同居離婚はじめました

仲村來夢

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VERSUS

未央と悠登

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「…ごめんなさい」

未央が去った後すぐに家に帰った悠登がめぐの様子がおかしいことに気付き、何かあったのかをめぐに尋ねた…というより問い詰めた。

何も無いよ、そう言うめぐの目にはいつものような素直さがなかった。…めぐは何かを隠している、悠登はそれを確信しながら。

そもそも今日は未央が遊びに来ると話を聞いていたのに、帰るには早すぎる。会社に残って仕事はしていたものの、未央が来るとめぐに聞いていたから出来るだけ仕事を早めに切り上げてきたつもりだったのにもういないことも不自然だ。

めぐは未央に自分の気持ちを伝えたこと、はっきりしない未央に腹が立って「いなきゃよかったのに」と言ったことを悠登に正直に話した。本当は黙っていたかったけれど、悠登の強い眼差しからめぐは逃げることが出来なかった。

「ごめんで済む問題じゃないだろ…何で未央にそんなこと言ったんだよ」

「…未央ちゃん、旦那さんいるのに悠登のこと弄んでて、悠登可哀想だし…」

「勝手に俺を可哀想な奴にすんじゃねえよ」

「だってそうじゃん、可哀想だよ!めぐは悠登が好きだから悠登に辛い思いして欲しくないんだもん!」

「辛い思いしてるなんて俺言ったことある?」

「…ない」

「だよな。そりゃ未央が俺を好きになってくれたら嬉しいよ、旦那と離婚して欲しいしそれも言ったし。けど未央は俺に何も言わないし、まだ旦那といたいんだろ。未央が辛い思いしてるなら助けてあげたいけど、旦那と一緒にいるのが幸せなら俺が引き裂くのは違うし。絶対振り向かせるって思ってたけど今はその時じゃないのかなって思うだけ」

「なんでそんなにいい人ぶるの?」

「いい人ぶってないんですけど。好きになるってそういうことじゃないの」

「…よく元カノにそこまで他の女の子のこと言えるよね…めぐの気持ち知ってて」

「知ってるからこそ正直に話してるんだよ。…とにかく俺未央に謝ってくるわ」

「なんでめぐが言ったことなのに悠登が謝るの!?」

「じゃあお前は未央に謝る気あんの?」

「今はない…」

「いなきゃよかったのにって、そんなこと言われたら誰だって傷付くだろ。未央まだ近くにいるかな…俺行くわ」

めぐが悠登の腕を強く引っ張った。

「やだ!!」

「離せよ」

「お願い、行っちゃやだ!悠登、行かないで」

めぐの願いも虚しく腕を振りほどき去っていってしまった悠登。めぐはそれを追いかけることが出来なかった。

「ゆうと…」

今までにないぐらい強い力で腕を振りほどかれて、自分の思いが全力で拒まれたように感じた。ショックでめぐは玄関に座り込み、その場で涙を零した。

***

今どこ?

少しだけ話せませんか

どこにでも行くから、時間を下さい

会社では話せないから、どこかで話をしたいです

帰りの電車の中、佐伯くんからメールが来た。このまま無視したかったけれど、一気にメールが届きスマホが鳴り続け周りの視線が痛く開かざるを得なかった。…マナーモードにしておけばよかった、そう思いながら。

何度かのやり取りの末、乗り継ぎの駅に降りたち近くの公園で佐伯くんと話すことになった。

…もう帰りたいけれど、それ以上に自分も佐伯くんと話したかった。

「ごめん、帰るとこ引き止めて」

「ううん…」

「今日うち来てたんだよね?」

「そうだよ」

「めぐが酷いこと言ったみたいで、ごめん!」

「…別に佐伯くんが謝ることじゃ、ないし…めぐちゃんの言ってること一つも間違ってないしさ、謝るのはあたしの方なんだよ」

「いやでも、未央の存在を否定するようなこと言ったのは明らかにめぐが悪いし」

「言われて当然だよ…めぐちゃんからしたらあたしは物凄く腹が立つ存在だと思うし…めぐちゃんはあんなに佐伯くんを好きなんだから」

「けど俺は未央が好きだし」

本当に好きって思ってくれてるのかな。めぐちゃんはまだ佐伯くんとしてる、と言っていたけれど、何が本当なのか…と言うより、佐伯くんはどんな気持ちであたしを好きだと言ってくれているのだろう。

心と体は別…みたいな感じなのだろうか。あたしのことが好きで、めぐちゃんのことは仲のいいルームメイトぐらいにしか思っていないけれど体を重ねることには抵抗がないのだろうか。

「…あたしのことが好きでも、めぐちゃんとは関係持てるんだね」

「は?」

「別れても体の関係あるんだよね」

「なにそれ、めぐが言ったの?」

「めぐちゃんしかいないでしょ…」

佐伯くんがため息をついた。どういうため息なのだろう。あぁ、言われちゃったか。とかそういう感じなのだろうか。

冷静に考えたら、嫌いになって別れたわけじゃない二人がそういうことにならない方がおかしいよね…あんなに仲良さそうだし。今は無いけど、仲良くもないあたしと優斗だってしばらくはそういうことをしていたのだから。

「それ未央信じてんの?」

「だってそう言われたから…」

「嘘だから。そんなことしてないよ。俺は未央だけだから。俺は好きな女にそんな嘘つかない」

未央だけ。

結婚していた時に優斗から言われていた言葉とオーバーラップして、急に胸がずきっと痛んだ。

「…未央だけ、未央だけってさ…優斗…えっと、あたしの旦那もそんな風に言ってたんだよ」

「言ってたって?」

「うん。…言ってたけどあたし浮気されてたんだよね…」

「あー…そっか。そうなのかなとは思ってたけどそうなんだ」

「だからそういうの、口では何とでも言えるよねって思っちゃって…」

「なにそれ。めっちゃ気分悪いんだけど」

「…ごめん」

「謝るなら言うなよ。旦那と俺を一緒にすんなよ。それとも男なんて皆同じって思ってんの?」

「そういうわけじゃ、ないけど…でも」

「いやそうじゃん。俺じゃなくてめぐの言葉を信じてるんでしょ?未央が好きで、未央だけって言ってる俺の言葉は信じられないんだよね」

「…だって、わかんないよ…。あたし達は付き合ってるわけでもないしさ…めぐちゃんとそういうことしたらダメなんてこと無いし、お互い同意ならいいと思うし、あたしに嘘ついちゃだめとかそういうのもないし…」

「…あーもう。うぜぇ」

「…え?うぜぇって何なの?」

「うざいよ。でもでも、だって、って。うじうじすんなよ。未央が何したいのか全然意味わかんないから」

「何したいって別に何も…」

「ムカつくんだろ。自分のことが好きだって言ってくる俺がめぐと今でもヤッてたら。それは何でなの?」

「…やっぱり、そうなの…」

「やってねぇよ!仮にだよ。未央は俺のことどう思ってるのかとか今まで1回も言ってくれたことないじゃん。家来たりもあったし、期待してた時もあったけど未央は何も言わないしそのくせ俺のこと責めてきて意味わかんねぇし。未央は俺に自分の気持ち話したことあった?例えば俺みたいに、嘘はつかないとか…なんでもいいけど胸張って言えることある?」

「…」

…言えない。佐伯くんは例えば、と言ったけれどまさに嘘をついている。離婚したことを隠して、結婚しているという嘘を。

言葉を詰まらせるあたしを見て佐伯くんがため息混じりにふ、と笑った。

「…何も言えないんだなー、さすがにショックだわ。…時間くれてありがと。ちゃんとめぐからも謝らせるから、ほんとにごめんな」

「ごめんなさいとっさに言葉が出なくて…ちゃんと話す」

「…ごめん。ちょっと今話すのきつい。バイバイ未央、また明日ね。気を付けて、お疲れ様です」

去っていく佐伯くんの背中にあたしは何も言えなかった。言えなかったし追いかけることも出来なかった。

頭の中はぐちゃぐちゃで、ちゃんと話せる自信がないくせにちゃんと話す、なんて口からでまかせを言ってしまったから引き止めたとしても、もっと嫌な思いをさせてしまうかもしれないから…。

自分が恥ずかしい。何を言われてもちゃんと答えられなくて、人を傷つけてしまってばかり…

罪悪感に苛まれながらとぼとぼと、駅へ向かった。
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