同居離婚はじめました

仲村來夢

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いなきゃよかったのに

詰問

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「未央ちゃん!やっと会えたね、久しぶりだね!嬉しー!!」

いつも通りめぐちゃんの家に行くと笑顔でめぐちゃんが紅茶を淹れてくれて、あたし達は久々の再会を喜んだ。何ヶ月かぶりに会うめぐちゃんはいつも以上にテンションが高い。気のせい?久しぶりだからそう思ってしまうだけなのだろうか。けれど、何だか空元気な気もする。

「ごめんね、予定ずれまくっちゃって。せっかく遊べると思ってたのに参ったよー、扁桃腺炎とかビビるよね!」

「ううん、あたしも色々バタバタしてたし…めぐちゃん、体調大丈夫?」

「うん!今は超元気だよっ。未央ちゃんもなんか色々、大変だったんだよね…?」

「あぁ、まぁ…もう落ち着いたから大丈夫だよ」

佳江さんの四十九日が過ぎ、更に時間が経ちいつの間にか季節は真夏になった。現在、優斗との契約終了まで3ヶ月を切っている。

この1年近く、色んなことがあった。長かった様な短かった様な…濃厚な時間だった。

佐伯くんとあんな風になって、優斗を家から追い出すことがあったり本城さんとも関係を持ちそうになったり…そして、佳江さんがいなくなって。

少しずつ優斗の気持ちは落ち着いてきたけれど、「それは未央がいるお陰だよ」と言われると胸の奥が締め付けられる。

あたしがいなくなったら優斗はどうなるのかな、と考えてしまう。本当にこのまま契約を終わらせてしまっていいのか。契約が終わっても、もう少し一緒にいた方がいいのか…と。

優斗と再婚する気はない。けれど元々は愛していた人だ。…ただの同情と言ってしまえばそれまでなのだけれど…

「あ、悠登は今日遅くなるみたいだよー」

「そうだよね…あたしが会社出る時もまだ仕事してたし」

めぐちゃんの表情が変わった様な気がする。…何だか、むっとした様な…

「未央ちゃんって悠登と会社で話したりするの?」

「うーん…ほとんど無いかな。部署も違うし」

「そっかぁ。なんか今の聞いてたらすごい仲良しなのかなって思って」

「いやいやそんなことないよ…ここに来た時ぐらいしか喋らないかも」

「でもえっちはしたんだよね?」

啜っていた紅茶を吹き出しそうになった。

…何で?どうしてめぐちゃんはそれを知っているのだろう。佐伯くんはそんなことまでめぐちゃんと話しているのだろうか…

「なにそれ、そんなわけないじゃん」

「あー、やっぱりか。今の反応超不自然だった。すごいわかりやすいね、未央ちゃん」

「違うの、ほんとに」

「もういいよ嘘つかなくても。ずっと気になってたんだよね、やっと聞けた。だって悠登は付き合ってない相手にも手出しちゃう人だからね。そうでしょ?」

「いや…えっと…そんなことないんじゃないかな…」

「そんなことあるよ。今もえっちしてるもん、めぐ達別れてるけど」

…え?

佐伯くん、今はめぐちゃんと体の関係は無いって言ってたのに。嘘だったんだ…

「別れてもやめれないんだよね…だめだってわかってるけどさ」

「へぇ…そうなんだね…」

「めぐね、未央ちゃんにいっぱい聞きたいことあるんだ。どうして旦那さんがいるのに悠登とそんなことしたの?」

「えっと…」

会社の飲み会で酔っ払って記憶を無くしてそのままホテルに…なんて言えるはずがない。あたしは口を噤んだ。

「悠登のこと好きなの?」

「…」

…わからない、なんて言えばめぐちゃんは絶対に怒るだろうな…

佐伯くんのこと意識してるでしょ?と本城さんに言われたことがあったけれど…意識はもちろんしている。数ヶ月前に体を重ねた相手とほぼ毎日顔を合わせているのだから。

でも、好きという気持ちがよくわからなくて…。ずっと優斗のことだけを好きだったから、好きになるってどういうことなのか、何をもってして好きだというのかがよくわからなくなってしまっている。

ただ、佐伯くんに嘘をつかれていたことはショックだった。

男の人は好きだ、なんて言いながら他の人とも体の関係を持てるんだな…と残念な気持ちになった。優斗も、佐伯くんも。二人とも同じじゃないか、と。

あたしだって人の事は言えないけれど、自分のことを棚にあげて二人を責めることなんておこがましいけれど…

「悠登とどうなるつもりなの?旦那さんのことはどうするの?」

答えに困ることを矢継ぎ早に質問してくるめぐちゃんの目があまりに真っ直ぐで、俯くしか出来ない。

「…」

「このままじゃ皆のこと傷つけちゃうよ、未央ちゃん。悠登の気持ちわかってるよね?」

「…」

「未央ちゃん!なんで黙るの?」

「…自分でもなんて言えばいいのかわからなくて」

「…わからないって、そんな中途半端な気持ちでいるなんて悠登にも旦那さんにも失礼じゃん!」

めぐちゃんの言う通りだ。誰よりもいい加減で意思が弱くて…自分の気持ちがわからないって、逃げてばっかりだ…

「めぐは悠登のことが好きだってはっきり言えるよ。未央ちゃんのせいだけど」

「あたしのせい、って…?」

「未央ちゃんがこの家に来たから。それまでは気づかなかったから、悠登のことがまだ好きだって。でも遅いんだよ。悠登は未央ちゃんが好きだから」

「なんか…ごめんなさい…」

「余裕ぶらないでよ!」

「そんなんじゃないよ…」

「余裕ぶってるじゃん。ごめんね、あたしのことが好きでって。あたしが奪っちゃってごめんね、みたいなさ。…なんで何の努力もしてない未央ちゃんが悠登に好かれるの?めぐは色んなこと頑張ったのに、好きになってもらえるように必死だったし今も必死なのに」

「…」

「…めぐね、悠登と住み始めたとき料理全く出来なかったんだ。でもいっぱい勉強して頑張ったんだよ」

めぐちゃんの料理の腕は努力の賜物だったのか。あんなに短い時間で沢山料理が作れるのは一生懸命頑張った結果なんだ。…めぐちゃんは佐伯くんのことが本当に大好きなんだ。

「…未央ちゃんなんていなきゃよかったのに。未央ちゃんがいなかったら、めぐだってこんなこと考えずにすんで、上手くいってたのに。もうやだ!」

語気が強くなったことに動揺して、めぐちゃんを見ると目に涙が滲んでいた。あんなにいつも笑顔で元気なめぐちゃんを悲しませてしまった…。

めぐちゃんをこんなにも傷つけて、追い詰めてしまっていたことにも気づかずにこの家に来て、仲良くなっているつもりになっていたあたしは本当に愚かだ。

「…ごめんなさい。もう、この家には来ないから…。嫌な思いさせて、本当にごめんなさい。…帰るね…お邪魔しました」

何も言わないめぐちゃんをよそに、あたしは逃げるように家を出た。

あたしは結局何もかもから逃げている。情けなくて仕方ないけれど、図々しくこの場に居座り続けるのも違う気がして逃げた。

…ちゃんと自分の気持ちをはっきりさせないといけない。皆にあたしの気持ちを伝えなきゃ、誰も幸せになれない。
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