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第15章 取り残された四人
取り残された四人Ⅵ
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そっと瞼を開ける。白いベッドの天蓋と天井が目に映った。確かめるように周りを見渡してみると、どうやら此処は私の部屋だ。クラウの部屋に居た筈なのに。
ベッドから降り、部屋の扉を開けてみる。頭だけを出して辺りを確認してみると、一人のメイドを発見した。
少し遠いけれど話し掛けてみよう。
「ねえ!」
声を張り上げると、メイドははっとしたようにこちらに振り返った。
「……お嬢様!」
その勢いのまま、此方へとことこ駆けてくる。
「ご体調は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。それよりクローディオは?」
「しっかり休んでおいでです」
「良かった……」
ほっと胸を撫で下ろす。
「貴女はもう良いの?」
「何がですか?」
「スケート大会」
メイドは「ああ」と声を上げる。
「私には家族も居ませんし、つまらないので帰ってきてしまいました」
つまらなくて帰ってきてしまって良いのだろうか。私の疑問も相手に伝わる筈が無く、メイドは続ける。
「それより、ミユ様がお元気そうで何よりです。クラウ様とも再会出来たようですし、安心しました」
「えっ……?」
どういう意味だろう。それに、私たちをこんな風に呼ぶ使用人なんてこの屋敷には存在しない。
「貴女……誰?」
聞くと、メイドは苦笑いをする。
「もう忘れてしまったんですか? あんなに沢山お話ししましたのに」
沢山話をしたメイドなんてルーナしか居ないのに。
訳が分からず首を傾げてみる。
「相変わらずですね。それでこそミユ様です。私の正体は次の機会に」
言うと、メイドはくるりと背を向ける。
「……待って、アリア!」
勢い良く瞼を開けた。間近には銀色の瞳が――
「……お父様!」
驚きすぎて、抱かれている腕から危うく落ちそうになってしまった。ルーカスは何度か私を持ち直す。
「暴れないでくれ。本当に落としてしまうよ」
「私、下ろしてもらって大丈夫です」
「そうか?」
ルーカスに頷いてみせると、両足を支えている左腕から力が抜けていく。
ストンと床に両足を下すと、転ばないように私の肩ををルーカスが支えてくれた。
「申し訳ありません、私、寝ちゃって」
「いや、こちらこそ済まない、クローディオを任せきりにしてしまって」
「いえ……」
私はクラウの傍に居たいからそうしただけだ。ぶんぶんと首を振る。
「少し部屋で休んだ方が良い。ミユも疲れているだろう?」
「でも……」
「正直に言うと、此処でミユに倒れられても困るんだ。良いから一時間でも、二時間でも休んできなさい」
「分かりました」
此処まで言われては、意地でも私を休ませるつもりだったのだろう。素直に従わせてもらおう。
「クローディオに何かあったら何時でも呼んで下さい」
「分かった」
ルーカスは私の頭にポンポンと触れる。
「ミユ、ありがとう」
ルーカスの屈託のない笑顔を見ると、思わず嬉しくなる。
そのまま身を翻し、自室へ繋がる廊下を進む。何かが起きる訳も無く、自室に辿り着くとソファーへ腰を下ろした。
一度寝てしまったし、いざ休めと言われると眠れなくなるものである。
テーブルの片隅に置いてあった飴玉に手を伸ばし、窓の外へと目を向ける。
もう外は夕暮れ間近だ。空の際は僅かに黄色くなっている。
リンゴ味の飴玉を口の中で転がし、伸びをした。
クラウはまだ眠っているのだろうか。それともルーカスやキャサリンと話をしているのだろうか。
やはり気になって仕方が無い。
思うよりも即、行動に移していた。
自室を飛び出し、廊下を曲がり、クラウの部屋の扉をノックもせずに開ける。
「ミユ!」
小声ながらも、ルーカスとキャサリンは声を上げた。
「休んでいたんじゃないの?」
「休もうと思ったんです。でも、気になって気になって仕方なくって……」
二人は顔を見合わせ、クスリと笑う。
「ミユ、おいで」
ルーカスが手招きをするので、素直に従った。
「キャシーと二人で、クローディオの寝顔を見るなんて何時振りだろうって話をしていたんだ」
「この子、小さい頃は身体が弱かったけれど、成長するにつれて風邪を引く事も無くなってったから」
キャサリンがクラウの頭を撫でると、その瞼が徐々に開いていった。虚ろな瞳で私たち三人を見比べる。
「ごめんなさい、起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫……」
クラウは瞼を擦ると窓の外を見遣る。
「もう夕方か……」
「花火が終われば使用人たちも何人かは帰ってくるから、それまでの辛抱だ」
「夕飯はシェフに作ってもらえるから、ミユも安心してね」
「はい」
頷くと、ルーカスもキャサリンも微笑んでくれた。
「たまにはこうして一家団欒するのも良いものだな」
「四人で居られるのも後数か月ですものね。二人が結婚式を挙げてしまえば、此処に来ることも減るでしょうから」
四人で居られるのも後数か月とはどういう意味だろう。まだ婚約発表の日取りが決まっただけで、結婚式の日取りは全く決まっていない。
「父さんたちで、結婚式の日取りまで決めちゃったの……?」
「ああ、十か月後のクローディオの誕生日にしようと思っている」
話を聞く前のクラウの不服そうな表情も、ルーカスの提案で一気に晴れ渡っていった。
十か月後と言えば――
「クローディオ、誕生日いつ?」
「えっ……? 九月二十日だけど……」
「えっ!?」
「どうかした……?」
驚かずにいられる訳が無い。何という事だろう。
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