同居離婚はじめました

仲村來夢

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動き始める男達

誤解を解かなきゃ

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「ただいま…」

23時過ぎ。ようやく家に帰ってくることが出来た。

本城さんと食事をしていたホテルから自宅の最寄り駅までは15分ほど。家から会社へは1時間近くかかることに比べるとその距離はさほど長くないけれど、今日はとてつもなく長い一日だった様な気がする。

出社して佐伯くんと顔を合わせて会社にいる間中意識をしないように、しないように、と考えすぎて逆に意識しているじゃないか…と自分に突っ込んだり、退勤後に本城さんと食事をしたお店のカップルシートでの本城さんとの距離感に変に緊張したり。

それだけで終わればまだ良かったのに、帰り際に本城さんからのキス。そしてホテルを出てきたところでまさかの佐伯くんとの遭遇。本城さんも佐伯くんも自分の中で話を終わらせて、あたしの声に耳を貸さずに別々の行先へ去っていった。

本城さん…本気で本当に好きなんだけど、って。それにいきなりキスなんてセクハラで訴えられる様な行為ですよ!

いや、正体不明になるまで酔っ払ってしまい佐伯くんを誘って、キスどころか最後までしてしまったあたしの方がよっぽどセクハラで訴えられるようなことをしたのだから本城さんを責める資格なんてない。

今の未央ちゃん、スキだらけ。

本当にその通りだ。優斗が女の子とキスをするところを見てしまい、思ったよりショックを受けてしまって頭の中ぐちゃぐちゃで、佐伯くんには付き合ってくれなんて言われて一人で考え込んで、本城さんに優斗のことをまだ好きか聞かれてちゃんとした返事も出来なくて。

優斗のことを考えたり佐伯くんのことを考えたり自分でも自分がわからなくなって、余裕がないから本城さんにふらふらしてると思われてしまったのだ。

佐伯くんと何があったかなんて話していないけれど、“不自然だ”って言われたということは何かがあったことを本城さんは確信しただろう。何しろ細かいところによく気が付く、勘のいい本城さんなのだから。

本城さん、本当にあたしのこと好きなのかな…。でも、本当に本気で、と言っていたしあの時の本城さんの目はいつもと全く違っていた。

可愛いね、未央ちゃんが奥さんだったらいいな、なんていう台詞をいつも軽いノリで言っていたから真剣に受け取ったことなんて一度もなかった。本当に口説きにかかっているのかな、と思ったことはあったけれど自惚れるな、という自制心が働いていたから余計にそうなってしまっていた。

…じゃあ、全部本気で言ってたってことなの?

けれど、本城さんがあたしのことを好きになる要素って何なのだろう。つい最近まで…と言っても半年は経っているしあたしの中では長い時間が経ったように感じているけれど、結婚していたのに。

結婚したのがショックだから一ノ瀬さんなんて呼びたくない、それも本気だったの?

ということはその頃からあたしのことを好きだって思ってくれていたのだろうか。

それなら離婚したということを本城さんに伝えてから食事に行くことになったのも納得が出来る。好意を抱いていた相手が突然フリーになったのだから。

本城さんの気持ちを、今日初めて知ったし初めて色々なことに気付いた。

本城さんのことを苦手な上司だって思っていけれど、二人で会うようになってからはそういうことは思わなくなっていった。むしろ色々気にかけてくれて、好きだなって…それは恋愛感情じゃなくて人間的に好き、なのだけれど。

でも、でも。あんなことされてあんな目で見つめられたら明日から意識しちゃうよ…

ただでさえ優斗と佐伯くんのことで頭の中が常にぐるぐるしていたのにまさか本城さんのことまで考えてしまう様になるなんて。

本当にふらふら。けれど、立て続けに二人の男の人から好きだなんて言われると動揺してしまうし、何事もなかったように接することなんて出来ない。

明日からどんな顔で仕事に行けばいいのだろう。

「未央、おかえり」

お風呂から上がりベッドに入った時優斗は既に布団に入っていたから寝ていると思っていたけれど、あたしの方を振り向いてこうやって声をかけてくるということはまだ起きていたのか…

「ごめん、起こした?」

「うん、まぁ」

「ごめんね…!」

「いいよ。…今日もデートですか」

「そんなんじゃないし…」

土曜日にあたしが契約違反をしてしまったという負い目から、優斗からこんな風に質問をされても「干渉してこないで」とは言いづらい。

「ちょっと、優斗っ…んっ」

優斗があたしに覆いかぶさり、キスをしてきて無理やり舌を絡めたかと思えばすぐさまあたしの胸に手を伸ばした。

「やだ…本当にやめて、 今日は嫌なの、優斗…」

その言葉を無視して、優斗の手があたしの胸を揉み始めようとしたからつい突き放してしまった。

「…そっか。未央は他の男のものになっちゃったもんね」

「そんなんじゃ…」

「じゃあ好きでもない人としたの?」

「いや、そうじゃなくて、えっと…」

はい、好きでもない人としました。とは言えない。軽い女になってしまったのに、元夫にそう思われるのはやっぱり嫌だ…だからと言ってそれ以来気になってしまっています、とも言いづらくてあたしは口をつぐんだ。

「ふうん…。色んな意味で相手に誤解を与えないようにね。襲ってごめん、おやすみ」

優斗があたしに背を向けて布団を被った。

色んな意味で誤解。

そうだ。あたしは佐伯くんに間違いなく誤解を与えてしまっている。

本城さんとホテルから出てきたなんて、ラブホテルじゃなくてもおかしいと思うだろう。出てきた時間帯からただ食事をしていただけだとわかってくれると思うけれど、本城さんが意味ありげに口封じをして帰っていったせいで疑われてしまった可能性はなきにしもあらず。

何してたのかなって思ったよね。何もないのに…いやキスはされたし、何もって言えないけど…

とにかく、佐伯くんがしているかもしれない誤解を解きたい。

勇気を出して明日連絡をしよう。

そういえば、というより当然ながら明日は本城さんと顔を合わせることになるけれど普通に接さなければならない。

今日より輪をかけて挙動不審になってしまいそうだ…
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