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第4章 影

影Ⅱ

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「オレらには敵が居る」

「敵?」

「あぁ、百年前にこの世界を壊そうとした『影』だ」

 ただ『影』と言われてもピンとこない。
 小首を傾げると、アレクは更に眉間の皴を深くする。

「百年前の魔導師たちが封印した。文字通り、命を賭けてな」

 何となく、本当に何となく、アレクの目が揺れた気がした。

「その時に、一人だけ殺られたんだ。オマエと同じ、地の魔導師だったらしい」

「えっ?」

 先程の、三人の大袈裟な反応を思い返す。
 三人は百年前に殺された地の魔導師を連想したのだろうか。
 でも、実際にその人を見ている筈が無い。百年前には三人とも生まれていないのだから。
 勝手に私を重ねられても困る。「う~ん……」と唸るしかなかった。

「またこの中の誰かが戦いの最中に殺られてもおかしくねぇ。そんなヤバいヤツだ」

「……待って」

 この言い方は、流石に納得がいかない。

「何だ?」

「私、戦うなんて言ってない」

「い、いや……それはそーだけどよー」

「何で私が戦わなきゃいけないの? 敵って言ったって、この世界の事でしょ? 貴方たちだけで何とかならないの?」

 真っ当な事を聞いただけなのに、アレクは大きな溜め息を吐く。

「影も魔法を使える。逃げたって追ってくるんだ。オレらだけじゃ、オマエを守り切れねぇよ」

「そんな……」

 第一、魔法と言ってもワープしか出来ないのに。こんな私が戦える筈がない。
 実感なんて全く湧かないのに、身体だけは震えてしまう。
 私はどうすれば良いのだろう。

「ミユ、魔法を使いたい?」

「おい、それじゃー、魔法は要らないって言えちまう――」

「あたしはミユの意見を尊重したい」

 フレアは真っ直ぐに、力強い眼差しを向けてくる。一方で、アレクは明らかに困り顔になってしまった。
 クラウの方を見てみると、俯いたまま、ちらりとも此方を見ようとはしない。
 私の意見とは言っても、こんなにも三者三様な表情をされては意見の出しようもない。

「ちょっと考えさせて」

 言い切ると、軽く頭を掻いて俯いてみる。
 そもそも、今日だけで意見を纏めろと言う方が無理があるではないか。

「ミユ、ちょっとだけ『過去』を覗いてみねーか?」

 アレクの言葉に反応し、つい上目遣いをしてしまった。
 過去とは百年前の事だろうか。

「アレク! 何言ってるの!?」

「ミユはこの世界の事を何も知らねーんだ。ヒントぐらいやっても良いだろ」

「それって――」

「少し黙ってくれ」

 アレクはフレアの肩に手を置き、口を結ぶ。
 フレアは顔を強張らせ、アレクから視線を逸らした。
 二人の会話の真意がまるで分らない。ただ――

「その『過去』を見たら、私、決められるかな」

 きっと、決意が固まるのだろう。それだけは分かる。

「あぁ、多分な」

「じゃあ、やってみる」

 何事も挑戦だ。取り敢えず、やってみても損はないだろう。

「早い方が良い。明日にでも風の塔に行こーぜ」

 アレクの言葉に私だけが頷いた。
 その後、誰も話し出す者は居らず、気まずい空気だけが流れていった。
 その空気を変えたのは、アリアと、知らない三人――恐らく他の使い魔だろう。扉をノックするなり、アリアを筆頭に、不躾な態度で部屋の中へと入ってきたのだ。

「皆様、どうなさるか決められましたか?」

「明日、風の塔に行く」

「そうですか……」

 四人は揃いも揃って複雑そうな表情で私を見る。

「オマエらは影の事が何か分かったか?」

「いえ、サラはフレア様の魔法の暴発を目の当たりにしましたが、私もカイルも気配を感じただけで、何も」

 黄髪黄眼の男性が、後ろに居る赤髪赤眼の女性と、隣に居る青髪青眼の男性を見遣る。
 恐らく、赤髪の女性がサラで、青髪の男性がカイルだろう。
 アレクは溜め息を吐き、腕を組む。

「何か時間稼ぎになるもんはねーか? 例えば、囮を使うとかよー」

「相手は影ですよ? 囮なんて意味ありませんよ」

「だよな」

 黄髪の男性は、やれやれと言わんばかりにアレクを見る。

「……クラウ様?」

 カイルの視線の先を辿ると、神妙な面持ちのクラウとぶつかった。

「俺、あそこに行ってみる」

「まさか、あそこって、お二人が亡くなった場所じゃ――」

「ミユを頼んだ」

「危険ですよ! 待って下さい!」

 クラウは立ち上がると、椅子を戻す事無く光に包まれて消えてしまった。駆け出したカイルの手は虚しく空を掴む。

「アイツ、何しに行ったんだ?」

「分からない。ただ、何か思い詰めてたって事くらいしか……」

 全く状況についていけない。
 困ってしまい、アレクとフレアの方を見てみても、二人は話し込んで此方を振り向いてもくれない。
 今度はアリアの方を見てみる。
 アリアは此方に背を向け、サラと何かを話している。時折、二人のポニーテールが揺れる。
 あまにも酷い皆の対応に、唸り声を上げてしまった。
 皆の視線が一斉に此方を向く。

「ミユ、済まねぇ」

「何の事かさっぱり分かんないよね」

「うん」

 頷いてみせると、アレクとフレアは苦笑いをした。

「オレらから話すよりも、実際に見た方が早いだろ」

「過去に関係してるって事?」

「あぁ」

 はっきりとした口調のわりには、二人とも冴えない表情をしている。
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