37 / 55
いなきゃよかったのに
詰問
しおりを挟む
「未央ちゃん!やっと会えたね、久しぶりだね!嬉しー!!」
いつも通りめぐちゃんの家に行くと笑顔でめぐちゃんが紅茶を淹れてくれて、あたし達は久々の再会を喜んだ。何ヶ月かぶりに会うめぐちゃんはいつも以上にテンションが高い。気のせい?久しぶりだからそう思ってしまうだけなのだろうか。けれど、何だか空元気な気もする。
「ごめんね、予定ずれまくっちゃって。せっかく遊べると思ってたのに参ったよー、扁桃腺炎とかビビるよね!」
「ううん、あたしも色々バタバタしてたし…めぐちゃん、体調大丈夫?」
「うん!今は超元気だよっ。未央ちゃんもなんか色々、大変だったんだよね…?」
「あぁ、まぁ…もう落ち着いたから大丈夫だよ」
佳江さんの四十九日が過ぎ、更に時間が経ちいつの間にか季節は真夏になった。現在、優斗との契約終了まで3ヶ月を切っている。
この1年近く、色んなことがあった。長かった様な短かった様な…濃厚な時間だった。
佐伯くんとあんな風になって、優斗を家から追い出すことがあったり本城さんとも関係を持ちそうになったり…そして、佳江さんがいなくなって。
少しずつ優斗の気持ちは落ち着いてきたけれど、「それは未央がいるお陰だよ」と言われると胸の奥が締め付けられる。
あたしがいなくなったら優斗はどうなるのかな、と考えてしまう。本当にこのまま契約を終わらせてしまっていいのか。契約が終わっても、もう少し一緒にいた方がいいのか…と。
優斗と再婚する気はない。けれど元々は愛していた人だ。…ただの同情と言ってしまえばそれまでなのだけれど…
「あ、悠登は今日遅くなるみたいだよー」
「そうだよね…あたしが会社出る時もまだ仕事してたし」
めぐちゃんの表情が変わった様な気がする。…何だか、むっとした様な…
「未央ちゃんって悠登と会社で話したりするの?」
「うーん…ほとんど無いかな。部署も違うし」
「そっかぁ。なんか今の聞いてたらすごい仲良しなのかなって思って」
「いやいやそんなことないよ…ここに来た時ぐらいしか喋らないかも」
「でもえっちはしたんだよね?」
啜っていた紅茶を吹き出しそうになった。
…何で?どうしてめぐちゃんはそれを知っているのだろう。佐伯くんはそんなことまでめぐちゃんと話しているのだろうか…
「なにそれ、そんなわけないじゃん」
「あー、やっぱりか。今の反応超不自然だった。すごいわかりやすいね、未央ちゃん」
「違うの、ほんとに」
「もういいよ嘘つかなくても。ずっと気になってたんだよね、やっと聞けた。だって悠登は付き合ってない相手にも手出しちゃう人だからね。そうでしょ?」
「いや…えっと…そんなことないんじゃないかな…」
「そんなことあるよ。今もえっちしてるもん、めぐ達別れてるけど」
…え?
佐伯くん、今はめぐちゃんと体の関係は無いって言ってたのに。嘘だったんだ…
「別れてもやめれないんだよね…だめだってわかってるけどさ」
「へぇ…そうなんだね…」
「めぐね、未央ちゃんにいっぱい聞きたいことあるんだ。どうして旦那さんがいるのに悠登とそんなことしたの?」
「えっと…」
会社の飲み会で酔っ払って記憶を無くしてそのままホテルに…なんて言えるはずがない。あたしは口を噤んだ。
「悠登のこと好きなの?」
「…」
…わからない、なんて言えばめぐちゃんは絶対に怒るだろうな…
佐伯くんのこと意識してるでしょ?と本城さんに言われたことがあったけれど…意識はもちろんしている。数ヶ月前に体を重ねた相手とほぼ毎日顔を合わせているのだから。
でも、好きという気持ちがよくわからなくて…。ずっと優斗のことだけを好きだったから、好きになるってどういうことなのか、何をもってして好きだというのかがよくわからなくなってしまっている。
ただ、佐伯くんに嘘をつかれていたことはショックだった。
男の人は好きだ、なんて言いながら他の人とも体の関係を持てるんだな…と残念な気持ちになった。優斗も、佐伯くんも。二人とも同じじゃないか、と。
あたしだって人の事は言えないけれど、自分のことを棚にあげて二人を責めることなんておこがましいけれど…
「悠登とどうなるつもりなの?旦那さんのことはどうするの?」
答えに困ることを矢継ぎ早に質問してくるめぐちゃんの目があまりに真っ直ぐで、俯くしか出来ない。
「…」
「このままじゃ皆のこと傷つけちゃうよ、未央ちゃん。悠登の気持ちわかってるよね?」
「…」
「未央ちゃん!なんで黙るの?」
「…自分でもなんて言えばいいのかわからなくて」
「…わからないって、そんな中途半端な気持ちでいるなんて悠登にも旦那さんにも失礼じゃん!」
めぐちゃんの言う通りだ。誰よりもいい加減で意思が弱くて…自分の気持ちがわからないって、逃げてばっかりだ…
「めぐは悠登のことが好きだってはっきり言えるよ。未央ちゃんのせいだけど」
「あたしのせい、って…?」
「未央ちゃんがこの家に来たから。それまでは気づかなかったから、悠登のことがまだ好きだって。でも遅いんだよ。悠登は未央ちゃんが好きだから」
「なんか…ごめんなさい…」
「余裕ぶらないでよ!」
「そんなんじゃないよ…」
「余裕ぶってるじゃん。ごめんね、あたしのことが好きでって。あたしが奪っちゃってごめんね、みたいなさ。…なんで何の努力もしてない未央ちゃんが悠登に好かれるの?めぐは色んなこと頑張ったのに、好きになってもらえるように必死だったし今も必死なのに」
「…」
「…めぐね、悠登と住み始めたとき料理全く出来なかったんだ。でもいっぱい勉強して頑張ったんだよ」
めぐちゃんの料理の腕は努力の賜物だったのか。あんなに短い時間で沢山料理が作れるのは一生懸命頑張った結果なんだ。…めぐちゃんは佐伯くんのことが本当に大好きなんだ。
「…未央ちゃんなんていなきゃよかったのに。未央ちゃんがいなかったら、めぐだってこんなこと考えずにすんで、上手くいってたのに。もうやだ!」
語気が強くなったことに動揺して、めぐちゃんを見ると目に涙が滲んでいた。あんなにいつも笑顔で元気なめぐちゃんを悲しませてしまった…。
めぐちゃんをこんなにも傷つけて、追い詰めてしまっていたことにも気づかずにこの家に来て、仲良くなっているつもりになっていたあたしは本当に愚かだ。
「…ごめんなさい。もう、この家には来ないから…。嫌な思いさせて、本当にごめんなさい。…帰るね…お邪魔しました」
何も言わないめぐちゃんをよそに、あたしは逃げるように家を出た。
あたしは結局何もかもから逃げている。情けなくて仕方ないけれど、図々しくこの場に居座り続けるのも違う気がして逃げた。
…ちゃんと自分の気持ちをはっきりさせないといけない。皆にあたしの気持ちを伝えなきゃ、誰も幸せになれない。
いつも通りめぐちゃんの家に行くと笑顔でめぐちゃんが紅茶を淹れてくれて、あたし達は久々の再会を喜んだ。何ヶ月かぶりに会うめぐちゃんはいつも以上にテンションが高い。気のせい?久しぶりだからそう思ってしまうだけなのだろうか。けれど、何だか空元気な気もする。
「ごめんね、予定ずれまくっちゃって。せっかく遊べると思ってたのに参ったよー、扁桃腺炎とかビビるよね!」
「ううん、あたしも色々バタバタしてたし…めぐちゃん、体調大丈夫?」
「うん!今は超元気だよっ。未央ちゃんもなんか色々、大変だったんだよね…?」
「あぁ、まぁ…もう落ち着いたから大丈夫だよ」
佳江さんの四十九日が過ぎ、更に時間が経ちいつの間にか季節は真夏になった。現在、優斗との契約終了まで3ヶ月を切っている。
この1年近く、色んなことがあった。長かった様な短かった様な…濃厚な時間だった。
佐伯くんとあんな風になって、優斗を家から追い出すことがあったり本城さんとも関係を持ちそうになったり…そして、佳江さんがいなくなって。
少しずつ優斗の気持ちは落ち着いてきたけれど、「それは未央がいるお陰だよ」と言われると胸の奥が締め付けられる。
あたしがいなくなったら優斗はどうなるのかな、と考えてしまう。本当にこのまま契約を終わらせてしまっていいのか。契約が終わっても、もう少し一緒にいた方がいいのか…と。
優斗と再婚する気はない。けれど元々は愛していた人だ。…ただの同情と言ってしまえばそれまでなのだけれど…
「あ、悠登は今日遅くなるみたいだよー」
「そうだよね…あたしが会社出る時もまだ仕事してたし」
めぐちゃんの表情が変わった様な気がする。…何だか、むっとした様な…
「未央ちゃんって悠登と会社で話したりするの?」
「うーん…ほとんど無いかな。部署も違うし」
「そっかぁ。なんか今の聞いてたらすごい仲良しなのかなって思って」
「いやいやそんなことないよ…ここに来た時ぐらいしか喋らないかも」
「でもえっちはしたんだよね?」
啜っていた紅茶を吹き出しそうになった。
…何で?どうしてめぐちゃんはそれを知っているのだろう。佐伯くんはそんなことまでめぐちゃんと話しているのだろうか…
「なにそれ、そんなわけないじゃん」
「あー、やっぱりか。今の反応超不自然だった。すごいわかりやすいね、未央ちゃん」
「違うの、ほんとに」
「もういいよ嘘つかなくても。ずっと気になってたんだよね、やっと聞けた。だって悠登は付き合ってない相手にも手出しちゃう人だからね。そうでしょ?」
「いや…えっと…そんなことないんじゃないかな…」
「そんなことあるよ。今もえっちしてるもん、めぐ達別れてるけど」
…え?
佐伯くん、今はめぐちゃんと体の関係は無いって言ってたのに。嘘だったんだ…
「別れてもやめれないんだよね…だめだってわかってるけどさ」
「へぇ…そうなんだね…」
「めぐね、未央ちゃんにいっぱい聞きたいことあるんだ。どうして旦那さんがいるのに悠登とそんなことしたの?」
「えっと…」
会社の飲み会で酔っ払って記憶を無くしてそのままホテルに…なんて言えるはずがない。あたしは口を噤んだ。
「悠登のこと好きなの?」
「…」
…わからない、なんて言えばめぐちゃんは絶対に怒るだろうな…
佐伯くんのこと意識してるでしょ?と本城さんに言われたことがあったけれど…意識はもちろんしている。数ヶ月前に体を重ねた相手とほぼ毎日顔を合わせているのだから。
でも、好きという気持ちがよくわからなくて…。ずっと優斗のことだけを好きだったから、好きになるってどういうことなのか、何をもってして好きだというのかがよくわからなくなってしまっている。
ただ、佐伯くんに嘘をつかれていたことはショックだった。
男の人は好きだ、なんて言いながら他の人とも体の関係を持てるんだな…と残念な気持ちになった。優斗も、佐伯くんも。二人とも同じじゃないか、と。
あたしだって人の事は言えないけれど、自分のことを棚にあげて二人を責めることなんておこがましいけれど…
「悠登とどうなるつもりなの?旦那さんのことはどうするの?」
答えに困ることを矢継ぎ早に質問してくるめぐちゃんの目があまりに真っ直ぐで、俯くしか出来ない。
「…」
「このままじゃ皆のこと傷つけちゃうよ、未央ちゃん。悠登の気持ちわかってるよね?」
「…」
「未央ちゃん!なんで黙るの?」
「…自分でもなんて言えばいいのかわからなくて」
「…わからないって、そんな中途半端な気持ちでいるなんて悠登にも旦那さんにも失礼じゃん!」
めぐちゃんの言う通りだ。誰よりもいい加減で意思が弱くて…自分の気持ちがわからないって、逃げてばっかりだ…
「めぐは悠登のことが好きだってはっきり言えるよ。未央ちゃんのせいだけど」
「あたしのせい、って…?」
「未央ちゃんがこの家に来たから。それまでは気づかなかったから、悠登のことがまだ好きだって。でも遅いんだよ。悠登は未央ちゃんが好きだから」
「なんか…ごめんなさい…」
「余裕ぶらないでよ!」
「そんなんじゃないよ…」
「余裕ぶってるじゃん。ごめんね、あたしのことが好きでって。あたしが奪っちゃってごめんね、みたいなさ。…なんで何の努力もしてない未央ちゃんが悠登に好かれるの?めぐは色んなこと頑張ったのに、好きになってもらえるように必死だったし今も必死なのに」
「…」
「…めぐね、悠登と住み始めたとき料理全く出来なかったんだ。でもいっぱい勉強して頑張ったんだよ」
めぐちゃんの料理の腕は努力の賜物だったのか。あんなに短い時間で沢山料理が作れるのは一生懸命頑張った結果なんだ。…めぐちゃんは佐伯くんのことが本当に大好きなんだ。
「…未央ちゃんなんていなきゃよかったのに。未央ちゃんがいなかったら、めぐだってこんなこと考えずにすんで、上手くいってたのに。もうやだ!」
語気が強くなったことに動揺して、めぐちゃんを見ると目に涙が滲んでいた。あんなにいつも笑顔で元気なめぐちゃんを悲しませてしまった…。
めぐちゃんをこんなにも傷つけて、追い詰めてしまっていたことにも気づかずにこの家に来て、仲良くなっているつもりになっていたあたしは本当に愚かだ。
「…ごめんなさい。もう、この家には来ないから…。嫌な思いさせて、本当にごめんなさい。…帰るね…お邪魔しました」
何も言わないめぐちゃんをよそに、あたしは逃げるように家を出た。
あたしは結局何もかもから逃げている。情けなくて仕方ないけれど、図々しくこの場に居座り続けるのも違う気がして逃げた。
…ちゃんと自分の気持ちをはっきりさせないといけない。皆にあたしの気持ちを伝えなきゃ、誰も幸せになれない。
0
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説
アンコール マリアージュ
葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか?
ファーストキスは、どんな場所で?
プロポーズのシチュエーションは?
ウェディングドレスはどんなものを?
誰よりも理想を思い描き、
いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、
ある日いきなり全てを奪われてしまい…
そこから始まる恋の行方とは?
そして本当の恋とはいったい?
古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。
━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━
恋に恋する純情な真菜は、
会ったばかりの見ず知らずの相手と
結婚式を挙げるはめに…
夢に描いていたファーストキス
人生でたった一度の結婚式
憧れていたウェディングドレス
全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に
果たして本当の恋はやってくるのか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
クリスマスに咲くバラ
篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたが居なくなった後
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの専業主婦。
まだ生後1か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。
朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。
乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。
会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願う宏樹。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……。
小さな恋のトライアングル
葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児
わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係
人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった
*✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻*
望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL
五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長
五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる