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第9章 邂逅(前編)
邂逅(前編)Ⅱ
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何がどうなっているのか、全く分からない。世界中で同時に天災が起こるなんて、恐らく初めての事だ。
冷静さを取り戻したのは、しばらく経ってからだった。もう日が沈みかけている。今は難を逃れた人たちが、必死に救助活動を行っているのだろう。どうか、私が知っている人たちが全員無事でありますように。祈りを送る事しか出来ない。
誰からともなく指定席に座り、頭を抱える。
「あたしたちも救助に行こう?」
「いや、災害が全部終わるまで待つんだ。オレらが死んじまったら、もう取り返しがつかなくなる」
「でも、じっとなんてしてられないよ」
「此処で出来る事を探そう。災害の原因は何だったのか、何か探れるかもしれない」
言われてみればそうだ。使い魔たちなら何か知っているだろう。世界に異変が起こる時には、使い魔が知らせてくれるという伝承が残っていたからだ。
右隣に座っているアリアを見てみると、表情を曇らせたまま、首を横に振る。
「私は何も分からなかったんです。本来なら、何か起こるのであれば察知出来た筈なのですが……」
瞳を潤ませ、涙まで零れ落ちそうだ。
アリアに同調するように、カイルとロイも口を開く。
「私も、何も……。すみません」
「私もです。なんて申し上げたら良いのか……」
声を震わせると、口を結ぶ。
「使い魔を責めるヤツは居ねーさ。オレらも、何も出来なかったんだ。同罪だ」
ヴィクトが吐き捨てるように言うと、サラは小さく首を振った。
「いつまで災害が続くか分かるか?」
「それも……何とも言えなくて……」
「どうなってやがる」
ヴィクトは短い髪をくしゃりと握り潰す。
「これじゃあ、俺たちも身動きが取れないよ。良いアイデアないかな」
リエルは小さな溜め息を吐く。答える者は居ない。
窓の外は穏やかな風が流れ、草原がそよそよと揺れている。こんなにも長閑な風景なのに、世界中が壊滅的な被害を受けているなんて。現実から目を背けたくなってくる。
ふと、部屋の奥隅に視線がいった。何か、ぼんやりと曇って見える気がしたのだ。それは気のせいではなかった。
黒い靄のような、人の形をした何かが其処には居たのだ。黒色のローブを羽織っており、目は赤い。しかも、その人の気配が無い。
元より、ダイヤに私たち魔導師と使い魔以外の人物が立ち入れる筈が無いのだ。結界が張られているし、完全なる孤島なのだ。見間違えかとも考えたけれど、何度瞬きをしてもはっきりと見える。
「カノン?」
「何、あれ……。人……?」
その不気味さから、声がきちんと出てくれない。何とか其方に向かって指を差してみる。
この場に居る全員が息を呑んだ。
「『あれ』とは失礼だな」
地の底から湧き上がるように低い唸り声が聞こえた。この靄が喋っているのだろうか。
「オマエは何者だ?」
「世界を破壊する者、とでも名乗っておこう」
「どうやって此処に?」
「魔法で移動してきただけだが」
とんでもない発言の筈なのに、頭がきちんと働いていないせいで、何をそんなに驚いているのかが自分でも分からない。
「『魔法』って言ったか?」
「魔法を使えるのは俺たちだけじゃ――」
リエルは言い掛け、言葉を飲み込んだ。その理由が分からず、リエル、そして皆の様子を見まわしてみる。
「気付いたか。その答えは『イエス』だ」
「お前がこの災害を?」
「そうだ。いずれは、この世界全てを呑み込むだろう。質問はもう良いだろう?」
靄は赤い目を細めると、マントを翻す。そのままその姿は掻き消えた。呆然とその光景を見ている事しか出来なかった。
怖い。どうしようもなく怖い。その中でも、話を纏めてみようと頭を働かせる。今までこの場に居た靄は『世界を破壊する者』で、この災害をもたらした。此処には魔法でやってきた。分かる事と言えば、それくらいだろう。
ヴィクトはテーブルに両肘を突き、手を組む。そこへ額を乗せた。
「脅しか? ただオレらを挑発に来たのか?」
「それもあると思う」
「他にもあるのか?」
「ただ、自分の存在を誇示したかった。言い換えれば、自己顕示欲の塊。わざわざ俺たちの前に現れるなんてさ、敵に存在を知らせるようなものだし。ホントに世界を破壊したいだけなら、知られないように裏からやるよ」
この短時間で、此処まで推測出来るなんて、流石はリエルだ。
「それに……」
「なんだ?」
「あいつは俺たちと同じだよ。『魔法』って言ってたじゃん? おでこの辺りが一瞬光ったんだ」
「はっ?」
つまり、リエルはあの靄が魔導師だとでも言いたいのだろうか。魔導師は私たち四人だけの筈だし、話が飛躍している。
眉を顰めてリエルを見詰めてみる。一瞬、強張った顔が此方を向いただけで、そのまま俯いてしまった。
使い魔たちは確信を得たように、次々と口を開く。
「あれは魔導師です。奴の微かな気配が、そう言っています」
「私も、確実にそう言えます」
「額の石も確認しました。黒い石――皆様が、火、水、風、地なら、奴は闇、でしょうか。気配を探っていると、私の心も冷え切ってしまいそうな程です」
アリアは肩を抱き、身震いをする。サラだけは何も話さず、ただ頷いた。
「それで、今、奴は何処に?」
「エメラルドの北部です」
カイルが答えると、他の使い魔三人も頷いてみせる。
冷静さを取り戻したのは、しばらく経ってからだった。もう日が沈みかけている。今は難を逃れた人たちが、必死に救助活動を行っているのだろう。どうか、私が知っている人たちが全員無事でありますように。祈りを送る事しか出来ない。
誰からともなく指定席に座り、頭を抱える。
「あたしたちも救助に行こう?」
「いや、災害が全部終わるまで待つんだ。オレらが死んじまったら、もう取り返しがつかなくなる」
「でも、じっとなんてしてられないよ」
「此処で出来る事を探そう。災害の原因は何だったのか、何か探れるかもしれない」
言われてみればそうだ。使い魔たちなら何か知っているだろう。世界に異変が起こる時には、使い魔が知らせてくれるという伝承が残っていたからだ。
右隣に座っているアリアを見てみると、表情を曇らせたまま、首を横に振る。
「私は何も分からなかったんです。本来なら、何か起こるのであれば察知出来た筈なのですが……」
瞳を潤ませ、涙まで零れ落ちそうだ。
アリアに同調するように、カイルとロイも口を開く。
「私も、何も……。すみません」
「私もです。なんて申し上げたら良いのか……」
声を震わせると、口を結ぶ。
「使い魔を責めるヤツは居ねーさ。オレらも、何も出来なかったんだ。同罪だ」
ヴィクトが吐き捨てるように言うと、サラは小さく首を振った。
「いつまで災害が続くか分かるか?」
「それも……何とも言えなくて……」
「どうなってやがる」
ヴィクトは短い髪をくしゃりと握り潰す。
「これじゃあ、俺たちも身動きが取れないよ。良いアイデアないかな」
リエルは小さな溜め息を吐く。答える者は居ない。
窓の外は穏やかな風が流れ、草原がそよそよと揺れている。こんなにも長閑な風景なのに、世界中が壊滅的な被害を受けているなんて。現実から目を背けたくなってくる。
ふと、部屋の奥隅に視線がいった。何か、ぼんやりと曇って見える気がしたのだ。それは気のせいではなかった。
黒い靄のような、人の形をした何かが其処には居たのだ。黒色のローブを羽織っており、目は赤い。しかも、その人の気配が無い。
元より、ダイヤに私たち魔導師と使い魔以外の人物が立ち入れる筈が無いのだ。結界が張られているし、完全なる孤島なのだ。見間違えかとも考えたけれど、何度瞬きをしてもはっきりと見える。
「カノン?」
「何、あれ……。人……?」
その不気味さから、声がきちんと出てくれない。何とか其方に向かって指を差してみる。
この場に居る全員が息を呑んだ。
「『あれ』とは失礼だな」
地の底から湧き上がるように低い唸り声が聞こえた。この靄が喋っているのだろうか。
「オマエは何者だ?」
「世界を破壊する者、とでも名乗っておこう」
「どうやって此処に?」
「魔法で移動してきただけだが」
とんでもない発言の筈なのに、頭がきちんと働いていないせいで、何をそんなに驚いているのかが自分でも分からない。
「『魔法』って言ったか?」
「魔法を使えるのは俺たちだけじゃ――」
リエルは言い掛け、言葉を飲み込んだ。その理由が分からず、リエル、そして皆の様子を見まわしてみる。
「気付いたか。その答えは『イエス』だ」
「お前がこの災害を?」
「そうだ。いずれは、この世界全てを呑み込むだろう。質問はもう良いだろう?」
靄は赤い目を細めると、マントを翻す。そのままその姿は掻き消えた。呆然とその光景を見ている事しか出来なかった。
怖い。どうしようもなく怖い。その中でも、話を纏めてみようと頭を働かせる。今までこの場に居た靄は『世界を破壊する者』で、この災害をもたらした。此処には魔法でやってきた。分かる事と言えば、それくらいだろう。
ヴィクトはテーブルに両肘を突き、手を組む。そこへ額を乗せた。
「脅しか? ただオレらを挑発に来たのか?」
「それもあると思う」
「他にもあるのか?」
「ただ、自分の存在を誇示したかった。言い換えれば、自己顕示欲の塊。わざわざ俺たちの前に現れるなんてさ、敵に存在を知らせるようなものだし。ホントに世界を破壊したいだけなら、知られないように裏からやるよ」
この短時間で、此処まで推測出来るなんて、流石はリエルだ。
「それに……」
「なんだ?」
「あいつは俺たちと同じだよ。『魔法』って言ってたじゃん? おでこの辺りが一瞬光ったんだ」
「はっ?」
つまり、リエルはあの靄が魔導師だとでも言いたいのだろうか。魔導師は私たち四人だけの筈だし、話が飛躍している。
眉を顰めてリエルを見詰めてみる。一瞬、強張った顔が此方を向いただけで、そのまま俯いてしまった。
使い魔たちは確信を得たように、次々と口を開く。
「あれは魔導師です。奴の微かな気配が、そう言っています」
「私も、確実にそう言えます」
「額の石も確認しました。黒い石――皆様が、火、水、風、地なら、奴は闇、でしょうか。気配を探っていると、私の心も冷え切ってしまいそうな程です」
アリアは肩を抱き、身震いをする。サラだけは何も話さず、ただ頷いた。
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