同居離婚はじめました

仲村來夢

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突然後輩とそうなりました

慰められちゃいました

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佐伯くんは去年入社した男の子だ。専門学校を卒業してデザイナー部門で勤務している。メンズのアクセサリーのブランドが出来それに合わせ男性社員の採用人数も増えた。その内の1人。

「佐伯悠登です。新人ですけどちゃんと勉強してきましたし、誰よりもいいもの作れる自信があります。年功序列はあると思いますけどこういう部門で仕事内容にはそういうの関係ないですよね。よろしくお願いします」

佐伯くんの挨拶を聞いて、すごい新人が入ってきた…と社内はざわついた。

ちなみにその挨拶を聞いた本城さんはニヤニヤ笑っていた。あぁ、採用したのやっぱり本城さんなのね…と思ったことを覚えている。

ぶっきらぼうな話し方と、金髪に近い明るめの髪色に大きめのアクセサリー。スーツを着ているけどホストにしか見えない。

こういう業種の会社だから髪色やヒゲやアクセサリー等、勤務時の服装に関する規定は一切ない。自由とは言えスーツを着ている男の人は多いけれど私服で勤務する人もいる。

清潔感を持って、仕事に支障のないような服装であれば何でも良い。

佐伯くんは入社してすぐに力を発揮し、企画したデザイン等がどんどん採用されて行き売れ行きも好調だ。

才能を持ち、なおかつ顔も良い佐伯くんに社内の女性社員は色めきたった。本城さんに対してもそうだけどうちの女性社員はけっこうミーハーだ。ただ仕事は皆きっちりやるから問題ないんだけど…

ぱっちりした二重瞼の目、通った鼻筋。少し厚めの唇にそこはかとない色気を感じる。目が隠れそうな前髪により、元々の小顔が更に小顔に見える。

色気を感じるとはいっても全体的に見れば男っぽいというよりは可愛らしい顔だ。21歳という年齢と、男の人にしては少し身長の低いことが手伝ってか、28歳というアラサーのあたしには余計可愛く感じる。

入社当初は佐伯くん彼女いるのー?好きなタイプってどんな人?とキャッキャしていた女性社員達は、すぐ佐伯くんを嫌うようになった。

「彼女いないです。好きなタイプは出会って早々にプライベートなことを聞いてこない人ですかね」

その言葉をきっかけに。

そんな事を平然と言ってのけるぐらい、佐伯くんは可愛い顔に反して性格はけっこうきつい。仕事上でも上司に言いたいことをはっきり言うし、気が強い。あたしの周りにはいないタイプだ。友達にも、今まで付き合ってきた人にも。思ったことをあんまりはっきり言えないあたしからするとすごいなぁ…って尊敬してしまう。

他にも考えるべき事は沢山あるんだけど、さっきの光景を忘れたくてわざと別のことを考えるようにしている。…なのに、優斗が他の女の子とキスをしている場面が頭から離れない。

「ここでいいです」

佐伯くんが運転手さんにお金を払っている。

「あたしが払いますっ…」

「いいですよ付き合ってもらうんだから。早く降りて下さい」

タクシーを降り、佐伯くんがこっち、とあたしをすぐ近くのお店に連れて行った。

***

「2人いけますか」

「おお久しぶり!」

そこはカウンターと、テーブル席のあるバーだった。話しているのを見るからに、佐伯くんと、恐らくマスターだと思われる店員さんは顔見知りの様だ。

「上空いてますか?」

「空いてるよ。どうぞー」

どうやら二階にも席がある様だ。よく見ると細い階段があり、そこを登ると4人ほどが座れるテーブル席があった。

「いらっしゃいませー。ほんと久しぶりだね!元気だった?」

「マスターも元気そうっすね。今日飲み会だったんだけど大人数で疲れちゃったんで久々来てみました」

「嬉しいなぁ」

注文を取りに来たマスターと、佐伯くんが言葉を交わす。

「一ノ瀬さん、とりあえずビールでいいですか?」

「はい…」

別にお酒を飲みたい気分でも無いんだけど、飲まないとやってられなかった。

「乾杯…って感じじゃないですね。頂きます」

「頂きます」

申し訳ないな。本当なら家に帰れるのに…あたしが泣いてるところ見せちゃったせいで、付き合わせて。恥ずかしいやら情けないやら、少し冷静になったあたしの涙は乾いていた。

「僕元々この辺に住んでたんですよ」

「そうだったんだね…」

「騒がしいのあんま好きじゃなくて。ここ静かだからよく行ってたんです」

「そっかぁ…。あの、ごめんなさい。情けないところ見せちゃって」

「僕基本的に他人に興味ないんですよね。だからどうでもいいです」

「あ、そうなんですね…」

そう言われるぐらいの方が楽だけど面と向かってはっきりどうでもいいって言われるのって結構グサッと来るな…まぁ、佐伯くんはこんな感じの人だとわかっていたのだけれど。

「どうでもいいんですけど、皆にあんまり騒がれたくないかなって思って」

「…それは本当にありがとう」

「あ、どうでもいいとか失礼ですよね。僕あんまりオブラートに包んだり出来なくて申し訳ないです」

「知ってるから大丈夫…」

「そうなんですか?」

「まあ、話にはよく聞くというか…」

あ、なんかいらないこと言っちゃった…わざわざこんなこと言わなくていいのに。

と思っていたら佐伯くんが笑いだした。

「ウケる。うちの会社にはいい歳して陰口言う人いますもんね。それこそ情けないわー」

…佐伯くんは、言いたいことはっきり言えて羨ましいなぁ…。

あたしはどうせ、家に帰って優斗に会っても“あれって彼女?”なんて言えないし…言う権利も無いし。

その日、佐伯くんはあたしが何で泣いていたのかとか、何が起きたのかとか、全く聞いてこなかった。佐伯くんに言わせれば興味が無いだけなんだろうけど…それがあたしには居心地が良かった。

そしてあまりの居心地よさに店に入ってすぐの時はそんなこと無かったのにどんどんお酒が進んでいった。飲まないとやってられない、なんていう風にも思っちゃうし…それから、けっこうお酒を飲んでいる佐伯くんと同じペースで飲んでしまった。

「佐伯くんってお酒強いね!すごいねー」

「いや、一ノ瀬さんも強いですよ。けどあんまり飲みすぎたらダメですよー、いくら明日休みだからって」

「だよね!」

お酒が進めば進むほど優斗を見かけた時のショックはだんだん無くなっていって、そして…記憶が無くなっていった。
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