上 下
84 / 171
第20章 成り上がりの次期公爵夫人

成り上がりの次期公爵夫人Ⅲ

しおりを挟む

 ところが、リリーの手でそれは止められてしまった。

「ミエラ、片手じゃ火傷しちゃうよ~! 私が注ぐから、ちゃんと声掛けてね~」

「うん、ありがとう」

 リリーの心遣いが温かく、有り難い。ポットから手を離すと、リリーが紅茶を注いでくれた。ふんわりと茶葉の良い香りが漂う。
 リリーが自身のティーカップに口を付けたのを確認し、私も紅茶を飲んでみる。渋みが少なく、まろやかな紅茶だ。砂糖を入れなくてもほのかに甘い。
 凄く美味しい。ティーカップをソーサーの上に置き、ほっと息を吐く。

「それにしても綺麗だったな~」

「ん~?」

「パーティーでのミエラのドレス姿~」

 本当にうっとりとしたように、リリーは遠くを見る。その横で、ヒルダは「ふふっ」と笑う。

「まだまだこれからだよ。結婚式が残ってるもん」

「そうだね~。二人とも綺麗なんだろうな~」

 更にリリーは瞳をとろけさせる。
 クラウは兎も角、私のハードルを上げないで欲しい。「う~ん……」と唸っていると、ヒルダは「あはは」と笑う。

「ミエラってば唸る事無いじゃん。自分の容姿に自信持って良いんだよ?」

「そんな事言われても……」

 自信を持てと言われたからといって、直ぐに持てる筈も無い。スケート大会でも「そんなに可愛くない癖に」と陰口を言われたのだ。
 又しても「う~ん……」と唸る私に、今度はマーガレットが口を開いた。

「容姿は分かんないけど、性格は確実に私よりミエラの方が可愛いよね」

「そうそう。要するに、女は中身だよ」

「ヒルダ、遠回しに私の性格可愛くないって言ってるよね」

「言い出したのはマーガレットじゃん」

 会話の中身だけを聞けば喧嘩しているようにも聞こえるけれど、笑いを交えながら話しているので、冗談交じりなのだろう。

「こんな純粋なご令嬢がお姉様の他に居るとは思わなかった」

「私もだよ。ミエラはホントに良い子なんだから」

 ヒルダはにっこりと笑って私を見る。

「ミエラ、ルーゼンベルクに来てくれてありがとね」

 こんな風に褒められると照れてしまう。「えへへ」と照れ笑いをすると、リリーは私の頭を撫でた。
 そんな会話をしているうちに、今度はケーキが運ばれてきた。ケーキの上に乗っている果物と色から察するに、オレンジとチョコレートのケーキだろう。

「わぁ……! 美味しそう……!」

「午前中、頑張って私が焼いたケーキなんだ~!」

「流石リリーだね!」

 ヒルダの目はケーキにくぎ付けだ。勢いそのままにフォークでケーキを掬うと、パクリと頬張った。私が感想を待っていられる筈もなく、続いてケーキを口に運んだ。チョコレートのほろ苦さとオレンジの爽やかな酸味、そして甘味が口いっぱいに広がる。

「美味しいー……!」

「良かったぁ」

「お姉様ってばお菓子の腕前だけは凄いよね」

「だけって言わないの~!」

 膨れるリリーを余所に、マーガレットもおいしそうにケーキを食べている。
 性格は真逆だけれど、見れば見る程にリリーもマーガレットも容姿はそっくりだ。

「ねえ、リリー。リリーとマーガレットって双子?」

「良く間違えられるけど違うよ~。そんなに似てるかな~」

「うん」

 勢い良く頷くと、リリーは「あはっ!」と笑う。

「マーガレットとは一個違いなの~。マーガレットはミエラと同い年だよ~」

 同い年。そう言われて一気に親近感が沸いてくる。
 この世界に来てから今まで、年上の人とばかり出会ってきたから、マーガレットは貴重な存在だ。

「マーガレット、私も十八歳なの! 仲良くしよ~!」

「ふーん」

 勇気を振り絞って声を掛けてみたのに、冷めた対応をされてしまった。少し怯んでしまう。
 曇った表情をしてしまっただろうか。リリーは私に「大丈夫だよ~」と肩をポンポンと叩きながら囁く。

「マーガレット、これでも満更じゃないんだよ~。冷静に見せてるだけ~」

「お姉様、聞こえてる」

 紅茶をお淑やかに飲むマーガレットに、リリーは「ふふふ」と笑うので、私も思わず笑ってしまった。

「……ミエラ様!」

 誰も居ない筈の左側から声が聞こえてきたので驚いてしまった。振り向いてみると、茶色のカールした髪の令嬢と黒色のストレートヘアの令嬢が佇んでいた。
 この二人は見覚えがある。

「えっと……貴女たちは……」

「私がリネットで、こっちの黒髪の子がアンジェラ」

 そう、確か婚約発表のパーティーで私に話し掛けてくれた令嬢たちだ。
 名前が出てこなかった事を詫びようと、私もそろりと立ち上がった。

「一週間前のパーティーの時はありがとう。名前、覚えてなくてごめんね」

「ううん、そんな事良いの。それより……」

 黒髪の令嬢――アンジェラは一度言い淀んだものの、真っ直ぐに私を見る。

「ミエラって呼んで良い?」

「うん。勿論」

 なんだ、そんな事か。笑顔で返事をすると、リネットとアンジェラの顔にも笑みが溢れる。

「良かった……! 友達増えたよ! しかも異国出身の、元魔導師様の!」

「勇気出して声掛けて良かったねー!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねるアンジェラと、茶髪の令嬢――リネットは手を取り合って喜びを分かち合う。
 友達という言葉に心臓がとくんと高鳴った。

「元魔導師って言っても、今は普通の人だし、大袈裟だよ~」

 普通の人という、ちょっとした嘘をサラッと言ってしまった。
 それなのに、リネットとアンジェラは両手をブンブンと振る。

「だって、立場は女王様と同じなんだよ? 魔導師様のままだったら絶対に近付けてなかったもの」

「それはそうだけど……」

 そう言われると返答に困ってしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

処理中です...