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第2章 初めての魔法
初めての魔法Ⅱ
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居心地が良いせいか、眠気までもが襲ってきた。欠伸を一つし、瞼を擦る。
「ちょっとだけ……大丈夫かな……」
瞼が段々と下がってくる。
眠っているのか眠っていないのか分からない微睡みの中で、誰かに頭を撫でられた気がした。
そんな時、不意に邪魔が入るのだ。
「魔導師様!?」
はっと瞼を開けると、前方には人の姿があった。
緑色の軍服に、黒色で筒型の帽子――兵士だろうか。
「このような所で……何をなさっているのですか!?」
強張った声色に、見開かれる瞳――きっと良い印象は持たれていない。
このような時は、どうすれば良いのだろう。
慌てて立ち上がり、取り敢えずぺこりとお辞儀をしてみる。それが拙かったのだろうか。
兵士は腰に携えているサーベルを引き抜き、此方に翳したのだ。
その状態でじわりじわりと私との間を詰める。
「なんで……?」
私はこの人の気に障る事なんて何もしていない。ただ花を見ながら寝てしまっただけなのに。
咄嗟に兵士に背を向け、白い石畳を蹴った。
振り返ってみれば、兵士も恐ろしい形相で私を追い掛けてきている。
必死に逃げたものの、明らかに私の方が走るスピードは遅い。これでは直ぐに追いつかれてしまう。
お願い、止めて。せめてあの部屋に帰らせて。
緑色の家具が並ぶあの風景が脳裏を掠める。その瞬間、目の前が光に包まれたのだ。
「えっ……!?」
私の身に何が起きているのだろう。浮遊感に包まれながら、訳が分からずに目を瞑った。
「ミユ様!」
その声にゆっくりと瞼を開けると、私の目の前にはアリアが居た。顔をこわばらせ、酷く心配しているようだ。
「大丈夫ですか?」
助かった――
安心して腰が抜けていく。
そんな私の身体をアリアがしゃがんで受け止めてくれた。
二人で床に座り込む。
辺りを見回してみれば、緑色の家具ばかり――あの部屋に戻ってきたのだ。
「部屋の外に出てみたら階段が続いてて、下りてったら疲れちゃって、いつの間にかお花畑に居て……」
自分の身に起きた事を何となく振り返ってみる。
「ベンチで寝ちゃって、そしたら兵隊の人に追い掛けられて……」
いつの間にか此処に居た。
恐怖から突然解放され、自然と涙が溢れてくる。
「知らず知らずのうちに魔法を使ってしまったのですね」
「魔法……?」
「はい。瞬間移動……ワープですね」
言われても、全然ピンとこない。
小首を傾げると、アリアはクスリと小さく笑った。
「ミユ様も魔法を使えますから。不思議な事ではないんですよ」
「う~ん……」
「貴重な魔法です、大事に使って下さいね」
そう言えば、兵士が私の事を『魔導師』と呼んでいたのを思い出したのだ。
もしかして、私がその『魔導師』なのだろうか。
「『魔導師』って何?」
アリアは一瞬驚いた顔をしたものの、すぐさま平静を取り戻したようだ。先程までの微笑みが戻ってきたから。
「ミユ様の事ですよ。他にも三名いらっしゃいますが……」
アリアは「えっと……」と小さく呟くと、次に首を軽く横に振った。
「今日は止めておきましょう。ミユ様をまた混乱させてしまいますし」
アリアは一人でうんうんと頷き、話を纏めた。
一呼吸置き、再び口を開く。
「……そうだ! ミユ様、嬉しいお知らせがあるんですよ」
「何~?」
「皆様が歓迎会を開いてくださるそうです」
「歓迎会?」
皆様とは誰の事を言っているのだろう。歓迎してもらえる相手なんて、私に居るのだろうか。
召喚された理由はあるのだろうけれど、今のところ、手掛かりは全く無い。
「明日の夜、楽しみにしていて下さい」
取り敢えず、今日のような怖い目に遭わない事を祈ろう。
明くる日の昼――
マカロニグラタンと野菜サラダ、コーンスープを頂きながら、時計に目を遣る。
時刻は一時、か。この時計の時刻は十二まで、地球の時刻の数え方と同じ、と考えても良いのだろうか。
今更ながらぼんやりと考えてみる。
「ミユ様、どうされましたか?」
「ううん、何でもない」
微笑み、コーンスープを口に運ぶ。
「今日はこれ以降、夜までお会い出来なさそうです」
「そっかぁ」
まあ、アリアが居ても居なくても、この日出来る事は同じだろう。
何をして過ごそう。そうだ、昨日アリアにもらったノートに日記を書いていよう。この世界に来てから七日は経ってしまったけれど、思い出せる範囲で。
もしかすると、地球に帰る手掛かりがその中に隠されているかもしれないから。
最後のマカロニを一口で頬張り、そっとスプーンをグラタン皿の上に置いた。
それを見届けると、アリアは食器を片付けていく。
「それでは、また夜にお会いしましょう」
「うん」
また一人の時間がやってきた。
三メートル程のテーブルの片隅に置かれた羽根ペンとインク、それにまるで魔導書のようなノートを取り上げ、席に戻る。
まず最初は、この世界に連れてこられた日――確かその日は私の誕生日だった筈だ。
とんだ十八歳の始まりだ。
学校や家族の事を思い出すと、涙で視界が歪む。それがノートの上に零れ落ちないように、そっと右手で拭った。
「ちょっとだけ……大丈夫かな……」
瞼が段々と下がってくる。
眠っているのか眠っていないのか分からない微睡みの中で、誰かに頭を撫でられた気がした。
そんな時、不意に邪魔が入るのだ。
「魔導師様!?」
はっと瞼を開けると、前方には人の姿があった。
緑色の軍服に、黒色で筒型の帽子――兵士だろうか。
「このような所で……何をなさっているのですか!?」
強張った声色に、見開かれる瞳――きっと良い印象は持たれていない。
このような時は、どうすれば良いのだろう。
慌てて立ち上がり、取り敢えずぺこりとお辞儀をしてみる。それが拙かったのだろうか。
兵士は腰に携えているサーベルを引き抜き、此方に翳したのだ。
その状態でじわりじわりと私との間を詰める。
「なんで……?」
私はこの人の気に障る事なんて何もしていない。ただ花を見ながら寝てしまっただけなのに。
咄嗟に兵士に背を向け、白い石畳を蹴った。
振り返ってみれば、兵士も恐ろしい形相で私を追い掛けてきている。
必死に逃げたものの、明らかに私の方が走るスピードは遅い。これでは直ぐに追いつかれてしまう。
お願い、止めて。せめてあの部屋に帰らせて。
緑色の家具が並ぶあの風景が脳裏を掠める。その瞬間、目の前が光に包まれたのだ。
「えっ……!?」
私の身に何が起きているのだろう。浮遊感に包まれながら、訳が分からずに目を瞑った。
「ミユ様!」
その声にゆっくりと瞼を開けると、私の目の前にはアリアが居た。顔をこわばらせ、酷く心配しているようだ。
「大丈夫ですか?」
助かった――
安心して腰が抜けていく。
そんな私の身体をアリアがしゃがんで受け止めてくれた。
二人で床に座り込む。
辺りを見回してみれば、緑色の家具ばかり――あの部屋に戻ってきたのだ。
「部屋の外に出てみたら階段が続いてて、下りてったら疲れちゃって、いつの間にかお花畑に居て……」
自分の身に起きた事を何となく振り返ってみる。
「ベンチで寝ちゃって、そしたら兵隊の人に追い掛けられて……」
いつの間にか此処に居た。
恐怖から突然解放され、自然と涙が溢れてくる。
「知らず知らずのうちに魔法を使ってしまったのですね」
「魔法……?」
「はい。瞬間移動……ワープですね」
言われても、全然ピンとこない。
小首を傾げると、アリアはクスリと小さく笑った。
「ミユ様も魔法を使えますから。不思議な事ではないんですよ」
「う~ん……」
「貴重な魔法です、大事に使って下さいね」
そう言えば、兵士が私の事を『魔導師』と呼んでいたのを思い出したのだ。
もしかして、私がその『魔導師』なのだろうか。
「『魔導師』って何?」
アリアは一瞬驚いた顔をしたものの、すぐさま平静を取り戻したようだ。先程までの微笑みが戻ってきたから。
「ミユ様の事ですよ。他にも三名いらっしゃいますが……」
アリアは「えっと……」と小さく呟くと、次に首を軽く横に振った。
「今日は止めておきましょう。ミユ様をまた混乱させてしまいますし」
アリアは一人でうんうんと頷き、話を纏めた。
一呼吸置き、再び口を開く。
「……そうだ! ミユ様、嬉しいお知らせがあるんですよ」
「何~?」
「皆様が歓迎会を開いてくださるそうです」
「歓迎会?」
皆様とは誰の事を言っているのだろう。歓迎してもらえる相手なんて、私に居るのだろうか。
召喚された理由はあるのだろうけれど、今のところ、手掛かりは全く無い。
「明日の夜、楽しみにしていて下さい」
取り敢えず、今日のような怖い目に遭わない事を祈ろう。
明くる日の昼――
マカロニグラタンと野菜サラダ、コーンスープを頂きながら、時計に目を遣る。
時刻は一時、か。この時計の時刻は十二まで、地球の時刻の数え方と同じ、と考えても良いのだろうか。
今更ながらぼんやりと考えてみる。
「ミユ様、どうされましたか?」
「ううん、何でもない」
微笑み、コーンスープを口に運ぶ。
「今日はこれ以降、夜までお会い出来なさそうです」
「そっかぁ」
まあ、アリアが居ても居なくても、この日出来る事は同じだろう。
何をして過ごそう。そうだ、昨日アリアにもらったノートに日記を書いていよう。この世界に来てから七日は経ってしまったけれど、思い出せる範囲で。
もしかすると、地球に帰る手掛かりがその中に隠されているかもしれないから。
最後のマカロニを一口で頬張り、そっとスプーンをグラタン皿の上に置いた。
それを見届けると、アリアは食器を片付けていく。
「それでは、また夜にお会いしましょう」
「うん」
また一人の時間がやってきた。
三メートル程のテーブルの片隅に置かれた羽根ペンとインク、それにまるで魔導書のようなノートを取り上げ、席に戻る。
まず最初は、この世界に連れてこられた日――確かその日は私の誕生日だった筈だ。
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