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第3章 想い人

想い人Ⅴ

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 また今度、楽しく皆で話そう。そう口を開きかけるも、別れの時の方が早かったらしい。
 会議室の扉が開くと、間を置かずにアリアが姿を現した。椅子に置かれた氷の花束を手に取り、トコトコとミユに走り寄る。

「ミユ様。そろそろエメラルドに帰りましょう」

 言いながら、その花束をミユに抱き抱えさせる。

「エメラルド?」

「はい。ミユ様のお家です」

 ミユが仕方なさそうに小さく頷くと、アリアも微笑みながら大きく頷いた。

「では、エメラルドの部屋を思い浮かべてみて下さい。帰りたいと願えばワープ出来る筈ですから」

「うん」

 ほんの少しでもミユと二人きりになれて良かった。恐らく、アレクとフレアの心遣いのお陰だろう。

「ミユ、また三日後に」

 ワープを始め、光を放つミユに囁きかけてみる。
 返事を聞くよりも早くワープを終えてしまった為、ミユの声は聞けなかった。

「私もほんの少しだけエメラルドへ帰ります。直ぐに戻りますので」

「分かった」

 アリアもまた、ミユを追い掛け、足早に去っていった。

「アレク、フレア」

 声を張り上げてみると、扉が僅かに開き、二人が隙間から覗いて様子を窺っているのが分かる。

「ミユは帰ったのか?」

「うん」

 頷いてみせると、フレア、続いてアレクがようやく会議室の中へと入ってきた。二人は安心した表情をし、その場で両腕を組む。

「何とか無事に終わったな」

「そうだね」

 アレクとフレアは揃って長い息を吐き出す。

「アレク、フレア、ありがとう」

「えっ? 何が?」

「オレらは何もしてねーぞ? な?」

「ええ」

 何かをしてるから礼を言っているのに。
 まあ、そんなところも二人らしいか。などと考えながら、小さく笑ってみる。

「さっ、片付けるか」

「そうだね」

 アレクはテーブルを見据えると、腕を捲りながら口角を上げる。そんな様子にフレアはくすっと笑う。
 俺も二人ばかりに任せてはいけないと、テーブルに歩み寄り、先ずは自分の取り皿を手に取った。

「お皿洗いはあたしに任せて。力仕事は二人に任せるね」

「ああ」

 フレアがガッツポーズをするので、アレクと二人で大きく頷いてみせた。
 自身の取り皿を持ち、フレアは足早にキッチンへ向かう。

「ミユと二人で何話したんだ?」

「それを聞かれると……。うーん……」

 二人きりにはなれたものの、思い返してみると大した話は出来なかった。嫌でも落ち込んでしまう。
 がっくりと肩を落とす俺に、アレクは苦笑いをする。

「やっぱオマエ、情けねーな」

 そう言われると返す言葉が無くなってしまう。
 むっと脹れると、アレクは更に頭を掻く。

「ま、これからに期待だな」

 アレクは嫌味に笑うと両手いっぱいに皿を持ち、俺に背を向けて会議室を去っていった。

「はぁ……」

 引き摺っていても仕方が無い。アレクの言う通り、これからミユと仲良くなれれば良い。
 何とか後悔を振り解くように頭を振り、気持ちを切り替える。
 それから会議室と隣接するキッチンを何度か往復した。アレクとフレアともあまり話をする事も無く、淡々と食器を運ぶ。
 途中でやってきたアリアはフレアの手伝いをしている。

「ミユの様子はどう?」

 尋ねると、アリアは皿を布巾で拭きながら顔を此方へ向けた。

「直ぐに眠ってしまいました」

「そっか」

 初対面の人たちに囲まれれば、誰でも疲れてしまうだろう。
 眠ってくれて良かったと、ほっと胸を撫で下ろす。

「クラウ様は眠れそうですか?」

「うーん、分からない」

 一方で、『初対面』と考えれば考える程、心に重たいものが圧し掛かる。俺の中では初対面ではないのだから。
 苦笑いをすると、アリアはクリクリとした丸い目を吊り上げた。

「眠れない時は、カイルに温かい飲み物を出してもらって下さいね」

「うん、分かった」

 その仕草が微笑ましくて、思わず小さく笑ってしまった。

「おい、こっち手伝ってくれねーか? 一人じゃ持てねぇ」

 そこへアレクが気後れせずに、ずかずかと話に割り込んできたのだ。

「何?」

「ケーキ皿だ。まだ半分も残ってやがる」

 寧ろ、あの大きさの三段ケーキを半分も食べた事を喜んで欲しい。

「アレク、大きいの作り過ぎじゃん」

「ああ? 歓迎会ならあの大きさが普通だろ」

 いや、アレクの普通が良く分からない。
 口をへの字に曲げて首を傾げると、アレクも口を尖らせる。
 そこへフレアが溜め息を吐いた。

「もう、いちいち喧嘩しないでよ。残ったケーキは使い魔に食べてもらえば良いでしょ?」

「それもそーだな」

 そうか、その手があったか。俺も心の中で呟き、アレクと一緒にフレアに頷いてみせた。

「分かったら行くぞ」

「うん」

 必要の無い言い合いをするつもりは俺にも無い。素直に頷き、ケーキ皿の元へと急いだ。
 ケーキは崩れる事も無く、綺麗に半分だけ残っていた。テーブルを挟んでアレクと向き合い、息を合わせる。

「せーの」

 若干鈍い音を立てて、白色の大皿は持ち上がった。左側にケーキが偏っているので、力の加減を間違えればケーキは崩れてしまうだろう。

「倒すなよ」

「分かってるよ」

 念を押すように、アレクは鋭い眼光を俺に向ける。
 ゆっくり、ゆっくりとテーブルから離れ、丁度テーブルから扉への中間地点に差し掛かった頃だ。

「そう言えばさ」

「何だ?」

「三日後に聞きたい事あるって言ってたじゃん? 今じゃ駄目なの?」

 今ならばフレアも居る。何か不吉なものであるのなら、ミユにはあまり聞かせたくない。
 そんな思いから口にしたのだが、アレクは目を伏せて否定する。
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