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第5章 始まりの疾風
始まりの疾風Ⅱ
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そんなことをしている間に、直ぐにミユの部屋の前へ到着してしまった。三人揃って足を止めると、フレアはドアをノックする。
「ミユ? 起きてる?」
返事は無い。
まだ寝ているのだろうか。
少し心配になりながらも、部屋に入るのは躊躇われた。何より、此方を見るフレア目が「入るな」と言っているようなのだ。
「ミユ?」
やはり返事は無い。
「二人は此処で待ってて」
頷くしかなく、フレアが一人で部屋に入っていくのを見守った。
「ミユ、そろそろ行かないと」
恐る恐る部屋の中を覗いてみると、ベッドには眠っているミユの姿があった。此方に背を向け、すやすやと寝息を立てている。
無事で良かった。
小さな不安は徐々に消えていき、ほっと胸を撫で下ろす。
「ミユ! ミユってば!」
フレアの声色が強まっても、起きた気配は無い。
「ミユ!」
何度か呼ぶと、ようやくミユの寝息が消えた。
「そろそろ行くよ。着替えて」
「えっ? うん」
「着替えたら廊下に出てね。あたしたち、そこに居るから」
「うん」
そのやり取りをぼんやり眺めていると、左腕を強く引っ張られた。
「何するのさ!」
思わず声を上げると、アレクは顔を顰める。
「静かにしろ。ミユに覗いてんのバレるぞ」
はっと気付き、慌ててドアの方を顧みた。ドアが閉まる音と共に、フレアが眉を顰め、溜め息を吐いている所だった。
「ごめん……」
申し訳なくなってしまい、謝ってみる。居心地が悪い。
俯いている所に、アレクがひそひそと口を開いた。
「ま、気持ち切り替えよーぜ。これからミユが過去を見るんだ。気ぃ引き締めないとな」
「そうだね」
フレア返事をするのと同時に頷いていた。
そうだ、俺がしっかりしなければ。
拳を握り締めると、部屋のドアが勢い良く開けられた。ミユが来たのだ。
心臓がとくりと跳ねる。
ミユは俺たちの顔を見ると、思い切り頭を下げる。
「遅刻しちゃってごめんなさい」
「ううん、気にしないで。あたしも遅刻する事だって結構あるし」
フレアはにこっと笑い、俺とアレクを見る。
遅刻とは言うが、俺にはピンとこない。
「そもそもさ、集合時間なんて決めてたっけ?」
「いや、決めてねーな」
「じゃあ、遅刻とか無いじゃん」
ミユに微笑みかけると、彼女はもう一度頭を下げた。
フレアはアレクに目をやり、口を開く。
「もう会議室に行く必要も無いし、ここでミユの為の魔方陣作っちゃったら?」
「あぁ、そーだな」
アレクは頷くと、前方へ右手を翳す。身長と変わらない長さの、木製の杖を出したのだ。どういう訳か、先端を床に向けると、勝手に魔方陣が描かれていく仕組みになっている。アレクも躊躇うことなく、魔方陣を作り始めた。
「これ、何の魔方陣?」
ミユはその光景を不思議そうに眺めている。
「風の塔に繋がる魔方陣だよ」
「ワープは使えないの?」
俺が答えると、ミユは此方を見てちょこんと首を傾げる。それが小動物のようで、とてつもなく可愛らしい。
「俺たち、一回でも行った事がある場所じゃないとワープ出来ないんだ」
「えっ? でも、私――」
「出来たぞ」
ミユが何かを言いかけたところで、アレクの声に遮られてしまった。
先を聞きたかったが、アレクの方が言葉を紡ぐのが早かった。
「ミユ、魔方陣の中に立つんだ」
優しい声で、何とか促そうとしている。
しかし、ミユはスカートを両手で握り締め、気持ちを隠そうとはしない。
「怖い……」
「大丈夫、あたしたちも付いてるから」
フレアがミユの背中を一撫ですると、その強張っていた顔は若干緩んだように見える。
「絶対に付いて来てね」
「うん、安心して?」
フレアに同調するように、俺とアレクも笑顔を作ってみせる。
ミユは小さく頷くと、ゆっくりと一歩ずつ、足を前へと運んでいく。魔方陣の端に触れた瞬間、黄色い光が魔方陣から溢る。あまりの眩しさに、腕で庇を作って顔を背けた。
ミユは風の塔に行き着いたのだろう。
光が収まると、慌てて俺たちも風の塔へと向かった。
これで風の塔を見るのは二度目――ミユと同じく、過去を思い出す為に足を踏み入れて以来だ。
天にまで届きそうな程に高い、黄色い石造りの塔だ。若干乾いた風が周囲を荒らし、砂埃を発生させる。剝き出しの黄色い岩が転がり、足場は悪い。
振り返ると、ミユが不安いっぱいな表情で俺たちを見ていた。
「ミユには此処に居るヤツと会ってもらう。ソイツが過去を知ってる筈だ」
「それは誰?」
「オレらには分からねぇ」
声は聞こえるものの、姿を現さないのだ。ただ、「行ってこい」と言われるがまま、声の主と話をしたところ、過去を見せられ、魔法を使えるようになっていた。
的を得ない回答に、ミユは眉を顰める。その様子に、アレクはガハハと大きく笑う。
「心配すんな! 誰もソイツに危害を加えられたヤツは居ねぇからな」
ミユは明らかにがくりと肩を落とす。
「オレらも付いてくからよー、心配すんな」
「行こう」
此処で話をしていても、何も進まない。
声をかけると、塔を目指して一斉に歩き出した。
俺のエゴの為に、魔法を得る事になるのを、どうか許してほしい。ミユ、ごめん――
「ミユ? 起きてる?」
返事は無い。
まだ寝ているのだろうか。
少し心配になりながらも、部屋に入るのは躊躇われた。何より、此方を見るフレア目が「入るな」と言っているようなのだ。
「ミユ?」
やはり返事は無い。
「二人は此処で待ってて」
頷くしかなく、フレアが一人で部屋に入っていくのを見守った。
「ミユ、そろそろ行かないと」
恐る恐る部屋の中を覗いてみると、ベッドには眠っているミユの姿があった。此方に背を向け、すやすやと寝息を立てている。
無事で良かった。
小さな不安は徐々に消えていき、ほっと胸を撫で下ろす。
「ミユ! ミユってば!」
フレアの声色が強まっても、起きた気配は無い。
「ミユ!」
何度か呼ぶと、ようやくミユの寝息が消えた。
「そろそろ行くよ。着替えて」
「えっ? うん」
「着替えたら廊下に出てね。あたしたち、そこに居るから」
「うん」
そのやり取りをぼんやり眺めていると、左腕を強く引っ張られた。
「何するのさ!」
思わず声を上げると、アレクは顔を顰める。
「静かにしろ。ミユに覗いてんのバレるぞ」
はっと気付き、慌ててドアの方を顧みた。ドアが閉まる音と共に、フレアが眉を顰め、溜め息を吐いている所だった。
「ごめん……」
申し訳なくなってしまい、謝ってみる。居心地が悪い。
俯いている所に、アレクがひそひそと口を開いた。
「ま、気持ち切り替えよーぜ。これからミユが過去を見るんだ。気ぃ引き締めないとな」
「そうだね」
フレア返事をするのと同時に頷いていた。
そうだ、俺がしっかりしなければ。
拳を握り締めると、部屋のドアが勢い良く開けられた。ミユが来たのだ。
心臓がとくりと跳ねる。
ミユは俺たちの顔を見ると、思い切り頭を下げる。
「遅刻しちゃってごめんなさい」
「ううん、気にしないで。あたしも遅刻する事だって結構あるし」
フレアはにこっと笑い、俺とアレクを見る。
遅刻とは言うが、俺にはピンとこない。
「そもそもさ、集合時間なんて決めてたっけ?」
「いや、決めてねーな」
「じゃあ、遅刻とか無いじゃん」
ミユに微笑みかけると、彼女はもう一度頭を下げた。
フレアはアレクに目をやり、口を開く。
「もう会議室に行く必要も無いし、ここでミユの為の魔方陣作っちゃったら?」
「あぁ、そーだな」
アレクは頷くと、前方へ右手を翳す。身長と変わらない長さの、木製の杖を出したのだ。どういう訳か、先端を床に向けると、勝手に魔方陣が描かれていく仕組みになっている。アレクも躊躇うことなく、魔方陣を作り始めた。
「これ、何の魔方陣?」
ミユはその光景を不思議そうに眺めている。
「風の塔に繋がる魔方陣だよ」
「ワープは使えないの?」
俺が答えると、ミユは此方を見てちょこんと首を傾げる。それが小動物のようで、とてつもなく可愛らしい。
「俺たち、一回でも行った事がある場所じゃないとワープ出来ないんだ」
「えっ? でも、私――」
「出来たぞ」
ミユが何かを言いかけたところで、アレクの声に遮られてしまった。
先を聞きたかったが、アレクの方が言葉を紡ぐのが早かった。
「ミユ、魔方陣の中に立つんだ」
優しい声で、何とか促そうとしている。
しかし、ミユはスカートを両手で握り締め、気持ちを隠そうとはしない。
「怖い……」
「大丈夫、あたしたちも付いてるから」
フレアがミユの背中を一撫ですると、その強張っていた顔は若干緩んだように見える。
「絶対に付いて来てね」
「うん、安心して?」
フレアに同調するように、俺とアレクも笑顔を作ってみせる。
ミユは小さく頷くと、ゆっくりと一歩ずつ、足を前へと運んでいく。魔方陣の端に触れた瞬間、黄色い光が魔方陣から溢る。あまりの眩しさに、腕で庇を作って顔を背けた。
ミユは風の塔に行き着いたのだろう。
光が収まると、慌てて俺たちも風の塔へと向かった。
これで風の塔を見るのは二度目――ミユと同じく、過去を思い出す為に足を踏み入れて以来だ。
天にまで届きそうな程に高い、黄色い石造りの塔だ。若干乾いた風が周囲を荒らし、砂埃を発生させる。剝き出しの黄色い岩が転がり、足場は悪い。
振り返ると、ミユが不安いっぱいな表情で俺たちを見ていた。
「ミユには此処に居るヤツと会ってもらう。ソイツが過去を知ってる筈だ」
「それは誰?」
「オレらには分からねぇ」
声は聞こえるものの、姿を現さないのだ。ただ、「行ってこい」と言われるがまま、声の主と話をしたところ、過去を見せられ、魔法を使えるようになっていた。
的を得ない回答に、ミユは眉を顰める。その様子に、アレクはガハハと大きく笑う。
「心配すんな! 誰もソイツに危害を加えられたヤツは居ねぇからな」
ミユは明らかにがくりと肩を落とす。
「オレらも付いてくからよー、心配すんな」
「行こう」
此処で話をしていても、何も進まない。
声をかけると、塔を目指して一斉に歩き出した。
俺のエゴの為に、魔法を得る事になるのを、どうか許してほしい。ミユ、ごめん――
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