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第20章 成り上がりの次期公爵夫人
成り上がりの次期公爵夫人Ⅱ
しおりを挟む「今日は来てくれてありがとう~!」
「ううん。リリーの為なら飛んでくるよ」
私たちの仲は、もう親友同士みたいだ。身体を離した後もリリーは私の両手首を掴んでブンブンと振る。
そこへ、リリーとそっくりな人物が私の隣へとやってきた。違いは前髪があるか、無いかだけだろう。
「お姉様、ミエラばっかりじゃなくて、他のご令嬢も相手してあげて」
「だって、他の子は私なんてどうでも良いでしょ~?」
「またそうやって不貞腐れるんだから」
マーガレットは腰に両手を当てて、プイっと膨れる。
「そんなだから、他のご令嬢が寄り付かな――」
「リリー!」
エントランスにはつらつとした声が響く。この声はヒルダだ。
振り向いてみると、そこには確かに笑顔で手を振るヒルダの姿があった。
「ヒルダ~!」
「お姉様!」
リリーが未だに手を放してくれそうにないので、頭だけをちょこんと下げてみる。
ヒルダはこちらに駆け寄ってくると、私の右手を掴むリリーの手を引き剝がし、両手で握った。
「リリーとお茶会なんて久し振りだね!」
「うん~! 私、あんまり気乗りしなかったから~。でも……」
言うと、リリーは満面の笑みで私の顔を見る。
「ミエラが一緒なら、楽しめるかな~って!」
リリーは「えへへ……」と照れ笑いををすると、ヒルダはリリーの頭をそっと撫でた。
「良かった。リリーが元気になって。ミエラのお陰だよ。私もたまにはリリーの様子見に此処に来なくちゃね。勿論、マーガレットの様子もね」
今度は、ヒルダはマーガレットの頭を撫でようとする。でも、それは空振りに終わってしまった。マーガレットが軽く身を翻したのだ。
「いつまでも私はヒルダの遊び相手じゃないんだから」
「もう、マーガレットは素っ気ないなぁ」
言いながらもヒルダは笑っている。三人の仲の良さが垣間見えた気がする。
「それよりお姉様、ご令嬢が全員到着したんじゃない? 案内してあげなきゃ」
「あっ……」
マーガレットの声に、リリーと一緒に別邸の門の方へと視線を向けてみた。もう馬車は並んでいない。それに、エントランスの周辺には色とりどりのドレスが華を添えている。
「皆~! こっちに来て~!」
リリーが声を上げると、令嬢たちは一斉に此方を向いた。リリーの「行こう~!」という掛け声と共に、引かれる手は別邸の中へと進んでいく。その勢いで足も前に出る。
後ろで別邸と外を隔てる扉の蝶番が軋む音が聞こえた。
リリーと私、その後ろにヒルダとマーガレット、その他の令嬢たちと連なり、廊下を進んでいく。案内されたのは、この屋敷の大広間だった。ルーゼンベルクのそことは、大きさは比較にならないのだけれど、部屋の新しさで言えばアイリンドル別邸の方が勝っている。天井には大きな金色のシャンデリアが一つと、両隣に一回り小さなシャンデリアが一つずつ並んでいる。壁や天井は真っ白で、床には紺色の絨毯が敷かれていた。右側一面だけガラス張りの壁の向こう側には、氷の百合が所狭しと咲き乱れている。
「席は自由だよ~! 皆、好きなところに座って~!」
リリーは叫ぶと、私、ヒルダ、マーガレットを引き連れて長テーブルの奥の席へと座った。リリーの左隣りに私、右隣にヒルダ、その隣にマーガレットが腰を下ろす。私がテーブルの一番端だ。
全員が席に着いた事を確認すると、リリーはメイドを呼び寄せ何かを告げる。それと共に、メイドたちは一斉に動き始めた。紅茶が入った小さなポットとカップを私たちの前に置いていく。
その間に、リリーに一つ確認しておきたいことがあったのだ。
「ねえ、リリー」
「どうしたの~?」
「この前、クローディオと旅行に行ってね? 皆にお土産買ってきたの。いつ渡せば良いかなぁ」
「もうちょっと待ってね~」
辺りを見回すリリーに、コクリと頷いてみせる。
メイドの動きが止まった所で、リリーは息を吸い込んだ。
「皆、今日は来てくれてありがとう~! 色んな話をして、食事して楽しんでね~! お茶会を始める前に、ミエラとクローディオからお土産がありま~す! 旅行に行ってきたんだって~!」
令嬢たちは口々に歓声を上げる。リリーは私に「渡してきて~」と囁くと、嬉しそうに微笑む。答えるようにして頷いてみせると、そっと席を立ち、ボストンバックを開けて中を確認してみる。それを一つずつ取り出し、一人ずつ席に持っていき、渡していった。皆が「ありがとう」と笑顔で受け取ってくれたのが嬉しい。全員に渡し終わると、それぞれが包みを開けていく。現れた小鳥のストームグラスに、「可愛いー!」と歓声が上がった。
「ミエラ、スカイブ湖に行ったんだね~!」
「スカイブ湖?」
首を傾げてみると、リリーはクスクスと笑う。
「童話の舞台になった、透明な氷の湖の名前だよ~。ミエラ、知らなかった~?」
「うん」
そうか、あの思い出の地はスカイブ湖という名前なのか。覚えておこうと、必死に心に刻み込む。
そうこうしてるうちに、ヒルダもマーガレットも紅茶を嗜んでいた。私もそろそろ頂こう。ポットを何とか片手で掴むと、紅茶をカップに注ごうと試みる。
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