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動き始める男達
声の主の正体
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「あー、ごめん」
佐伯くんが立ち上がり、ドアを半開きにして直接その人に謝っていた。うるさいと言われ申し訳ない気持ちと気まずさでドアの方をあまり見ないように目を逸らしながら聞き耳を立てていた。
「あんまり騒がないでよね」
「ごめんって。めぐ帰ってたんだ」
「うん、スーパー行ってた。悠登ご飯食べたの?」
「まだ」
「今から作るけど食べる?」
「いいの?やった」
「そちらの方は?」
あたしのこと?あたしのことだよね。振り向くと、ものすごく綺麗な人がドアから少し身を乗り出してこっちを見ていた。佐伯くんと似た雰囲気の、派手な美人だ。お姉さんか妹さん…どっちだろう。
「あ…お邪魔してます…」
「お腹すいてる?今からご飯作るけど食べますか?」
「いや、そんなの申し訳ないです…」
「別にいいですよー。二人分も三人分も同じだし。お腹すいてないなら無理にとは言わないけどよかったら」
ご飯食べてきてないならついでに食べてけば?佐伯くんにそう促されたのと、その美人に「遠慮しなくていいよ」と言われたあたしはお言葉に甘えることにした。
あたしは美人に弱い。
美人の迫力に負けてしまって何か言われるとノーと言えない。お願いごとをされたりしてもあまり断れないし、無理な場合でも言葉をものすごく選んで気を悪くさせないようにと色々考えてしまう。
あたしなんかがこんなに綺麗な人を拒むような態度を取るのはおこがましい、そんな気持ちが働いてしまうのだ。
女のあたしでもそんな風に緊張してしまうのだから異性ならより、そうなってしまうのではないかと思う。
佐伯くん、家族と一緒に住んでるんだ。昨日、親がこっちに出てきてるからホテルまで送りに来たと話していたけど、兄妹では一緒に住んでいるのか…
「んじゃ出来たら呼ぶねん」
美人が出ていって、あたしは脱力した。さっきまで佐伯くんと言い合いになっていたけれどあの人が入ってきたことであたし達の間の空気が少し変わったおかげだろう。
「あの…今の方は…」
「あー、めぐのこと?」
「お姉さん?妹さん?と住んでるんだね」
「違う違う。他人だよ、ただルームシェアしてるだけ」
「そうなんだ…可愛い人だね」
「そう?」
「あんな可愛い人と一緒に住むのって、緊張しないの?」
「元カノだし今更緊張なんかないよ」
「ええ!?」
「何?」
突然声をあげたあたしを佐伯くんが訝しげな顔で見た。驚いて声をあげてしまうのが普通の反応だと思うのだけれどなんでこちらがそんな顔をされないといけないのか…
「元カノとルームシェアって」
「二人で住むために借りたからなー。ここ一人で住むにしては広いし、家賃も高いんですよね。別に嫌いになって別れたわけじゃないし今二人ともフリーだから急いで出てかなくてもいいかなって」
「へ、ぇ…」
佐伯くんがあっけらかんと言い放つ。元カノとルームシェアなんて、離婚しても優斗と住んでいるあたしと同じじゃないか…。
「あー、今は体の関係ないよ。付き合ってた時はやりまくってたけど」
「やりまくってたとか聞かされても反応に困るんだけど…」
「誤解招きたくないし。別れたら割り切れるもんだよ、部屋別々だし」
別れた相手と住むのは同じでも、ずるずると優斗と体の関係を持ち続けるあたしとは違うようだ。
佐伯くんは自分でも言っていたけど嘘をつかなさそうだし、聞いてもいないのにわざわざ自分からこう言い出すということは本当の話なのだろう。そもそも、あの子は妹だお姉さんだって誤魔化すことだって出来るのにはっきり元カノだと宣言しているのだから。
今どきの若い人たちってサバサバしてるんだなぁ…
「まぁ未央が離婚して家出てくなら俺もここ出るけどね」
「なんでそんな話になるのよ…」
「未央と結婚したいから」
なんて強引な人なのだろう。離婚するなんて一言も言っていないし、佐伯くんと付き合うとも言っていないのになんでそういう話になるのだろうか。…いや、もう離婚はしているけれど…
「でも未央には本城さんっていう不倫相手もいるからなー」
「だから、違うってば。本当に一緒に食事してただけ!本城さんってモテるし、おおっぴらに食事してるのが周りにわかるとなんか言われそうだし本城さんもそれわかってるんじゃないかな…」
「ふーん。確かに会社の人達は本城さん大好きだもんな。未央は?本城さんのこと好きなの?」
「いや、ただの上司と部下だよ…好きとかじゃなくって…昨日も仕事の話してただけだし」
昨日キスをした時点で「ただの上司と部下」ではなくなってしまったけれど…
「本城さんは未央のこと好きだと思うけど。昨日のあの勝ち誇った顔見たっしょ」
「見たけど…」
佐伯くん、本城さんの気持ちに気付いてるんだ。二人で会っていたあたしでさえずっと気付かなかったのに。…もしかしてあたしって鈍感なのかな…
「どうせなら俺を選んでよ。俺は若いしまだまだ元気だよ?毎日愛してあげる」
佐伯くんがこちらを見てにやりと笑い、あたしは恥ずかしくなって目を逸らした。
「とにかく…佐伯くんが思ってるような関係じゃないから」
「はいはい。わかったよ」
笑っているところを見ると、佐伯くんの誤解は解けたようだ。良かった…
「悠登ー出来たよー」
ドアの向こうで佐伯くんを呼ぶ声がする。
体の関係を持ってしまった会社の後輩とその元カノと三人で食事って…さっきは兄妹だと思っていたから何も思わなかったけれど変だよな、この状況…
「はーい。ほら未央行くよ、飯出来たって」
「あ、うん…」
元カノさんはあたしのことを何者だと思っているのだろうか。
週末から変なこと続きすぎだよ…
佐伯くんが立ち上がり、ドアを半開きにして直接その人に謝っていた。うるさいと言われ申し訳ない気持ちと気まずさでドアの方をあまり見ないように目を逸らしながら聞き耳を立てていた。
「あんまり騒がないでよね」
「ごめんって。めぐ帰ってたんだ」
「うん、スーパー行ってた。悠登ご飯食べたの?」
「まだ」
「今から作るけど食べる?」
「いいの?やった」
「そちらの方は?」
あたしのこと?あたしのことだよね。振り向くと、ものすごく綺麗な人がドアから少し身を乗り出してこっちを見ていた。佐伯くんと似た雰囲気の、派手な美人だ。お姉さんか妹さん…どっちだろう。
「あ…お邪魔してます…」
「お腹すいてる?今からご飯作るけど食べますか?」
「いや、そんなの申し訳ないです…」
「別にいいですよー。二人分も三人分も同じだし。お腹すいてないなら無理にとは言わないけどよかったら」
ご飯食べてきてないならついでに食べてけば?佐伯くんにそう促されたのと、その美人に「遠慮しなくていいよ」と言われたあたしはお言葉に甘えることにした。
あたしは美人に弱い。
美人の迫力に負けてしまって何か言われるとノーと言えない。お願いごとをされたりしてもあまり断れないし、無理な場合でも言葉をものすごく選んで気を悪くさせないようにと色々考えてしまう。
あたしなんかがこんなに綺麗な人を拒むような態度を取るのはおこがましい、そんな気持ちが働いてしまうのだ。
女のあたしでもそんな風に緊張してしまうのだから異性ならより、そうなってしまうのではないかと思う。
佐伯くん、家族と一緒に住んでるんだ。昨日、親がこっちに出てきてるからホテルまで送りに来たと話していたけど、兄妹では一緒に住んでいるのか…
「んじゃ出来たら呼ぶねん」
美人が出ていって、あたしは脱力した。さっきまで佐伯くんと言い合いになっていたけれどあの人が入ってきたことであたし達の間の空気が少し変わったおかげだろう。
「あの…今の方は…」
「あー、めぐのこと?」
「お姉さん?妹さん?と住んでるんだね」
「違う違う。他人だよ、ただルームシェアしてるだけ」
「そうなんだ…可愛い人だね」
「そう?」
「あんな可愛い人と一緒に住むのって、緊張しないの?」
「元カノだし今更緊張なんかないよ」
「ええ!?」
「何?」
突然声をあげたあたしを佐伯くんが訝しげな顔で見た。驚いて声をあげてしまうのが普通の反応だと思うのだけれどなんでこちらがそんな顔をされないといけないのか…
「元カノとルームシェアって」
「二人で住むために借りたからなー。ここ一人で住むにしては広いし、家賃も高いんですよね。別に嫌いになって別れたわけじゃないし今二人ともフリーだから急いで出てかなくてもいいかなって」
「へ、ぇ…」
佐伯くんがあっけらかんと言い放つ。元カノとルームシェアなんて、離婚しても優斗と住んでいるあたしと同じじゃないか…。
「あー、今は体の関係ないよ。付き合ってた時はやりまくってたけど」
「やりまくってたとか聞かされても反応に困るんだけど…」
「誤解招きたくないし。別れたら割り切れるもんだよ、部屋別々だし」
別れた相手と住むのは同じでも、ずるずると優斗と体の関係を持ち続けるあたしとは違うようだ。
佐伯くんは自分でも言っていたけど嘘をつかなさそうだし、聞いてもいないのにわざわざ自分からこう言い出すということは本当の話なのだろう。そもそも、あの子は妹だお姉さんだって誤魔化すことだって出来るのにはっきり元カノだと宣言しているのだから。
今どきの若い人たちってサバサバしてるんだなぁ…
「まぁ未央が離婚して家出てくなら俺もここ出るけどね」
「なんでそんな話になるのよ…」
「未央と結婚したいから」
なんて強引な人なのだろう。離婚するなんて一言も言っていないし、佐伯くんと付き合うとも言っていないのになんでそういう話になるのだろうか。…いや、もう離婚はしているけれど…
「でも未央には本城さんっていう不倫相手もいるからなー」
「だから、違うってば。本当に一緒に食事してただけ!本城さんってモテるし、おおっぴらに食事してるのが周りにわかるとなんか言われそうだし本城さんもそれわかってるんじゃないかな…」
「ふーん。確かに会社の人達は本城さん大好きだもんな。未央は?本城さんのこと好きなの?」
「いや、ただの上司と部下だよ…好きとかじゃなくって…昨日も仕事の話してただけだし」
昨日キスをした時点で「ただの上司と部下」ではなくなってしまったけれど…
「本城さんは未央のこと好きだと思うけど。昨日のあの勝ち誇った顔見たっしょ」
「見たけど…」
佐伯くん、本城さんの気持ちに気付いてるんだ。二人で会っていたあたしでさえずっと気付かなかったのに。…もしかしてあたしって鈍感なのかな…
「どうせなら俺を選んでよ。俺は若いしまだまだ元気だよ?毎日愛してあげる」
佐伯くんがこちらを見てにやりと笑い、あたしは恥ずかしくなって目を逸らした。
「とにかく…佐伯くんが思ってるような関係じゃないから」
「はいはい。わかったよ」
笑っているところを見ると、佐伯くんの誤解は解けたようだ。良かった…
「悠登ー出来たよー」
ドアの向こうで佐伯くんを呼ぶ声がする。
体の関係を持ってしまった会社の後輩とその元カノと三人で食事って…さっきは兄妹だと思っていたから何も思わなかったけれど変だよな、この状況…
「はーい。ほら未央行くよ、飯出来たって」
「あ、うん…」
元カノさんはあたしのことを何者だと思っているのだろうか。
週末から変なこと続きすぎだよ…
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