同居離婚はじめました

仲村來夢

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契約終了

覚悟

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「悠登ー、住む家決まったの?」

リビングでテレビを観ていためぐが少し苛立った口調で、家に帰ってきた悠登に問いかけた。

「んー、まだ」

「退去する日決めなきゃめぐお母さんに実家帰るって言い出せないんだけど」

「言えばいいじゃん」

「気まずくてまだ言えないし…あと引っ越しも友達に手伝ってってお願いしなきゃだしさー」

同居を解消しようと言った時、めぐは動揺して泣いて暴れたけれど、何時間も話し合いようやく納得し今はお互い少しずつ荷物をまとめ始めている状態だ。

話し合いが終わった時点でいつでも出ていってくれていいと伝えたものの、家賃二人で払わなきゃキツイでしょ?と言いめぐはまだ家にいる。

どう頑張っても悠登は振り向かない。そこで諦めはついたものの自分が先に家を出るのは嫌だった。もう一度恋人に戻れないことはわかりきっているけれど、悠登がまだこの家にいるならそのギリギリまで一緒にいたくてなかなか出て行けなくなってしまっているのだ。

最早それは諦めていると言っていいのかわからないのだが、めぐにはもう悠登を誘惑するつもりも未央に何か言うつもりもない。言うつもりはないけれど、ここ最近は未央に謝りたいという気持ちが芽生えてきている。

何と謝ればいいのだろう。メールで?電話で?会って?まだ決めかねている。

「ごめんごめん。早く見つけるし、決まったらすぐ言うから」

「そっこー教えてねっ。っていうかさー、そんなに家決めるのって迷うわけ?めぐとここ住む時は部屋が二部屋以上ないとダメとかお互い仕事場近いとことか色々条件あったからけっこう探したは探したけどさぁ。一人で住む家なら見つけやすくない?」

「んー、まぁね…早く見つけるわ」

「りょうかーい」

***

“未央って今日も残業する?”

“うん、何で?”

“いや…近々会える日ない?明日は残業しないで帰ろうとしてるんだけど未央はどう?”

“大丈夫。明日だね、楽しみにしてるね”

ある日、悠登からお昼休憩中にメールが来た。明日は二人で会えるんだ…!と思うと嬉しくて、食べていたお弁当が急に喉を通らなくなってしまった。いつの間に悠登のことをこんなに好きになったのだろう…

翌日、残業しなくて良い状態にする為にいつも以上のスピードで仕事を終わらせ、会社を悠登より先に出た。悠登から“すぐ行くから、前の場所で待ってて”とメールが来て、あたしはコンビニで食事や飲み物を仕入れて前の場所…ホテルに入った。

外で会うこともなくホテルの部屋で待ち合わせるのって、いかにも不倫してます、という感じだな…。まぁ仕方ないか。そう思うと少し切ないのだけれど、会える喜びの方が大きい。二人で会える時はキスしたり、くっついたり…その先も、したいし…

メイクを直して待っていると悠登が部屋に到着し、顔を見た瞬間悠登に抱きついた。

「お疲れ様、悠登」

「ありがと。未央もお疲れ」

キスしたい。今すぐ悠登に抱かれたい。外で会えない寂しさも家に帰る憂鬱も何もかも忘れて愛し合って快楽に溺れて、心も体も悠登でいっぱいになりたい。

この前会った時はあたしの方から何度も悠登を求めてしまった。

“どんな未央でも好きだから、何も恥ずかしがらなくて大丈夫だよ”

何度抱かれても満足出来ないことが恥ずかしくて自分自身に戸惑っていたあたしに悠登が言った。

今日も沢山求めてしまいそう…というより、口に出していないだけで気持ちは既に悠登を求めてしまっている。

けど、ちゃんと付き合ってるのかな?そんなことを考えているぐらいなら冷静になって先に話をしないとダメだよ。自分の中のもう一人の自分がそう言った気がしてあたしは悠登から離れた。

「どうしたの?」

「えっと…なんか色々話したいから」

「そうなの?俺もだよ」

「え、じゃあ先に話して」

「未央から言ってよ」

あたしは後でいいから、いや俺が後でいいから。そんな押し問答になりかけたのであたし達はソファに座って黙り込んだ。

「…未央から話して」

「でも」

「いいから」

結局あたしの方から話をすることになった。悠登の話って何なのだろう…。

「あの、ね…」

「うん?」

「あたしと悠登って付き合ってるって思っていいの?」

「え、今更?どう考えても付き合ってるじゃん。逆にそれ以外何?」

悠登が表情を全く変えることなく答えてくれて、あたしは胸をなでおろした。

「それ以外何もない!や、なんかちゃんと付き合おうとか話してなかったからさ…」

「まぁそうだけど…」

「ごめんね、なんか子供っぽくて…」

「ううん。ちゃんと言わなくてごめんね。愛してるよ、未央」

悠登があたしの目を見てそう言った。好き、とか愛してる、とか普通の男の人じゃ照れてあまり言わないような言葉も悠登は恥ずかしがらず口にしてくれる。

4月のあの日からずっとあたしのことが好きだって言ってくれていたし今もそうなのに、本当に今更な質問だったな…

「ありがと…あたしも悠登が好きだよ」

「…俺からも聞いていい?」

「うん、大丈夫だよ」

「未央、家決まった?」

「えっ…と探してるんだけど、目星ついたりは全然してない…」

聞かれた瞬間、ドキッとしてしまった。…自分だって悠登がいつ家を出るのか気になっているくせに、いざそのことを聞かれると耳が痛い。早く行動しないといけないのに、自分が出来ていないから悠登にも聞けなかった。

いつまでうじうじしてるんだ、あたし…

「ふーん…そっか」

「ごめん!」

「なんで謝んの、俺も決まってないよ」

「そうなんだね…」

「…未央がよかったら家一緒に探しに行きたいんだけど」

「一緒にって…?」

「未央と一緒に住みたい。俺と結婚してください」
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