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いなきゃよかったのに
好きだからこそ
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「いい加減にしてくれ、めぐ」
「…」
目に涙を溜めて俯くめぐ。初めて見る表情だが悠登は動揺することなく話を続ける。
「一緒にいたいのはわかる。俺だってそうだから一緒に住もうって言ったし」
めぐが家に帰るのが憂鬱になり始めてすぐ、二人が言い合いになることが増えた。
もっと一緒にいたい、くっつきたいと言うめぐと、一人の時間も欲しい悠登。お互いが相手のことを好きでも、恋人としてのあり方に対しての考えが真反対ならうまくは行かない。同棲する前に気付けば良かったのだが既に二人は一緒に住んでいるし、今更取り返しがつかない。
「同じ家にいるのにあんまり会えないの意味わかんない」
「風呂一緒に入ったりしてるじゃん」
「たまにでしょ、そんなの。なんで?悠登はめぐのこと好きじゃないの?」
「好きだよ、でも仕方ないだろ」
「何が仕方ないの?最近晩御飯食べてくることも多いし…頑張って美味しいご飯作ってるのに」
ここ数ヶ月でめぐは驚くほど家事の腕が上がった。派手でギャルっぽくて頭が良さそうには見えないけれど、地頭が良いめぐはどうすれば時間をかけず上手く家事を出来るか、を考えながら動き続けた。
料理も、お米の炊き方もわからず笑われていた頃が信じられないぐらい上達した。悠登に褒められたくて、好かれたいその一心で。
「食わない時は早めに言うようにしてるだろ…めぐのご飯超美味いよ。けど仕事で遅くなる時は会社で食うしかないしさ」
「仕事仕事って…めぐだって仕事してるもん!」
「わかってるって。だから俺が余裕ないのもわかってよ」
「わかんないよ…」
「あのな…めぐが楽な仕事してるなんて思ったことないからそこは勘違いしないでね。もうすぐ2年だっけめぐが働き始めて。仕事には慣れてるだろうし、仕事中の時間の使い方もわかってきてるでしょ?」
「そうだね」
「けど俺就職したばっかだし慣れない環境で必死なんだよ。会社入った時に啖呵切ってるし」
「俺は結果出せるって自信満々だったじゃん」
「自信はあるよ。でもそれで手抜くのも違うし。…めぐと一緒にいる時間は今ぐらいがちょうどいい。っていうかこれ以上はムリ。そんなに四六時中一緒にいれない」
「…でもえっちはするんだね。なんなの、めぐのことなんだと思ってるの」
「めぐだっていっぱいしよって言ってただろ」
「言ったけど!いっぱいちゅーしたりぎゅってしてくれるのもえっちの時だけだし…めぐは普段からいちゃいちゃしたいんだよ?こんなのただのセフレじゃん!」
「なんでそうなんの?お前おかしいよ」
「もういい!今日から1人で寝る。家庭内別居してやる!」
怒っためぐは涙をぽろぽろ零しながらリビングを出ていき、その後すぐめぐの部屋のドアがバタン!と大きな音を立てた。取り残された悠登はため息をつき頭をかいた。
もうちょっと穏便に話したかったんだけどな…。セフレって。確かにムラムラして襲ったこともあったけどめぐが可愛いからっていうのが大前提だし、愛情持って抱いてたんだけどな。
めぐのことは好きだけど…めぐには本当に申し訳ないけど、家にいる間中ベタベタするのは俺の性格的にも、仕事を始めたばっかりの今の環境的にもきつい。
でもめぐはもっと一緒にいたいんだよな。そう思ってくれるのは嬉しいけどこれからこんなこと続いたらきつい。このままじゃ先が見えてる。ケンカ別れはしたくないな…
悠登がもう一度ため息をついた。
***
もうやだ。楽しくない。めぐばっかりこんな思いしたくない。悠登と一緒にいるの楽しいし仲良くしたいのに出来ない。このまま付き合ってたら嫌いになる。多分悠登だってめぐのこと嫌いになる。
嫌いになって別れたくないし…っていうかこの家出なきゃいけなくなるし、引っ越すお金もないし、そもそもめぐ怖がりだから一人で住むのとか絶対ムリだし!お母さんになんて言えばいいの。悠登と別れたから帰るねーとか言えないよ。まだ一緒に住んでちょっとしか経ってないのに。
このままじゃ絶対だめだ。良くない方向にいっちゃう。
前みたいに、友達の時みたいに楽しく過ごせる関係になりたい。…今のままじゃ、ムリだよね。
その日以降、二人はぎこちなくなっていった。めぐは本当に一人で寝るようになったし、二人でいる時間がもっと減ってしまった。
このままでいたくない。前みたいに仲良くしたい。けれど恋愛観が違いすぎる、しかもお互いに譲れない。歩み寄らないまま付き合い続けていても険悪になる一方で、このままでは最悪の事態に陥ってしまう。…なら嫌いになる前に恋人じゃなくなれば、変われるかもしれない…。好きだからこそ、取り返しがつかなくなってしまう前に動かないと…
恋愛観は違えども、二人の気持ちは同じだった。
「…仲悪くなる前に別れようか。なんならもう仲悪くなってるし、今の状況嫌だな」
そう言い始めたのは悠登。めぐも同じ気持ちだった。
「…めぐも同じこと考えてた。悠登のこと嫌いになったんじゃないよ」
「俺もだよ」
「わかった。でもめぐ…急に家なくなるのは困る。引っ越すお金ないし…悠登が嫌いで別れるんじゃないのに急に出ていけとか言われても困るし…」
「それは俺もだよ。じゃあ」
これからも一緒に住もう!と声が揃ってしまい、二人は吹き出した。
「…俺ら気が合うな」
「彼氏彼女としては合わないけどね」
「だよなー…」
これからも一緒に住むけど、体の関係は持たないでおこう。それこそセフレになる。だから健全な、仲の良いルームメイトでいよう。良い関係でいましょう。
その思いも一致した。あれだけケンカしていたことが嘘のように、冷静で円満な別れだった。
それからはお互いに肩の力が抜けて、深まり始めていた溝が少しずつ埋まりだした。
元彼とまだ一緒にいることは変かもしれない…いや変だろうけど、これが二人の形。
めぐは今の関係に満足していた。…はずだった。
「…」
目に涙を溜めて俯くめぐ。初めて見る表情だが悠登は動揺することなく話を続ける。
「一緒にいたいのはわかる。俺だってそうだから一緒に住もうって言ったし」
めぐが家に帰るのが憂鬱になり始めてすぐ、二人が言い合いになることが増えた。
もっと一緒にいたい、くっつきたいと言うめぐと、一人の時間も欲しい悠登。お互いが相手のことを好きでも、恋人としてのあり方に対しての考えが真反対ならうまくは行かない。同棲する前に気付けば良かったのだが既に二人は一緒に住んでいるし、今更取り返しがつかない。
「同じ家にいるのにあんまり会えないの意味わかんない」
「風呂一緒に入ったりしてるじゃん」
「たまにでしょ、そんなの。なんで?悠登はめぐのこと好きじゃないの?」
「好きだよ、でも仕方ないだろ」
「何が仕方ないの?最近晩御飯食べてくることも多いし…頑張って美味しいご飯作ってるのに」
ここ数ヶ月でめぐは驚くほど家事の腕が上がった。派手でギャルっぽくて頭が良さそうには見えないけれど、地頭が良いめぐはどうすれば時間をかけず上手く家事を出来るか、を考えながら動き続けた。
料理も、お米の炊き方もわからず笑われていた頃が信じられないぐらい上達した。悠登に褒められたくて、好かれたいその一心で。
「食わない時は早めに言うようにしてるだろ…めぐのご飯超美味いよ。けど仕事で遅くなる時は会社で食うしかないしさ」
「仕事仕事って…めぐだって仕事してるもん!」
「わかってるって。だから俺が余裕ないのもわかってよ」
「わかんないよ…」
「あのな…めぐが楽な仕事してるなんて思ったことないからそこは勘違いしないでね。もうすぐ2年だっけめぐが働き始めて。仕事には慣れてるだろうし、仕事中の時間の使い方もわかってきてるでしょ?」
「そうだね」
「けど俺就職したばっかだし慣れない環境で必死なんだよ。会社入った時に啖呵切ってるし」
「俺は結果出せるって自信満々だったじゃん」
「自信はあるよ。でもそれで手抜くのも違うし。…めぐと一緒にいる時間は今ぐらいがちょうどいい。っていうかこれ以上はムリ。そんなに四六時中一緒にいれない」
「…でもえっちはするんだね。なんなの、めぐのことなんだと思ってるの」
「めぐだっていっぱいしよって言ってただろ」
「言ったけど!いっぱいちゅーしたりぎゅってしてくれるのもえっちの時だけだし…めぐは普段からいちゃいちゃしたいんだよ?こんなのただのセフレじゃん!」
「なんでそうなんの?お前おかしいよ」
「もういい!今日から1人で寝る。家庭内別居してやる!」
怒っためぐは涙をぽろぽろ零しながらリビングを出ていき、その後すぐめぐの部屋のドアがバタン!と大きな音を立てた。取り残された悠登はため息をつき頭をかいた。
もうちょっと穏便に話したかったんだけどな…。セフレって。確かにムラムラして襲ったこともあったけどめぐが可愛いからっていうのが大前提だし、愛情持って抱いてたんだけどな。
めぐのことは好きだけど…めぐには本当に申し訳ないけど、家にいる間中ベタベタするのは俺の性格的にも、仕事を始めたばっかりの今の環境的にもきつい。
でもめぐはもっと一緒にいたいんだよな。そう思ってくれるのは嬉しいけどこれからこんなこと続いたらきつい。このままじゃ先が見えてる。ケンカ別れはしたくないな…
悠登がもう一度ため息をついた。
***
もうやだ。楽しくない。めぐばっかりこんな思いしたくない。悠登と一緒にいるの楽しいし仲良くしたいのに出来ない。このまま付き合ってたら嫌いになる。多分悠登だってめぐのこと嫌いになる。
嫌いになって別れたくないし…っていうかこの家出なきゃいけなくなるし、引っ越すお金もないし、そもそもめぐ怖がりだから一人で住むのとか絶対ムリだし!お母さんになんて言えばいいの。悠登と別れたから帰るねーとか言えないよ。まだ一緒に住んでちょっとしか経ってないのに。
このままじゃ絶対だめだ。良くない方向にいっちゃう。
前みたいに、友達の時みたいに楽しく過ごせる関係になりたい。…今のままじゃ、ムリだよね。
その日以降、二人はぎこちなくなっていった。めぐは本当に一人で寝るようになったし、二人でいる時間がもっと減ってしまった。
このままでいたくない。前みたいに仲良くしたい。けれど恋愛観が違いすぎる、しかもお互いに譲れない。歩み寄らないまま付き合い続けていても険悪になる一方で、このままでは最悪の事態に陥ってしまう。…なら嫌いになる前に恋人じゃなくなれば、変われるかもしれない…。好きだからこそ、取り返しがつかなくなってしまう前に動かないと…
恋愛観は違えども、二人の気持ちは同じだった。
「…仲悪くなる前に別れようか。なんならもう仲悪くなってるし、今の状況嫌だな」
そう言い始めたのは悠登。めぐも同じ気持ちだった。
「…めぐも同じこと考えてた。悠登のこと嫌いになったんじゃないよ」
「俺もだよ」
「わかった。でもめぐ…急に家なくなるのは困る。引っ越すお金ないし…悠登が嫌いで別れるんじゃないのに急に出ていけとか言われても困るし…」
「それは俺もだよ。じゃあ」
これからも一緒に住もう!と声が揃ってしまい、二人は吹き出した。
「…俺ら気が合うな」
「彼氏彼女としては合わないけどね」
「だよなー…」
これからも一緒に住むけど、体の関係は持たないでおこう。それこそセフレになる。だから健全な、仲の良いルームメイトでいよう。良い関係でいましょう。
その思いも一致した。あれだけケンカしていたことが嘘のように、冷静で円満な別れだった。
それからはお互いに肩の力が抜けて、深まり始めていた溝が少しずつ埋まりだした。
元彼とまだ一緒にいることは変かもしれない…いや変だろうけど、これが二人の形。
めぐは今の関係に満足していた。…はずだった。
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