、うまいぞアメリアさん! いや、アメリアシェフ!!」
エリンの方も無事美味しい方のリアクションのようだ。
「私ってもしかして料理の才能が……?」
そんなふたりにはさまれたら、さすがのアメリアも思わず嬉しくなってしまう。
しかしそんな喜びも束の間、ジョージがなぜここまで料理に無頓着で簡易ドレッシングだけで大絶賛なのかという答えを暴露しはじめた。
「ママ……お袋の味に似てるぜ! それになんだ……この、草以外の味があるのは久しぶりでな! さっきの白い粉(塩のこと)のおかげか? それとも、緑色のトロッとした水っぽいやつ(オリーブオイルのこと)のおかげか?
分からないが、とにかく美味い! なんだか、身体が欲していた栄養を取り入れたような感じがするんだ。
それにほんのり頭がフラつく感じも治ってきてるし、もしかしてアメリア……神聖魔法か何かを使ったか?」
ジョージはよほどサラダが気に入ったのか、いつになく饒舌で語ってくれた。
「え…………つまり、故郷を出てからまともに塩分を摂取していないということですか? 元冒険者仲間のルーカスさんや他の皆さんはどうしていたんです?
あ、ちなみにそのフラつきの原因はきっと、塩分不足からくる低血圧か何かでしょう。リーズン様の神聖なる力でも治せますが今回は違います」
どれだけの期間か分からないが、ジョージはまともに塩分をとらずにどうやって生きてきたのだろうか?
「ん? ルーカスたちも俺と似たようなレベルの料理テクニックだったぜ。ただ、海の水とか白い岩が美味しく感じる時があったから、たまに口に含んでたな。喉が痛くなるから本当にたまになんだけどな。
そういえば、あれもお袋の味に近い味がしたな」
「つまり、本能的に塩分の枯渇を感じてなんとか海塩と岩塩を摂取していたと。……なんというか、幸運な方達です」
それに、ジョージの言い分から察するに、ジョージの母親もジョージほどでないにしても(塩は使えるので)あまり料理は得意ではないようだ。だからこそ、塩味が全て『お袋の味』になってしまっているのだろう。
「ごちそうさま。美味しかったぞシェフ」
ふんわりと気の抜けた笑顔でエリンが言う。取り分けてもらった分を完食したようだ。
「ありがとうございます、エリン様」
エリンは一見カッコいい見た目をしているのに、寝ぐせといい気の抜けた表情といい、初対面とのギャップが大きい人だなとアメリアは思った。
「そう言えばジョージ、昨日は夜に出ていたけどどこに行ってたのじゃ?」
エリンは前振りもなくおもむろに話をふる。脊髄反射的に言葉を口にしているのだろう、『そう言えば』に特に深い意味はない。
「ああ、昨日は格好いいバーがあってな。そこでハーレム勧誘をしていたんだ。まあ……仲間には加えられなかったがな」
ジョージ的には昨夜の出来事は手応えを感じていなかったようだ。
「仕方ない。うちはハーレムとやらには明るくないが、どんな道も極めようとすればそう簡単なものではないし、もちろん失敗はつきものじゃ。今回の反省を活かし、次の機会にどうするかを考えようではないか。……もちろん、人生の大先輩であるこのエリンも手伝ってやろう」
「おお、それは助かるぜ! ありがとなエリン先生!」
そんなこんなで朝食後のツッコんで良いのかどうか微妙なラインの、雰囲気だけはとても真面目なハーレム勧誘談義に花を咲かせてしまうふたりだった。
「──こほん!」
ただし、皿洗いを済ませたころ。アメリアが白熱する談義に待ったをかけた。本当の意味で真面目なお話である。
「……な、なんだ?」
ふざけてはいけない雰囲気を感じ取ったジョージは、エリンと目配せしながら椅子に座り直して姿勢を正す。
「この家の家賃はとらないと言ったのは覚えていますね?」
「しかと覚えておるぞ。うちのお財布事情では払えんし、後で言われても困るからしっかり脳みそに叩き込んでおる」
エリンはなぜか自信満々だ。
「そうですね。それで……聖女を助けた功績でこの家に住む分は家賃と最低限の生活費が半永久的に免除、ついでに補修も無料で請け負うことになりました」
司祭様の粋なはからいである。
「「いえーい!!」」
ジョージとエリンは子どものようにはしゃいだが、ここからが本題だ。
「しかし!」
「「しかし!?」」
「リーズン教会がジョージ様のお父様を探す件と、日ごろのお小遣いまでは無償で、という事にはできませんでした」
「「ぶー!」」
ジョージとエリンは子どものようにブーイングをしたが、まだ補足事項がある。
「お父様の捜索ですが、リズンバーク及び不可侵協定している国は問題なく進行中です。ただ、敵対意思を示すフェドロ王国はリーズン様の威光が届かず、そちらにお父様がいた場合我らの同胞では探すことができません」
「リーズン教徒の方が行けば攻撃されるかもしれんしの」
「そうです。情報も無いまま動けば、イタズラに同胞を犠牲にしてしまうでしょう。
だから、もしフェドロ王国内を探すとあれば、ジョージ様やエリン様に護衛やバックアップをつける形でなら進めてもいいと教会で承認を得てきました」
アメリアは司祭様と協力して裏で色々と手を回してくれているのだろう。
「助かる」
「とは言え、フェドロ王国に残されている同胞もまだいますし、フェドロを探すのはその者がこちらへ戻ってきてからでも遅くは無いでしょう」
「その間に別の国や、なんならこの国で見つかるかもしれないしな」
「そうなると、うち達はそれまで何をすれば良いのじゃ?」
エリンが尋ねる。
「そこでふたつ目の話題です。
最低限の衣食住が保障されているとは言え、演劇や美味しいもの、修業、学問、何をするにもお金がかかりますよね。
だから、普段なら冒険者協会に出すクエストを、リーズン教会から直接受けてお小遣いを稼いでみませんか?
もちろん、こちらの手間が減る分多めになりますし……モノによっては冒険者協会で受ける場合の数倍の報酬出ます。情報提供もクエスト中のサポートも充実です。どうですか?」
リーズン教会専属冒険者になる代わりに、報酬は増えて手厚い保証もある。これほど美味しい話はそう無いだろう。
しかし、だからこそ気になる。
「その話、俺たちにおいしすぎるんじゃないのか? 他に何かさせたい事があるんだろ」
何か裏があるんじゃないのかと。
「え? 美味しかったらダメなのか? うちは頂きたいのじゃが」
「エリンは少し黙ってくれ」
「はい……」
「………………ええっと、こほん。バレましたか」
アメリアは小さく咳払いをして気を取り直すと白状した。
「──あなたの摩訶不思議なフェロモン(仮)を徹底的に調べさせて頂きます! 拒否権はありません、覚悟しておいてください!!」
「そんなことかよ! もちろん良いぜ!」
こうしてジョージは二つ返事でリーズン教会に自分のフェロモンを研究される事になったのだった。
ちなみにその後に放った『良いんかい!』というエリンの叫びは、家のドアを越えて通りの方まで聞こえていたという。
ジョージは寝ぐせで頭のボサボサのエリンとともに、アメリアを迎えて一緒に朝食をとっていた。
「どうだ、このカブ美味いだろ? 鮮度も良いし、みずみずしいからサラダにしたんだ」
と、のたまうジョージだが、実際は白い部分を不揃いに切り刻んで皿に乗せただけのカブである。ちなみに調味料は何もかかっていない。
「……おいしい」
エリンは半分目を閉じたままカブをシャクシャク食べているが、もちろん味覚はまだスヤスヤなのでなんか言われたから美味しい気がしているだけである。
「……ま、まあ新鮮なお野菜ですし、そのまま食べるのも良いものですね。美味しいのは確かです。ただ、サラダと言えるかと聞かれたら答えは『ノー』と言わざるを得ないですが」
アメリアはニコニコ笑顔だが、食卓に並ぶメンツにとっても不服であった。
それもそのはず。並んでいるのは牛乳屋さんが届けてくれたビン牛乳、カブのサラダ(自称)、そして何故かワイルドに手で千切り分けられたバゲットで全部。つまり、しょっぱくもないし甘くもないのだ。
「ん? サラダじゃないのか? ……言われてみるとどこか物足りない気がするが、ちゃんと切り刻んでるし美味いカブのサラダだろ。違うと言うならどうするんだ?」
ジョージはヤレヤレと言わんばかりに肩をすくめて見せる。
「とてもやりにくい空気ですが、まあ良いでしょう」
そう言うとアメリアは立ち上がり、おもむろにキッチンに放置してあったカブの葉っぱを水道で水洗い。
そして吊るしてあったベーコンを少しと、不揃いにカットされたカブの白い部分とともに、それぞれ慣れた手つきで食べやすい大きさにカットして再び皿に盛った。
「……おいおいおい。いや……まさか、な」
ジョージがなぜかここで焦り出す。
「……ふぁ」
ちなみにエリンは椅子に座ったまま寝ている。
「えっと、小さいボウルは……あった」
次にアメリアは手のひら台のボウルに塩、コショウ、オリーブオイル、そして少しのレモン汁を入れて混ぜ合わせた。
「……ゴクリ。アメリアは料理の鉄人なのか……!?」
アメリアの慣れた様子とよく分からない液体(簡易ドレッシング)を目の当たりにしてジョージは戦慄。ポテンシャルの高さにたじろいで冷や汗をかいてしまう。
「これをかけてサッとあえると……カブのサラダのできあがりです。にんじんとか他の葉物野菜とか、ベーコンの代わりに魚肉を入れても良いですが、今回はこの家にないので簡単なものです」
「負けた。アメリア、あんたの勝ちだ……!」
ジョージは素直に負けを認めて両手をあげて見せる。
「……? せっかく用意したんですから、その両手は下げて食べてください。エリンさんも、ご飯の時間ですよ」
今まで何を食べてきたんだ? という疑問はひとまず飲み込み、アメリアはジョージとエリンにサラダを取り分けた。
「ふぇ? 朝ごはん、できたのかの?」
エリンはアメリアに起こされてようやく眠気から逃れることができたようだ。
「エリン、アメリアシェフ直々に作って頂いたカブのサラダだ。心して味わうんだぞ。俺は胸が高鳴りすぎて胸焼けしてきた」
「アメリアさん、いつの間にシェフになったのかのぉ? まあいいや、いただきます。────むむ!!?」
アメリアが目をカッ開く。これは美味しいのか不味いのか判断に困るリアクションだ。
「だ、大丈夫かエリン! ……こうなったら! ええい、ままよ!!」
ジョージもカブのサラダ(簡単)をパクり。すると……。
「んまぁいっ!! うますぎる!!」
ニコニコ笑顔で今にも小踊りしそうなくらい気に入ってしまった。
「うまい、うまいぞアメリアさん! いや、アメリアシェフ!!」
エリンの方も無事美味しい方のリアクションのようだ。
「私ってもしかして料理の才能が……?」
そんなふたりにはさまれたら、さすがのアメリアも思わず嬉しくなってしまう。
しかしそんな喜びも束の間、ジョージがなぜここまで料理に無頓着で簡易ドレッシングだけで大絶賛なのかという答えを暴露しはじめた。
「ママ……お袋の味に似てるぜ! それになんだ……この、草以外の味があるのは久しぶりでな! さっきの白い粉(塩のこと)のおかげか? それとも、緑色のトロッとした水っぽいやつ(オリーブオイルのこと)のおかげか?
分からないが、とにかく美味い! なんだか、身体が欲していた栄養を取り入れたような感じがするんだ。
それにほんのり頭がフラつく感じも治ってきてるし、もしかしてアメリア……神聖魔法か何かを使ったか?」
ジョージはよほどサラダが気に入ったのか、いつになく饒舌で語ってくれた。
「え…………つまり、故郷を出てからまともに塩分を摂取していないということですか? 元冒険者仲間のルーカスさんや他の皆さんはどうしていたんです?
あ、ちなみにそのフラつきの原因はきっと、塩分不足からくる低血圧か何かでしょう。リーズン様の神聖なる力でも治せますが今回は違います」
どれだけの期間か分からないが、ジョージはまともに塩分をとらずにどうやって生きてきたのだろうか?
「ん? ルーカスたちも俺と似たようなレベルの料理テクニックだったぜ。ただ、海の水とか白い岩が美味しく感じる時があったから、たまに口に含んでたな。喉が痛くなるから本当にたまになんだけどな。
そういえば、あれもお袋の味に近い味がしたな」
「つまり、本能的に塩分の枯渇を感じてなんとか海塩と岩塩を摂取していたと。……なんというか、幸運な方達です」
それに、ジョージの言い分から察するに、ジョージの母親もジョージほどでないにしても(塩は使えるので)あまり料理は得意ではないようだ。だからこそ、塩味が全て『お袋の味』になってしまっているのだろう。
「ごちそうさま。美味しかったぞシェフ」
ふんわりと気の抜けた笑顔でエリンが言う。取り分けてもらった分を完食したようだ。
「ありがとうございます、エリン様」
エリンは一見カッコいい見た目をしているのに、寝ぐせといい気の抜けた表情といい、初対面とのギャップが大きい人だなとアメリアは思った。
「そう言えばジョージ、昨日は夜に出ていたけどどこに行ってたのじゃ?」
エリンは前振りもなくおもむろに話をふる。脊髄反射的に言葉を口にしているのだろう、『そう言えば』に特に深い意味はない。
「ああ、昨日は格好いいバーがあってな。そこでハーレム勧誘をしていたんだ。まあ……仲間には加えられなかったがな」
ジョージ的には昨夜の出来事は手応えを感じていなかったようだ。
「仕方ない。うちはハーレムとやらには明るくないが、どんな道も極めようとすればそう簡単なものではないし、もちろん失敗はつきものじゃ。今回の反省を活かし、次の機会にどうするかを考えようではないか。……もちろん、人生の大先輩であるこのエリンも手伝ってやろう」
「おお、それは助かるぜ! ありがとなエリン先生!」
そんなこんなで朝食後のツッコんで良いのかどうか微妙なラインの、雰囲気だけはとても真面目なハーレム勧誘談義に花を咲かせてしまうふたりだった。
「──こほん!」
ただし、皿洗いを済ませたころ。アメリアが白熱する談義に待ったをかけた。本当の意味で真面目なお話である。
「……な、なんだ?」
ふざけてはいけない雰囲気を感じ取ったジョージは、エリンと目配せしながら椅子に座り直して姿勢を正す。
「この家の家賃はとらないと言ったのは覚えていますね?」
「しかと覚えておるぞ。うちのお財布事情では払えんし、後で言われても困るからしっかり脳みそに叩き込んでおる」
エリンはなぜか自信満々だ。
「そうですね。それで……聖女を助けた功績でこの家に住む分は家賃と最低限の生活費が半永久的に免除、ついでに補修も無料で請け負うことになりました」
司祭様の粋なはからいである。
「「いえーい!!」」
ジョージとエリンは子どものようにはしゃいだが、ここからが本題だ。
「しかし!」
「「しかし!?」」
「リーズン教会がジョージ様のお父様を探す件と、日ごろのお小遣いまでは無償で、という事にはできませんでした」
「「ぶー!」」
ジョージとエリンは子どものようにブーイングをしたが、まだ補足事項がある。
「お父様の捜索ですが、リズンバーク及び不可侵協定している国は問題なく進行中です。ただ、敵対意思を示すフェドロ王国はリーズン様の威光が届かず、そちらにお父様がいた場合我らの同胞では探すことができません」
「リーズン教徒の方が行けば攻撃されるかもしれんしの」
「そうです。情報も無いまま動けば、イタズラに同胞を犠牲にしてしまうでしょう。
だから、もしフェドロ王国内を探すとあれば、ジョージ様やエリン様に護衛やバックアップをつける形でなら進めてもいいと教会で承認を得てきました」
アメリアは司祭様と協力して裏で色々と手を回してくれているのだろう。
「助かる」
「とは言え、フェドロ王国に残されている同胞もまだいますし、フェドロを探すのはその者がこちらへ戻ってきてからでも遅くは無いでしょう」
「その間に別の国や、なんならこの国で見つかるかもしれないしな」
「そうなると、うち達はそれまで何をすれば良いのじゃ?」
エリンが尋ねる。
「そこでふたつ目の話題です。
最低限の衣食住が保障されているとは言え、演劇や美味しいもの、修業、学問、何をするにもお金がかかりますよね。
だから、普段なら冒険者協会に出すクエストを、リーズン教会から直接受けてお小遣いを稼いでみませんか?
もちろん、こちらの手間が減る分多めになりますし……モノによっては冒険者協会で受ける場合の数倍の報酬出ます。情報提供もクエスト中のサポートも充実です。どうですか?」
リーズン教会専属冒険者になる代わりに、報酬は増えて手厚い保証もある。これほど美味しい話はそう無いだろう。
しかし、だからこそ気になる。
「その話、俺たちにおいしすぎるんじゃないのか? 他に何かさせたい事があるんだろ」
何か裏があるんじゃないのかと。
「え? 美味しかったらダメなのか? うちは頂きたいのじゃが」
「エリンは少し黙ってくれ」
「はい……」
「………………ええっと、こほん。バレましたか」
アメリアは小さく咳払いをして気を取り直すと白状した。
「──あなたの摩訶不思議なフェロモン(仮)を徹底的に調べさせて頂きます! 拒否権はありません、覚悟しておいてください!!」
「そんなことかよ! もちろん良いぜ!」
こうしてジョージは二つ返事でリーズン教会に自分のフェロモンを研究される事になったのだった。
ちなみにその後に放った『良いんかい!』というエリンの叫びは、家のドアを越えて通りの方まで聞こえていたという。
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