漫才師の猫は吾輩である

老黄忠

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漫才師の猫

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吾輩は猫であり名前はニコである、先に言っておく。

この名前の理由は、吾輩を見て「ニコニコ笑顔」になりたいらしく、意味不明な上になんとも気味の悪い視線を感じながら日々を過ごしている。

そんな名付け親であり、賢くなさそうな飼い主の名前は絵里ちゃん。

吾輩が幼い頃に捨てられていたところ、見るに見かねて拾ってくれたらしい。

気が付けば美味しいご飯が食べられるようになっていたが、最近は餌の質を落としているのか、若い頃よりも安物になっているような気がしてならない。

吾輩は『美味美味プレミアム』というキャットフードが好物なのだが、「プレミアム」の文字が抜けた商品を最近目にすることが多くなり、家計が苦しくなったのだろうかと要らぬ心配までするようになった。

絵里ちゃん曰く、家計が苦しくなったのは自分が売れないことが原因であるらしい。

そして口癖は「なんでウケへんのやろ?」で、いつも悩んでいる様子だった。

どうやら「ウケへん」という言葉は「お客に笑ってくれない」という意味らしく、絵里ちゃんにとっては死活問題であるとのこと。

自慢ではないが、吾輩は絵里ちゃんを笑わせるのが得意である。

彼女が吾輩を抱き上げた時、目を細めて口角を少し上げながら「にゃー」と鳴けば、すぐに笑ってくれるのだ。

こんな簡単なことで悩んでいる絵里ちゃんをしょ~もないと思いつつも、いつもお世話になっている身として、少しは力になってやらねばオスが廃るではないか。

しかしどうやって力になって良いのかてんで分からないため、絵里ちゃんの相方が飼っている猫のバルサミコに相談してみようと考えている。

バルサミコは彼の名前であり、吾輩はバルコと呼んでいるが、くれぐれもオスなので読者の皆さんは勘違いしないで欲しい。

……話が逸れたが、絵里ちゃんの相方の名前は大藪みくり。

巷では「やぶみく」の愛称で呼ばれており、大阪ではそこそこ名前が知られている人気者である。

そう、彼女たちの職業は『漫才師』で、吾輩たちはその漫才コンビに飼われている猫なのだ。
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