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憂鬱と悩み
一ノ瀬優斗の憂鬱・1
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俺は思ったよりダメージを受けている。
正直に答えて、と言ったのは俺だけど未央の口から他の男と寝たと聞くのはやっぱりショックだった。
俺が浮気してるって気付いた時の未央もこんな気持ちだったんだよな…。
全ては俺のせいだということは重々わかっている。
俺が浮気さえしなければ未央を悲しませることもなかったし、バツイチにさせずに済んだ。
いつだって未央は俺の心の支えになってくれていた。可愛くて優しくて、一緒にいるだけで癒された。
なんであんなことをしてしまったんだろう。
同窓会で再会した初恋の相手・折原百合花の現在は俺が好きだった頃の彼女とは変わっていた。
清楚で上品でつやつやの長い黒髪がよく似合っていた百合花は高校生にしては大人びていて、「純潔」「無垢」「華麗」という百合の花言葉をそのまま体現していた。成績も良くスポーツも万能、小顔で足が長くて細身で…まさにパーフェクトだった。
百合花は当然モテていたけれど、誰の告白も受け入れなかった。学校一男前と言われる人気者や校内外にファンのいるサッカー部のエース、入学試験でダントツのトップだった頭脳明晰な優等生…などのハイスペックな男子達が言い寄ってもフラれていたし、あいつらでフラれるなら無理だろ…という空気が男子達に漂い始め誰も百合花に告白しなくなった。
そのことで百合花はある種神格化されてしまい、まさに“高嶺の花”という言葉がふさわしい女の子になってしまった。
たまに告白されることはあっても容姿は普通、成績表は3、4と平均的な数字で可もなく不可もなく、苦手な種目はないけれどずば抜けてスポーツが出来るというわけでもない…という“普通の男子高校生”だった俺が釣り合うはずもなく、百合花に告白なんてもちろん出来なかったし、二年、三年と同じクラスだったけれど話すこともほぼなかった。
好きというよりは強い憧れを抱いていたし、初恋の相手ではあるけれど今思い返せば恋とは少し違ったのかもしれない。
高校生の頃から十数年も経てば変わっていくのが当然だ。童顔だったこともあってか古くからの友人達には“優斗は変わらないな”と言われるし同窓会で会った他の奴らにも同じ様に言われた。
あれ、こんな子いたっけな。根元が少し黒くなり始めている明るい茶髪に濃いメイク、度合いに差はあれどドレスアップした女の子達の中では露出が高いワンピースを着た派手めな女の子が目に入った。
品があるとは言いがたいけれど顔は可愛い。男達に囲まれ盛り上がる姿は華やかだった。
「いたいた。優斗!お前の友達に弁護士いるって言ってなかったっけ」
輪の中にいた俺の友人に呼び寄せられて行ってみると、その中心にいたのは百合花だった。
「一ノ瀬くん、久しぶり!」
「折原さん?」
「覚えててくれたんだぁ。元気だった?」
覚えてるに決まってるじゃないか。…にしても高校の頃から雰囲気が変わりすぎていて驚いた。ただ、近寄り難い雰囲気だった高校生の頃より百合花は話しやすそうな印象を受けた。
「元旦那が養育費払ってくれなくて!子供3人いるのにさー困ってるのよ、あはは。いや笑い事じゃないけど!裁判してやりたくてさ、マジで」
あっけらかんと笑う百合花に困惑し、苦笑いしてしまう。子供3人もいるのかよ…それでいて養育費も払わない元旦那って、どれだけ無責任な男なんだ。
「よかったら友達紹介してくれないかな?」
「え…あ、うん…」
百合花は慣れた様子で俺と連絡先を交換し、ありがとうと笑った。
「今日はもう帰らないとダメなの、改めてゆっくり聞かせてね!じゃあ」
帰っちゃうんだ、もうちょっといてよー。俺も連絡先教えて!
引き止めようとする男達に「子供預けてるからお迎え行くの。じゃあねっ」と言い残し百合花は帰っていった。
この十数年の間に百合花に何があったんだろう。あまりに変わりすぎて困惑してしまった。ただ他の男をおさえて唯一連絡先を交換出来たことに少し優越感を感じてしまう俺がいた。…あの百合花が困っているなら少しでも助けてあげたい。
同窓会の翌週の週末に百合花に再び会い、百合花の身の上話を聞かされた。
付き合っていた男との間に子供が出来たのが高三の冬。先生には話していたけれど一部の友達は除いて周りには隠していた。なんとか卒業してすぐ籍を入れ、数ヶ月後に子供を産んだ。
卒業前の数ヶ月、百合花が学校を休みがちだったのはそのせいだったのか…と納得した。
男は仕事を始めては何か気に入らないことがあるとすぐ辞めてくる…の繰り返しで経済状態はあまり良くなく、子供を預けてパートに出ながら必死で生活をやり繰りしていた。
正直大変だったけれど、好きだったから頑張れた。でも段々暴力を振るわれる様になりすごく辛かった。
経済的にも精神的にもこんなに不安定な状態じゃ生活していけない、そう思い拒み続けたけれど聞く耳をもってもらえず殴られるのが怖くて無理やり抱かれ続け、それから子供が二人生まれて三人の子供を育てることになった。
相変わらずな夫を見兼ねて水商売を始めて夜は家を空けがちになった。性に合っていたのかお店で人気が出て収入が増えていくと共に夫はいよいよ仕事をしなくなり探す様子も全くなく、子供の面倒を見るのは夫だった。
けれどたいして育児に協力してこなかった夫には三人の子供の面倒は見きれず、百合花が家に帰るといつも子供は泣いていた。それを諌めれば殴られる。顔に傷がつくと店に出れないからと体を殴られて、青あざが絶えずいつもロングドレスで足元を隠したりして仕事に行っていた。
自分がいない間に子供に暴力を振るわれていたら…と不安で仕方なくて、それなら子供たちは可哀想だけれど託児所に預けながら一人で育てていった方がマシだ。
離婚を切り出したけれどまともに話を聞いてもらえず、ちゃんと話を聞いて欲しいと言えば殴られる。このままじゃ死んでしまう…親や友達や、周りの人達に助けられながらなんとか離婚をすることが出来たけれどまともに養育費が払われずに困り果てている。
仕事を増やせば収入は増えるけれど、子供たちには寂しい思いをさせてしまう。厳しい生活の中でわずかに貯金は出来ているけれどもう30歳になるし夜の仕事は辞めて昼間に仕事をして、子供たちとの時間を作りたいからどうにかして養育費を払わせたい。
ドラマで見るような話が本当にあるのかと衝撃を受けたと共に俺は百合花の元旦那に強い怒りを感じた。
百合花を大変な目に合わせて、何もしない、養育費もまともに払わないなんて許せなかった。
絶対に助けるから。俺はそう誓い百合花を知り合いの弁護士に会わせて相談をさせたり、力を尽くしてきた。
百合花と頻繁に会うようになり、心配をして元気づけていくうちにその気持ちを恋だと錯覚し始めた俺はついに百合花と男女の関係になってしまった。
それが俺と未央との終わりの始まりだった。
正直に答えて、と言ったのは俺だけど未央の口から他の男と寝たと聞くのはやっぱりショックだった。
俺が浮気してるって気付いた時の未央もこんな気持ちだったんだよな…。
全ては俺のせいだということは重々わかっている。
俺が浮気さえしなければ未央を悲しませることもなかったし、バツイチにさせずに済んだ。
いつだって未央は俺の心の支えになってくれていた。可愛くて優しくて、一緒にいるだけで癒された。
なんであんなことをしてしまったんだろう。
同窓会で再会した初恋の相手・折原百合花の現在は俺が好きだった頃の彼女とは変わっていた。
清楚で上品でつやつやの長い黒髪がよく似合っていた百合花は高校生にしては大人びていて、「純潔」「無垢」「華麗」という百合の花言葉をそのまま体現していた。成績も良くスポーツも万能、小顔で足が長くて細身で…まさにパーフェクトだった。
百合花は当然モテていたけれど、誰の告白も受け入れなかった。学校一男前と言われる人気者や校内外にファンのいるサッカー部のエース、入学試験でダントツのトップだった頭脳明晰な優等生…などのハイスペックな男子達が言い寄ってもフラれていたし、あいつらでフラれるなら無理だろ…という空気が男子達に漂い始め誰も百合花に告白しなくなった。
そのことで百合花はある種神格化されてしまい、まさに“高嶺の花”という言葉がふさわしい女の子になってしまった。
たまに告白されることはあっても容姿は普通、成績表は3、4と平均的な数字で可もなく不可もなく、苦手な種目はないけれどずば抜けてスポーツが出来るというわけでもない…という“普通の男子高校生”だった俺が釣り合うはずもなく、百合花に告白なんてもちろん出来なかったし、二年、三年と同じクラスだったけれど話すこともほぼなかった。
好きというよりは強い憧れを抱いていたし、初恋の相手ではあるけれど今思い返せば恋とは少し違ったのかもしれない。
高校生の頃から十数年も経てば変わっていくのが当然だ。童顔だったこともあってか古くからの友人達には“優斗は変わらないな”と言われるし同窓会で会った他の奴らにも同じ様に言われた。
あれ、こんな子いたっけな。根元が少し黒くなり始めている明るい茶髪に濃いメイク、度合いに差はあれどドレスアップした女の子達の中では露出が高いワンピースを着た派手めな女の子が目に入った。
品があるとは言いがたいけれど顔は可愛い。男達に囲まれ盛り上がる姿は華やかだった。
「いたいた。優斗!お前の友達に弁護士いるって言ってなかったっけ」
輪の中にいた俺の友人に呼び寄せられて行ってみると、その中心にいたのは百合花だった。
「一ノ瀬くん、久しぶり!」
「折原さん?」
「覚えててくれたんだぁ。元気だった?」
覚えてるに決まってるじゃないか。…にしても高校の頃から雰囲気が変わりすぎていて驚いた。ただ、近寄り難い雰囲気だった高校生の頃より百合花は話しやすそうな印象を受けた。
「元旦那が養育費払ってくれなくて!子供3人いるのにさー困ってるのよ、あはは。いや笑い事じゃないけど!裁判してやりたくてさ、マジで」
あっけらかんと笑う百合花に困惑し、苦笑いしてしまう。子供3人もいるのかよ…それでいて養育費も払わない元旦那って、どれだけ無責任な男なんだ。
「よかったら友達紹介してくれないかな?」
「え…あ、うん…」
百合花は慣れた様子で俺と連絡先を交換し、ありがとうと笑った。
「今日はもう帰らないとダメなの、改めてゆっくり聞かせてね!じゃあ」
帰っちゃうんだ、もうちょっといてよー。俺も連絡先教えて!
引き止めようとする男達に「子供預けてるからお迎え行くの。じゃあねっ」と言い残し百合花は帰っていった。
この十数年の間に百合花に何があったんだろう。あまりに変わりすぎて困惑してしまった。ただ他の男をおさえて唯一連絡先を交換出来たことに少し優越感を感じてしまう俺がいた。…あの百合花が困っているなら少しでも助けてあげたい。
同窓会の翌週の週末に百合花に再び会い、百合花の身の上話を聞かされた。
付き合っていた男との間に子供が出来たのが高三の冬。先生には話していたけれど一部の友達は除いて周りには隠していた。なんとか卒業してすぐ籍を入れ、数ヶ月後に子供を産んだ。
卒業前の数ヶ月、百合花が学校を休みがちだったのはそのせいだったのか…と納得した。
男は仕事を始めては何か気に入らないことがあるとすぐ辞めてくる…の繰り返しで経済状態はあまり良くなく、子供を預けてパートに出ながら必死で生活をやり繰りしていた。
正直大変だったけれど、好きだったから頑張れた。でも段々暴力を振るわれる様になりすごく辛かった。
経済的にも精神的にもこんなに不安定な状態じゃ生活していけない、そう思い拒み続けたけれど聞く耳をもってもらえず殴られるのが怖くて無理やり抱かれ続け、それから子供が二人生まれて三人の子供を育てることになった。
相変わらずな夫を見兼ねて水商売を始めて夜は家を空けがちになった。性に合っていたのかお店で人気が出て収入が増えていくと共に夫はいよいよ仕事をしなくなり探す様子も全くなく、子供の面倒を見るのは夫だった。
けれどたいして育児に協力してこなかった夫には三人の子供の面倒は見きれず、百合花が家に帰るといつも子供は泣いていた。それを諌めれば殴られる。顔に傷がつくと店に出れないからと体を殴られて、青あざが絶えずいつもロングドレスで足元を隠したりして仕事に行っていた。
自分がいない間に子供に暴力を振るわれていたら…と不安で仕方なくて、それなら子供たちは可哀想だけれど託児所に預けながら一人で育てていった方がマシだ。
離婚を切り出したけれどまともに話を聞いてもらえず、ちゃんと話を聞いて欲しいと言えば殴られる。このままじゃ死んでしまう…親や友達や、周りの人達に助けられながらなんとか離婚をすることが出来たけれどまともに養育費が払われずに困り果てている。
仕事を増やせば収入は増えるけれど、子供たちには寂しい思いをさせてしまう。厳しい生活の中でわずかに貯金は出来ているけれどもう30歳になるし夜の仕事は辞めて昼間に仕事をして、子供たちとの時間を作りたいからどうにかして養育費を払わせたい。
ドラマで見るような話が本当にあるのかと衝撃を受けたと共に俺は百合花の元旦那に強い怒りを感じた。
百合花を大変な目に合わせて、何もしない、養育費もまともに払わないなんて許せなかった。
絶対に助けるから。俺はそう誓い百合花を知り合いの弁護士に会わせて相談をさせたり、力を尽くしてきた。
百合花と頻繁に会うようになり、心配をして元気づけていくうちにその気持ちを恋だと錯覚し始めた俺はついに百合花と男女の関係になってしまった。
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