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第20章 成り上がりの次期公爵夫人
成り上がりの次期公爵夫人Ⅲ
しおりを挟むところが、リリーの手でそれは止められてしまった。
「ミエラ、片手じゃ火傷しちゃうよ~! 私が注ぐから、ちゃんと声掛けてね~」
「うん、ありがとう」
リリーの心遣いが温かく、有り難い。ポットから手を離すと、リリーが紅茶を注いでくれた。ふんわりと茶葉の良い香りが漂う。
リリーが自身のティーカップに口を付けたのを確認し、私も紅茶を飲んでみる。渋みが少なく、まろやかな紅茶だ。砂糖を入れなくてもほのかに甘い。
凄く美味しい。ティーカップをソーサーの上に置き、ほっと息を吐く。
「それにしても綺麗だったな~」
「ん~?」
「パーティーでのミエラのドレス姿~」
本当にうっとりとしたように、リリーは遠くを見る。その横で、ヒルダは「ふふっ」と笑う。
「まだまだこれからだよ。結婚式が残ってるもん」
「そうだね~。二人とも綺麗なんだろうな~」
更にリリーは瞳をとろけさせる。
クラウは兎も角、私のハードルを上げないで欲しい。「う~ん……」と唸っていると、ヒルダは「あはは」と笑う。
「ミエラってば唸る事無いじゃん。自分の容姿に自信持って良いんだよ?」
「そんな事言われても……」
自信を持てと言われたからといって、直ぐに持てる筈も無い。スケート大会でも「そんなに可愛くない癖に」と陰口を言われたのだ。
又しても「う~ん……」と唸る私に、今度はマーガレットが口を開いた。
「容姿は分かんないけど、性格は確実に私よりミエラの方が可愛いよね」
「そうそう。要するに、女は中身だよ」
「ヒルダ、遠回しに私の性格可愛くないって言ってるよね」
「言い出したのはマーガレットじゃん」
会話の中身だけを聞けば喧嘩しているようにも聞こえるけれど、笑いを交えながら話しているので、冗談交じりなのだろう。
「こんな純粋なご令嬢がお姉様の他に居るとは思わなかった」
「私もだよ。ミエラはホントに良い子なんだから」
ヒルダはにっこりと笑って私を見る。
「ミエラ、ルーゼンベルクに来てくれてありがとね」
こんな風に褒められると照れてしまう。「えへへ」と照れ笑いをすると、リリーは私の頭を撫でた。
そんな会話をしているうちに、今度はケーキが運ばれてきた。ケーキの上に乗っている果物と色から察するに、オレンジとチョコレートのケーキだろう。
「わぁ……! 美味しそう……!」
「午前中、頑張って私が焼いたケーキなんだ~!」
「流石リリーだね!」
ヒルダの目はケーキにくぎ付けだ。勢いそのままにフォークでケーキを掬うと、パクリと頬張った。私が感想を待っていられる筈もなく、続いてケーキを口に運んだ。チョコレートのほろ苦さとオレンジの爽やかな酸味、そして甘味が口いっぱいに広がる。
「美味しいー……!」
「良かったぁ」
「お姉様ってばお菓子の腕前だけは凄いよね」
「だけって言わないの~!」
膨れるリリーを余所に、マーガレットもおいしそうにケーキを食べている。
性格は真逆だけれど、見れば見る程にリリーもマーガレットも容姿はそっくりだ。
「ねえ、リリー。リリーとマーガレットって双子?」
「良く間違えられるけど違うよ~。そんなに似てるかな~」
「うん」
勢い良く頷くと、リリーは「あはっ!」と笑う。
「マーガレットとは一個違いなの~。マーガレットはミエラと同い年だよ~」
同い年。そう言われて一気に親近感が沸いてくる。
この世界に来てから今まで、年上の人とばかり出会ってきたから、マーガレットは貴重な存在だ。
「マーガレット、私も十八歳なの! 仲良くしよ~!」
「ふーん」
勇気を振り絞って声を掛けてみたのに、冷めた対応をされてしまった。少し怯んでしまう。
曇った表情をしてしまっただろうか。リリーは私に「大丈夫だよ~」と肩をポンポンと叩きながら囁く。
「マーガレット、これでも満更じゃないんだよ~。冷静に見せてるだけ~」
「お姉様、聞こえてる」
紅茶をお淑やかに飲むマーガレットに、リリーは「ふふふ」と笑うので、私も思わず笑ってしまった。
「……ミエラ様!」
誰も居ない筈の左側から声が聞こえてきたので驚いてしまった。振り向いてみると、茶色のカールした髪の令嬢と黒色のストレートヘアの令嬢が佇んでいた。
この二人は見覚えがある。
「えっと……貴女たちは……」
「私がリネットで、こっちの黒髪の子がアンジェラ」
そう、確か婚約発表のパーティーで私に話し掛けてくれた令嬢たちだ。
名前が出てこなかった事を詫びようと、私もそろりと立ち上がった。
「一週間前のパーティーの時はありがとう。名前、覚えてなくてごめんね」
「ううん、そんな事良いの。それより……」
黒髪の令嬢――アンジェラは一度言い淀んだものの、真っ直ぐに私を見る。
「ミエラって呼んで良い?」
「うん。勿論」
なんだ、そんな事か。笑顔で返事をすると、リネットとアンジェラの顔にも笑みが溢れる。
「良かった……! 友達増えたよ! しかも異国出身の、元魔導師様の!」
「勇気出して声掛けて良かったねー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるアンジェラと、茶髪の令嬢――リネットは手を取り合って喜びを分かち合う。
友達という言葉に心臓がとくんと高鳴った。
「元魔導師って言っても、今は普通の人だし、大袈裟だよ~」
普通の人という、ちょっとした嘘をサラッと言ってしまった。
それなのに、リネットとアンジェラは両手をブンブンと振る。
「だって、立場は女王様と同じなんだよ? 魔導師様のままだったら絶対に近付けてなかったもの」
「それはそうだけど……」
そう言われると返答に困ってしまう。
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